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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
28/311

1-28 真実 7

 今宵は雲もなく、二つの月も出ておらず、絶好の星の観察日和である。この学院で最も古い施設である天文台には今日も学生達が詰めかけ、遠い星々に思いを馳せていることだろう。天文台が設立された本当の理由も知らずに・・・




「では、『グランドエリア』というもので生き延びていた人達は、その小型船とやらを使って、この星へ来ていたのですか?」

 ウィルファン王子が驚きの余り声をあげる。他の者もそういう事なのだろうと考えたが、マイケルの口から飛び出したのは意外な言葉だった。

「儂らも最初そう考えておったんじゃがな。違ったんじゃ。彼らが往き来していたのは・・・『白の月』だったんじゃよ」


 この星には月が二つある。

 一つを『白の月』といい、見かけの大きさも大きく、距離も近い。

 もう一つの月を『赤の月』といい、見かけの大きさは直径が『白の月』の4分の1と小さく、距離も『白の月』より遠かった。


「彼らは何のために『白の月』なんかに行っていたのてす?ワザワザ月に赴く価値のある資源があるとも思えないのですが・・・」

 アルベルトの質問にマイケルが答える。

「儂らもそう思ってな。小型船の動向を望遠鏡で追跡したんじゃ。そして見つけたんじゃよ。宝の山をな」

 マイケルは勿体ぶるように皆を見回して呟くように言った。


「そこにあったんじゃよ・・・『エリアα』の残骸がな・・・」





 宇宙空間に消えていったと思われていた『エリアα』は、偶然にも『白の月』に激突していたのである。『エリアα』には激突をさけるための推進装置などは何もなかったから激突の衝撃は『エリアα』を破壊し移民達を全滅させたに違いない。

 『グランドエリア』の生き残りの人々は、移民船を再建すべく、『エリアα』の残骸を活用しているのだと考えられた。その証拠の一つとして、小規模ながら移民船に居住区が再建されているのが確認出来たのである。


 マイケルとサモンは、当時既に即位していたガーランド王と、重臣に収まっていたグライゼに報告する。

 事の重大さを認識したガーランド王とグライゼは、マイケルとサモンそして信頼のおける数人の重臣によって極秘裏に状況の分析と対策の検討が行われた。

 一番大きな問題は、移民船をどんな連中が支配しているかだった。




「ミリーや。お前ならどう考えるかね?」


 マイケルがミリーに見解を仰ぐ。おそらく自分達の判断が正しかったのか確認したいのだろう。ミリーはその思いを察するかのように即座に明言する。

「『殲滅派』ですね」

 皆の注目の中、ミリーは説明を続ける。


「理由の根幹にあるのは、地上の移民達にコンタクトをとっていないという事です。月との往復便を運行出来る程の力を保持しているのですから、この星に調査団を送っていると考えて然るべきです。その目的は『エリアβ』の損壊状況と生存者の状況の確認。そして彼らが見たものは、移民の国家を興そうともせずに原住民に尻尾を振って生き延び、移民の財産である『エリアβ』を原住民に差し出す裏切り者達の姿」

 辛辣な言葉にマイケルとサモンはムッとするが、「そんな風に見えてるってだけですよ」と悪びれる様子がないミリーに、他の者は「絶対ワザとだ」と確信したが、心情が判りやすい説明であるという事も事実だった。そんな中、ミリーは何事もなかったかのように話を続ける。

「さて、そんな状況で各派はどう動くか」


「まずは、この星から立ち去る『退去派』。移民船の修理は納得できます。が、立ち去るにしても一人でも多くの仲間が欲しいはず、なのでダメ元でアプローチをかけてくる筈です。断られても退去を妨害される可能性はないですからコンタクトをとる事にリスクはありません。にも関わらずコンタクトがないという事は彼らではないという事です」


「次に『共存派』。移民者と原住民はよい共存関係が築けていると思います。それに規模は小さいですが移民者だけの村だって幾つか存在します。これは『共存派』にとって悪くない状況です。だとすれば移民船を修理するよりも、さっさとコンタクトをとって移民の準備を始める筈です。たとえコンタクトをとった相手が『殲滅派』であったとしても、別の人間にコンタクトをとればよいだけです。地上の『殲滅派』に出来る事はありませんから、コンタクトをとることのメリットがリスクを遥かに上回ります。にも関わらずコンタクトがないという事は彼らでもないという事です」


「では『殲滅派』はどうでしょうか。『殲滅派』の基本方針は武力によるこの星の制圧です。しかし、お二人から、連中は人的物量も武装量も全く不足していると考えられます。人手不足は子を産み増やすしかないでしょう。人が増えるに併せて居住空間の増設が必要ですし武装も増強しなければならない。それには『エリアα』の残骸を利用するのが手っ取り早い。建築資材は大半が流用出来るでしょうし、生活備品や武装などは多少の修理を施せば、また使えるようになるでしょうね。しかしそれでも行動を起こせる程まで回復するには十年単位の時間が必要でしょう」

「そして地上にいる者へのコンタクトですが、有効性に疑問があります。地上にいる『殲滅派』に連絡をとったところで、大した力になるとは思えませんし、逆に『共存派』などの反対勢力に自分達の存在を知られ防衛力を強化される危険があります。『殲滅派』と『共存派』の区別が明確に出来るわけではありませんからね。このように、連中にとってコンタクトをとるメリットは何もありません。従ってコンタクトをとらずに区別なく一気に殲滅するのが一番確実です。以上の事から、移民船にいるのは『殲滅派』である可能性が非常に高いと考えます」


「ただ、今説明したのは、単独の派閥が支配している場合の話です。複数の勢力が絡み合う場合はもっと話が複雑になりますが、大筋に変わりはないでしょう」


 ミリーの推論にマイケルは安心したように大きく頷く。

「まさにその通りの懸念を当時の我々も持ったのじゃ。奴らはいずれ必ず攻め込んでくる。ならば我々も対抗するための力を蓄えねばならん。そのために極秘裏に防衛計画を進める事にしたのじゃ」

「なぜ極秘裏に進める必要があったんだ?世界中に知らせて一致団結してあたればいいだろ」

 オズワルドの疑問にマイケルは答える。

「理由は『殲滅派』と似たようなものじゃよ。第一世代(ファースト)達とて全てが共存を望んでいた訳ではない。何の後ろ盾もなくなったと思ったからこそ仕方なく共存している連中も多い。そんな連中が移民船が生きている事を知ったらどうなる?協力を拒むばかりか妨害活動も活発になるだろう。我々はまだまだ多くの技術を第一世代(ファースト)達から引き出さねばならぬのにそれが滞るのは大きな痛手になる。だからこそ、極秘裏に事を運ぶ必要があった」

「騙してでも第一世代(ファースト)から技術を吸い上げるのじゃ」

 当時を思い出したのか、サモンが決意を含んだ言葉を繋いだ。




 ガーランド王達は協議の末、今後の方針を決定する。


 技術面では、第一世代(ファースト)達に匹敵するような技術者(テクノマイヤー)を作り出し世界中にバラまく。

 『エリアβ』の墜落以降、世界中で国家間の紛争に使われてきたマシーナの損傷が激しく、特に『オリジナル』は修理もままならないため、そのまま廃棄されるケースが増え始めていたのだ。このままでは兵力の増強どころではない。

 そのために『学院』を設立し、継承者(サクセサー)や信頼のおける第一世代(ファースト)を集めて技術の整理と進歩を促し、自国内から集めた学生に主にマシーナ、戦車、戦闘機などの武装関連の教育を始めたのである。


 次に運用面である。

 普通に考えれば、フォルデベルグ王国が防衛の指揮をとるのが普通であるが、それには大きな問題があった。フォルデベルグ王国には数多くの第一世代(ファースト)が要職に就いていたのである。

 この戦いでは第一世代(ファースト)が国の要職にあってはならない。いかに戦う決意をしていたとしても、人の子である。土壇場になって意趣変えをされれば元も子もなくなるからだ。

 ガーランド王は熟考の末、新しい国を造る事を決意する。第一世代(ファースト)が国の要職に一切就いていない国家だ。次に新しい国の王をどうするか。既にガーランド王には二人の子、ルミエラとランベルトがおりいずれかを新しい国の王とすれば簡単だったが、既に二人の周囲では世継ぎ争いが既に始まっており、二人とも切り離す事が出来ない第一世代(ファースト)の取り巻き連中が多くついていたのである。




「そこで、ガーランド王は仕方なく、もう一人だけ子を成して、その子を新しい王とする事にしたのじゃ。そうして産まれたのがフィリア姫じゃ」


 この時、フィリア姫は小さくビクッと反応し、俯き加減の顔には、一瞬だけ悲しげともとれる複雑な表情が浮かんだ。一瞬の事だったがミリーはそれを見逃さなかった。




 その後、フィリア姫は、レオンだけを教育係として側に置き、取り巻きがつかないように、建設中のフィスリニア城と近くのランドール村に隔離され、学院で様々な教育が施されたのである。当然、来るべき戦いとフィリア姫の役割についてもである。

 フィリア姫がフォルデベルグの王宮に戻るのは、行事の時だけであった。


 フィリア姫がフィスリニア城に隔離されていた頃、結婚相手の選別も始まった。こんな事で長年の計画を台無しにする訳には行かなかったからである。

 慎重に各国の王子が吟味され、最終的にウィルファン王子に白羽の矢が立ったのである。




「そして現在に至る訳じゃ」

 マイケルが話終わっても、頭の中を整理するかのように、誰もが難しい顔をしたまま動こうとしなかった。

 とうとう、沈黙に堪えかねたフィリア姫が、今にも泣き出しそうな小さな声で語り始める。


「みんなには本当に・・・黙っていて申し訳なかったと思う。しかし、おいそれと話す事が出来る内容ではない事も判って欲しい」

「このフィスリニア王国は戦うために産み出された国だ。しかも相手は第一世代(ファースト)の軍勢、いざ戦いとなれば技術力も数も奴らの方が遥かに上だろう。そんな相手に先陣を切って、世界の盾となって戦う事が・・・この国に課せられた宿命・・・なのだ・・・」

「きっと厳しい戦いになる。そんな戦いの場に、私は・・・私は・・・」


 言葉を詰まらせるフィリア姫に替わるようにオズワルドが口を開く。

「ミリー、スニーキー隊が連中のマシーナと互角に戦えるようになるにはどうすればいい?」

「アクティブリンクを侮って貰っちゃ困ります。今のままでも十分戦えますよ。それに本来の兵装を再現中です。マイケル老が設計図を持ってたんですよ」

「よし、なら問題ねぇ」

 マイケルはニカッと笑う。


「どんなマシーナが来ても、地上戦で『シャドウクレス』が遅れをとる事はありません。姫は命に代えてもお守りします」

 シオンが愛らしくも凛々しい笑顔で誓う。


「奴らは空から来るんでしょ。だったら先鋒は『シューティングスター』の出番だ。奴らが地上に降りる前に全て片付けてやるさ」

 大風呂敷を広げるのはリークである。


「しかし、このままじゃ、マシーナも火器も足りねぇ。生産と発掘のスケジュールを見直さねぇと」

 ボルトは心配そうな口調だあるが口許がにやついているところを見ると状況を楽しんでいるようだ。


「銃後の守りは私達に任せて、みんなしっかり戦っておいで」

 胸をポンと叩きながら、マーサが豪快に言い放つ。


「モルーグ王国にも連携して防衛網を展開させたいですね。私がこの国に来た後でも叔父上と連携を取れればなんとか・・・」

 既にフィスリニア王の自覚を持ったウィルファン王子が自分の役割を果たそうと考えを巡らす。


「色々と見直す必要がありますね。世界規模で。な、ミリー」

 アルベルトの言葉にミリーが頷く。


 皆の言葉を聞くうちに、フィリア姫の目にはどんどん涙が溜まっていく。

「みんな・・・本当にいいの?・・・本当に・・・」

 フィリア姫の問いかけに、オズワルドが代表して返事を返す。

「何言ってるんですか。世界を救うなんて働きは誰にだって出来るもんじゃねぇ。そんな名誉ある任務に選んでもらったことに感謝したいくらいです」

「でも、みんなの頑張りに見合う報奨は私には・・・」

「もう戴いてますよ」

 オズワルドはにっこり笑う。

「皆に居場所をくれたじゃないですか」

 皆が一斉に肯く。フィリア姫は嬉しくて涙が止まらない。「ありがとう」と一言言うのがやっとだった。


「ミリー、どうした?何か気になる事でもあるのか?」

 アルベルトが訊ねる。皆が笑っているなか、ミリーが一人だけ腕を組んで渋い顔をしていたのだ。

「いえね、相手の情報が全くない状態で相手の出方待ちしかないのが気に入らないんです。予測が立ちゃしない。私は情報収集をメインに動きますよ。マイケル殿、サモン殿、持てる情報は全てケツの毛まで出して貰いますよ。発掘所の発掘品の山も全部見直さないと。あれは情報という宝の山ですからね」

 途方もない事をさらりと言い放つミリーであるが、さらに誰も考えていなかった重大事をまたさらりと言い放つ。


「あと、戦う時は一発で敵を殲滅する手段を考えないと、長期化は厳禁ですからね」

 これにはマイケルが反論する。

「何を言っとるんじゃ、ミリー。相手の物資には限りがあるのだ。長期化させた方が有利に決まっておるじゃろ。それが我々の結論じゃ」

 皆も、そうだと言わんばかりにミリーを見返す。

 ミリーはマイケルをジト目で見返し反論する。

「何を悠長な事を考えているんですか。あなた方が言ったんですよ。『最初からこの星が候補地にあった』と」

「あぁぁっ!!!」

 ここで三人が、アルベルトとフィリア姫とウィルファン王子が悲鳴に近い叫びを上げる。

 まだ理解出来ないマイケルはさらに訊ねる。

「それが・・・どうしたと言うんじゃ?」

「別の移民船がいつ来てもおかしくはない。と言うことです」

 全員の笑顔を消し去るに十分な一言であった。

 半死半生の一隻ですら持て余しているのだ。さらに無傷の移民船が加わったら我々に勝ち目は・・・


 マイケルが頭を抱え、全員が意気消沈するのを見て、(早まった一言だったか)とミリーは反省する。

「ちょっと。いるかどうか判らない相手に怯えないでください。可能性として頭の隅に置いとくだけでいいんです。来ない確率がはるかに高いんです。万が一来たとしても交渉次第ではこっちに付いてくれる可能性もあるんです。だから、大丈夫です!」

 ミリーは満面の笑みを浮かべて説明する。ミリーは自分が何の根拠もないことを言っているのに気付いている。そして自分の発言が皆に真実として受け入れられる事も知っている。だからこそ今は嘘をつく事を選択する。


 皆もミリーのあっけらかんとした様子に大丈夫なのだと安心する。


そして、話し合いは笑顔で終了した。




 アルベルトはその夜眠れずにいた。そして、さっきまでの話し合いの影響だろう、星が見たいと思い、城の屋上に上って行った。


 そして、先客がいることに気が付いた。

 ミリーだった。ミリーが膝を抱えて座って星を見ていたのだ。


 まるで、そのまま消えてしまいそうな表情で・・・

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