1-119 運命の大地 5
「オハヨー!お姉ちゃん!おー待たっせー!」
置き去りにされてから4日目の朝、ミランダが元気一杯にリナイアの病室に飛び込んでくる。リナイアも思わず笑顔になり
「おはよう、ミランダ。お待たせって一体・・・」
そう言いかけてリナイアの言葉が止まる。そしてミランダに続いて入室してきた者達に目が釘付けとなった。
そこには、ミリーとメイシアに付き添われてベッドごと入室してくるサーエイの姿があった。
「サーエイ様。よくぞご無事で・・・」
リナイアは涙ぐみ、それ以上言葉が続かない。
全身をギブスに覆われた痛々しい姿のサーエイであったが、それでも満面の笑みをリナイアに向ける。
「リナイア、元気そうで良かった」
リナイアは無言で頷く。
「本当は男女を同じ病室にするのは規則違反なんですけどね。ミリーさんがそうしろって言うから特別ですよ」
メイシアが文句を言いながら職員にサーエイのベッドの設置を指示する。
「ベッドをくっつけた方がいいんじゃない?」
ミリーの暴言に、メイシアは「ダメです!」と顔を赤くして却下し、リナイアも真っ赤な顔で激しく首を横に振る。かくして二つのベッドは間を開けて並べられたのだった。
「さてと、我々お邪魔虫は退散するとしますか。午後になったら皆でお邪魔するからね。因みにこの部屋には盗聴器とか隠しカメラとかはないから、思う存分、愛を語り合っても大丈夫よ~」
そう言ってミリーは意味ありげな笑みを浮かべて去っていく。ミランダも「大丈夫でちゅよ~」と意味も判らず意味ありげな笑みを浮かべて去っていく。そしてメイシアと職員はヤレヤレといった様子で退散するのであった。
全員が部屋を出て行き、病室にはサーエイとリナイアの2人きりとなった。
リナイアはまだギブスがとれない右足を庇いながら自分のベッドを降り、サーエイのベッドに寄りかかり、その手を握り締めた。
2人は無言で見つめ合う。お互いの無事を確認するのに言葉は要らない、ただ微笑むだけで良かった。
2人は納得のいくまで見つめ合った後、ようやく口を開く。
「生きてるなんて、まるで奇跡だな」
「はい。でも・・・」
サーエイに返事をしつつ、リナイアは辺りを不安そうに見回す。
「恐らく、あの人の言うとおり盗聴器の類はないと思うよ。彼等はそんな姑息な嘘はつかない。多分だけど」
「うふふ、そうですね。私もそう思います」
そう言っておどけて笑うサーエイにリナイアも笑顔を返す。
「さてと、あの人は『午後に皆でお邪魔する』と言っていた。いよいよ尋問の開始なのだろうな。だが幸い我々にこうして考える時間もくれた。せっかくだからここで情報を整理しよう。まずは、私があの果実で眠っていた間にリナイアが得た情報を教えてくれ。私は山道を走っていた所までしか憶えていないんだ」
リナイアはサーエイが眠ってしまった後の出来事を出来るだけ細かく説明した。
「この国の王城だって!」
「はい。しかも接触した者達は、我々がどこから来たのか知っているようなのです。しかも、サモン=リスドール博士がいらっしゃいました。そしてサーエイ様の事をジークハルト様のコピーだと、『ナンバーズ』だと見破っておいででした。サーエイ様を手術したのは、そのリスドール博士です。サーエイ様は博士から何かお話を伺ってませんか?博士は私の所には来て下さらないのです」
「いや何も。正体すら教えてくれなかったな。しかし、まさか我々の事を知る者達かいるとは・・・しかもその者達の捕らわれの身となってしまったか・・・最悪だな・・・」
険しい表情のサーエイにリナイアの心は痛む。
「申し訳ありませんでした。私の判断ミスです。あの時、サーエイ様の許しを得ず勝手に助けを乞うてしまったばかりにこんな事に・・・」
落ち込むリナイアの様子に、サーエイは慌ててフォローの言葉をかける。
「いや、あの時のリナイアの判断は間違っていない。こうして2人、生きている訳だし」
笑いかけるサーエイにリナイアは笑みを取り戻す。
「それに、最悪とは言ったが最大のチャンスでもある。我々の事を知っている者達がいるという情報は大変重要だ。さらに、ここにいれば彼等がどこまで知っているか詳細を得る事が出来るかもしれん。その情報を何としてでも『リバティ16』に届けたい」
「でも、荷物は全て没収されてしまいました。服も通信機も。それに通信機はバッテリーが抜かれていましたからどのみち使い物になりません。知らせようにも助けを呼ぼうにも・・・」
リナイアから笑顔が消える。
「今は彼等の出方を見るしかないか・・・生きてさえいれば何とかなるさ」
「そうですね。でも、どんな人達が尋問に来るのでしょう。ミリーさんやメイシアさんは立ち合ってくれるのでしょうか?心配です」
「ミリー、準備はどう?」
フィリア姫は昼食のパンを頬張りながら尋ねる。
「えぇ、この数日で十分に観察は出来ました。どんな表情の変化も見逃しませんよ。それにミランダのお陰で彼等も随分とリラックスしてきました。何時でも大丈夫です」
「では、みんな、ここが正念場よ。気を引き締めて行くわよ!・・・食事が終わったら」
そう言うとフィリア姫は、シチューのお代わりを要求するのであった。
ミリーの予告通り、午後になってフィスリニア王国の面々が彼等の病室を訪れる。若干遅くなったのは、フィリア姫がさらにシチューのお代わりを要求したためである。
病室に入って来た面々を見て、サーエイもリナイアも戸惑いと落胆の色を隠せない。彼等が想像していたよりも遥かに若いためだ。
確かに、フィリア姫、ウィルファン王子、アルベルト、ミリー、メイシアという面子は知らない人から見ればただの若造の集まりにしか見えないだろう。実際サーエイも(彼等から有益な情報が得られるのか?)と内心落胆していたのである。
そんなサーエイ達の気持ちをよそに、フィリア姫はドッカと椅子に座り質問を始めた。
「さぁ~てと。まずは、あなた達の名前、役職、どこから来たのかを聞きましょうか」
最初に口を開いたのは、もっとも若い、子供とも思える人物である。サーエイは、これは正式な尋問ではなく、ただの貴族の子供の興味本位のお遊びではないかと考えた。ならば適当にあしらえばいい。
「我々は遥か西の・・・」
サーエイがそう話し始めた途端、それを遮るようにフィリア姫はスックと立ち上がり、サーエイを冷たく見下ろすと、威厳をもって威圧感タップリに言葉を放つ。
「アル。こいつらの処分は任せる!」
そして、踵を返して出口に向かって歩き始めた。
「いや!その!待って!」
情けなく慌てたのはサーエイである。
少女の態度に(違う!ただ者じゃない!)と認めざるをえなかった。幸いにも少女は足を止めてくれた。
サーエイは「ふう・・・」と一息をつきリナイアを見る。リナイア心配そうな表情でサーエイに頷く。
(そうか、この子がさっきリナイアが言っていた正体不明の少女か・・・)
サーエイは覚悟を決めて口を開いた。
「失礼しました。先程のは、現地人対策マニュアル上の回答です。しかし、あなた方には意味がないと確信いたしました」
「私は、『リバティ16』・・・と言えばあなた方ならお分かり戴けると思いますが・・・それを統治する評議会の評議員の一人、『サーエイ』と言います。こっちは私のパートナー・・・専属補佐官の『リナイア=ミール』です」
そう言うと、サーエイとリナイアは頭を下げる。
フィリア姫は彼等に背を向けたままミリーをチラリと見る。ミリーが小さく頷くのを確認すると、フィリア姫は再び彼等に向き直り椅子に座り直す。その表情は幾分和らいでいた。
「正直に言って貰った事に感謝するわ。ではこちらもそれに応えてキチンと自己紹介するわね」
そう言って明かされたフィスリニア王国側の身分に、サーエイとリナイアは思わず居住まいを正してしまう。それはそうだろう。明かされた彼等の身分は、この国の王に王妃、そしてツートップ、この国の全てを統治する立場だったのだ。自分達を助け世話をしてくれたミリーも含めて。
驚きの表情を隠せない2人に、フィリア姫は『してやったり』と言いたげな表情で2人の心中を代弁する。
「まさか、こんな若造達が、国のトップだとは思わなかった、って所かしら?」
「・・・はい・・・あ、いえ、その・・・」
思わずバカ正直な反応をしてしまい後悔するサーエイだったが、この反応をフィリア姫は、いたく気に入ったようでニカッと笑う。
「うんうん。正直なのはいいことよ。この国のトップが若いのにはそれなりに理由があるの。それはね、この国に一番必要なのは物事に柔軟に対応できる力なのよ。それも、あなた方に対応する為の力がね。そのための人材を集めてきたのよ」
フィリア姫は軽くジャブを出して牽制したつもりだったが、その一打はサーエイの顔面にクリーンヒットした。
(既にこの国では、我々と戦う準備が出来ていると言うのか!まさか、打って出るつもりなのか!私はど、どうすればいい!)
サーエイが珍しく動揺し、即座に次の一手を打ち出せずにいるのを見て取ったリナイアが時間を稼ぐべく話題を振る。
「あの、リスドール博士はいらっしゃらないのですか?会って御礼が言いたいのですが・・・」
「ん?あぁ、サモンは忙しいからね。そのうち会えるわ」
フィリア姫はにこやかに返事をしたが内心は(この娘、痛い所を突く!)と穏やかではなかった。
今回、サモンとマイケルにも同席を求めたが、「今は会いたくない」と拒否されたのだ。サモンとマイケルは移民船との訣別をとっくに明言していたにも関わらず、いざ本人達を実際に目の前にしてその心が大きく揺らいでしまっていると言うのだ。
さすがに「心が落ち着くまで待って欲しい」と懇願されては無理強いする事も出来なかったのだが、決心が固かった彼等でさえこうなのである。いざ戦いとなった時に、他の国の第一世代達がどうなるのか、考えただけでも頭が痛くなる問題が露呈したのである。
リナイアが残念そうに俯き、話をそこで終わらせてくれた事にフィリア姫はホッとし、再びサーエイ達に笑顔で話しかける。
「さて、お互い自己紹介も済んだことだし、早速、情報交換しない?」
サーエイは思いもかけなかった言葉に思わず聞き返す。
「え・・・『交換』?」
「そ、『こ・う・か・ん』!」
フィリア姫はそう言って、ニッと笑うのであった。




