1-158 継承者 2
普段のメイシアであれば、どんな相手であろうと頭に足をかけるなど絶対にしない。
しかし、ミリーに対する憎悪の深さ、突然降って湧いた力による驕り、そしてはやし立てる人々、様々な要因が重なってメイシアにそのような行為をさせたのだろう。
そしてまた、その行為を止める者は誰もいなかった。アルベルトもケニーもヒースも老人達も、渋い表情をするだけで誰も止めようとはしない。
フィリア姫もウィルファン王子もフランクも、不安そうにしながらも止める事は出来なかった。
メイシアは土下座するミリーの頭にかけた足に力をかける。
ミリーの頭がゴリッと床に押し付けられる感触が足の裏に伝わると、メイシアはドヤ顔に含み笑いを浮かべ「この位で許して差し上げます」と言って足を退け、満足そうに元いた席へ戻って行くのであった。
メイシアが様々な人から祝福を受けている中、ミリーがゆっくりと立ち上がろうとしたその時だった。
ミリーはいきなりドカッと横から蹴り飛ばされ転倒したのだ。
「ふん!この位にしといてやる。触るのも穢らわしいからな」
それはオズワルド隊長だった。
さすがにこの行為に怒りを覚えたアルベルトが抗議しようとしたその時だった。
「くくくくくく・・・」
と、不気味な含み嗤いが聞こえ始める。オズワルド隊長とアルベルトは思わずその声の主であるミリーを見つめる。
ミリーは、嗤い声を洩らしながらゆっくりと身体を起こす。玉座の台座の角に頭をぶつけたのだろう、床には血が滴り落ちており、立ち上がったミリーの顔の右半分は頭から流れた血で真っ赤になっていた。
そしてオズワルド隊長をおぞましい嗤い顔で睨みつける。
「穢らわしいだと?くくくく・・・今頃気づいたのか?くくくく・・・私は生まれた時から穢れているのだ!天国の神にも地獄の冥王にも毛嫌いされる程にな!!」
その言葉はアルベルトを動揺させる。
「ミリー!お前まだ・・・」
「アル様。今日は疲れたので部屋に戻って休みます。この場は私などいない方が良いでしょう」
駆け寄るアルベルトの言葉を遮り、ミリーはそう言い放ってこの場を立ち去って行く。途中、悲しそうな表情のフィリア姫が引き止めようとしたが叶わなかった。
メイシアにお祝いの言葉を述べに来る人も落ち着き、メイシアの周りはいつものそばにいる面々、姫、王子、執政官達、騎士達、老人達だけになる。もっとも城の重鎮が集まるこの一角に平気でいられる強者がいないだけの事であるが・・・
しばらくは国境戦争の話に花が咲いていたが、話が下火になり頃合いと見たマイケルがフランクにデバイスを手渡した。
「お主も継承者となったからデバイスを持つ権利があるからの。『天の街船』からの発掘品を初期化したものじゃ。儂のはまだくれてやれんでの。中味は基本的なものばかりじゃから後は自分でなんとかせい」
「はい!ありがとうございます!」
フランクは新しいおもちゃを手に入れた子供のような喜びようで早速教わりながらいじくり始める。
メイシアが羨ましそうな目でフランクのデバイスを見つめていると、今度はサモンがデバイスを取り出し「メイシア。これがお前のじゃ」
と言って、明るいペパーミントグリーンの一回り小さなデバイスをメイシアに渡す。
「これは大きさはサブデバイスと呼ばれるタイプだが、侮ってはならんぞ。中身は儂等が持っているものなんかより遥かに高性能じゃからな。自慢出来る一品じゃぞ」
メイシアは嬉しそうにそして大事そうにサブデバイスを抱える。
「ありがとうございます!でもそんなに高性能ならサモン様がお使いになるべきでは?」
メイシアの疑問に、サモンは「それは・・・」と言ってアルベルトを見つめる。アルベルトがそれを察し、言葉を引き継ぐ。
「懐かしいな、そのサブデバイスは・・・ミリーが子供の頃に使っていた物なんだよ」
それを聞いたメイシアは顔を曇らせ微妙な表情になった。
「何だぁ?物でメイシーのご機嫌をとろうって言うのか?浅ましいな」
オズワルド隊長が吐き捨てるように言うとスニーキー隊の隊員達が次々と同意しミリーの悪口を言い始めた。
すると、これまで沈黙を保っていたヒースが、アルベルトに向かって訴えかける。
「アルベルトさん、俺もう我慢出来ません。罰を受けても構わないので、言わせてもらいますよ!」
アルベルトは即座に首を横に振る。
「確かにお前の言うとおりだが、それは俺の役目だな」
アルベルトはそう言うと、メイシアのそばに行き話を始める。
「メイシー、国境戦争では大変だったな。特に味方の指揮官共との対立はな。普段のメイシーなら第二世代や第三世代と聞くだけで萎縮して言いなりになるのによく対抗出来たな」
「だって、モルーグの第二世代や第三世代なんて名ばかりなんでしょ?そう言っていたじゃないですか・・・ミリーさんが・・・」
メイシアは不機嫌そうに答える。アルベルトは気にせず次の話を始める。
「しかもその指揮官共が事もあろうか、前の戦争でメイシーを酷い目に合わせた連中だそうじゃないか。そいつらを目の前にすれば動揺もしただろうに」
「前もって判っていれば・・・心構えも出来ますし・・・」
メイシアは更に不機嫌そうになる。しかし、アルベルトの話は続く。
「それに様々な反発が続いていただろうに、よく途中でめげなかったな」
「それは、常にお城の酷い様子を教えてもらってましたからね。その度に、頑張らなきゃ、って・・・」
「それでもメイシーの言う事を無視されていたら功績は上げられなかっただろ?」
「それは、アレキサンドル陛下がおいでになられたおかげです!」
メイシアの答えを受けて、アルベルトはシーザー王子に向き直る。
「シーザー様。アレキサンドル陛下はどうして前線においでになったのです?」
「それは私が進言したからです!」
「どうして進言なさったのです?」
「ミリーさんにあんな事を言われたからじゃないですか」
「アルベルトさん!」
アルベルトとシーザー王子のやり取りを聞いていたメイシアが不機嫌そうに声を荒げ、アルベルトを睨みつける。
「アルベルトさんはこう仰りたいのでしょう?!『全部ミリーさんのおかげ』だと!でもそれは単なる結果論です!たまたま結果がそうなったからって、ミリーさんの悪行が消える訳ではありません!」
メイシアの訴えにスニーキー隊の面々も同意の声をあげる。
メイシアの反論をアルベルト肯定も否定もしないまま、話を変える。
「それはさておき、2人は晴れて継承者となりファウンディールの一員となった。そんな新人には、ファウンディールから必ず伝えよとされている申し送り事項がある」
このアルベルトの言葉に慌てたのは、2人の老人、サモンとマイケルだった。
「アルベルト!まさか今ここであの話をするつもりか!」
「城の者、フィリア姫が家族と呼ぶ者達にも聞いて貰った方が良いと判断しました」
慌てふためく老人達を後目にアルベルトはそう言うと、メイシアの周りに集まっている者達を見渡し、一息吐いて話を始める。
「これから話すのは、ある継承者の話だ。これはその継承者を讃えたりするためのものなどではない。将来有望な新人継承者が誤って早死にしないように警告するためのものだ」
物騒な出だしに、誰かがゴクリと息をのむ音が聞こえた。
「その継承者は、ランクは表向きSの中程に位置付けられているが、実際はランク付けなど意味をなさない程の孤高の存在だ。その者は全てのファウンディールの者に、信用され崇拝され・・・そして怖れられ忌み嫌われる存在である」
「ファウンディールはこう警告する。その者に敵対するな。それは死を意味する。近づく事もならない。ましてや理解しようなどと言う思い上がりは言語道断である。その者を理解する事など決して出来ないからだ。そして、近づき過ぎればやはり死を免れ得ないだろう」
「ファウンディールは貴殿等が生涯その者に会わない事を望む。その者の名は・・・『ミーア=リーア=シュタインロード』・・・それは『リンドの悪魔』が具現化した存在である」
外は日が暮れ始めていた。
『謁見の間』での宴は、豪華な料理と酒を土台にはしゃぐ者達によって賑わいも最高潮となってきていた。
その中で、メイシアを中心とした一画だけは、笑顔をこぼす者は1人もおらず、皆、押し黙っていた。
そんな重い静寂を破った者がいた。フィリア姫である。
「アル。今度こそ話してくれるのよね。ミリーに何があったのか」
アルベルトは小さくしかししっかりと頷いて答えた。
「はい。それを教えるのも申し送り事項の一部ですから」




