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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
159/311

1-159 継承者 3

「何故そのような警告が行われるのか。実はその理由を知らない者も多いのです。そのような者はただファウンディールから命令された事を新人継承者(サクセサー)に告げるだけで理由まで教える事は出来ていません」

「例え知っていて教える事が出来たとしても、それは他の者からの伝え聞きであったり、いくつかの共有資料からの類推であったり、真実とは程遠い内容だったりする事が殆どなのです。かく言う私も、間接的な情報しか持っていないのです」

 アルベルトがそう言いながら肩を竦める。


「じゃあ、真実を知る事は出来ないって事?」

 苛立たしげに詰め寄るフィリア姫に、アルベルトは意地悪そうな含み笑いを浮かべて言葉を返す。

「『殆ど』と言いました。極々僅かですが真実を知る者はいます。それもファウンディールがミリーに怖れを抱く原因となった2つの事件を両方とも知る者が!しかも幸か不幸かこの場にいるのです!それらの事件の時ミリーの傍らにいた人物が!」

 アルベルトの言葉に皆がどよめく。フィリア姫は思い当たる人物を思わず見つめる。

 そしてアルベルトもその人物を見つめ声をかけた。


「ケニーさん。お願い出来ますか?」

 指名されたのは、財務担当執政官であり、先程の『継承の儀』を取り仕切っていた『ケニー=ザリアード』である。

 一同の注目を集める中、ケニーはポリポリと頭を掻き、致し方ないと言いたげな笑みを浮かべながら口を開く。

「確かにそれは私の役目ですなぁ。良いでしょう、お話ししましょう」

 ケニーは手に持ったグラスをクィっと空けると、酒が入った次のグラスを手に取り、それを見つめながら話し始める。


「さて、どこから話し始めましょうかね・・・舞台は今から10年程前、大陸の西、モルーグよりも更に西にクスト公国という小さな国があります。当時はまだ第二世代(セカンド)だった私は、このクスト公国の参謀本部に席を置いていました。そんなある日、突然隣国のブロニア帝国から一方的な併合通告を受けたのです」




 10年前。

 『(あま)街船(まちふね)』と第一世代(ファースト)達がもたらした先端技術の普及のムラから生じる国家間の技術格差。それは特に軍備面に顕著に顕れていった。

 その差が最も大きくなったこの年代に起こったのは、力により他者を屈伏させ飲み込んでしまおうという、人間の本能とも言える征服欲が生み出した戦争だった。


 ブロニア帝国は早くから第一世代(ファースト)達の技術力に目を付けていた。大陸東側諸国のようにマシーナ等の重兵器を得る事は出来なかったが、それでも歩兵装備等の強化を図っていったのである。

 更にファウンディールの中でも1、2を争う2名の軍略の専門家を軍のトップに招き入れる事に成功していたのだ。

こうしてブロニア帝国は、周辺諸国よりも優れた質と量の軍勢を揃え、一大軍事国家となっていったのである。


 周辺諸国がブロニア帝国の脅威に気付いた時には時既に遅く、軍事力の差は決定的なものになっており、他国が対抗策を練り始めた頃、ついにブロニア帝国は周辺諸国への侵略を開始したのである。

 そしてブロニア帝国が最初に獲物に選んだのが、ブロニア帝国の周辺諸国の中でも最も弱小だったクスト公国だったのである。




「兵力はブロニア帝国側15万に対しクスト公国側は1万。装備の差も歴然。クスト公国にとても勝ち目などありませんでした」

 ケニーの説明に頷きながらオズワルド隊長が言葉を漏らす。

「ブロニア帝国・・・か・・・憶えがある。俺達がいたダリスタン帝国の友好国だった。ブロニア帝国が当時手に入れた装備は、ダリスタン帝国が装備を最新のものにする際、古い装備を売ったものだな」

「大陸の東側諸国にとっては多少古い物でも、西側諸国には最新鋭と言えましたからね」

ケニーは肩を竦めてオズワルド隊長の言葉に答えた。


「そんな強国からの無条件降伏勧告です。まともに戦っても勝ち目がない事は明らかですが、勧告を受け入れるという選択肢はありませんでした」




 ブロニア帝国に屈する訳にはいかない。それがクスト公国を治める君主、議会、そして国民の総意であった。

 クスト公国はまず、ブロニア帝国に対して同じ脅威を感じている周辺諸国へ共闘を呼び掛けた。

 今ここでクスト公国が倒れてしまえばブロニア帝国はさらに軍備を増強し、次の国に侵攻を開始するであろうと。よってここは、ブロニア帝国の周辺諸国が力を合わせてブロニア帝国を倒すべきである、と。


 しかし、この呼び掛けに答える国は1つも存在しなかった。一番の理由は、これまでの各国の関係にあった。

 この地方の国家群はいずれも似たり寄ったりの規模と力を持っていた。これまでこの地方の国家が大した戦いもなく過ごしてきたのは各国が友好関係にあったからではない。隙あらば攻め込もうと虎視眈々とお互いに狙っていたからである。

 つまり戦争によって国力を削がれれば、便乗して攻め込まれる事が目に見えているのだ。だから戦争を起こせない、三竦みに陥っていただけなのである。従って国力を削がれるだけの、ましてや強大な相手への共闘などするはずがなかったのである。


 周辺諸国の協力を得られない事が濃厚となったクスト公国は、次に交易など少しでも友好関係にある遠地の各国へ援軍を申し出たが、援助物資を得られたのが精一杯だったのであった。




「八方塞がりとなったクスト公国は藁にもすがる想いでファウンディールに依頼を出しました。ブロニア帝国との戦いの指揮を執ってくれる、そして交渉を行ってくれる人物を募集したのです。しかし、当然ながら1対15の兵力差に加えてファウンディールのトップの戦略家が指揮を取る相手に立ち向かおうという者は現れませんでした」

 わざわざ負け戦を拾いに行く愚か者はいない。


「もう、全てを諦めようとしたその時です。この無謀な依頼を受けた者が現れたのです」

 ケニーは皆を見回して言葉を続けた。


「それが『ミーア=リーア=シュタインロード』だったのです」


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