1-118 運命の大地 4
「へぇ~~。サモンってすごい有名人だったんだぁ~」
感心しているのか茶化しているのか判らない態度で話しかけるミリーに、サモンは2人の容体を確認しながら言葉を返す。
「そう思うならもっとこの年寄りを敬って欲しいもんじゃな。それよりも、お主のその予測精度はまったくもって驚異じゃな」
「違いますって!今回は本当に偶然ですってば!」
顔を真っ赤にして全否定するミリーを尻目にサモンは指示を飛ばす。
「男の方は緊急に手術を行う!メイシーとそこの3人は手術を補佐しろ!そこの4人はその少女の治療を!治療は第一世代用の方法で行え!内臓や骨に損傷があるかもしれん!見落とすでないぞ!」
サモンの指示に一斉に「はい!」と答え、テキパキと2人を病院内へと運び込んで行く。
その様子を見ていたミリーとミランダだったが、2人が病院内へ消えてしまうと、ミランダがミリーの袖を掴み心配そうに話しかける。
「ねぇ、ミリーちゃん。あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、お怪我治るかなぁ」
「大丈夫。サモンの爺ちゃんがきっと治してくれるよ」
「ほんと?!じゃあ治ったらミランダと遊んでくれるかなぁ」
ミリーは思わず吹き出す。ミランダが他人の心配をと驚いたが、ただ遊び相手になってくれるかどうかの心配だけだったようだ。
「うん、きっと遊んでくれるよ。しばらく入院しているだろうから、お見舞いに行って仲良くなってればいいんじゃない?さ、お城に戻ろうか」
ミリーは「うん!」と嬉しそうに頷くミランダの手を握り、城へ向かいながら考える。
(確かに今回の一件は偶然の産物だが千載一遇のチャンスでもある。この子の純朴な思いを利用してでもこのチャンスはものにしてやる)
そう思いながらミランダを見つめていると、不意に見上げてきたミランダと目が合う。ミリーは思わず目を逸らしてしまった。
「ミリーちゃん・・・お顔、怖い」
不安そうに洩らすミランダにミリーは最上の笑みを返す。
「え~~っ、そんな事ないよぉ。そうだ!ミランダ。抱っこしてってあげようか!」
「ほんと?!」
笑顔で頷くミリーの首にミランダは満面の笑顔でしがみつく。ミランダを抱えて歩き始めたミリーはミランダのほっぺにスリスリしながら考える。
ミランダを利用すると言っても、ミランダに危険が及んだりイヤな思いをさせたりする訳じゃない。逆にそんな事は絶対に許さない。なのに何なのだろうこの不快感は、気持ち悪さは・・・
ミリーはまだ気づいていなかった。ミリーの心の奥の奥の奥底で、小さな小さなほんの小さなあるものが息を吹き返している事に。
リナイアはベッドに横たわり病室の天井を見つめていた。あれからもう三日目になる。
検査の結果、右足首と肋骨に罅が入っているのが判り治療を受け入院しているのだ。
清潔な病室にベッド。着替えさせられた寝間着も白くて清潔だ。
医師や看護師達も優しく「大丈夫ですよ。大人しく寝ていれば元通り治りますよ」と笑顔で励ましてくれた。
そして今、自分のそばに付いているのは、サモン博士と共にサーエイ様の手術を行った医師だ。初日に会った時、彼女はメイシアと名乗った。名前を尋ねられたが下を向き答えずにいると、彼女は寂しそうに笑いそれ以上の追及は避けてくれた。
彼女はサーエイ様の容体も教えてくれた。手術は成功し、今は経過観察室にいるという。しかし未だ会えないため本当に大丈夫なのか不安ばかりが募っていく。初日に仕出かした失敗の事も不安に輪をかける。
あの日、治療が終わった直後に自分を救ってくれたミリーという少女と、もう一人、美しいブロンドのさらに若い少女が訪ねて来たのてある。
少女はフィリアと名乗り、こちらの名前、身分、来訪目的を笑顔で尋ねてくる。対してリナイアは頑として黙秘を続けた上に
「あなた達は私達の何を知っているの?」
と逆に聞き返したのだ。ブロンドの少女は笑顔のまま黙して喋らない。返事がない事に業を煮やしたリナイアは
「ねぇ、私の言ってる事、判る?」
と催促してしまったのである。
ブロンドの少女は目を細める。口許は笑みを浮かべたままだったが、目はまったく笑っていなかった。
「あなた、何様のつもり?自分の立場が全く判ってないわよね」
ブロンドの少女は吐き捨てるようにそう言うと、おもむろに椅子から立ち上がり、サッサと病室から出て行ってしまった。ミリーと言う少女もヤレヤレといった風で出て行ってしまう。
リナイアも虜囚の身である事を思い出す。
「あれは・・・荒れるわね・・・」
溜め息混じりにボソッと呟いたメイシアの言葉がリナイアを一気に不安にさせる。
「さっきの子供は一体何なんです?何か身分の高い方だったんですか?」
焦るリナイアの様子にメイシアはまた「はぁ~」と溜め息を吐き、窘めるように言葉を吐き出す。
「いい加減にしなさい。あなたは自分の情報を何も与えないくせに他人の情報は欲しがるわけ?図々しいにもほどがあるわよ。あなたがそんな態度をとる限り、誰も何も教えてくれないわよ」
叱責されたリナイアは泣きそうな顔で弁解を始める。
「でも、私、サーエイ様の許可なしにどこまで喋っていいか判断が出来なくって・・・だから何も言えなくって・・・」
(この子、自分の名前位で悩んでるクセに、主人の名前を晒しまくっていることに気付いてないみたい。なんか、かわいい・・・)
メイシアはなんとも言えない同情心を掻き立てられる。この子も敵ばかりの中に一人で放り込まれてどうしたらいいのか判らないのだろうなと思いつつ、だからこそ説教という名の助言を続ける。
「だったら最初からそう言えばいいんですよ。私達をそんな事も判らない野蛮人だと思ってるんですか?取り敢えず今回はとりなしてみますから、どうすればいいかじっくり考えてみなさい」
リナイアはメイシアに返す言葉もなく「はい・・・」とうなだれたのであった。
確かにリナイアは、何の準備もなしにいきなり敵の真っ只中に放り込まれた状況に対応出来ずにいた。そして何よりサーエイがそばにいない事が、こんなにも不安を掻き立てるとは思いもしていなかった。自分がいつの間にかサーエイなしでは何も出来ない事を思い知ったのである。
しかし、そんなリナイアにも、心の糧となるものがあった。それは、ミランダの存在である。
ミランダは初日からミリーを伴って頻繁に見舞いに訪れてくれた。そしてリナイアを楽しませようと、たわいのない話を次々と繰り出し、そして同じようにたわいのない、差し障りのない質問を繰り返してくるのだった。その大人の都合など何も感じさせない、ただ仲良くしたいというミランダの思いをヒシヒシと感じさせるおしゃべりにリナイアは心を開いていった。
付き添いのミリーはミランダの護衛のようなものなのだろう。もしかすると私の為にミリーがミランダを連れてきてくれているのかもしれない。でもミリーは殆ど喋らずに、ただ微笑んでいるだけ。常にジッと見つめられてはいるが気になる程ではなかった。
そのミランダが三日目の今日、リナイアに朗報をもたらした。
「お兄ちゃんともお話してきたよ。やっとお目目を覚ましてくれたの」
サーエイ様が無事!それはリナイアがもっとも元気が出る言葉であった。身を乗り出し、サーエイの様子を聞こうとしたリナイアだったが、言葉を飲み込みミリーの顔を窺う。まだ自分は何も与えていない身なのだ。
しかし、ミリーは意外にもニッコリと頷き、ミランダに声をかける。
「ミランダ。お姉ちゃんにお兄ちゃんの様子を教えてあげなさい」
ミランダは嬉々としてサーエイの様子を話し始める。ミランダはリナイアだけでなくサーエイの所にも足繁く通っていたのである。
さらにサーエイからリナイアへの伝言まで預かってきてくれていた。そのサーエイからの励ましの言葉はリナイアをさらに元気にする。
「私も、お兄ちゃんへの伝言、お願いしてもいいかな?」
ミリーの顔色を窺いながら、リナイアはミランダに聞いてみた。
「もっちろん!わたち、伝言係がんばるね!」
ミランダは満面の笑顔で二つ返事で応えるのだった。
「シャリー。やっぱりここだったか・・・」
サーエイとリナイアの家でカーペットの上に座り込んでいたシャリーに声をかけたのは、シャリーの主であるトゥエルだった。
「あ・・・もうこんな時間でしたか・・・今、水やりを終えますから、ちょっと待っていて下さいね」
シャリーは無理矢理笑顔を作って立ち上がる。
その姿がいたたまれず、トゥエルはシャリーの肩を掴む。
「シャリー。もう水をやる必要はないんだ。もうこの家の主はいない。この家も引き払わなきゃならん。植物は植物園に引き取って貰って・・・」
「嫌です!!」
トゥエルの言葉を強く遮りシャリーが叫んだ。
「絶対に嫌です!あの子達が帰って来た時に、家も植物もなくなっていたらあの子達に怒られます!だから絶対に引き払わせません!水やりも止めません!あの子と約束したんですから!」
「その相手はもういないんだ。お前も報告を見ただろ。クルー達の目の前で原住民達になぶり殺されたと。あの子達は死んだんだ。現実を見るんだ、シャリー」
トゥエルが説得を試みるがシャリーは頑なにそれを拒む。
「嘘です!そんなの嘘です!あの子は約束したんです!必ず無事に帰るって誓ってくれたんです!あの子は約束を守る子です!決して嘘を言わない子です!だから必ず帰って来ます!だから!だから!だからぁ!」
その後はもう言葉にならなかった。シャリーはトゥエルの胸に顔を埋めて大声で泣いた。
「この部屋の事はお前に任せるよ、シャリー。お前が納得いくようにすればいい」
トゥエルは崩れ落ちそうなシャリーを支えながら、さらに語りかける。
「それから今日の評議会で大陸の東海岸への侵攻が決まった。サーエイ達の死を知った圧倒的な世論に圧された面もあるが、評議会でも全会一致での決定だ。侵攻は早くて半年後、遅くとも一年以内。準備ができ次第だ。今頃はもう公布されているはずだ。あの子達の弔い合戦だ」
いまだ泣き止まないシャリーを支えながらトゥエルは、ここにいない2人に向かって心の中で語りかける。
(サーエイ、リナイア、お前達は判っているか?お前達がどれだけ多くの人々を悲しませているかということを・・・)




