1-13 建国祭 10
「リーク!これを使ってくれ!」
『ウォーダン』のコックピットから自力で這い出して来たジョンは『ウォーダン』が握っていた長剣を指差しながら叫んだ。
リークは礼を言いながら剣を手に取り、大破したクリムの『ウォーダン』を見る。既にボルト一派が駆け付け救出作業を行っていた。彼等はこれまでも戦場に立った経験があるのだろう、統率がとれ作業に淀みがない。
「リーク!次は『シャドウクレス』だ、急げ!」
アルベルトが叫んだところにミリーの指示が飛ぶ。
「アル様!慌てず歩いて近づくように指示してください。決闘を挑みにいくような感じで堂々と、です!」
アルベルトは了解し、そのままの言葉でリークに指示を出す。
「おい、近づかせて大丈夫なのか?」
心配そうに尋ねるレオンにミリーはさっきとは違い優しげに言葉を返す。
「大丈夫ですよ。姫様を動かそうとしなければ撃たれる事はありません。それより、『バリスタン』を載せて来た輸送機の方はもう手を打っておいでてすよね」
レオンは、しまった、という表情で飛行場の方へ目をやると、ちょうど一機の輸送機が離陸したところであった。固まってしまったレオンを見て、ミリーはまた小さな溜め息を一つつくのであった。
リークは指示通り堂々と歩いて『シャドウクレス』に近づく。フィリア姫が銃で狙われている状況で本当にこれでいいのかと思うが、たった今、命令に逆らったせいで友を二人殺しかけたのだ。もう、命令に逆らうような事はしないと固く心に誓う。
「アルベルトさん、俺、どんな命令でも必ずやってみせます」
「判った。じゃあ、すぐ赤いボタンを押せ」
「それは嫌です!!」
固い誓いがあっと言う間に崩れ去った瞬間であった。
「おいおい、こいつらもしかして本物のスニーキー隊じゃねぇか?」
ゼートは確信する。鳥型のマシーナは『ディフューザ』であれば安価でありかつ扱いやすいこともあって作業用として元々人気が高い。それに加えてスニーキー隊の実績が評判となっていることから、素人あがりの傭兵共が徒党を組む場合スニーキー隊を真似て鳥型のマシーナで編隊を組む事が多いのだ。ただそうした連中の殆どは実力が全く伴っていないため、ゼートのような実力がある者にとってはカモでしかない。
ゼートはこの戦闘が始まった時には、こいつらもスニーキー隊もどきの連中でありすぐ片付くと考えていた。しかし実際に戦ってみるとゼートは追い立てられ、まだ一機も倒す事が出来ずに苦戦を強いられている。こんな強さの相手はスニーキー隊以外には聞いたことがない、というのがゼートの結論である。
だが勝てない相手でもない、ともゼートは戦ってみて確信した。我慢を重ねながら一機ずつ倒していけば勝てる相手だと判断した。
「こいつらの懸賞金も手に入れてやる」
とゼートは息巻いた。
一方、オズワルドは焦り始めていた。コックピット内をアラームが鳴り響く。そして機体情報の表示画面のあちらこちらでシステムエラーの表示が点滅し始めたのである。
「くそっ!一番肝心な時に!」
オズワルドは悪態をつくが状況は悪くなる一方で歩くのさえ困難になってきた。
「みんなすまん!『オースティレン』が故障でもう持ちそうにねぇ!お前らだけで倒せるか?!」
「大丈夫です。隊長は端の方に非難していてください!」
部下達は頼もしく返答したが、その表情は険しさを増すのであった。
「ん・・・と。決闘って言うのなら、こうした方がいいのかな?」
『シャドウクレス』に近づいたリークはクリムに教わった作法を思い出し、剣を持った右手を胸の位置に持ってきて剣を立てて相手の動きを待った。
「ほう、いい判断だな」
ミリーは微笑む。
「やっと来たのか。しかも私を騎士と扱ってくれるのか」
シオンはフィリア姫に銃を向けている自分が薄汚い賊に成り下がったと考えていただけに、リークが見せた礼節に自分が救われた気がしたのだった。
『シャドウクレス』は『シューティングスター』に向き直ると銃を捨て腰の剣を手に取り同じように剣を掲げた。
フィリア姫は近くの岩に腰掛けて二人の騎士を見守る。さながら、姫の寵愛を得んがために戦う騎士の決闘の様であった。
皆が見守るなか、いよいよ両者が剣を構え踏み込もうとしているその時である。
「マズい!!!」
突然ミリーが険しい顔で大声で叫ぶと同時に決闘中の二機に向かって走り出したのである。
「ミリー君、どうした?」
尋ねるボルトにミリーが短く返す。
「『オースティレン』がトラブルです!!」
確かに闘技場の隅で一機の鳥型マシーナが沈黙していた。ミリーは『シャドウクレス』と『シューティングスター』の間を突っ切って最短距離で『オースティレン』の下に駆けつけようというのだ。
「俺達もいくぞ!半分ついて来い!」
そう言ってボルトも少し遅れて走り出す。走りながらボルトはふと気が付いた。
「ミリー君は今『オースティレン』って言わなかったか?じゃああれはスニーキー隊で『オリジナル』なのか?だとしたら俺達の手に負えるのか?」
ボルトは一抹の不安を憶えながらも、行ってみなければ始まらないとミリーについて行くのであった。
「あっ!危ないじゃないか!」
シオンとリークは機体を立て直しながら、思わず叫んだ。両者が剣を交えようと踏み込もうとしたところにミリーが飛び込んで来たため、両者はバランスを崩しながらも反射的にミリーを踏まないように回避したのである。
「あはっ、シオンも避けるんだ」
フィリア姫は嬉しそうであった。そしてミリーを見つめて呟いた。
「ミリー、『オースティレン』を頼む」
シオンとリークは、呆れ顔でミリー達を見送ったあと、改めて剣を交えたのだった。
オズワルドは、コックピットの中で呆然としていた。なんとか闘技場の隅に機体を寄せたところで完全にシステムがフリーズし全く動かなくなってしまったのだ。これが制御コンピューターの故障であればハードであろうがソフトであろうが為す術がなくなる。オズワルドは『オースティレン』がもう終わりだという事を実感したが、目の前の敵をどうするかが当面の問題であった。
「他の誰かのマシーナを借りるか・・・」
オズワルドが対策を思案していると、突然、マシーナをガンガン叩く音がし始めた。何事かと搭乗ハッチを開けて外へ出ると、なんとミリーが前方左側面の整備用の小さなハッチをこじ開けようとしていたのである。
(こいつ、さっきもここを開けようとしていたが、ここに一体何があるんだ?)
オズワルドは訝しがりながらもミリーに声をかける。
「何をしようとしているかは知らんが無駄だ。制御コンピューターが死んじまったんだ。誰にも直せん」
遅れて到着したボルトがその言葉を聞き肩を落とす。
「ミリー君、その人の言うとおりだ。ここはあきらめ・・・」
「御託を並べてる暇があったら、黙ってこのハッチを開けろ!!壊しても構わん!!」
ミリーの余りの剣幕に、オズワルドは言葉を失い、ボルトは慌てて仲間達にハッチの破壊を命じた。そしてミリーがバッグからガサゴソと取り出した物を見て、オズワルドは驚愕の声を上げた。
「デバイスだと?!お前、継承者だったのか!」
継承者だと判った途端、オズワルドはミリーの正体に心当たりが出来たのだった。
ミリーがデバイスを操作すると、空中にたくさんの画面が浮き上がる。ミリーはデバイスの通信機能を使ってオズワルドの部下達に指示を出し始めた。
「『エミュール』のパイロットよく聞け!『オースティレン』の代わりに私のデバイスを基点にしてアクティブリンクを発動させる、それで『オースティレン』の修理が終わるまで持たせろ!」
ミリーの言葉に、スニーキー隊の面々は皆「まさか!」と思惑を巡らせ、そして、
「みんな!もっとガツガツ動かせ!私はその子達をそんなヤワに産んだ覚えはないよ!」
ミリーのこのセリフが決定的だった。10年ぶりに聞いたこのセリフでスニーキー隊の全員が確信し叫ぶ。
「お前!ミーア=リーア=シュタインロードか!!!」
スニーキー隊の面々は、これで思いっきり戦えると久し振りの笑みを浮かべた。
「ミリーく・・・、いや、ミーア=リーア様!ハッチが開きました!」
ボルトの声はうわずっていた。
ミリーは早速ハッチに上半身を潜り込ませ作業を開始した。
「ミーア=リーア、本当に直るのか?」
オズワルドは心配気に質問する。
「いやぁ、実は10年前、不具合はなかったんですが古い装置で耐久年数に不安があったんで、互換性がある制御コンピューターを調達して機体に仕込んで置いたんです。が、後で自動切り換えにしようとしたのが失敗でした。何せ後がありませんでしたからね」
オズワルドは笑いながら首を振る。
「だがそれなら、最初に自分が何者か言ってくれればいいだろ」
ミリーはそれには答えず、
「はい、これで切り換え終了です。さぁ、暴れて来てください!」
と、ミリーはオズワルドを送り出した。
「彼女って、そんなに有名なんですか?それに『シュタインロード』って・・・」
ボルトに弟子が尋ねる。
「有名なんてもんじゃない。継承者の能力の凄まじさを証明した二大継承者と呼ばれる御方のうちの一人だよ『ミーア=リーア=シュタインロード』様は。お前が気付いた通り、『フランソワ=シュタインロード』様の継承者でな。たった5歳の時に2ヵ月で『エミュール』の設計、製造を行ったうえ、今でさえ誰も成功していない『コンパウンド・アイ』システムを『レプリカ』に搭載するという偉業に成功し、さらには、『アクティブリンク』の理論確立、設計、実装まで行った。メカニック関連においては第一世代の追随さえも許さない。本物の天才だ」
ボルトは憧れの眼差しをミリーに向けながら続ける。
「そして、2年前に旅の途中で複数の野獣に襲われ、ミーア=リーア様を助けるために非業の死を遂げられたフランソワ様の遺志を継いで何処にも属さず『放浪のミーア=リーア』として世界を旅しておいでなのだ。なかなか出来ることではない」
ミリーはボルトの話に聞き耳を立てながら、(まぁ、ファウンディールが世間一般に流す情報はそんなもんが限界だろうな)と口元で微笑んだ。
「ところで、二大継承者と言うのであれば、もうお一方はどんな御方なんですか?」
「そうだな、この機会に教えておこうか。もうお一人の御方の名は、アルベ・・・え・・・まさか」
ボルトはあることに気付き、目を丸くして、ミリーとミリーの連れ合いを交互に見やる。その様子が可笑しくて、ミリーは自分からボルトに助け船を出した。
「あなたが考えている通りよ。私の大事なアル様が『アルベルト=イーゼルバーグ』様よ」
ミリーの言葉に、ボルトはすっかり興奮していた。
「おぉ、やはりそうでしたか。いいかお前たち。『アルベルト=イーゼルバーグ』様は『エリザベート=イーゼルバーグ』様の継承者だ。メカニック関連だけでなく、戦略、戦術、外交、内政あらゆる面においてトップレベルと認められたオールマイティーの継承者でいらっしゃるのだ。このお二人にお目通りが叶うなど、技術者冥利に尽きるというものだ。」
過剰に感動する様子のボルトが可笑しくて、弟子達は思わず吹き出すのであった。
ゼートには、今の状況が信じられなかった。戦いの始めは五機を相手に苦戦しながらも互角に渡り合っていた。そして、一機が脱落し戦いは有利に運び始めていたのだ。
なのに、理由が判らないが突然、相手を捕捉しづらくなってきたのだ。しかも敵の攻撃をまともに喰らい始めたのである。スニーキー隊は武器を持っておらず、拳の甲に付いた破壊鎚による打撃攻撃を行っていた。従って、有効打を喰らうという事は相当に接近されていう事なのである。そして、とうとう殆ど敵を捕捉出来なくなり、どう回避してもまともに攻撃を喰らってしまうのだ。
ゼートは背筋が凍る思いがした。まるで、パイロットの自分が何処を見ているか、どう行動しようとしているか頭の中を覗かれているとしか思えなかったのである。
「これが『アクティブリンク』の力か!勝てる訳がねぇ!」
思わずそう怒鳴った時、『バリスタン』は四機の『エミュール』に押さえ込まれていた。そして正面から脱落したはずの『オースティレン』が飛び込んでくるのが見えた。
ゼートが認識出来たのはそこまでだった。次の瞬間には『バリスタン』のコックピットは『オースティレン』か突き出した破壊鎚に潰されていたからである。




