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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
46/311

1-46 二人旅 9

 フィリア姫は子供同士の会話を満喫していた。目の前で繰り広げられているのは、まさに期待通りの会話だった。

 子供達の最大の関心の対象は当然新参者のフィリア姫である。子供達、特に女の子達の食い付き振りはすごかった。フィリア姫としては自分の正体を明かしてもよかったのだが、ミリーとの約束もあるため、大きな地主の娘ということで話しを続けた。まあ、王も地主の一種であると考えればあながち嘘ではない。城を屋敷、城の者を使用人と言い換えれば普段の生活を話す事が出来たのである。

 一応みんなには「フィスリニアに来る事があったら是非立ち寄って欲しい。城で聞けば私の事は判るから」と言っておく。


 新参者は晒しタイムが終われば気の置けない者の仲間入りでありみんなでバカ話に盛り上がる。フィリア姫にとってまさに至福の一時であり、ここに来るまでの苦労も報われるというものだ。

 だが、そんなフィリア姫も少し気になる事があった。さっきまでいた隊長達の焚き火に全ての隊長達が呼び集められているようで慌ただしい雰囲気になってきたのだ。何か大事な話がありそうだとは思ったがかなりのおおごとのようである。

 一体、どんな問題がキャラバンに起こっているのか、フィリア姫は様々な可能性の歯車を頭の中で組み合わせて回し始めていた。




「全員、集まりました」

 隊長頭の声にミリーが頷く。

「あのキャラバンが皆殺しにあったと言うのは間違いないのですか?!」

「あそこには幼い子もいたのに!」

「ローデモング帝国はなぜ『サンダール商会』を野放しにしているのです?!」

 集まった隊長達が口々に騒ぎ始めミリーに答えを求める。その喧騒に隊長頭が「静かにせんか!ミリーさんがこれから説明してくださるのだ!」と一喝し、集まった者達は一気に静まり返った。


 静かになった所で、ミリーが酒で口を湿らせながら話し始める。

「まずは『サンダール商会』ですね」

 ミリーが話し始めると集まった隊長達は無意識のうちに身体を前のめりにして聞き入る。

「私は以前に仕事でフォルデベルグ王国のラーミザン基地に行った事がありましてね。その時に偶然『サンダール商会』の行商人を見かけたんですよ。そしてその顔には見覚えがありまして・・・そいつらの正体は・・・」

 ミリーは一呼吸置き言い放つ。

「ローデモング帝国の諜報局の士官でした」


 一斉にどよめきが起こる。

「じゃあ、『サンダール商会』に諜報局の人間が潜入していると?!」

 ミリーは苦笑いしながら頭を振る。

「だったらまだ可愛いんですけどね。『サンダール商会』の人間は全て諜報局員なんです。つまり、諜報局が『サンダール商会』を作ったんですよ」

どよめきが更に高まる。

「諜報局がなぜそんなマネを?」

「各地の情報を収集する、と言うのもあるでしょうが、他人の弱味につけ込んで自分達の意のままに動く便利な手駒を得るのがメインでしょう」

 ミリーは酒が入ったコップを揺らしながら続ける。

「商売というのはきれい事だけではなかなか儲かりませんからね。特に商売が上手くいっていない場合には多少きな臭くても、まとまった金が手に入るのであれば、つい手が出るでしょう」

「やつらは、目を付けた人間をそういう状況に追い込んだ上で、違法な商売に手を付けさせ、投獄をちらつかせて手駒としたのです」


 これには隊長達が反論する。

「いくら金に困っていたとしてもそんな危ない商売に手を出す訳がない」

「では、軽い罰金で済むようなものならどうですか?この程度なら、と思いませんか?しかし一度受けたが最後、それを脅しのネタにさらに重い罪の取引を強要されることを繰り返し、最後は重罪人に仕立てあげられるのです」

 もはや、隊長達に言葉はない。

「そうなればもう奴らに逆らう事は出来ません。さんざん汚い仕事をさせられ、財産は全て取り上げられ、利用価値がなくなれば投獄され殺されるのです。訴えても無駄です。そうしているのは国なのですから」


「一体どうすればいいんだ?」

 一人の隊長の呟くような質問にミリーが答える。

「『サンダール商会』には近づくな、と言うしかありません。真っ当な取引だけすればういと思うかも知れませんが、どこに罠があるか判りません。どうかこの事を世界中のキャラバンに、皆さんで忠告していただきたいのです」

「デバイスを使えばいいじゃないか。デバイスを使えば全てのキャラバンに瞬時に伝わるだろ」

 ミリーは残念そうに首を振る。

「今現在、いくつのキャラバンが犠牲になっているか判りません。もし奴らがそれらのキャラバンのデバイスを手に入れていたら、こちらの行動が筒抜けになります。そうなれば相手も作戦を変えてくるでしょう。ですから今はバレないように事を運びたいのです」


 隊長達に重い空気が漂う。誰もがある事を思っていたが口に出せずにいた。しかし一人の隊長が勇気を出して尋ねる。

「ミリーさんには判っているんだろ?今奴らの毒牙にかかっているキャラバンが。教えてくれ!」

 ミリーは俯いたまま答えない。

 他の隊長からも次々と懇願されミリーは仕方なさげに口を開く。

「最近の取引状況が不自然なのが・・・4組」

 ミリーには隊長達が息を呑むのが判った。そして次に何を要求されるのかも。


「ミリーさん!何とか助けてやってくれないか!」

 口々にに飛び出すのはその言葉だった。しかしミリーはにがり切った顔で目を背ける。

「いい加減にせんか!ミリーさんが困っておるではないか!」

「じゃあ、仲間を見殺しにしろと仰るんですか!」

 そうだそうだ、と同調する声がアチコチから上がる。

「よいか。彼等ははめられたとは言え犯罪を犯したのだ。そのことを盾に取られたならばどうすることも出来ん。裁くのは奴等なのだから。儂等に出来ることは新たな被害者が出ないようにするだけだ」

 隊長頭の言葉に隊長達は押し黙る。ある者は地面を拳で殴りつけ悪態を吐く。皆が焦燥感に苛まれる中、沈黙を破ったのはミリーだった。


「手はあります」

 小さな声だった。しかし皆の耳にハッキリ聞こえたその声に、期待の視線が集まる。

 「しかしそのためには、クリアしなければならない関門が二つあります」

「どんな方法なのです?そして関門とは?」

 隊長頭の質問にミリーが答える。

「彼等にフィスリニアに逃げ込んで貰います。そしてフィスリニア王国が彼等を保護します」

「だ、大丈夫なのですか?そんな事をして。ローデモング帝国から引き渡しの要求があれば引き渡さざるを得ないでしょう」

 隊長頭の心配はもっともであった。

「要求があっても引き渡しません。当然、国際問題になるでしょうし、犯罪者を匿う国としてフィスリニア王国の評判は地に落ちるでしょうね。しかもフィスリニア王国には何のメリットもないときてます。ここで一つ目の関門です」

 そう言うとミリーは隊長頭をジロリと見つめる。


「キャラバンの組織が独立性を重んじている事は判っています。しかし、保護を求めるとなればフィスリニア王国に多大な借りを作る事になります。隊長頭、キャラバン組織は独立性を揺るがす程の大きな借りを作る覚悟はありますか?」

 うっ、と隊長頭は言葉に詰まる。隊長頭と言ってもこの狭い地域での話だ。キャラバン組織の総意となると自分には荷が勝ちすぎる。そう躊躇していると、他の隊長達から次々と後押しの声がかかる。

「頭!覚悟を決めましょう!」

「俺達も他の連中を説得して回ります!」

 皆の後押しを受けて、隊長頭は暫く考え込んだ後、意を決したように大きく頷いた。

「覚悟を決めるか」

 隊長頭の決意に皆が湧く。


「で、もう一つの関門とは」

 隊長頭の質問にミリーが答える。

「フィスリニア王国の協力が得られるかどうか、つまりはフィリア姫の協力が得られるかどうかです。何度も言うようですが、今回の件はフィスリニアにとって百害あって一利もないことです。それに協力を条件に不当な介入を要求するような方ではないと先程の会話でお分かり頂けたでしょう」

 そう言ってミリーはもう一つの焚き火で談笑中のフィリア姫を見つめる。その視線に釣られるように、ミリーの連れの正体を知る者もフィリア姫を見つめた。焚き火に後から来た者にはここでミリーの連れの正体を明かされ、彼等は驚き声をあげる。


「皆に御身分を明かしてはいけないのか?」

「無礼のないように気を付けねば、頼めるものも頼めなくなるぞ」

 しかし、元からここにいたものから残念な事態を教えられる。

「もう既に無礼の限りを尽くした者がおってな・・・」

 そう言うと、タリーと呼ばれた少年の父親を睨みつけ、父親は小さくなるしかなかった。

「機嫌を損ねていらっしゃるのか?」

「判らんが今は子供達とご歓談中だ」

「とにかくこれ以上無礼を重ねないように・・・」

 隊長達がフィリア姫への対策を検討する中、突然ミリーが不吉な事を言い出す。

「子供達の様子が何かおかしいな」


 隊長達が慌てて子供達の焚き火の様子を見ると、フィリア姫を挟んでタリーと呼ばれた少年ともう一人の少女が何か言い争いをしているようだ。不穏な空気に大人達は不安を隠しきれない。

 そうこうするうちに、少年がフィリア姫を抱きかかえてこちらへ歩いて来るのが判った。しかも言い争っていた少女まで同行してくる。


 少女は年の頃は少年やフィリア姫より少し上と思われ姉御肌のようだ。きっと普段から子供達のリーダー的な存在なのだろう。

 その姉御肌の少女が・・・今にも泣き出しそうな顔をしているのだ。隊長達は、間違いなく何かあったと確信し気が気ではない。


 少年がフィリア姫をミリーの横に下ろすと、「あんたはあっちに戻ってて!」と少女がすごい剣幕で少年に指図する。少年はブツブツ言いながらも素直に従い去って行った。

「ナーラ!一体何があった?!」

 声を掛けたのはフィリア姫の正体を見破った隊長である。二人は親子であるらしい。

 ナーラと呼ばれた少女は、とうとう泣き出しながらも健気に報告を始める。

「お父さん、私ね、途中からフィーがフィリア姫様だって気付いたの。前にお父さんと見たから。でも姫様に『他の子には内緒』って言われたから守ったの。でもね、私気を付けていたのよ。みんなが失礼な事を言わないように。なのにタリーったら、タリーったら」


 (またタリーか!)と隊長達は呆れ、タリーの父親は頭を抱える。

 ナーラは泣きながらも説明を頑張って続ける。

「フィスリニアの悪口を言い始めて、私止めたのよ!なのにタリーったら、ムキになってドンドンヒドい事を言って。最後は姫様の悪口を言い始めて、ご本人が目の前にいらっしゃるのによ!止めても止めても・・・えっ、えぐっ、えっ、えっ・・・」

 最後は泣きすぎて言葉にならない。


「姫、ど、どんな事を言われました?」

 ミリーの戸惑いながらの質問に、フィリア姫は「はぁ~」とため息を吐いて答える。

「バカ、アホ、能無し、う~~ん。その他もろもろ、罵詈雑言のオンパレードだったわ。人を傷つける言葉ってこんなにあるのねって感心するくらい」

 うなだれるフィリア姫にミリーはかける言葉が見つからない。


 隊長達は少年の父親を睨みつつ(終わった)と実感する。父親は人間がこんなに小さくなれるのかと思う位に縮こまり頭を抱えるのであった。

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