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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
14/311

1-14 建国祭 11

 シオンは、ゼートとガイルが敗北した事を知った。姫を殺したくないと考えていたシオンがこれ以上戦う必要はなかった。彼等の敗北が確定した時点で投降し処罰に従うつもりだった。しかし、シオンは戦いを止めなかった。理由は『シューティングスター』にあった。

 決闘を始めた時には、『ドドー』相手に本気を出してはあっという間にけりが付くと考え、出来るだけ長引かせるために手加減をしながら戦うつもりでいた。

 しかし、戦い始めて気付いたのだ。目の前のマシーナが見かけ通りではない事に。

 そして、本気で戦い始めても互角近い戦いをする相手に、一人のマシーナ騎士として、最後まで戦いたい、相手の正体を見極めたい、と考えたのだ。このような胸躍る戦いをしたことがなかったのである。




 戦いが『シューティングスター』と『シャドウクレス』だけとなり、かつ二機の戦いがまるで武闘会のようであったために、危険はもうないと判断した人々が避難先の城から外へ出て、遠巻きに二機の戦いの観戦を始めていた。中には今回の騒動をサプライズイベントと思っている者も多数いるようであり、平穏な空気が漂い始めていた。


 岩に腰をかけ観戦しているフィリア姫のそばに、レオンとアルベルトが立っていた。レオンはフィリア姫に城で怪我の治療をと催促したが、

「二人が戦っている時に席を立つなんて失礼極まりない話だわ」

 と却下した。


 オズワルドは、『シューティングスター』の加勢に行こうとしたが、

「あれは正式な作法の下で始められた決闘だ。誰も邪魔は出来ないよ」

 と、ミリーに制された。

「しかし、機体の差が」

 と心配するオズワルドに対し、

「あれと戦ったあなたには判るはずでしょ?」

 と、ミリーが意味ありげに微笑み、アルベルトに向かって大声で催促した。

「アル様ぁ!まだですかぁ?!」



 シオンは少し苛ついていた。互角に見える戦いはこっちが有利に運んでいる。ならば何故苛つくのか。それは相手がまだ全力を出していない、何かを隠していると感じるからだ。『シャドウクレス』と、このシオン=サーサは全力を出すに価しないのか?

「ならば、これでどうだ?全力を出さねば切り刻むぞ!」

 シオンは奥の手を出す事にした。『シャドウクレス』の円盾の外周に三枚の鉈のようなブレードがせり出し円盾の外周を高速で回転し始めたのである。左肩に不安があるため本当は使いたくなかったのだが、どうせ今日までの命なら出し惜しみは止めようと決めたのだった。


「なっ、何?あれ!ヤバいよあれ!アルベルトさんどうしたらいい?!」

「だったら、赤いボタンを押せ!」

「出来るわけないでしょ!真面目に答えてよ!」

「こっちは大真面目だわ!!!」

 パニックになっても頑なにボタンを押そうとしないリークにアルベルトは頭を抱えた。

 リークは何の考えもなしに無造作に剣を奮ったが、『シャドウクレス』が盾でガードすると剣は回転する鉈に巻き取られ、ねじ曲がって吹き飛んでしまった。

「わーーーーーっ!わーーーーーっ!わーーーーーっ!」

「落ち着け!リーク!とにかく赤いボタンを押せ!命令だ!」

「でもでも!わーーーーーっ!やられるぅ!わーーーーーっ!」

 盾でなぎ払うように迫る『シャドウクレス』にリークはパニック寸前である。

「切り刻まれたくなかったらボタンを押せ!リーク!お前のいたずらじじいは、そのボタンを押させるヤツを探してたんだ!押せ!命令だ!」

「くそぉーーーーっ!リサァーーーっ!」

「それは死亡フラグだろ」

 落ち着いて突っ込むアルベルトを無視してリークは遂にボタンを押した。


 突然、『シューティングスター』のコックピットに合成音声の女性の声が響き渡る。

「偽装解除を受諾しました。偽装装甲を排除します。爆発音および振動に備えて下さい。・・・5・・・4・・・」

「やっぱり自爆するんだぁぁぁぁぁっ!」

「落ち着け!!」


「・・・3・・・」


 突然『シューティングスター』の全身から白煙が吹き出し始めた。『シャドウクレス』は盾を構え冷静に様子を見る。観客は何事かと総立ちになった。


「・・・2・・・」


「なにが起こってるんだ?」

 オズワルドの疑問にミリーが答える。

「サプライズショーです」


「・・・1・・・」


「さあ、出てこい」

 アルベルトは呟き、フィリア姫は静かに立ち上がる。




 ドゴーーーン!!ガラガラガラーーーーン!!!




 爆発音が鳴り響き、何かが轟音と共に崩れ落ちる音がした。


「『シューティングスター』、フルスペックモードに移行します」

 合成音声が流れたかと思うと、正面のモニターがシミュレーターで見慣れた左の位置に移動し、ケースが開いてバイザーモニターがでてきたのである。リークはバイザーモニターを装着し、全てがシミュレーターのままであることを実感した。


 『シューティングスター』はまだ白煙に包まれたままであり、周囲にカーキ色の『ドドー』の外装が散らばっていた。しかし、『ドドー』がいた場所に何かがいることは判った。『ドドー』のうるさいエンジン音は消えたが、水破砕(ウォーターブレイク)エンジンの澄んだ音が力強さを増す。

 全ての人々が微動だにせず、ジッと見守る。

 ミリーは思わず口に出す。

「さあ、その姿を見せてみろ。40年間隠し通されてきた『プロトタイプ』、『シューティングスター』!」


 穏やかな風が煙を散らし、中から現れたのは、

「純白のマシーナ・・・」

 フィリア姫が感嘆の声を洩らす。


 現れたのは、誰も見たことがない容姿をした純白のマシーナだった。

 頭部は騎士のフルフェイスの兜のようであり、面の部分は閉じられ右目の位置に横長の覗き穴が開いていた。左腕には長六角形の盾が装着されている。胴体はいくつかのパーツが組み合わされており、一般的なマシーナより複雑な構造になっていた。

 しかし、衆目を一番集めていたのは脚だったろう。なぜなら、その脚には、踝を基点に翼が付いていたのである。戦闘機の主翼に見えるその翼は、踝から太腿近くまで脚に貼り付くように付いていたのだ。一見、靴の巨大な飾り羽根のようにも見えた。

 『シューティングスター』の全貌が明らかになると観客から一斉に歓声が上がった。


 始めて見るマシーナに、シオンはマシーナのデータベースを検索する。『シャドウクレス』には、(あま)街船(まちふね)が飛来した当時のマシーナのデータベースが備わっていたのだ。このデータベースを調べれば、『オリジナル』のマシーナは全て判るはずであった。しかし、結果は「該当なし」である。シオンは少し思案したあと検索範囲に計画中も含めてみた。

「『シューティングスター』:次世代型マルチロール機。開発中。詳細不明。スペック不明」

 表示された情報にシオンは驚きを隠せないものの、満足げに微笑んでいた。

「最新型の『プロトタイプ』ということになるのか。しかし私は幸せ者だな。最後の相手として最高だ」


 『シューティングスター』の顔を覆う面の部分が跳ね上がり帽子のひさしの位置で止まる。露わになった顔には『コンパウンド・アイ』以外に右目の位置にカメラも設置されていた。

「ハイブリッド型は始めて見るな」

 ミリーが呟く。ボルトが恐る恐る質問する。

「あの・・・同時に使う事にどんな利点があるのでしょうか?」

「そうね、両方あるからって同時に使うとは限らないですよ。適材適所で使い分けてると考えるのが合理的でしょうね。例えば、カメラは超望遠で何らかの遠距離支援に使うとかね」

 怯えるボルトの様子を見て、ミリーは出来るだけ穏やかに親しみを持って説明した。




「リーク、少しは落ち着いたか?」

「はい、大丈夫です。やれます」

 リークはチェックを続けながら答える。腕を少し動かしてみる。反応の感触はシミュレーターと同じだ。バイザーモニターの使い心地もシミュレーターのままだった。身体に染み付いた感覚で操作できるのであれば何も怖い事はない。全てがシミュレーターのままならば『シャドウクレス』にも後れをとる事はないだろう。こんなすごいマシーナを用意してくれたじいちゃんに思わず感謝を捧げる。

「じいちゃん、ありがとう」

 感動するリークにアルベルトは

「そのじいさんのせいで今まで苦労したんだろ」

 と突っ込みたかったが止めておいた。


 使える武装を確認したが、芳しい状況ではなかった。

 まず、内蔵の機銃は弾はあるもののこの形態では使用出来ない。長剣や銃器のオプションは今回は何も持ってきていない。とすれば今回使えるのはこれだけだと判断し、盾に内蔵されているショートソードを取り出して構えた。

 しかし、ここで『シャドウクレス』が意外な行動に出た。ある方向を指差すのである。そこには残骸となった『ウォーダン』や『バリスタン』があり、長剣が転がっていたのだ。それを観て観客も、おおっ、と盛り上がる。

「敵に塩を送るって事かな?」

 リークは敵の温情に甘える事にした。武器もそうだが歩行の感触も掴みたかったからだ。


「随分と余裕だなぁ、『シャドウクレス』は」

 ぼやくオズワルドにミリーが反応する。

「この戦いに悔いを残したくないのですよ。彼女はもうこれが最後だと思っているのです。隊長さんには判るのではないですか?マシーナ乗りとしてその気持ちが」

 そう言いながら見つめてくるミリーの目を見ることなくオズワルドは腕を組み、ふむ、と一声上げただけだった。


「ねぇねぇ、どっちが勝つと思う?」

 浮かれるフィリア姫にレオンが釘を差す。

「よいですか姫。『シャドウクレス』のシオンは姫の暗殺を企んだ重罪人なのです。決してお忘れなきように」

 フィリア姫は途端に不機嫌になり黙り込んだのだった。


 リークは、『オリジナル』の武器の方が性能がいいだろうと判断し、『バリスタン』の長剣を手に取り戻って来た。歩いた感触も良好だ。

「アルベルトさん、お願いがあります。最初は俺の好きに動いていいですか?」

「ほう、自信があるのか?」

「自信がどうというよりも、自分の身体が憶えているとおりに操作できるのか確認がしたいのと、こいつがどこまで動けるかアルベルトさんは知らないでしょうからそれを見て頂いて作戦を立てる材料にして欲しいと思ったんです」

 アルベルトは考える。リークはもう落ち着いているし、慢心している様子もない。リークの提案はこちらにとってもありがたい。

「よし、やってみろ」




 両者はやっと剣を構えて対峙し、お互いに様子をうかがっている。観客にもその緊張感が伝わっているのか、喋る者も身動きする者もいない。

 リークは考える。物騒な盾は回転していない。こちらの出方をみるつもりなのか。ならご要望通り。と、考えた瞬間、本能で『シューティングスター』を動かした。


「うぉっ!」

 シオンは思わず声を上げた。『シューティングスター』が動いたと思った次の瞬間には『シャドウクレス』の目前に移動し、剣を左から右へなぎ払って来ていたのである。かろうじて盾で受けはしたものの、受け流す余裕はなくモロに剣撃の衝撃を受け体勢が崩れかける。が、そこは百戦錬磨のシオンである。体勢を立て直しつつ速攻の反撃の一打を繰り出した、が、そこには既に『シューティングスター』はいなかった。本能的に危険を感じ取ったシオンは間髪を入れずに思いっきり左へ飛ぶ。『シャドウクレス』は無様に地面を転がったが、それが正解だったことは『シャドウクレス』の右側面に素早く移動していた『シューティングスター』の渾身の突きの一撃が『シャドウクレス』がいた場所の空を斬った事で証明されたのだった。


「は、速い、速すぎる」

 見ていた者、全ての感想である。


「絶好のチャンスだったのに!」

 リークは悔しがった。相手がこちらのスピードを知らない最初の攻撃が倒すチャンスだったのだ。これほどの相手であれば次からはキッチリとこちらのスピードについてくるだろう。やっと同じ土俵に上がれたのだと思うのが一番だ。リークは慢心しないようにそう自分に言い聞かせていた。


 アルベルトとミリーは、冷静にある変化に気付いていた。『シャドウクレス』が転倒した際、左肩が変な音をたてたのである。

「限界か・・・」

 ミリーが呟いた。


「危なかった・・・」

 シオンは掌にべったりとかいた汗を拭いながら呟いた。今のは相手の位置を確認しようとしたならば間違いなく死んでいた。培われてきた勘に感謝したい所だ。

 しかし、これで相手のスピードは判った。判ればついていけないものではない。粘れば勝算はある。一つ問題は・・・と視線を移したモニターには、左肩のイエローアラームが表示され始めていた。




 その後も剣による攻防が続く。両者ともスピードもバリエーションも豊富なせいで、まるで剣舞のようであり観客を魅了していた。しかし戦っている本人達はたまったものではなく、もはや精神力の戦いとなっていた。こうなると戦闘経験が豊富なシオンが有利だった。


「アルベルトさん、気になる事があるんですが教えていただけますか?」

「何だ?」

「この相手、あれ以来、凶悪な盾を使っていないんですよ。あと、こちらの攻撃を盾で受けずに剣で受ける事が増えてるんですよね」

 リークはどうやら『シャドウクレス』が何か企んでいるのではと、心配しているようだ。おそらく左肩をかばってのことで企んでいるのではないだろう。それより心配なのはリークの方である。

「リーク、集中力はまだ保つか?」

「大丈夫と言いたい所ですが、正直に言います。もう限界です」

「なら、一気に勝負をかける手がある。やってみるか」

 内容を尋ねてきたリークに作戦を説明し、リークがやってみますと承諾した。

 話を隣で聞いていたフィリア姫か血相を変えてアルベルトの頭をパンパン叩きながら訴えかける。

「壊しちゃダメ!!殺しちゃダメ!!約束してぇぇぇ!!」

 リークは自信なさげに答える。

「善処します・・・」


「さて、やってみるか」

 アルベルトが、ゴーサインを出した。

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