1-27 真実 6
「あの時、ガーランド王と出会えたのは、非常に幸運だったと言えるじゃろうな」
マイケルは、そう言いながら冷めたお茶で喉の渇きを癒やす。
他の者も思い出したようにお茶を飲み干し、マーサが新しいお茶をついでまわった。
ガーランド=メル=フォルニムール。
当時はまだ皇太子であり、後に旧フォルデベルグ王国の王となる。言うまでもなく、フィリア姫の父である。
ブロンドの髪を短く刈り揃えた様子や顔つきは、現フォルデベルグ王国のランベルト王に似ていたが、ランベルト王よりややがっしりした体格と整えられた口髭、そして精悍ながらも人なつっこそうな目許が印象的であった。
「さてさて、君達は私の言葉が解るのかな?」
マイケルとサモンを包囲して剣を構える兵士達をガーランド王子は片手で制しながら二人に近づきつつ、こう言ったのである。その服装からして兵士達の上に立つ者と推測出来た。ガーランド王子は剣を構えずに近づいてきた。
幸いにも使用された言語は、サモンが学習していた二つ言語のうちの一つであった。
「私が多少解ります。流暢にとはいきませんが」
サモンのたどたどしい言葉に、ガーランド王子は満足げに笑った。
「それは何より!また、いきなり襲いかかられたらどうしようかと思ったぞ」
サモンとマイケルはその言葉を聞いて、兵士達の警戒振りに合点がいった。二人はとにかく申し渡し通りに話を進めようとする。
「皆様に襲いかかるなどとんでも御座いません。我々は皆様に文明を・・・」
「お前達は、『共存派』か?それとも『殲滅派』か?」
サモンは言葉に詰まった。この目の前にいる男は両派についてどこまで知っているのか、『文明の伝道』などという安っぽい言い訳は通用しないと見るべきか。
さらに困った事に、サモンもマイケルも、どちらの派閥にも属していなかった。慎重派とか中立派とか言えば聞こえがよいが、単にどちらでもいいだけで自分の研究に打ち込めればそれで良かったのだ。
という事でサモンは返答に窮した。『共存派』と言えば無難だろうが、この男の両派の知識は『共存派』の誰かから出た可能性が高く、かつ、この男のそばにいる可能性が高い。今後、対面して話をしようものならボロがでること間違いなしである。ならば・・・
「お恥ずかしながら、我ら両名とも、どちらの派閥にも属しておりません」
「ほう、では両者の間に立ち、事の真贋を見極めておったという訳だな?」
「いえ、そんな良いものでは御座いません。ただ単に、興味がなかったと言うか、醒めていたと言うか・・・」
ガーランド王子は一瞬目を見開くと、豪快に笑う。
「なんと!自分達の行く末の事であるのに、興味がないとな?!醒めておるとな?!わはははっ!気に入ったぞ!」
ガーランド王子は、兵士に剣を収めるよう命令しつつサモンの目の前に立つと、笑いながら肩をポンポン叩く。
「主義のなさは別に恥じる事ではないぞ。それは、客観的に物事を判断出来るという事でもある。いやな。お前達に先立って『共存派』と名乗る一団を助けたのだが、己の正当性の主張が激しくてな。どこまで信用してよいものか正直困っておったのだ。しかし、お前達のような者の意見が聞ければ、情報はより正確なものとなろう。私にはお前達の方が、より好ましく信用がおける」
ヤケクソ気味に正直に話した事が好感を呼んだようであり、サモンはホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、お前達はこれからどうするつもりだ?」
もう何も飾る必要はないだろう、目の前のこの男も悪い人間てはなさそうだ、『共存派』がそばにいるようでもあるし・・・ということでサモンはここも正直に話す事とした。
「正直なところ、右も左も判らぬこの土地でどうすればよいか、何が出来るのか、サッパリ判らず途方にくれております」
ガーランド王子は満足そうに笑い、二人にこう提案した。
「全く正直な男だな。ならば身の振り方が決まるまで私の客人としてもてなそうではないか。まあ当然色々と相談には乗っては貰うがな。そこは、持ちつ持たれつということで、どうだ?」
ガーランド王子はそこまで言うと、思い出したように付け足した。
「そうだ、自己紹介がまだであったな。私は、ここ、フォルデベルグ王国の第一王子、ガーランド=メル=フォルニムールという」
サモンとマイケルは幸運の女神に感謝する。王子の庇護下に入れば、取り敢えずの安全は保証されたようなものだ。もっとも、今後、政治的な謀略にさらされる危険はあるが、まずは飯と寝床の確保が先決だ。
二人は申し出を受ける事にした。サモンはガーランド王子に感謝の意を表し、自分達の紹介を行う。
「ほぅ、医者に道具作りの職人か。これは色々と面白い話が聞けそうだな。それに、腕がよければ両者とも引く手あまただぞ。儲け放題だ」
ガーランド王子のざっくばらんな言葉に思わず微笑む二人であった。
「では、お二人を、取り敢えず逗留してもらう村へ案内しよう。他の者達も一旦そこに逗留してもらっているのだ」
それを聞いたサモンが無意識に僅かに眉をひそめる。ガーランド王子は笑いながらも慌てて弁明する。
「いや、別に集めてまとめて殺そうなどとは思ってないから安心してくれ」
確かに集めて抵抗されるよりは個別に殺したほうが楽だろうなと、サモンは妙な納得の仕方をした。
さて、ここから目的地の村まで、奇妙な一団の珍道中となる。
ガーランド王子と兵士は三本づのの騎馬に乗っての移動である。サモンはガーランド王子に相乗りさせてもらっていた。そして・・・騎馬の一団の後ろから・・・巨大な鉄の塊がプカプカと浮きながらついて来るのである。しかも二つもだ。これは単に、マイケルが操縦する『プテルス』がホバリングをしながら自動操縦の『シューティングスター』を牽引しているだけなのだが、この星の人間には不気味な物体でしかない。
兵士達は不安そうな顔で何度も後ろを振り返る。すれ違う旅人は、あんぐりとだらしなく口を開けたまま呆然と立ち尽くしている。そんな様子をガーランド王子は楽しんでいるようでもあった。
サモンは道中、ガーランド王子からこの星の人間の反応を聞く事が出来た。ガーランド王子がサモンを自分の騎馬に同乗させたのは、情報交換を行うためでもあったのだろう。
「とにかく、こっちは天地をひっくり返したような騒ぎだ『天上界から悪魔の軍団が攻めて来た!』と言ってな」
ガーランド王子の言葉に、サモンは溜め息をつく。
「まあ、似たようなものですね」
「ははっ!お主は否定せぬのだな。ますます気に入ったぞ。先に助けた連中は必死に否定しておったわ」
サモンをすっかり気に入り気を許したガーランド王子はサモンに正確な情報を求め、代わりにガーランド王子もフォルデベルグ王国の正確な内情を提示した。 両者の状況を正しく認識し落としどころを計りたいと言うのがガーランド王子の思惑であり、サモンとマイケルに協力を求めたのだ。
ガーランド王子から聞いたフォルデベルグ王国の、そしてこの星の状況は厳しいものであった。
フォルデベルグ王国の重臣や国民の大多数は『悪魔の軍勢が攻めて来た』『悪魔が我々の姿を借りて我々に取って代わろうとしている』などと考え、出会った移民を虐殺したのである。
この状況に異を唱えたのがガーランド王子である。ガーランド王子は、彼らとまずは意志の疎通を図るべきと訴えた。その結果をもって今後の方針を決めるべきだと。
ガーランド王子の熱心な訴えに、父であるゴルゼア王は今回の件についてガーランド王子に全権を託したのである。
ガーランド王子は、直ちに虐殺行為を止め発見した場合は報告するよう国中に緊急の勅令を発した。そして報告を基に来訪者達の保護を始めたのだ。
ガーランド王子の行動は諸外国にも影響を与える。来訪者が悪魔などではなく、話が通じる相手もいることが判り、同じように保護を始めたのである。さらにその後には来訪者の技術の有用性が判り、国家レベルでの来訪者の争奪戦が繰り広げられるのだが、まだ後の話だ。
「お主らを見つけたのも『山中に大きな化け物が飛んで行った』との報告を受けたからだ。おかげで良き友人を得ることが出来た」
ガーランド王子の笑顔と厳しい状況は、サモンとマイケルに彼等のやるべき事を自覚させるに十分だった。そして目的地に到着する。
「ここが君達を保護する村、ターノ村だ」
「じいちゃん、そこって、俺たちがいた村だよね」
リークの言葉にマイケルは頷く。
「その通り。儂は結局最後まであの村にお世話になったんじゃよ」
村は山中の小さな村で、他の村とは離れている。
「本当は、あの巨大な降臨物に近い港町が良かったんだが、安全面に不安があると言うことで反対されてな。不便をかけるが勘弁してくれ」
申し訳なさそうなガーランド王子に対し、いや為政者として当然でしょう居場所があるだけでもありがたいと、サモンは感謝を述べる。
村には既に二十名程の移民達が保護されていた。
ガーランド王子に両派の話をした者が誰かはすぐに判った。『共存派』のナンバー3であるグライゼ=バッセルがいたのである。
グライゼは政治家であり、数名の側近と共に保護されていたのである。
「それからが大変じゃったな。移民者がどうあるべきか、『殲滅派』の生き残りをどうするか、グライゼ達と話し合い説得した。『エリアβ』の発掘を提案して発掘品で移民者の有用性をアピールしたりもした。そうした努力の甲斐があって今の繁栄がある訳じゃが、それらの話は今はどうでもいいことだから割愛する」
マイケルとサモンは一呼吸を挟んでこう告げる。
「ここからが本題になる」
移民者と移民者が持ち込んだ技術がこの星の人々に受け入れられ、この星の一部となるのに二十年以上がかかった。
そして、この星での移民者の生活が落ち着いたころ、マイケルとサモンはガーランド王子にある申し入れをする。それは『天文台の建設』であった。だが目的は天体観測ではない。
二人にはずっと気になる事があった。
『エリアβ』は『ネオ=テラ』に墜落した。『エリアα』は宇宙空間に消えて行った。
では『グランドエリア』は?『グランドエリア』はどうなったのか?
あれほどの災害で『グランドエリア』が無事でいられる訳がない、地上に墜落した形跡がない事から『エリアα』のように宇宙空間に消えていった、と言うのが移民者達の統一見解だった。
しかし、二人は信じられないでいた。
証言によれば、『エリアα』と『エリアβ』は、ほぼ同時に千切れ飛んでいる。とすれば『グランドエリア』には大きな力は加わっていない事になる。それに星々渡り歩いてきた推進装置があるのだ。「『グランドエリア』はまだ軌道上にいる」それが二人の結論だった。
しかし二人の意見に反論する者はこう言った。
「ならばなぜ二十年以上も何のコンタクトもないのだ。百歩譲って軌道上にあったとしても、人々はもう死滅しているに違いないのだ」
二人には彼等に反論できる証拠は何もなかった。いや、どちらも推論の範囲であり何の証拠もないのだ。いずれであるのか、二人はその証拠が欲しいのである。
天文台は、フォルデベルグ王国の南に造られることになった。
「学院の奥にある古い天文台がそうじゃよ。全てはそこから始まったのじゃ」
天文台は『エリアβ』からの発掘品を使用し、完成までに数年がかかった。その間にも『グランドエリア』の予想軌道の計算が行われる。
天文台の完成後、二人は『グランドエリア』の捜索に没頭した。そして、一年かけて遂に発見したのである。
「大気の揺らぎの影響で鮮明な画像ではなかったが、間違いなく『グランドエリア』じゃった。そしてさらなる事実が判った。出入りする小型船があったのだ。・・・つまり・・・人々は生きていたのだ!」




