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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
50/311

1-50 ウンディーネ 2

 『(あま)街船(まちふね)』の発掘現場の中央指揮所は朝から職員が忙しそうに動き回っていた。


 中央指揮所は、フィスリニア王国、ダリスタン共和国およびアンラン諸島王国の発掘責任者達が詰めており、普段は各国間の発掘箇所の調整、情報交換などが行われている。

 今回は三国合同の発掘作業という事で、この中央指揮所から直接指揮が行われるのだ。狙いは深度500mの位置にある倉庫である。フィリア姫とミリーが旅立った直後に、第一世代(ファースト)への聞き取り調査で、この位置に工作機械などを一時的に保管していた倉庫がある事が判明したのである。

 そのため、三国の協議により、ピンポイント発掘の演習も兼ねて、この倉庫に狙いを定めた発掘作業を行い、問題点の洗い出しを行おうというのだ。


 今回の発掘は、今後の発掘作業の方向性を決めるという意味でも重要であり、各国のトップクラスが中央指揮所に詰めていた。フィスリニア王国からは、アルベルト、マイケル、ボルトの三人が立ち会っていた。


「結局、姫とミリーは間に合わなかったか・・・」

 アルベルトはそう呟くと小さなため息を一つ吐く。

 今回の発掘は急に決まったため、アルベルトはミリーにデバイスを使用して状況を伝え、ミリーとフィリア姫からは進めておいて欲しいとの連絡は受けていた。

 しかし、いつ帰るかは何も連絡もなく、これに合わせてくれるのではないかとの期待があったのだが、数日前に届いた連絡では、ヨーバルランド公国に入ったばかりのようだ。内容は通商料の撤廃を進めて欲しいというものであり、旅の状況には一切触れられていなかった。

「本当なら今日か明日にでも帰って来れる筈だったんだろうが、やはり姫がご一緒では無理があったか。このペースでは戻るのはさらに20日後か・・・」

 アルベルトは姫を同行させた事を少し後悔したが、取り敢えず気持ちを切り替えて目の前の作戦に専念する事にする。


 指揮所の中ではアンランのオペレーターが『ペンキュール』のパイロットに通信で指示を行っている所だ。

 今回の作戦も従来の水中発掘と同様に『ペンキュール』の三機編隊で行われる。しかし今回違う所は、従来であれば水中での移動と発掘場所の決定を『ペンキュール』のパイロットが視界の範囲で行っていたのに対し、目的地までオペレーターが誘導するというものだ。

 オペレーターは詳細な構造図を元に移動経路の指示を出しているが、この構造図を提供しているのがフィスリニアであった。


「調子はどうだ?」

 アルベルトがオペレーターに声をかける。

「ええ、すこぶる順調です。目的地まであと100mを切りました。この構造図は素晴らしいですね。パイロットからの報告と殆ど差がありませんよ。この方法なら発掘が飛躍的に進むのは間違いありません」

 オペレーターの明るい声にアルベルトも微笑む。

「命綱は足りそうか?」

「構造図で事前にルートをシミュレート出来ましたからね。大きなルート変更がない限りは大丈夫です」

 『ペンキュール』の推進装置は姿勢制御くらいの出力しかないため、足場がない所では浮上出来ずに海底に落下するしかない。それを防ぐために命綱を付けているのだった。


「ソナー手。異常はないか?」

「はい。今の所、接近するものはないようです。ですが探査範囲外に隠れている可能性は否定出来ません」

 そう、海賊はソナーやレーダーによる監視が届かない深度に身を潜めている可能性が高く、これまでもそうした奇襲を受けていたのである。


「執政官殿。お久しぶりですな」

 そう言いながらにこやかに近づいてくる二人の男がいた。ダリスタン共和国およびアンラン諸島王国の大臣である。今回の作戦の視察に来ているのだった。

「両閣下もおいでとは驚きました」

 アルベルトはそう言いながら二人と握手を交わす。

「フィスリニア王国のナンバーワンがおいでになるのですから我々も顔を出さない訳にはいきますまい」

「そんな、私は一人の技術者(テクノマイヤー)として来ているだけですよ」

 三人が冗談を交えながら話をしていると、オペレーターが声をあげる。

「『ペンキュール』目的地に到着しました。これより内部に侵入するそうです」

 各国のお偉方はオペレーターの周りに集まる。

「我が国の新型カッターが役に立てばよいのだが・・・」

 ダリスタンの大臣が心配そうに呟く。


 発掘品は大抵、建物の中や壁の向こうにある。そのため発掘現場では障害となる壁や扉を切断する道具としてカッターと呼ばれる器具を使用していた。これまでは水中で十分に威力を発揮できるカッターがなかったが、ダリスタン共和国で新型のカッターが開発され、今回の実戦投入となったのである


 皆が見守るなか、『ペンキュール』のパイロットとオペレーターの会話は続く。そしてオペレーターが見守る大臣達に報告する。

「カッターは期待以上の成果をあげているとの事です。パイロットが『これまでの苦労が嘘のようだ』と絶賛していますよ」

 この言葉を聞き、ダリスタン共和国とアンラン諸島王国の大臣はカッターの購入交渉に入り、アルベルトはその様子を微笑みながら見守るのだった。


「『ペンキュール』が倉庫内への侵入に成功しました。倉庫の中身の確認も上がって来ています。中には期待通り、梱包物が山積みのようです。一つ開けてみたところ工作機械のようだと言っています」

 オペレーターのうわずった声の報告に、中央指揮所は歓声に包まれる。皆、手を取り合って喜び、はやばやと祝杯をあげようとする者も出る始末だ。

 そんな騒ぎの中、アルベルトは、個々の梱包物の大きさや重さそして数を調べるように指示を出す。

 中央指揮所の騒ぎが収まった頃にパイロットから報告が入る。その報告から倉庫とメガフロートの間でロープウェイを設置した方がいいだろうという話がまとまって来た所でそれは起こった。




「彼らの真下から接近するものがあります!」

 突然、ソナー手が叫ぶ。

「音のパターンからして、いつもの海賊と思われます!」

 中央指揮所では「畜生!こんな時に!」と声があがるが、アルベルトは

(偶然ではないな。この基地に内通者がいる)

 と判断する。

「とにかく今は発掘隊の安全が第一!至急、発掘隊を引き上げるんだ!」

 アルベルトの指示にアンランの大臣が噛みつく。

「貴重な発掘品をみすみす海賊に渡せというのか!彼等に腰抜けになれと!」

「今回は仕方ありません。誰も彼等を腰抜けなんて思いませんよ!退くことも勇気です!」

 アンランの大臣とアルベルトが言い争う中、オペレーターが叫ぶ。

「発掘隊から伝言です。『アンランの民は誇り高き民族である。簒奪者に決して屈しはせぬ。勝てずとも最後まで戦い抜く』との事です!」

 この報告にアンランの大臣は満足げに頷き、アルベルトはテーブルを拳で叩いて叫ぶ。

「死んだら元も子もないだろ!」




「すまんな。付き合わせて」

発掘隊の隊長の謝罪が短距離無線で他の二人の隊員に飛ぶ。

「何を言ってるんですか、隊長。『退却する』なんて言われたら命令無視して居残るつもりでした。三国のお偉方が見守っている中で逃げ出すなんて恥もいいとこです」

「そうですよ。それに一方的にやられるとは限りません。こっちには新型カッターがありますから、一機くらい道連れにしてやりますよ」


 そんな会話を交わす間にもライトアップした倉庫の位置から視認出来る距離まで敵のマシーナが近づいてくる。そして、その内の一機が発掘隊に向かって発光信号を放ってきた。


「『命が、惜しければ、素直に立ち去れ』だそうだ」

「はっ、笑わせてくれますね」


発掘隊は、戦う覚悟を決めた。




「逃げませんね」

「馬鹿揃いって事だろう」

 海賊、いやローデモング帝国の偽装艦隊の旗艦の艦長は鼻で笑いながら馬鹿にする。

 こっちは中型潜水艦3隻に、水中戦闘用に改装した『ドドー』6機である。そんな我々の戦力に、作業用マシーナで対抗しようというのだから、呆れてものもも言えないというところだ。

「全く、ものを知らないというのは困ったものだ。海の中では我々に対抗出来る者などいないのだと教えてやれ。あそこから海溝に突き落として、水圧に圧し潰される恐怖を味あわせてやるのだ」

 偽装艦隊の方も一方的な蹂躙という名の戦闘体制に入った。




「さーて、ではちょっとどいて貰おうかな」

 偽装艦隊の『ドドー』が相手をなめきった様子で無造作に掴みかかろうとする。このタイミングを待っていたとばかりに発掘隊の『ペンキュール』がカッターを凪払うように振り回す。

 これが戦闘用のマシーナであれば間違いなく『ドドー』に致命傷をを負わせる事が出来ただろうが、『ペンキュール』は作業用マシーナであるため振り回すスピードが遅く『ドドー』に軽く避けられてしまう。

「舐めたマネしてんじゃねぇぞ!」

 カッターを向けられた『ドドー』はプライドを傷つけられたと言わんばかりにカッターを持つ『ペンキュール』の腕を掴んで手首を引き千切った。


「そいつらは落とせと言う命令だ殺すんじゃねぇぞ。おい!お前ら!そいつらのワイヤーを叩っ切れ!」

 マシーナの部隊長と思しき者の命令で一機の『ドドー』が『ペンキュール』と海上を結ぶワイヤーを次々に切断していく。




 中央指揮所では、命綱のワイヤーが切られた事を認識し緊張が走る。『ペンキュール』との通信はワイヤーに仕込まれた通信ケーブルで行っていたため通信が途切れ状況が全く判らなくなったのだ。

 アルベルトは歯軋りをしながらマイケルを睨む。しかしマイケルは小さく首を横に振るだけだった。

(こんな時にも『シューティングスター』を出せないと言うのか!)

 アルベルトは何も出来ない自分に腹が立つのだった。




「あれ?」

 奇妙な声を上げたのは偽装艦隊の旗艦に搭乗していたソナー手である。彼はローデモング帝国随一のソナー手として有名であり一般的なソナー手の3倍の索敵能力を誇っていた。そんな彼が迷った表情をしているのだ。

「どうした?何かあるのか?報告せよ」

 艦長の指示にソナー手が口を開く。

「下に何かいるようなのです」

「何!敵艦か?!深度はどの位だ?!」

 艦橋に緊張が走る中、ソナー手は申し訳なさそうに答える。

「それが・・・深度は5000m以上かと・・・」

 その言葉を聞き、艦橋の緊張が解け艦長が笑い飛ばした。

「お前でもそんな間違いを犯すのだな。我が国の潜水艦でも深度4000mが限度なのだ。5000m以上などあり得んよ」

「そうですよね。はは・・・」

 ソナー手は力無く笑うしかなかった。


「さぁ、とっとと終わらせろ!」


 艦長からマシーナ部隊に指示が飛び、事態は一気に動くのだった。


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