1-123 運命の大地 9
P.S.
シャリー様へ
前述の通り、私達はあと半年ほど、この地で御世話になることになりました。
なので大変申し訳ありませんが、引き続き、家の植物達の世話をお願いします。
長く留守にするので植物達が枯れないよう注意をお願いしますね。
特に、ずっと昔からある『ルドベキア』、『キョウチクトウ』、『ノコギリソウ』には気を付けて下さいね。
リナイアより
評議会会議場に隣接するサロンは久し振りに明るい喧騒に包まれていた。
理由は今行われている緊急会議の議題にあった。
それは突然の長距離通信の受信。しかもそれが絶望視されていたサーエイ達からのものであったからだ。
緊急会議では、その内容の真偽の判定、及び今後の行動方針について話し合われているのだ。
サロンで待つパートナー達には長距離通信の詳しい内容は明かされていないが、各人の主からは「2人が無事らしい」位の事は聞かされていた。そのため、まだ真偽の判断中とは言え、その久し振りの明るい話題にサロンに明るさが戻らない訳がなかったのである。
皆が騒ぐ中、シャリーは両手を合わせて祈るような姿勢で会議が終わるのを待っていた。いや、実際に無事でありますようにと祈りながら待っていたのである。
そして、数時間閉ざされていた評議会会議場の扉がようやく開き始めたのであった。
「こちらが、その通信の内容になります。隠しコードのような物は存在しない事は確認済みです」
会談から一夜明けた翌朝。フィスリニア城の中央司令室には昨日会談をおこなった面子が集まっていた。
「特に内容には問題なさそうだな」
アルベルトの意見に皆が同調し頷く。
「しかし、リナイアさんは本当に植物が好きなんですね。ここに書かれているのは植物の名前ですか?」
「えぇ、間違いありません。3つとも、彼等の星の草花の名前ですよ」
ウィルファン王子の問いかけミリーがにこやかに答える。
「ミリー、なんでそんな事が解るの?」
「師匠のデバイスに植物図鑑のデータベースがあって、昔流し読みしたことがあるんです」
フィリア姫の質問にミリーは軽く答えたが、他の皆は(全部憶えているんだ)と驚愕したのは言うまでもないのであった。
評議会会議場の扉が開き、『ナンバーズ』達が会議場からゾロゾロと歩き出てくる。待っていたパートナー達は「真偽の程は?」などと尋ねる必要はなかった。
晴れやかに笑う『ナンバーズ』達を見れば答えを聞く必要もない。パートナー達からは一斉に歓声が上がった。
「トゥエル!」
シャリーは早足で近づいて来た『ナンバーズ』に声をかける。
「あの子達は無事なのですね!」
トゥエルは「あぁ、無事だ」と満面の笑みで答える。
「ほら、私が言ったでしょう。あの子達は生きてるって。全く連絡挺のクルー達はいい加減な仕事をしてくれますね」
涙を拭きながらシャリーは笑う。しかし、クルーの話が出た途端、トゥエルは厳しい表情になる。
「そのクルーなんだが、サーエイ達はクルーに殺されかけたのだそうだ。しかも計画的にな。サーエイ達はクルーに崖から突き落とされ、しかもご丁寧に通信機からはバッテリーが抜かれていたそうだ」
話を聞いたシャリーが珍しく憤慨する。
「なんて事を!今すぐ奴らをひっ捕らえて・・・」
「ほれ、もうイーナイが動いているよ」
トゥエルが顎で示す先では、もう数人のパートナーがイーナイの指示を受けてサロンから駆け出している所だった。
シャリーはそれを確認すると再びトゥエルに向き直る。
「でも崖からなんて・・・本当に無事だったんですか?」
「実は、サーエイは骨折多数の瀕死の重体、リナイアも骨に2カ所ヒピが入ったらしい。しかし、偶然通りかかった原住民に助けられ病院に搬送、手術を受けて現在入院中らしい」
トゥエルの説明にシャリーは目を丸くして驚く。さらに周りで話を聞いていたパートナー達からもどよめきが起こる。今まで彼等が伝え聞いていた原住民の医療レベルは、まじない以上程度のものでしかなかったからだ。
「ほれ、これが送ってきた元気な証拠の写真だよ。ここに立っているのが手術をしてくれた医者だそうだ」
そう言いながらトゥエルが写真を見せる。すると一目写真を見んとあっと言う間に人集りができた。
「2人とも笑ってる。リナイアなんてこんなに嬉しそうに・・・」
やっと2人の無事が実感出来たのだろう。シャリーは微笑みながら涙ぐむ。
写真を覗き込む他の者達はもっと別の所に目がいっていた。
「随分清潔そうな病室だ。我々の上クラス並みじゃないか?」
「清潔さだけじゃない。アチコチに写り込んでいる医療器具を見てみろ。我々の物と大差ないぞ」
「一体原住民の文明レベルはどうなっているんだ?聞いていたのと違うぞ」
「この子が医者だって?白衣が似合う可愛い子じゃないか」
真面目なものも不真面目なものも入り混じった喧騒にトゥエルは苦笑いしながらシャリーに話しかける。
「それから彼等は半年ほど滞在する事に決めたそうだ。なんでも原住民に大層気に入られたそうで穀物の事を色々教えて貰えるらしい。そんで、リナイアからお前に伝言もある」
シャリーは満面の笑みでトゥエルから通信文を受け取り読み始めた。
「うふふ、あの子ったらどこに行っても植物の事ばっかりなん・・・だか・・・ら・・・・・・何なの?これ・・・」
文面を読んでいたシャリーは笑顔が消え、大層厳しい表情に変貌する。
シャリーの突然の変化に集まった者達も静かになり、次の言葉を待った。
「何か問題があるのか?」
心配そうに尋ねるトゥエルに、シャリーは厳しい表情と口調でキッパリと断言する。
「あの子は、この3つの植物を育てていません!」
「さ~てと、じゃあ私はサーエイさん達に例の話をしてきますね。メイシー、ついて来て」
ミリーはメイシーを後ろに伴い扉の前まで進む。そして扉を開けようとして・・・何故か動きがとまったのであった。
「『ルドベキア』?・・・『ルドベキア』?『キョウチクトウ』?『ノコギリソウ』?・・・」
ミリーは、通信文の中にあった3つの植物の名を何故か繰り返し呟いていた。普段見ることのないミリーの悩む様子に、他の者は顔を見合わせる。
しかしやがて、ミリーは「クククク」と小さな笑い声を漏らし出したかと思うといきなり「ダン!!」と拳で扉を殴りつけ叫んだ。
「やってくれたなぁぁぁっ!!リナイアァァァ!!」
「何?!どうしたの?!」
フィリア姫が慌てて尋ねる。
「我々が、移民船を監視している事を移民船の連中に知らされてしまいました。しかも、あの通信機を使ってここからの送信と言うオマケ付きです」
ミリーの言葉にフィリア姫は青ざめる。
「一体どうやって?!」
「手法は後でお教えしますよ。取り敢えず、彼等の所へ行ってきます」
「彼等を、どうする気?」
「いけない子はお仕置きしないと・・・そしてそのロマンチックな手法に褒美を・・・ね」
そう言いながらミリーが振り向く。
ミリーの後ろにいたメイシアは反射的に「ひっ!」と声を上げ思わず後退りし尻餅をついてしまった。
振り向いたミリーは嗤っていたのだ。それも、まるで悪魔が新しいオモチャを手に入れて喜んでいるかのような嗤い顔だったのだ。
「メ~イシ~。ど~したの~。行~くよ~」
ミリーは気の抜けたような声で催促する。しかし、悪魔の嗤い顔で繰り出された言葉はメイシアにとって恐怖でしかなかった。
メイシアは尻餅をついたまま恐怖で身体が竦んで動けない。そんなメイシアをフィリア姫が後ろから支えながら立たせる。
「大丈夫だから、行ってきなさい。ただし、ミリーの言う事には逆らわないように、ああなったミリーは・・・もう誰に止められないから・・・」
フィリア姫の言葉にぎこちなく頷いたメイシアは勇気を振り絞ってミリーの後をついて行くのだった。
「ねぇ、アル。サーエイとリナイアは生きていられると思う」
「・・・私に聞かないで下さい・・・」
2人を見送ったフィリア姫の問いかけに、アルベルトは回答を拒否する。
さらに、フィリア姫は「はぁ・・・」と溜め息をついて愚痴をこぼす。
「あの情報がこの場所から送られるなんて・・・最悪だわ・・・王都を造らなかった意味がなくなったわね」
「シャリーが知らないだけじゃないのか?」
「私はさんざんあの子から育てている植物の事を聞かされてきたんです。知らない訳がありません!」
「単にリナイアが間違えたとか?」
「3つ全部ですか!」
周りの人々の推論を、シャリーは激しく否定する。
リナイアの伝言の意味が判らず、シャリーはややイラついていた。
「もしかして、何か伝えたい事があるとか?」
「そう言えば、サーエイからは、原住民に暗号通信は傍受され内容が筒抜けである旨の警告があった。そのせいでサーエイからの報告はマニュアル通り西国を装っていたな」
人々は様々な可能性を考えていた。
「この3つは本当に植物の名前なのか?何かの文字列の組み合わせでは?」
「えぇ、私も、聞いたことがない名前なの。誰か!デバイスで図書館の植物のアーカイブの植物図鑑の中を検索してくれる?」
シャリーの依頼に、パートナーのひとりが慌ててサロンのテーブルにデバイスを置き検索を始める。
「えっと・・・あ、ありますね。3つとも、チャンとした植物の名前です。暗号文なんかじゃないですよ」
検索してくれたパートナーが残念そうに報告すると、また、『ナンバーズ』とパートナーが騒然と様々な可能性を語り出す。
(・・・暗号・・・植物・・・)
そんな中、シャリーは必死に思い出そうとしていた。あの子は確かに前に何か言っていた。
「一体、どんな秘密が込められているんだ?」
(・・・秘密・・・あ!)
誰かがポツリと言った言葉が引き金になった。リナイアの言葉を思い出したのだ。
「・・・だそうです。今ではもうすっかり忘れ去られてしまいましたけど、すごいですよね昔の人達って。こうやって秘めた想いを花に託したんですよ。素敵ですよね・・・」
シャリーは慌てて叫ぶ。
「もう一回検索をお願い!アーカイブは植物!カテゴリーは伝説/伝承!データベースは!・・・」
一夜明けた病室。
リナイアはベッドの上に身体を起こして、サーエイは全身ギプスのせいでベッドに横たわったまま、朝のまったりとした時間を過ごしていた。
今、リナイアの目を奪っているのは、今朝、看護士が花瓶に活けてくれた真っ白な可愛い花束だった。
「ヤッホー!元気してる?!」
明るく病室に飛び込んで来たのはミリーであった。ミリーは随分とご機嫌な様子である。それに比べて後から入って来たメイシアは青ざめ元気がない。
しかし、リナイアとサーエイは特に気にする様子もなく「おはようございます」と挨拶を交わす。
「その花、気に入った?」
挨拶を交わした後、また自然と花に目を移したリナイアにミリーが声をかけた。
「はい。とっても。すごく可愛い花ですね」
「名前は、『ユキフリソウ』って言うのよ。そう言えば、この星にはあの風習はないのよねぇ・・・そうだ!あなたが決めちゃえばいいじゃない!」
「えぅと、何をです?」
ますます上機嫌になるミリーに、リナイアが尋ねた。
「決まってるじゃない!それはぁ・・・」
シャリーは決然たる表情で叫ぶ。
「データベースは!・・・『花言葉』!」
ミリーはリナイアに顔を寄せて笑う。しかし、それは、獲物を捕らえて今まさに呑み込まんとする蛇のような嗤いだった。
ミリーはリナイアの耳許で嬉しそうに囁く。
「それはぁ・・・『は・な・こ・と・ば!』」
リナイアはその言葉を聞いた途端、下を向き、真っ青な顔でガタガタと震え始めた。その目は、驚きと後悔と恐怖で彩られていた。




