1-15 建国祭 12
作戦を開始しても回りから見た戦いの様子に変化は見られない。リークはワンチャンスを狙っており、それを悟られないよう動きに変化を付けないように気を付けていたのだ。リークの集中力も何とか持っている。目的があれば集中力の持ちも良くなるものなのだ。そして暫く剣を合わせるうちに、その時は訪れた。
『シャドウクレス』の左から『シューティングスター』が振り下ろした剣を、『シャドウクレス』は盾を掲げて受け止めた。いくら左肩をかばって動いていても、咄嗟の場合には自然と今までの動きが出てしまうものである。そんな普通の動作だった。しかし、そんなごく普通の動きがリークが待っていたチャンスだったのである。
盾が剣を弾いた瞬間、観ていた者は「あっ!」と声をあげた。弾かれた勢いで剣が宙を舞ったのである。誰もが『シューティングスター』の失敗と思い宙を舞う剣を見つめた。シオンもまた一瞬目の前を飛んでいく剣を見つめてしまった。しかしこの一瞬の隙が『シャドウクレス』の命取りとなった。
シオンが我に帰った時には既に『シューティングスター』が、盾と『シャドウクレス』の胴体との間に入り込んで来ていたのである。『シューティングスター』は『シャドウクレス』の左手首を剣を離した右手でガッチリと掴むや否や、後方へ引っ張り『シャドウクレス』を前のめりにする。
そこを、少し屈んだ姿勢から一気に伸び上がりながら左腕の盾で思いっきり『シャドウクレス』の胴体を突き上げたのだった。『シャドウクレス』は宙を舞うが、左腕を拘束されているため、投げられたような形で『シューティングスター』を飛び越え、その後方に地響きを立てて背中から落下したのである。その際、左肩は負荷に耐えかね、メキメキと不快な音を立てて無惨に破損し破片を辺りにばらまいた。
その様子にフィリア姫が涙目でアルベルトの頭をパンパン叩きながら悲鳴を上げたのは言うまでもない。
仰向けに倒れた『シャドウクレス』に『シューティングスター』は追い討ちをかける。右手で頭を左手で右腕を押さえ込み、胴体に膝を乗せて体重をかける。『シャドウクレス』は抜け出そうと身じろぎをするが抜け出せるはずがなかった。
大技に観衆が興奮のあまり大歓声を上げる中、フィリア姫が二機に駆け寄り大声で叫ぶ。
「もう勝敗はついたはずよ!これ以上彼女を傷つけないで!」
リークもコックピットの中で、相手に聞こえるはずがない叫びをあげる。
「そうですよ!もう戦いは終わったんです!大人しく投降してください!」
その一言が聞こえたとは思えないが、『シャドウクレス』の抵抗が突然止み、エンジン音が停止する。
「これで良かったんだよね、テッド」
シオンは自分を納得させるように呟くと、ハッチを開け静かに外へ出たのであった。
「乱暴にしちゃだめよ!拘束具も必要ないわ!彼女はちゃんと従うわ!」
シオンに駆け寄る衛兵達にフィリア姫が急いで指示を飛ばす。
衛兵に付き従われて来たシオンにフィリア姫が近寄り声をかける。
「凄い試合だったわね」
「でも勝負は最初から付いてました。悪が負けるのが世の理です」
フィリア姫の声掛けに、うなだれて力なく答えるシオン。しかし、そんなシオンが思い出したように問いかけた。
「そう言えば、『バリスタン』を運んで来た輸送機はどうしました?」
これにはレオンが答える。
「残念ながら逃がしてしまったよ。まあ、奴らの目論見は失敗したのだから、輸送機の一機や二機今更どうという事もあるまい」
もうどうでもいい事だと言わんばかりのレオンに対し、顔色を無くしたシオンが慌てて訴えかけてきた。
「いけません!あの輸送機は爆弾を積んでいます!作戦が失敗した場合、城を空爆する事になっているんです!奴は戻ってきます!すぐ迎撃の準備を!」
しかし、フィリア姫もレオンも難しい表情をしたまま動こうとしない。シオンは不審に思い、再度警告する。
「どうしたのです?早く迎撃の指示を・・・」
「迎撃手段がないのだ。この国にはまだ・・・」
フィリア姫の口から衝撃的な事実が告げられる。フィスリニア王国には、まだ対空迎撃システムがない。隣接する姉国であるフェルミール王国のウェルニー空軍基地の支援をあてにしている状況なのだ。これが国外からの侵攻であれば侵入前に対空レーダーで察知してからでも支援が間に合う計算なのだが、今回は完全に入り込まれた状況であり、このケースでは支援が間に合わないのである。
思案に暮れるフィリア姫とレオンにアルベルトがぼそっと告げる。
「ありますよ」
「えっ何が?」
フィリア姫は予想だにしない言葉に思わず聞き返す。
「対空迎撃手段です」
アルベルトは当たり前であるかのように告げると、リークと通信を始めた。状況を一通り説明し指示を出す。
「敵機の位置を捕捉できるか?」
リークはレーダーのレンジを拡大し対象物を発見した。さらに右目の望遠カメラで確認をとる。東の空はもう暗かったが、カメラの暗視性能のおかげで、機体はおろかパイロットまではっきりと確認できた。
「いました。東の海上を旋回してこちらへ向かってきます。機体は飛行場に留まっていたものに間違いありません。飛行場にいたのは一機だけでしたしね」
「すぐに迎撃しろ」
「えっ、でもスナイパーライフルは持ってきていませんよ」
「機銃には弾があるだろ」
「あっ、あの手ですか。シミュレーターでは何度もやったけど本当に出来るのかな・・・とにかく試してみます。皆を下がらせてください」
アルベルトは『シューティングスター』から離れるようにと周りに指示を飛ばす。フィリア姫達は何が始まるのか検討がつかず、大人しく指示に従った。
すると、『シューティングスター』からさらに二基の水破砕エンジンの起動音がすると同時に『シューティングスター』の両足からロケット噴射が始まって機体を軽々と宙に浮かせたのである。
「推進型エンジン?!飛べるの?!」
予想だに出来ない展開にフィリア姫が叫ぶ。さらに驚くべき事に『シューティングスター』は空中で前進翼を持つ戦闘機に変形したのである。マシーナ形態での胴体の複雑な構造や脚に張り付いた翼はこのためだったのだ。これにはさすがのフィリア姫も情けなく口をあんぐりと開けたまま見守るだけだった。いや、皆がそうだった、アルベルトとミリーを除いては。
『シューティングスター』はアフターバーナーを利かせて一気に加速する。もう普通の戦闘機と変わりはない。違うのはキャノピーが透明なガラスではなく装甲だということだ。
「全くどこのどいつよ!こんなとんでもない物を作ったのは!」
フィリア姫の、答えを期待した訳ではないぼやきに、アルベルトが丁寧に答える。
「マイケル=スタンレー卿です」
「・・・あのくそじじい・・・」
アルベルトはフィリア姫のその一言を聞かなかった事にした。
輸送機は、城の東の海上を旋回していた。海上であれば地上から攻撃される危険が低いためだ。そして、マシーナによる作戦の失敗がはっきりした今、予定通り空爆を実施すべく城へ向かい始めたところだった。
「城から、飛行物体が接近します!戦闘機のようです!」
副操縦士の叫び声に正操縦士が信じられないといった声をあげる。
「バカな!城に航空機が一機もなかったのは確認済みだ!ウェルニーから飛んで来ていたものを見落としたんじゃないのか!」
「違います!城の上空に突然現れたんです!」
「接触まであとどの位だ?!」
「もう目の前です!」
輸送機の操縦士達は会話の続きをあの世で行うしかなかった。すれ違いざまに『シューティングスター』から機銃掃射を受けた輸送機はあっという間に火だるまになり、バラバラになりながら海の中に消えていったのだった。
リークは、輸送機が墜落したことを確認して機首を城へ向けると、一機の航空機が先に城へ着陸しようとしているのが見えた。リークには馴染みが深い『プテルス』である。
「へぇ、じいちゃん、まだ操縦出来たんだ」
リークの感想はどこか的外れである。
リークも戻り、皆が城の出入り口、マーサ達が炊き出しを行っていた場所に集まった。フィリア姫が今回の貢献者に礼がしたいと言うのだ。衛兵はシオンを連れて行こうとしたが、フィリア姫が拒否した。ミリーは宿屋へ戻りたいと甘えたがアルベルトに拒否され、ふてくされ気味である。
「皆の者、此度は大変世話になった。まだ我が国の騎士ではないにもかかわらず、命を賭けて戦ってくれた事に感謝しきれぬ思いだ。私は諸君らが戦う姿に何者にも負けぬこの国の未来を見た思いだ。私は諸君らに報奨を与えるねばならぬが、諸君らがこの建国祭に赴いた理由を考えれば何が良いかは自明の理であるな」
フィリア姫はそういうと一同を見回す。若きマシーナ乗り達は期待に胸を膨らませ顔が紅潮する。
「予定では建国祭の最後のイベントであったが、今が決めるべき時である!」
フィリア姫は咳払いをし、さらに続けた。
「我が直属となる近衛騎士を発表する。最初に我が左右を支える二名!我が左手となりてその力を示せ!白き騎士『リーク=ライオネル』マシーナ『シューティングスター』!」
集まった者達も、これは当然と歓声をおくる。リークは騎士としての忠誠を誓う。
「我が右手となりてこの国を守れ!黒き騎士『シオン=サーサ』マシーナ『シャドウクレス』!」
これには、あちらこちらからどよめきが起こる。シオンはフィリア姫を暗殺しようとした者なのだ。レオンは「姫・・・」と何か言いたげだったがフィリア姫の頑固な性格を思い出し口をつぐむ。しかし、フィリア姫の言葉に異論を唱える者がいた。シオン本人である。
「姫!何を血迷っておいでですか!私は姫を殺そうとした重罪人ですよ!罰を与えられこそすれ、そのような温情は・・・」
「自惚れるな!シオン=サーサ!」
シオンの言葉を遮りフィリア姫の叱責が飛ぶ。
「これは温情などではない!これは貴様への罰だ!貴様は終身刑だ!貴様はその一生をこの私のために、この国のために使うのだ!『シャドウクレス』とともに!貴様は逆らうことなど毛頭も赦されぬのだ!解ったか!」
フィリア姫の言葉を理解しようと必死の表情のシオンにフィリア姫は近づき、少し笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「シオン、確かにお前は私に銃を向けた。しかし撃たなかった。逆にお前が銃を向けていたからこそあの二人は私を殺しに来なかった。だからお前が私を守ったことになる。違うか?」
「しかし、あれはたまたま、っ?」
フィリア姫はシオンの唇を指で軽く押さえ頷いた。
(判ってる。でも『たまたま』じゃない。そうなるように戦況を支配していた人間がいる。私の命までだしに使って)
そう思いながらフィリア姫が視線を向けて先には、ふてくされたままのミリーがいた。フィリア姫は視線をシオンに戻し、さらに言葉を続けた。
「あなたには拒否することは出来ないわ、これは罰なのだから。判った?」
シオンは泣いた。顔をくしゃくしゃにして泣いた。泣きながら跪き、誓いの言葉を述べる。
「異存などあろうはずも御座いません。この命に代えましても、生涯姫様をお守りすることをお誓いいたします」
どよめきは歓声に変わる。
姫はさらに宣言を続ける。
「次に我が脚となり大地を駆ける直属の近衛騎士機動部隊として『オズワルド=マーレイ』隊長率いる『スニーキー隊』!」
この名が出た所でまたもざわめきが起こり、オズワルドが当然とも言える疑問をぶつける。
「ちょっと待ってくれ、姫様。申し出はありがたいが我々はダリスタン共和国から指名手配を受けている身だ。そこの所はどうする気だ?」
フィリア姫はいたずら小僧のような笑みを浮かべて言った。
「やっと今日、ダリスタン共和国から正式文書が届いたのよ、『スニーキー隊の量刑を国外追放処分とする』とね。つまり刑の執行は既に完了し、お前たちは自由の身となった訳よ」
オズワルドは驚きに目を見張った。
「どうしてまたそんな事に。言っちゃあ何ですが、我々はデラゼル鉱山の所有権と引き換えにダリスタン共和国に引き渡されるものと思っとりました」
「意外と耳は早いのね。でもちょっと惜しかったわね。デラゼル鉱山の所有権を渡す代わりにあなた達の自由を得たの。彼らもあなた達の件をいい加減に終わらせたいけど、一度振り上げてしまった拳を簡単には降ろせない。そこへ降って湧いた我々の提案に簡単に合意してくれたわ。ただ議会政治の悪い所よね。正式決定まで随分と待たされたわ」
「そんな・・・我々の為に鉱山をひとつ・・・」
呆気にとられるオズワルド達にフィリア姫は続ける。
「同じタイプの鉱山は他にもあるけど、あなた達は他にはいないでしょ」
とんでもない理由にオズワルドは「かなわねぇ」と頭を掻きながら笑ったあと跪き、忠誠を誓ったのである。
「さらに、『クリム=ルテール』及び『ジョン=フォスター』。お主達のマシーナは大破してしまったが、ちょうど鹵獲した二機の『バリスタン』がある。それらを新しい専用機とするがいい。コックピットは新調してやるから安心しろ」
クリムとジョンは『スタンダード』のマシーナが手に入る事に興奮しながらも、騎士としての忠誠の誓いはしっかりと礼儀正しく行った。
「あと四人、戦う前に転んだ連中がいたな?」
フィリア姫が笑いながら問いかけると、四人の若者が申し訳なさそうに前に出る。
「技術はとても未熟ではあるが、その心は一人前の騎士と認めよう。ここで精進し技術においても一人前の騎士となれ」
四人は喜び忠誠を誓う。
「ところで、他のマシーナ騎士共はどうした?」
フィリア姫の問いかけにレオンが答える。
「全員、戦闘の開始と共にマシーナもろとも逃げました」
「金バカ銀バカもか?」
「はい。真っ先に」
フィリア姫は、ニカッと笑った。
「そやつら全員、この国から追い出せ!文句を言ったら敵前逃亡罪で問答無用で処刑すると言え!判ったな!」
レオンが頷く。
「マシーナ騎士は以上だが、まだある。ボルトとその弟子達、とても素晴らしい働きをしてくれた。我が国は見ての通り急激にマシーナが増え技術者が足りなくなるのが目に見えている。是非全員我が国の技術者としてその腕を役立てて欲しい」
ボルトとその一派は手を取り合って喜び、忠誠を誓った。
フィリア姫は暫し無言のあと、意を決したように語り始める。
「実は、あと二人、我が国に残って欲しい者がいる。その者達は我が国に仕えようとやって来た訳ではない。だがその二人は我が国になくてはならない存在であると実感したのだ」
ここに集った者達にはそれが誰の事かすぐに判った。全ての視線がアルベルトとミリーに注がれる。
ミリーは下を向きアルベルトの腕にしがみついていた。
フィリア姫がアルベルトとミリーに近づき語りかける。
「アルベルト殿に主席執政官を、ミーア=リーア殿に次席執政官をお願いしたい。受けてもらえないだろうか」
マイケルとサモンが慌てて異を唱える。
「姫!前にも言いましたが、ミーア=リーア殿は・・・」
「うるさい!黙れ!ファウンディールの都合など知った事か!そもそもファウンディールと言えども一個人の自由を奪ってよいものではないわ!」
フィリア姫の剣幕に二人の老人は押し黙る。
ミリーは俯いたままアルベルトに話しかける。
「アル様、だから言ったんです。早く行きましょうって。もう行きましょう」
しかし、アルベルトの口から出た言葉はミリーにとって信じられないものだった。
「姫、お受けします」
驚くミリーをアルベルトが説得する。
「ミリー、お前も受けるべきだ。お前はもう旅を続ける必要はない。ここに落ち着くべきだ」
ミリーは答えず振り向き立ち去ろうとした。が、脚にまとわり付く者があり動けなかった。
「ミランダ?!」
ミリーは驚き声をあげる。ミランダはミリーの脚にしがみつき、泣きじゃくりながら訴えかける。
「ミリーちゃん行かないで。お願い。やっとお友達になったのよ。お別れなんていや。お願い。ずっと一緒にいて」
フィリア姫は心の中でガッツポーズをとる。(少女、よくやった!がんばれ!)
オズワルドも『オースティレン』と『エミュール』を指差し説得を始める。
「こいつらはお前じゃなきゃだめだ。お前が必要なんだ」
アルベルトがミリーの耳元で囁く。
「ミリー、ここでは皆がお前を必要としてくれる。お前は一人じゃない。一人で闇に消える心配はないんだ」
ミリーは泣きじゃくるミランダを暫く見つめたあと、しゃがんでミランダを抱きしめ続けた。そして、そのままの姿勢で泣きそうな消え入るような声で呟いた。
「ここで終わりにするのもいいかもしれない」
声を聞いたフィリア姫とアルベルトは、心の中で(よし!)と思った。このミリーの言葉が旅を終わりを意味すると思ったからである。しかし、後に二人はその言葉の真の意味を知り、その解釈が大きな誤りであった事に気付き悔やみ続けるのだが、それはまた後の話である。
ミリーは立ち上がり、フィリア姫に優しく話しかける。
「判りました。お世話になりましょう」
フィリア姫は思わぬ返事に満面の笑みを浮かべる。
「本当に?」
「はい。しかし折角お召し抱えいただくのに、私には姫様へ献上できる物が何もありません」
フィリア姫はミリーが何を言っているのか判らなかった。ミリーは話を続ける。
「今から176日後に全ての国家を姫様の足元に跪かせましょう。全ての国家が姫様の物となるのです。それを献上品といたしましょう。姫がなさんとされておる事への近道です」
ミリーの笑みと声はまるで女神のようであった。そう、困難なクエストをクリアした後の女神からの報酬の宣言のようであったのた。
これにマイケルとサモンが反応する。
「ミーア=リーア殿!お考え直し下さい!」
「世界をどうするおつもりですか!ミーア=リーア殿!」
ミリーは鬼のような形相になり二人を叱責する。
「黙れ!私は姫に問うておる!貴様等の意見など聞いてはおらぬわ!」
そしてまた、女神の表情に戻りフィリア姫に問いかける。
「さぁ、いかがなさいますか?姫」
常人には耐え難い誘惑であった。
フィリア姫は考える。途方もない話だが老人共の言葉から察するに可能な事なのだろう。しかし・・・
「いや、止めておこう」
「なぜです?無理だとお思いですか?」
「そうではないことは老人共の言で判る。理由は別だ。私は世界は生き物のような物だと考えている。多種多様な者達が多数いるからこそ、発展、進化していけるのだ。一人だけになった生き物は滅ぶだけだ」
ミリーはフィリア姫の言葉をじっと聞いていた。そして次の提案を始める。
「そうですか・・・ではせめて近隣の脅威だけでも排除しましょう。そうですねぇ、まずはレンザリア公国」
「うるさい!黙れ!」
フィリア姫は激怒した。ミリーは言葉を止めじっとフィリア姫を見つめる。フィリア姫は怒鳴り続ける。
「お前はどうあっても他者を征服したいのか!それがお前の本性なのか!私にはお前がそんな人間には見えなかった。お前を姉のように慕えると思っていた!お前を家族のように思いたかった!なのにお前は!お前は!」
フィリア姫は泣いていた。泣きながら訴えた。
「もうよい!ここから出ていけ!私の前に二度と現れるな!私は一歩たりとも他国を侵略などせぬわ!」
フィリア姫は泣いた。悔しくて悔しくて泣いた。ミリーは黙ってフィリア姫を見つめていた。その場には、最上級の重い空気に支配されていた。誰もがミリーはすぐ出て行くと考えた。アルベルトは険しい顔で黙っていた。二人の老人はオロオロしていた。
しかしミリーは驚くべき行動に出た。ミリーはフィリア姫に跪きこう言ったのである。
「どうしてもそのお言葉を、侵略しないと言うお言葉をお聞きしたかったのです。しかしそのために姫を傷つけてしまいました。でももし、まだ許していただけるなら私をお側に置いて頂けますか?」
フィリア姫は驚いた表情でミリーを見る。
「本当か?さっきのは私を試しただけなのか?本心ではないのか?」
「はい、姫。私も侵略は大嫌いです」
フィリア姫がミリーの首に抱きつく。アルベルトは微笑み、二人の老人は胸をなで下ろし、その場は拍手と歓声に包まれた。フィリア姫はやっと戦いのスタートラインに立てたことを実感した。
その後、夜にも関わらず、城はお祭り騒ぎとなり、マーサは文句を言いながらも、嬉しそうな表情をして料理の提供を続けた。
翌日以降も建国祭は予定通り行われたが、ひとつ違うのはフィリア姫の傍らにいたのは、アルベルトとミリーだった事だろう。三人はまるで兄妹のように見えたという。
余談ではあるが、金バカと銀バカの両家は敵前逃亡により爵位を没収されたという事である。




