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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
126/311

1-126 運命の大地 12

「リナイア!大丈夫だったか?!何があった?!」


 ミリーとリナイアが病室に戻ってきた時、真っ先に口を開いたのはサーエイ(38)だった。リナイアの元気のない様子を見ればサーエイ(38)でなくとも声をかけたくなるだろう。

 サーエイ(38)に促されたリナイアはポツリポツリと話始める。

「あの・・・家と畑を戴きました」

 想定外の返事にサーエイ(38)が「え?」と戸惑っていると、リナイアがさらに言葉を繋ぐ。

サーエイ(38)様。大事なお話があります」

 その言葉を受けてミリーがメイシアに声をかけた。

「二人には言っておく事がある。二度目はないぞ。次に何かあったら即刻二人とも首を刎ねるからな。メイシア。我々は城へ戻るぞ」

 ミリーはそう言うと返事を待たずに病室から出て行ってしまう。メイシアは二人の様子が気になりながらも、きっと二人っきりにさせる必要があるのだろうと「はい」と返事をして、そそくさと病室を後にした。




「メイシー、ご苦労だったね。打ち合わせ通りとはいえ邪魔をしたタイミングは見事だった。私に向かってきった啖呵も即興とは思えない出来だった」

「あれは私の医者としての矜持です。それにミリーさんからの指示がなくても止めてました。その時は多分もっと前の、リナイアに剣を向けた時点で」

 メイシアのキッパリと言い切る姿に、ミリーは驚き感心する。

「そうか、じゃあ私の指示は余計なお世話だったかな?」

「いえ、そんな事はありません。・・・でも、あれは本当に必要な事だったんですか?余りにもリナイアが可哀相で・・・」


 メイシアの疑問にミリーはフッと笑う。

「他にも、やりようはあるのかも知れないけど、私は恐怖と苦痛で人を御する方法しか知らないのでね」

 恐ろしい事を淡々と言い放つミリーに、メイシアはどうしても聞きたい事があった。

「ミリーさん、もしも私が止めなかったら、どうしてました?」

「あぁ、殺していたよ」

 ミリーは簡単にそう言い放つとニマァと笑う。メイシアは思わずブルッと身震いした。

「そんなに簡単に人の命を!」

「仲間を守る為なら躊躇はしないさ」

 人の命をそんなに軽々しく奪える筈がない。自分の体験も踏まえてそう考えるメイシアは納得いかないという風に新たな疑問をミリーにぶつける。


「ミリーさんはその剣で人を殺した事がおありなのですか?」

 ミリーがフィスリニア王国に来てから何をやったか、誰からも聞かされていなかったメイシアには当然の疑問と言えた。人を殺した事がないからそんな事が軽々しく言えるのだ、と考えたのである。

 しかし、ミリーの返事はメイシアの予想しなかったものだった。

「ん、私がどれ程の人間をこの剣で殺してきたのか聞きたいのか?聞かせてやってもいいが、一人一人説明したら殺す様子だけでも何時間もかかるぞ。それでも聞きたいのなら喜んで話してやるぞ」

 悪魔のように嬉しそうに笑うミリーに、メイシアは表情を強ばらせ首を左右に振るのであった。




 リナイアは元気のない声で、この病室を出てからの事を一つ一つサーエイ(38)に報告していった。当然、サーエイ(38)の許可なく内部情報を話した事もである。

 そしてリナイアは俯いたまま、静かにサーエイ(38)の裁定を待った。


「まぁ、その位は仕方ないだろう。それで失った信用を取り戻せるなら安いものさ」

 サーエイ(38)の軽い口調にリナイアはホッとし少し涙ぐむ。サーエイ(38)はそんなリナイアを見て微笑み、ミリーの宿題に話を移した。

「そうなんですよ。どうして私がした事が可愛い子供達や親切な村の人達を危険な目に会わせ事になるのか。サーエイ(38)様なら判る筈だ、って」

 サーエイ(38)は「ふむ」と考え始める。ここは腕を組んで考えたい所だが、両腕がギプスではそれはままならない。よって、両腕を投げ出したままで考える事になるが、一見、ボーッとしているようにしか見えない情けない姿である。しかしそれでも頭はしっかりと働いていた。


「確認するが、この城の周りには、大きな都市はなさそうなんだな?」

「はい、そうなんです。近くにあるのは小さな村があるだけです」

「・・・そうか・・・そういう事か・・・リナイア、我々が侵攻する時の侵攻ポイントの選択基準は憶えているか?」

「はい。衛星軌道上から撮った写真を分析し、一定規模以上の都市を侵攻ポイントとします。理由はそこにその一帯の政治の中枢が存在する可能性が高いからです。だからこそです!だからこそ、そうした都市を有しないこの場所が、侵攻ポイントとなる筈がないです!そうでしょう!サーエイ(38)様!可愛い子供達も親切な村人も大丈夫ですよね!ここが戦場になるなんてミリーさんの杞憂ですよね!サーエイ(38)様!」


 まるで懇願するかのように確認をとろうとするリナイア。サーエイ(38)はそんなリナイアをチラリと見て目を伏せる。リナイアがなおも懇願するように見つめる中、サーエイ(38)が重々しく口をひらいた。

「リナイア、お前には酷な言い方になるが・・・ここは間違いなく戦場になる」

 リナイアはサーエイ(38)から「大丈夫だ」という言葉が聞けるものと思っていた。しかしその期待は裏切られた。リナイアは茫然と「どうして・・・」と呟くことしか出来なかった。

 そんなリナイアにサーエイ(38)は追い打ちをかける。

「恐らく、他の侵攻ポイントを中止にしてでもこの場所に攻撃を加えるだろう。リナイア、お前はこの場所が侵攻に置ける最重要拠点だと教えてしまったんだ」

 リナイアは茫然としたまま、首を左右に弱々しく振りながら「私・・・そんなつもりは・・・」と小さく呟いた。


「いいかい、リナイア。俺達は到着早々襲われて病院に担ぎ込まれ身動きが取れない状態だ。にも係わらず、あのとんでもない情報を手に入れ知らせてしまったんだ。評議会は、ここが監視をしている敵陣の中心部だと考えるだろう。あの通信機には現在地を知らせる機能もあるから、この一帯が精査され、病院や城、学院と言った建造物が確認される。評議会にはここは対抗勢力の拠点に見えるだろうな。となれば攻撃しない道理はない」

 リナイアの顔は青ざめて行く。

「これが、半年後に戻ってからの報告ならそんな事はなかった。半年もの時間があればどこで情報を手に入れたかは何とでも出来たんだ。即座に発信してしまった事が大きいんだ。ミリーさんが怒るわけだよ」

 リナイアは両手で口を覆い泣き始めた。

サーエイ(38)様。何とかなりませんか。ここが戦場にならないよう、何とかなりませんか?」


 サーエイ(38)は懇願するリナイアの様子に、彼等の懐柔作戦はもう功を奏し始めたな、と考える。あまり悦ばしい事ではないが、この程度は接触すれば当たり前の事だろう。そして、彼等に命を救ってもらった恩義は大きい。自分だって恩を仇では返したくない。それにリナイアが喜ぶ顔も見たい。


「あぁ、彼等と相談しながら今後の方策を考えないとな。お前の気持ちに添うように」

 サーエイ(38)の言葉を聞いてリナイアは喜び何度も礼を言う。

 サーエイ(38)は言えなかった。リナイアが忘れている事。我々移民者の最終目的は原住民を根絶やしにする事であり遅かれ早かれ子供達も村人も死に直面するのだと言う事を。




「王都がないのは、そんな理由があったのですか!」

 ミリー達が城に戻って今後の対応が協議される中、そう言って驚いたのはウィルファン王子であった。

「ソゼルド連邦のサラ女史が『王都がない!』と騒いでいらっしゃった時には、成り行きでそうなっているのだとばかり思っていたのですが」

 ウィルファン王子の言葉に、国家設立に携わった者とアルベルト、ミリー以外の者達が一様に頷いて同意する。

第一世代(ファースト)からの情報で、移民者達が衛星軌道上からの写真で情報収集を行っていると言う事が判っていたの。その地域の中枢となるのがどこか、ひいてはどこを潰せば制圧可能か、判断しているとね」


 フィリア姫はお茶を口にしながら説明を続ける。

「だから私達は建国の際、王都を造らない事にしたの。対抗勢力の中枢がどこにあるのか判らせないためにね。逆に同時期に建国したフェルミール王国の王都『セントラル=フェリオン』は出来るだけ大きく衛星軌道上から目立つように造る事になったの。敵の侵攻を引き受ける囮になって貰うためにね。だからフェルミール王国には最大数のマシーナが配備されたのよ」

 建国の裏事情を告げられた面々は驚きを隠せなかった。

「数万の市民が囮・・・ですか」

「そういう事になるけど、来るのが判っていれば対策も守りも集中出来るからね。それに、最初の侵攻を抑え切れなければ、いずれは危険にさらされるのよ」

 メイシアの疑問にフィリア姫はそう答える。


「でも、その策がオジャンになったからね。今後どうするかサーエイ(38)達にも考えて貰いましょうね」

 フィリア姫はそう言うと、溜め息を吐いてお茶をもう一口すするのであった。




 数日後、リナイアは退院の日を迎えた。

 それまでに両者の間で何度も話し合いが持たれ、移民船に対し特に何もしないと言うことになった。ヘタな言い訳は、逆に怪しまれるとの判断からだ。その代わりサーエイ(38)達が帰還した時に、ここが特別な場所ではなく、あの話は大陸全体がそうなのだと報告して貰おうと言う事になったのである。


 リナイアは退院後、早速我が家へと向かう。

 家は綺麗に掃除され、必要な調度品は全て揃っていて既に生活臭はタップリあった。リナイアがずっとここで暮らしていたかのような錯覚に陥ったのも無理はない。城からは当面の生活費も戴いていた。

 一緒に来たミリーが何か不具合わないかとチェックしてくれている。また、色々な道具の使い方も教えてくれた。この後だって、必需品の買い出しに町まで案内してくれるのだ。

 リナイアはにこやかに相手をしてくれるミリーを見ながら思う。

 この人のあんな恐ろしい一面を見たのはあの時だけだった。私はこんな優しい人をあそこまで怒らせる真似をしてしまったのだ。なのにこんなにも優しくしてくれる。こんないい人を二度と裏切るような真似だけはしたくない。


 必要な物をメモに書き出し、買い物に行こうと玄関を出る。

 リナイアは思わず立ち止まり感慨深げに辺りを見回す。

「どうした?」と声をかけるミリーにリナイアは呟く。

「こんなに素敵な家と環境が帰還するまでの間だけだなんて、ちょっと、残念だなぁって」

 ミリーはちょっと驚き、笑いながらリナイアの言葉に反論する。

「何言ってるの?『あげる』って言ったでしょ。帰還してもこの家はあなた達の物なのよ。もう戻って来てくれないの?」

「帰って来ます!必ず帰って来て永住します!約束します!きっとです!」

 ミリーの予想外の一言に驚き、そして満面に笑みを浮かべて大声で宣言したリナイアであった。


 しかし、その約束がどんなに儚いものであるか、この時のリナイアには想像する事も出来なかったのであった。


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