1-120 運命の大地 6
(交換?)
予想外の言葉に、サーエイとリナイアは顔を見合わせる。
我々は彼等に捕まり虜囚となったはずだ。一方的に尋問を受けて情報を引き出されるのが普通である。
「私達はあなた方の虜囚であるのに『交換』とは?」
サーエイの問い掛けにフィリア姫が驚く。
「あら、あなた達が虜囚だなんて誰が言ったの?」
フィリア姫の問い掛けにサーエイとリナイアはミリーを見つめる。釣られるようにフィスリニア王国の面々もミリーを見つめた。
全員の注目を浴びたミリーはバツが悪そうに言い訳をする。
「一応、あり得る最悪の扱いを提示しただけですよぉ。彼等はその扱いで納得してたんですから、もうそれでいいんじゃないですかぁ?」
ミリーの言葉にフィリア姫は、なる程と言うような表情を浮かべる。
「それもそうね。じゃあ『虜囚』って事でいい?」
フィリア姫に軽く尋ねられて、サーエイは(何故それをコッチに聞く?!)と困惑の表情を浮かべた。
「冗談よ・・・でも、場合によっては、そうせざるを得ないかもしれないわね」
口許は笑っているが目は笑っていない。本気だと感じたサーエイは真剣な顔で頷きフィリア姫の言葉を待つ。
「40年前、『エリアβ』がこの地上に落下して、我々は初めてあなた達『移民』の存在を認識した。その後、生き残りを通して、当時あなた達が我々に何をしようとしたのか、そして空の上で何があったのかを知ったわ」
サーエイはゴクリと喉を鳴らす。
「もっとも、真実を知っているのは一部の者達だけ。大半の者には『彼等は文明を伝える為にこの地を訪れたのだ』と流布してある。生き残りの人々に危険が及ばないようにね」
サーエイとリナイアは顔を見合わせる。原住民が移民者をを守っていたという話は聞いた事がなかったからだ。
「我々は、空の上にまだ生き残りがいるのか調査を行った。そして『エリアα』の残骸を使って新たに居住区を建造している事も確認している。しかし、地上からはどうしても判らない事がある。それは、あなた方がどうしようとしているか、だ。それをある程度教えて貰うとありがたい。と言うこと」
サーエイは低く唸る。『リバティ16』はとっくに彼等の監視下にあったのだ。今までの見つからない努力は全く無駄だった、という事になる。
「タダで、とは言わないわ。代わりにそちらが欲しい情報をあげる。どう?」
サーエイは返答に詰まる。確かに情報は喉から手が出るほど欲しい・・・がどれほどのリスクがあるのか・・・
「我々も、薬物を使って無理矢理聞き出す術は持っているわ。でもそのような手段は使いたくないの。変な言い方かもしれないけど、あなた達2人とは信頼関係を保ちたいの。例え敵であってもね」
信頼関係・・・サーエイは探りを入れてみる。
「お教え出来ない事も沢山あります。特に軍事的な面では。それでもよろしいので?」
「話せない事があるのはこちらも同じ。そこはお互い腹の探り合いって事でいいんじゃない?」
フィリア姫は笑顔で答える。条件は平等に見えるが、サーエイには限りなく不平等な話である事は判っている。
「しかし・・・こんな事を言える立場ではないのは判っているのですが・・・この関係は平等ではありません。こちらからの情報をあなた方は共用する事が出来ますが、我々が得た情報は上の仲間達に教えることが出来ませんし、私達自身が仲間の元に帰る事も出来ません」
どんな有益な情報も活用出来なければ単なるゴミだ。この国の連中はこの不平等をどう解消してしてくれるのか。まぁ、遠い将来での解放を匂わせて、情報を吸い上げるだけ吸い上げて、後は知らぬ存ぜぬで幽閉、と言うのがよくあるパターンか・・・そう予測し、何も期待せずに答えを待つサーエイだったが、フィリア姫達は予想の斜め上をいく対応を見せる。
「それはそうよ。だからね。メイシー!あれを!」
フィリア姫に促されて、メイシアは持ってきた荷物をサーエイ達に手渡す。
一つはサーエイ達が着ていた服だった。ここに来たときは、血と泥で汚れ、アチコチ破れていたはずなのに、破れは全て綺麗に繕われ、汚れも綺麗に落とされていた。しかも丁寧にアイロンをかけてあり皺一つない。
「まぁ、ここにいる間はそれは着ないでいてね。さすがに目立つから」
「は、はい・・・あ、ありがとうございます・・・」
驚く2人のうち、リナイアが何とか礼を述べる
そして、もう一つ渡された箱の中身にサーエイ達はさらに驚かされる事になる。その中には、ナイフ等の小物類の他に地図と、さらには2種類の通信機まで入っていたのだ。
「お預かりしていた荷物はそれで全てですか?」
2人は確認するメイシアに返事をするのも忘れて装置を確認する。すると、長距離通信機に何やらコードと箱がくっ付いているのに気が付いた。
「丁度合うバッテリーがなくてね。そんな不恰好になってしまったがチャンと使えるよ。動作確認はしておいた」
付属品を見つめる2人の無言の疑問に答えたのはアルベルトである。
「この通信機も返して貰えるのですが?」
サーエイの問い掛けにフィリア姫が口を開く。
「返すには条件がある。それが守られなければ返す訳にはいかない」
「条件とは?」
「簡単な事よ。『私達があなた達の存在に気づいている』それをお仲間に決して言わない事。それからこちらの軍事力を知らせない事」
「救援を呼ぶかもしれませんよ」
「と言うより、それがないと救援が呼べないでしょ」
サーエイは小さく唸る。
彼等は我々を帰してくれると言うのだ。そんな約束だけで・・・
サーエイとリナイアは見つめ合い頷く。
「分かりました。ご配慮に感謝します」
2人はそう言って頭を下げる。
その様子にフィリア姫はニッコリと微笑む。
「では、あなた達の状況から整理しましょうか。あなた達は何をしにここにやって来たの?」
「『リバティ16』の食糧事情の改善です。人口増加に食糧の供給が追いつかないため、新たな効率の良い作物を調達に来ました」
これに関しては特に問題はないため正直に答えるサーエイである。しかしそのまま信じて貰えるとも思えなかった。
事実、フィリア姫を始めとするフィスリニア王国の面々は、意外だと言う表情をしていた。しかし、ミリーが驚きながらも小さく首を縦に振るのを見てフィリア姫達はそれが事実だと判断する。
「判ったわ。で、具体的にどうしようとしていたの?」
自分の話が簡単に受け入れられ事に驚きつつも、サーエイは説明を続ける。
「作物の種などを手に入れ、育て方を聞いて持ち帰り育成してみるつもりでした。滞在は10日程の予定でした」
フィリア姫は呆れたように問い掛ける。
「そんな、聞いただけで簡単に育てられると思っているの?枯らすのがオチよ」
「何度か訪れるつもりでしたし、その都度問題を潰していこうかと」
ここまで聞いたフィリア姫は急に目を輝かせた。
「そんな効率の悪いやり方ダメよ。聞くだけじゃなくてあなた方が実際にここで最後まで育てて全てを学んでいくべきよ。今から半年もいれば様々な作物を育てられるわよ。調理法だって習得できるし。どう?思い切って半年位ここにいなさい。ね!」
フィリア姫の必死の勧誘に、サーエイは(さて、どうしたものか)とメリットとリスクを比べ始める。しかしそんなサーエイの考察を邪魔する者が現れた。それはフィリア姫の提案に思いっ切りかぶりついた人間、リナイアである。
「サーエイ様!今の聞きました?!自分で育てられるんですよ!自分で収穫出来るんですよ!土まみれになれるんですよ!こんなチャンスないですよ!評議会には『ちょっと遅くなります』って無線機で連絡しとけばいいじゃないですか!あぁ、早く土がいじりたいですぅ!何迷ってるんですか!迷う要素なんてどこにもありません!さぁ!即決ですよ!即決!!」
ベッドから落ちんばかりに身を乗り出し一気にまくし立ててサーエイに詰め寄るリナイア。
サーエイは動かせる方の手で頭を抱え、静かに呟いた。
「リナイア・・・落ち着け」
「へっ?」
我に返ったリナイアが見たものは、呆れかえっているフィスリニア王国の面々であった。
メイシアは(あんなに周りが見えなくなるなんて、可愛い!)と思ったが、他の面々が(まるでメイシアみたいだ!)と思っていたなんて知る由もなかったのであった。
「色々、交渉出来るかと思っていたのですが・・・相方がこんな調子ですので・・・お受けします」
そう力なく言って「はぁ~」と溜め息を吐くサーエイに、
「まぁ・・・交渉事は何時でも受け付けます・・・」
とフィリア姫が慰めに近い言葉をかけ、リナイアは「・・・ごめんなさい・・・」と小さくなるのであった。
「しかし、意外でした。我々を崖から突き落とし、降下挺を攻撃した兵士達のトップの方々ですから酷い扱いを受けるかと思っていました」
ホッとしたようなリナイアの呟きに、フィスリニア王国の面々は一様に驚く。
「てっきり足を滑らせたと思っていたんだが突き落とされたのか!相手は見たのか?!」
「いえ、いきなり後ろから突き落とされたので・・・でもそう考えるのが普通かと・・・」
ミリーの質問にリナイアがたどたどしく答える。サーエイも同様のようでしっかりと頷いた。
2人の返答に、ミリーはポリポリ頭を掻きながら説明を始める。
「あの時の通信の内容、変だとは思ったんだ。ハッキリいうよ。あの時、あの場所に我々の兵士は一人もいない。私が近づくなと命令しておいたんだ。各村には拉致に注意するための警備兵を配置したから村人がそこに行く事もない。まったく別の第三者だとしたら近くにいた私が気が付く。従って、君達を襲った人間も、宇宙船を襲った人間も・・・居なかったんだよ」
「そんな!私達は本当に突き落とされて・・・」
ミリーの説明に異議を唱えるリナイアだったが、サーエイに手で制される。
「そういう事か・・・味方に殺されかけて、敵に救われるとは・・・皮肉なもんだ。通信機のバッテリーが抜かれていた事も説明が付くな・・・」
「そんな・・・どうして・・・」
苦虫を噛み潰したような顔をするサーエイにリナイアは理由を求めようとして、シャリーの言葉を思い出す。
「あなた達に何かあったら、事が動く!」
(まさか、そんな・・・そのために・・・)
リナイアはヒシヒシと感じていた。シャリーの言葉が重くのしかかってくるのを。




