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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
12/311

1-12 建国祭 9

 敵の三機のマシーナが立ち上がり、二機の『バリスタン』は長剣を、『シャドウクレス』は銃を手に取り行動に移ろうとしている。

 ミリーがその動線を予測していると、思わぬ事態が発生した。フィリア姫が近くの城の出入り口から外へ出て辺りの様子を見始めたのだ。当然、敵にもその姿を確認出来たハズだ。そして、城内に逃げ込まずに人がもういない闘技場の方へ駆け出していったのである。

「あの姫様、いったい何を考えて・・・あ、なるほど」

 フィリア姫の出現と行動に戸惑ったミリーだったが、駆け出すフィリア姫と目があった瞬間その意味を理解した。フィリア姫が城内を指差したのである。

 ミリーが叫ぶ。

「戦えない人達は全員城内へ!ボルトさん達、みんなを城内へ避難させて!」

 自らも人々を誘導しながら、ミリーはフィリア姫が自ら囮になった事に驚き、さらに、フィリア姫が敵を一般人がいない方向へ誘導しようとしていることに気が付いたのである。現に、フィリア姫の突然の行動に戸惑った敵がやっとフィリア姫を追いかけ始めた時には、フィリア姫は既に、フィリア姫と敵を結ぶ線上に一般人がいない位置まで走っていたのだ。

 これにはミリーも感心し、

「本当に、何時も想定外の行動で驚かされる」

 と、呆れながらも微笑んでいた。


 こうなると、敵の動きも確定する。ミリーは敵と味方の位置関係、移動速度、方向からパターンを割り出す。スニーキー隊は左の『バリスタン』に最適な角度で既に接近している、さすが百戦錬磨の部隊とミリーは感心する。となれば後は、

「アル様!その三機は右の『バリスタン』に!左から回り込むように!」

 ミリーが叫ぶ。

「判った!だが、『シャドウクレス』は?!」

「放っておきます!」

 新進気鋭の戦略戦術家と評されるアルベルトだがミリーの判断には口を出さない。

 その後、左のゼートの『バリスタン』はスニーキー隊の妨害によりフィリア姫に近づくどころか追い越し、さらに、スニーキー隊に闘技場内に追い立てられていた。

 右のガイルの『バリスタン』はリーク達に真正面を抑えられ足止めを食らい、これもフィリア姫に近づく事が出来ない。


 そんな中、両者の間を縫ってゆっくりとフィリア姫に近づくマシーナがあった。『シャドウクレス』である。シオンは皮肉な状況に苛立ちを覚えていた。

(どうして誰も私を止めてくれないのよ)

 位置関係上、鳥型の五機編隊がゼートに掛かるのは判る。しかし、ガイルに掛かっている三機は自分に掛かってくるのがよかったはずなのた。シオンは自らフィリア姫に手をかけたくなかった。だから一機でも自分にかかってきてくれれば作戦が終わるまで、その相手をして過ごすつもりだったのだ。しかし誰も来ない。かといっていずれかを援護することもフィリア姫の命を自分の手で縮めるようでやりたくない。だから、仕方なくフィリア姫に近づいている状態だった。

(私が姫を殺さないって判ってる誰かがいるの?だから無視しているの?私に運命を選べっていうの?まるでリンドの悪魔に運命を弄ばれているみたいだわ!)


 ゆっくり移動していたシオンだったが、やがてフィリア姫に追いついてしまう。走っていたフィリア姫が派手に転んでしまったのだ。フィリア姫はゆっくりと右足を庇いながら立ち上がる。チラリと見えた膝からは血が流れ出ていた。顔を打ちつけたのか右の頬骨のあたりに血が滲んでいた。

 怪我させたのは私だ、とシオンは心が痛んだ。「姫、大丈夫ですか?」と声をかけたかった。シオンはそうする変わりに、フィリア姫に静かに銃を向けた。

 フィリア姫は、もう逃げようとはしなかった。じっとシオンを見つめていた。口元は僅かに微笑みながら。目元は僅かに哀しみをたたえて・・・


 そんな二人を冷淡な眼差しで遠くから見つめる者がいた。ミリーである。

「あっちは取り敢えずはあんなものか」

 そう呟くと、もう興味はないとでもいうように視線を二機の『バリスタン』に移したのだった。




「くそっ、何でこんな雑魚に手間取らなきゃいけねぇんだ」

 ガイルは珍しく悪態をつく。が、それも無理はない。相手はたった三機の『ディフューザ』である。そのうちの二機の『ウォーダン』は長剣を構えているが、残りの一機の『ドドー』はあろうことか廃材の鉄骨を槍のように構えていたのである。ガイルは「こんな奴はすぐ終わりだ」と軽く考えていたが、この『ドドー』が一番の曲者だったのだ。

 この三機の中では打ち合いを一番判っているようで、『バリスタン』の打ち込みを全て受け流し反撃も加えてくる。では、先に『ウォーダン』を潰そうとすると、『ドドー』がタイミングを見てちょっかいを出してくるので有効打を与えられないのである。

 かといって『バリスタン』がやられているかというと『ウォーダン』の打ち込みは屁っ放り腰のため避けずとも当たらない、傭兵仲間が見たら間違いなく馬鹿にされる戦闘を披露していたのだ。

 イライラがつのるガイルはとうとうシオンに八つ当たりを始めた。

「シオン!何してやがる!とっとと姫を片付けろ!」

「言われなくても判ってる!てめぇこそチンタラ遊んでないでとっとと終わらせろ!」

 シオンはそう怒鳴り返しているが、とても実行出来るとは思えない状況だった。なぜならシオンは操縦桿から手を放していた。そして、フィリア姫を見つめながら悲痛な表情で胸の前で手を組み祈るような仕草で呟いていた。

「テッド、私、何を選んだらいい?・・・」




 レオンは心臓が止まる思いだった。暗殺者どもを取り逃がした上、好きに暴れさせ、気が付けばいつの間にかフィリア姫が外に飛び出し、今ではフィリア姫は暗殺者の一人に銃を突き付けられその命は風前の灯火となっている。

 全くもって失態の連続である。ここは命に替えても姫をお助けせねばと不退転の気持ちで走るレオンに声をかける者がいた。

「何処へ行く?」

 今の状況にそぐわない間の抜けた質問にレオンは思わず足を止め、声の主を見た。ミリーだった。

「姫を救いに行くに決まっているだろうが!お主こそ何故姫をお助けせんのだ?!」

「放っておけ。お前が行けば姫は死ぬぞ」

 ミリーはレオンを一顧だにせず『シューティングスター』達と『バリスタン』の戦闘を観察しながら淡々と注意する。

「何を言うか!姫のあのような危機に助けに行かずして何とするか!」

「お前はそうやって先走り、何度失態を繰り返せばすむのだ!!」

 叱責するミリーから失態と言われ口ごもる。

「し、しかし・・・ならば助けに行かず姫様があのまま撃たれたら・・・貴様はどう責任をとるつもりだ?」

 詰め寄るレオン。

「責任?何故私が責任を取らねばならぬ?私は臣下でも何でもないぞ。それに私は可能性を示しているだけだぞ。運命を選ぶのはお前だ。私には関係ない」

 そう言い放つとミリーはレオンを横目で見てニタァっと笑う。それを見たレオンは言葉をなくし、無意識にあることを思い出そうとしていた。小さい頃に誰もが一度は聞かされるおとぎ話、はて?なんという名前の悪魔の話だったか・・・


 動きが止まったレオンの様子に小さく溜め息をついて、ミリーは再び戦闘に目をやる。マシーナの動きを注視していたミリーが突然口を開いた。

「次の一手で、二機の『ウォーダン』はやられる」

 ミリーの不吉な一言にレオンは我に返り戦闘に目を移した。




 今、『バリスタン』の左前方11時の方向にクリムの『ウォーダン』、右前方2時の方向にリークの『シューティングスター』が位置している。そしてジョンの『ウォーダン』は左から静かに『バリスタン』の真後ろに移動していた。その間もクリムとリークが『バリスタン』に攻撃をかけ続けていた。

「よし!コイツ、クリムとリークに気を取られて俺が真後ろに来たことに気付いてないぞ。こっちの勝ちだ」

 ジョンは勝利を確信し確実に仕留めようと更に『バリスタン』に近づいて行った。


 アルベルトは焦っていた。バッグに隠し持ったデバイスを介してリークに指示を叫ぶ。

「駄目だ!リーク!相手から一旦離れろ!他の二人にもそう伝えろ!」

「アルベルトさん、大丈夫だって。上手くいくって」

 リークは自分達が立てた作戦が思った通りに進んでいることに気を良くし、アルベルトの忠告に耳を貸さない。

 こんな事なら許可するんじゃなかったとアルベルトは悔やむ。


 戦いの序盤はアルベルトがデバイスを通信機代わりにしてリークに指示を飛ばし、リークから『ウォーダン』の二人に指示を伝達してもらっていた。『ウォーダン』との通信設定をデバイスにしていなかったための苦肉の策だ。最初はこれで上手くいっていたが、三人の間で何かを話したらしく、自分達で考えて戦ってみたいと言い出したのだ。

 アルベルトは不安だったが熱心さに負けて、こちらから指示を出した時には従うとの条件付きで渋々許可したのである。しかし結局彼らは約束を破ってしまったのだ。

 こうなっては運を天に任せるしかなかった。


 ジョンが「とどめだ!」と叫びながら剣を振りかぶった時それは起こった。

 『バリスタン』が一瞬腰を落とした次の瞬間、右足を左後方に素早く踏み込み右回りに勢いよく振り返りながら剣で後方をなぎ払ったのである。

 ジョンの『ウォーダン』は右足を腰の下から完全に切断され、その場に崩れ落ちた。

「ジョン!」

リークとクリムは予想外の展開に、倒れた『ウォーダン』に視線が釘付けになってしまう。

「よそ見してんじゃねぇぞ!おらぁ!」

 『バリスタン』はなぎ払った勢いを借りて既に正面に向き直り剣を振り上げていた。クリムが気付いた時には既に剣は袈裟懸けに振り下ろされ、クリムの『ウォーダン』は首の左の付け根から右脇に向かって切断されていたのだった。


「やっぱりか・・・」

 アルベルトは舌打ちをした。彼等のマシーナ戦闘の経験の無さが露呈した戦いだった。彼等は人間相手の戦い方をマシーナのしかも『オリジナル』との戦いに持ち込んでしまったのである。正面からは無理と判断した彼等は死角から不意打ちで倒そうとした。そして不意打ち出来るかどうかの判断をマシーナの向きと視線で判断したのだ。

 しかし、マシーナの向きと視線がパイロットのそれと同じとは限らない。特に『オリジナル』はマシーナの姿勢を変えずにパイロットは全方位が常に見渡せる。敵はこちらが素人だと見抜き罠を張り、まんまと嵌まってしまったのだ。

「リークしっかりしろ。あれなら二人は死んじゃいない」

取り敢えず、アルベルトはリークを落ち着かせるために声をかけた。


 呆然とするリークに『バリスタン』が襲いかかろうとしたその時だった。ガイルは『バリスタン』の後方に四機のマシーナが接近する事に気が付いた。「新手?」ガイルは反射的にマシーナの向きを少し変え警戒する。すると、接近して来たマシーナはビビったようにバランスを崩すと将棋倒しのように全機転んでしまったのである。動かすのもやっとの連中だったのだ。

「雑魚が!」

 とガイルは吐き捨てるように言って、再び『シューティングスター』に向き直った時に、ガイルはクリムに吐いたセリフを我が身で味あう事に気が付く。リークが既に鉄骨を突き立てるように飛び込んで来ていたのである。

「二人の仇!」

「死んじゃいないって」

リークの叫びにアルベルトが冷静に突っ込みを入れる。


 ガイルは驚いたがまだ落ち着いていた。例え鉄骨を突き立てられても、『ドドー』の握力を考えれは、鉄骨が手の中を滑りこっちに突き刺さる事はないハズだ。しかし、ガイルはそれが正しかったか確認する事は出来なかった。

 何故なら、想定以上の握力で『シューティングスター』に握られた鉄骨は、安々と『バリスタン』の胸部を貫き通し背中から突き出たのだ。そして鉄骨の先端は血にまみれ、多くの肉片がこびりついていたのである。


「やった!二人の仇を打ったぞ!」

「だから死んでないって」

 リークの叫びにアルベルトが冷淡に再び突っ込みを入れた。

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