1-124 運命の大地 10
「まったく、あの子はなんて情報を送って来たのよ」
彼等が読み解いた結果は『ずっと以前から、原住民は我々を監視し警戒している』と言うものだった。
リナイアの伝言が花言葉を利用した暗号かもしれない。そう判断した後は評議会会議場に隣接したサロンは、花言葉の解読の場となった。
「しかし、『花言葉』なんて物があったなんて、初めて知りましたよ」
これは、シャリー以外の全員の意見である。
「リナイアが植物のアーカイブを覗いていて偶然見つけたらしいわ。もう何百年もアクセスされた痕跡がなかったらしいから、今は他に誰一人知らないんじゃないかしら」
シャリーは、リナイアがこれを見つけた時の様子を思い出す。とても興奮してはしゃぎ回っていたっけ。
「でも、一つの花にも色々な言葉が付いていますね。上手く読み取れればいいですが・・・」
「色々、と言っても大した量じゃないわ。きっと解るわよ。さぁ、始めましょう。」
まず、わざわざこんな形で送って来たのだから、原住民の情報だろうと推測する。原住民が秘密にしている何かだ。その事を念頭において解読は始まった。
まず、『キョウチクトウ』。これは、余り意味の幅がないため『用心』『警戒』この辺りだと推測はついた。そしてそれの関連から『ノコギリソウ』は『戦い』を表すのだろうと推測がつく。戦いを警戒する、といった所だろう。
そして『ルドベキア』。意味の幅が広くどれも今一つしっくりこないため、みんな頭を悩ませたが、トゥエルが
「この『あなたを見ています』を『我々を監視している』と考えてみたらどうだろう」
と提言したことから、一気に解釈が固まっのだった。
「原住民が我々の存在に気付いて監視し警戒している、と言うことか?サーエイ達の着陸で気付かれたのか?」
『ナンバーズ』の1人がそう呟いたが、シャリーはそれを否定する。
「いいえ、ここを見て下さい。『ずっと昔から』とあるでしょう?この不自然な一文はきっとここに掛かるんです。原住民はきっと随分前から我々の存在に気付いていたと言う事ではないのでしょうか」
シャリーの説明に一同はどよめくが否定する言葉はあがらなかった。
「あの2人の功績は、勲章ものだな」
「いや、それより2人は本当に安全なのか?どうやってこの情報を得たのかは知らないが、2人の正体がバレているんじゃないのか?」
一同の間の緊張が高まる。
「しかし、確認の手段はないぞ。ヘタな通信は逆に彼等を危険な立場にしかねん」
「とにかく、こまめに状況を報告させるしかあるまい」
「この、花言葉とやらを使った暗号が、原住民に解読される心配はないのか?もし解読されたとなれば2人の命が危うい!」
この懸念にはシャリーが答える。
「それはないでしょう。花言葉のデータベースは此処にあるのです。しかも何百年もアクセスした痕跡がない状態だったのですよ。彼等がこのデータベースを閲覧する方法があったら、逆に教えて欲しいものです」
そう断言するシャリーの言葉に「それはそうだ」と一同は胸をなで下ろした。
しかし、言い切ったシャリー自身は湧き上がってくる言い様のない不安に顔を曇らせるのであった。
(リナイア・・・本当に大丈夫よね・・・)
(有り得ない!絶対に有り得ない!なのにどうして?!)
何百年もアクセスされたことがない移民船のデータベースの内容をどうして地上の者が知ることが出来るのか、有り得ない出来事を前にしてリナイアはパニック寸前であった。しかしここは何とか平静を保ち、しらを切り通そうと試みる。
「な、何の事でしょうか?私には、さっぱり・・・」
下を向き、目を合わさないようにして話をするリナイア。しかしミリーはニタニタ嗤いながら下から覗き込むように見上げる。
「何って、通信文にあった3つの植物の事に決まっているじゃない」
「あ、あれは、本当に私が育てている植物で・・・しょ、植物図鑑があれば証明出来るのですけど・・・」
「あるのよ」
リナイアの言葉を遮るようにミリーが呟く。
「・・・え・・・」
リナイアは予想外の言葉に戸惑う。
「あるのよ。植物図鑑。確かにあの3つの植物も実在する事は知っているわ」
「で、でしたら何も問題は・・・」
「大ありよ。リナイア、選んだ植物が悪かったわね。移民前にとっくに絶滅した植物が2つ!もう1つは移民船への積載リストに載っていない!そんな存在する筈のない植物を3つもあなたはどうやって育ててるのかしらぁ!」
ミリーの言葉にリナイアはハンマーで殴られたような衝撃を受ける。と同時に(どうしてそんな事まで?)という疑問で心が一杯になった。ミリーはそんなリナイアの心を見透かしたように種明かしを始める。
「私の師だった人はね。と~ってもずぼらな人でね。『エリアβ』の墜落前まだ移民船にいた頃、薬草の事を調べる為に植物のアーカイブを丸ごと自分のデバイスにコピーしたそうなのよ。その中には、植物図鑑や移民船積載リストそして花言葉のデータベースもあった、と言うわけ」
(丸ごとコピー?!それじゃあアクセスの痕跡は残らない!)
言われて見れば何の不思議もない、ごく当たり前の事だった。
「私がミランダくらいの頃に、たまたま暇だったから、そのアーカイブの中身を一通り閲覧した事があってね。当時は何の役にも立たないと思っていたけど、読んでてよかったわぁ。こんな所で役に立つなんて。ねぇ、リナイアぁ!」
ミリーの嬉しそうな声が病室に響き渡る。しかしリナイアにとってそれは恐怖でしかなかった。
「もし、植物が移民船に存在するものだったら、さすがの私も見過ごしていたわ。でも3つの植物は存在しない。ではこれは何?ってね。3つの植物の関連性を色々と考えていったわ。そうして行き着いた先が『花言葉』!」
「『昔からあなたを見ている、警戒する、戦う』まさに我々が移民船を監視し警戒していると言う意味に他ならない!そうだろう!リナイアぁ!」
ミリーの言葉は徐々に怒気を孕んでいく。サーエイはようやく事態を飲み込め、驚いたように口を開く。
「本当なのか?!リナイア!」
リナイアは返事をしなかった。しかし下を向き泣きじゃくるその姿が答えを物語っていた。
リナイアは後悔に苛まれていた。
どうしてこんな事をしてしまったのか、今でなくてもよかったのだ。なぜ、あんな方法を思いついてしまったのだ。なぜ、試してみたいと思ったのだ。もし刻を戻せるなら決してこんな事はしないのに・・・でも、もう後の祭りなのだ。
「無茶をしないでね」シャリーの言葉が胸に刺ささった。
ミリーはリナイアの髪を鷲掴みにし、思いっ切り背中の方向へ引っ張り、無理矢理に顔を上に向かせる。そしてむき出しになった喉元に長剣の剣先をあてがった。
「貴様は破ってはならない約束を破ったのだ!当然その報いを受ける覚悟は出来ているのだろうな!」
ミリーはリナイアの顔に覆い被さり、凄まじい殺気と共に怒鳴りつける。
リナイアは泣きじゃくりながら小さな声で「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」と幼児のように繰り返すばかりであった。
(シャリー様、言いつけを破ってしまいました。私はもう帰れません)
リナイアはもう生きる事をあきらめるしかなかった。
そんな中、最悪の状況を打破しようと動いたのはサーエイである。
「頼む!待ってくれ!いきなり処刑なんて酷すぎる!ここは裁判にかけて量刑を問うのが筋ではないのか!」
極刑は免れないかもしれないが時間は稼げる。そうすれば何か打開策が見いだせるかもしれない。そう思っての抗議だった。
「はん?貴様、何か勘違いしていないか?ここは移民船ではない。貴様等の常識など通用しない異世界なのだぞ。私には貴様等の命などどうとでもできる裁量権があるのだ。望みとあらば貴様も共犯者としてその首、刎ねてやろうか!」
ミリーの言葉に今度は、リナイアが反応する。
「これは私がひとりでやった事です。サーエイ様は関係ありません。どうかお願いです。サーエイ様を罪に問わないで下さい」
泣きながら訴えるリナイアの言葉をミリーは目を細めて聞いていたが、突然、ニマァっと嗤うと、こう告げた。
「ほぉ~、我が身を呈して主人を助ける、か。死してもそれで満足、と言う訳か?よし決めた。貴様は生かしておいてやる。生きて絶望と後悔に明け暮れるのが貴様にとって最大の罰のようだからな」
ミリーは髪掴んでいる手をベッドに向かって投げつけるように動かし、リナイアの上半身をベッドに叩きつける。
そして長剣を手に持ったままサーエイの枕元へと移動した。
ミリーが何を考えているのか、リナイアはすぐに判り動揺する。
「い、いや!いやぁぁぁぁっ!やめてぇぇぇ!」
リナイアは激しく泣き叫ぶ。そしてベッドから転がり落ちるように床に倒れ込み、ミリーの足にすがりついて泣き叫びながら懇願する。
「お願い!やめてぇぇ!私はどうなってもいいからぁ!何でもしますからぁ!どうか!どうか!サーエイ様だけはぁ!」
「お前はそこで、愛する者が死に逝く様をじっくりと眺めているがいいさ」
ミリーはそう言うと、サーエイを睨み付け、ゆっくりと長剣を振り上げる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
病室に、半狂乱になったリナイアの絶叫が響き渡った。




