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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
24/311

1-24 真実 3

 ウィルファン王子は色々な思いの渦に揉みくちゃにされていた。

 フィリア姫を助けたいという思いは変わらない。訪問する前から抱いていた思いであり、方法がどう変わろうと、目的は変わるものではなかった。さっきの事でもそうだ。フィリア姫の負担を少しでも分かち合えたらと思ったのだ。

 しかし、結果はどうだ?

 『(あま)街船(まちふね)』からの帰路、フィリア姫と殆ど話が出来なかった。フィリア姫は落ち込みずっと俯いたままだ。ミリーさんがずっと付き添っている。サモン殿もずっと考え込んだまま。アルベルト殿が自分に付き添い気を使ってくれていた。


「私は、やってはいけない事をしてしまったのだろうか。自分の立場もわきまえず、ただ、ただ、姫を困らせただけではないのか」

 そんなウィルファン王子の後悔の言葉に、アルベルトが答える。

「大丈夫ですよ。『この先、姫と共にあろうとするなら避けては通れない、いずれは通らねばならぬところ』ですし、『一番いいタイミング』だったと言えるでしょう」

「ありがとう。そのお言葉で気持ちが軽くなります」

 ウィルファン王子は礼を言ったあと、少し考えて口を開く。

「ところで失礼ですが、それはアルベルト殿のお考えですか?」

「・・・ミリーです。私も同意見ですがね。」


(まさか、これもミリーさんの思惑通りなのか?)

 ウィルファン王子の表情が曇る。


「ウィルファン様、ミリーと何かあったんですか?ミリーがウィルファン様を避けているように見えるのですが・・・」

「いえ、何も。気のせいですよ」

 とは言ったものの、確かに避けられている気がする。こちらの気持ちを見抜かれたのだろうか。いずれはちゃんと話をしないといけないな。

 ウィルファン王子はそんな事を考えながら、段々遠くなる『(あま)街船(まちふね)』を船の上から見つめていた。




 フィリア姫の一行は、城に戻った時には皆に心配をかけないよう平静を装っていた。


 フィリア姫とウィルファン王子も仲むつまじくはしていたが、やはり敏感な者には判るのだろう、シオンが心配そうに二人を見つめていたのだった。


 サモンとマイケルは、ミリーとアルベルトに何事かを説得されているようであったが、四人の他者を寄せ付けない雰囲気に誰も近づくことは出来なかった。




 その夜、ウィルファンはサモンの部屋に呼ばれなかった。呼ばれたのは会議室でありウィルファン王子だけではなく多くの者が集まったためである。

 説明する立場として、マイケル、サモン、フィリア姫、レオン。

 説明を受ける立場として、ウィルファン王子、アルベルト、ミリー、リーク、シオン、オズワルド、ボルト。

 全員が席に着くとマーサ達が飲み物を配る。するとフィリア姫がマーサにも列席するよう命じ、マーサはフィリア姫のただ事ではない様子に不安な表情を隠せないまま末席に着いた。

 そして、この会議室がある3階のフロアを立ち入り禁止にする指示と人払いが行われた。

 今までに有り得なかった厳重さに、呼ばれた者、アルベルトとミリー以外の全員が不安を隠せず不自然に押し黙っている。

 その緊張の糸が張り詰めてきた頃、ようやく、俯き小さくなったフィリア姫が言葉を始める。


「今宵、皆に集まって貰ったのは、ある重要な事実を皆に共有して貰うためです。今からお話しする事の全てを知っているのは私達以外には、フォルデベルグ王国国王、フェルミール王国女王、そして両国の数名の重臣だけです。その秘密を皆さんに共有して頂きたいのです。」

 誰かがゴクリと生唾を飲む。

「そのような話は聞きたくもないと思う者は、この場を立ち去ってくれて構いません。話を聞いた後に巻き込まれたくないと思う者は、口外しないと約束してくれればこの国を出て貰っても構いません。その時は十分な支度金も出します」

 フィリア姫は俯いたままそう言うと、少し間を置き小さな声で続ける。

「退出したい者は、今、退出を」

 居住まいを正す者はいても席を立つ者はいない。

 フィリア姫はその事に少し驚きながらも、やはり浮かない表情のまま言葉を続けた。

「マイケル、サモン、始めましょう。第一世代(ファースト)の真実を明かすのです」

 マイケルとサモンは頷き、訥々と語り始めたのだった。




 第一世代(ファースト)達の生まれ故郷の星は、この星と同じ銀河の中にあった。それは銀河系の外れに位置する主系列星の第3惑星であり、彼らはその星の事を『地球』、『テラ』、『アース』など色々な呼び方をしていた。これは地球という星が、この星以上に多くの国家と言語圏に別れているせいである。

 彼らは生活の場を、母なる大地である地球だけでなく、衛星軌道上および衛星や他の惑星上にも『コロニー』という人工の居住空間を広げ始めていた。彼らは繁栄の絶頂にあり、その科学力をもってすればどんな不可能事も可能となると思い上がる程になったのである。


 しかし、そのような思い上がりの民を神が許してはくれなかったのだろう。そんな彼らを突然絶望の淵に立たせる事態が発生した。赤色巨星が太陽系内を通過する事が解ったのだ。通過する赤色巨星の半径は太陽の500倍以上。もはや太陽系は存続する事は赦されず太陽ですらその存在が脅かされる事となったのだ。


 太陽系そのものがなくなる。そのような未曽有の事態に、彼らが取りうる手段は、もはや太陽系からの脱出しかなかった。太陽系から脱出して移住可能な惑星に移住する。太陽系脱出までの猶予の期間は30年余り。

 その間、各々の国で移民船の建設が始まった。ここには国家間での協力や共同プロジェクトというものは存在しない。移民船に乗せる事が出来るのは極僅か。となれば自国民だけをと為政者が考えるのは正論である。

 従って、宇宙船を造る技術を持った国のみが生き残る権利を持ち、技術を持たない国は死に絶えるしかなかった。

 そのような持たざる国が持てる国に対し自暴自棄とも言える戦争を始めたのは当然の成り行きと言えた。

 こうした戦争は世界各地で発生し、最終的には全人口を5分の4にまで減らしたのだが、それでも最終的に建造された移民船はせいぜい50隻余りであり、100億の全人口のうち50万脱出出来ればいい方だったのだ。

 短い期間で移民船を50隻建造するのにはある裏技が使われた。衛星軌道上のコロニーに推進器を取り付け、移民船に改造したのである。この方法により43隻が用意された。ただし、元々の住人は追い出され、地上の権力者達が我が物顔で乗り込んで来たのは言うまでもない。


 別の方法で移民を行おうとする者達もいた。

 宇宙船にコールドスリープ状態で乗り込み、目的地まで自動航行を行い、到着後コールドスリープを解くというものである。

 主に小規模の団体が行った方法であり、再び目覚める可能性が低く、集団自殺に等しいと言われたが、他に方法がない以上、この方法に万に一つの可能性を賭けるしかなかった事は、このタイプの宇宙船が数百隻も建造された事が証明していた。


 どちらの方法をとるにしても等しく必要な物があった。それは目的地である。

 船の建造と並行して行われたのは、候補地の抽出である。これには世界中の天文台が協力し情報が共有されたのだ。

 最終的に候補地は100近くに上った。

 全ての船が与えられた航路情報を基に、思い思いの目的地へと飛び立ったのだ。




「ちょっと待って!確認したいことがある」

 話を中断したのはミリーである。

 マイケルは何を聞きたいと言った表情でミリーを見る。

「その候補地に、この星はあったのか?」

「当たり前だ。だから最終的にここにたどり着けたのだ」

 ミリーは一瞬、驚愕の表情になったが、すぐに元の表情に戻り「続けてくれ」と言ったのだった。




 この移民船の名前は『リバティ16』と言った。コロニーを改造したタイプの移民船である。

 『リバティ16』は3つのエリアから構成されていた。

 『グランドエリア』は推進器や艦橋など移民船の中枢機関が配置された箱型のエリアである。このエリアから、センターポールと呼ばれる太い柱が前方に伸びていた。このセンターポールが残りの居住区である2つのエリア、『エリアα』と『エリアβ』を対照的に支え、回転させる事で2つのエリアに重力を与えていたのだ。




「この居住区、『エリアβ』が・・・『(あま)街船(まちふね)』じゃよ」

 一同が低く唸る。

「だから、あの形状なんですね」

 ウィルファン王子は納得する。




 『リバティ16』の旅は決して順風満帆とは言えなかった。旅立ちからこの星に辿り着くまで1200年かかったのだ。もっともそれは『リバティ16』上の時間で、外から見ればもっと時間がかかっているのだが・・・

 この星は当初の目的地ではなかった。ここに来るまでに3つの星を訪れた。星に着く度に人々は期待を膨らませ、そして絶望した。どの星もとても人が生きていける環境ではなかったのだ。

 しかし、旅の間も人口は増える。様々な星に立ち寄ったり小惑星や彗星を捕獲したりして資源を確保し、居住区を拡張していった。

 旅立ちの時には全長4Kmだった居住区も最終的には40Kmになり、移民も1万人から30万人に膨れ上がっていた。




「もし、我々が訪れた最初の星がここだったなら、我々は間違いなくここを去っていたのだ」

 マイケルは力なく語る。

「何度も絶望したせいだ」


「だから・・・あの悲劇が起こったのだ」

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