表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
110/311

1-110 新たな日常

 モルーグ王国からフィスリニア王国に移り住んで数ヶ月。メイシアは激変した環境にようやく馴染んできていた。




 フィスリニア王国に到着した翌日、メイシアはミリーから知識レベルのチェックを受ける。メイシアが「学院に入って医療関係の勉強がしたい」と申し出たためだ。

「う~ん・・・薬学に関してはここで学ぶものは何もないわね、教師か病院のスタッフにしたい位だわ。へたな第一世代(ファースト)以上、間違いなくA級の実力はあるわね。一体どなたに師事して?・・・えっ!大半が書物から独学?!それはまた・・・」

 ミリーを驚かせる事がどんなに凄い事か、まだ判っていないメイシアは恥ずかしそうにはにかむだけである。

「外科も内科も一定レベル以上あるわね。これなら学院で学ぶよりは・・・ちょっと2、3日考えさせて」

 そうミリーに言われたメイシアは、当面の仕事として薬庫の整理を仰せつかった。

「結構雑然としててね。探しにくかったり、薬を間違えそうになったり。方法はメイシアに任せるから使いやすいように整理をお願いするね」

 と言うことで、メイシアはその日から薬庫に籠もる事になる。


「うわっ、この薬、初めて見た!わっ、こんなのまである?!」

 桁違いの薬の種類と量の多さに、看護師としての本能をくすぐられたメイシアはウキウキと在庫のチェックを始める。そして2日目の事であった。


「おんや?見ない顔じゃのう」

 突然背後から声を掛けられたメイシアは思わず「きゃっ!」と小さな叫び声を上げて振り向くと、そこには、箒を持った1人の老人がニコニコと立っていた。

(初めて見るおじいさんだわ。お掃除の人かしら)

 なんて事を考えながら、メイシアは初対面の挨拶をする。老人はニコニコと頷きながら「何をしているのかね?」と尋ねてきた。

(お名前くらい聞かせて欲しいけど、ま、後でいいか)

 と、メイシアはミリーから言いつけられた仕事を説明する。老人は、ほうほうと頷きながら、どう整理するのかと突っ込んだ話を聞き始める。


 色々質問に答えていくうちに、質問の内容が薬の話から医学全般に及んできた事にメイシアは気が付いた。質問に真摯に答えながらも、

(相当のバックグラウンドがないとこんな質問出来ないわよ!フィスリニアじゃ掃除夫さんですらこんなレベルなの?!これじゃ私なんかとても・・・)

と心が折れそうになっている時だった。

「メイシー。調子はどう?」

 ミリーがにこやかに顔を出したのである。

 メイシアがホッとして声かけようとしたが、先んじたのは件の老人であった。


「おう、ミリーか!丁度よい。この娘、儂が預かるぞい!」

 老人の想定外の一言に「えぇ~~~っ?!」と叫び声を上げるメイシア。さらにミリーが追い討ちをかける。

「あ、どうぞどうぞ」

「えっ?!えぇ~~~っ?!」

パニック状態のメイシアにミリーがにこやかにとどめを刺した。

「メイシー、良かったわね。旧フォルデベルグ三国一の名医、第一世代(ファースト)のサモン=リスドール様が今日からあなた師匠よ。あなたはサモン様の唯一の愛弟子になったのよ」

 メイシアは言葉が出なかった。只々、口をパクパクさせながらミリーとサモンを交互に見やるだけである。そして事態をようやく飲み込むと何故か「ひぃぃ~~~!」と叫びながらサモンに向かって土下座をするのであった。




 その後、数ヶ月の間にフィスリニア王国では幾つかの大きなイベントがあった。

 フィリア姫とウィルファン王子の結婚式。そして、ウィルファン王子の戴冠式である。

「一緒にやればいいじゃない!」

 とフィリア姫はぶーたれたが、マーサの意向には逆らえない。

 結婚式や戴冠式ではフィリア姫が期待通りドタバタをやらかすのであるが、その話は取り敢えず割愛する。


 そしてイベントの締めという訳でもないが、城の身内だけでメイシアとフランクの結婚式も執り行われた。3つの華やかなイベントを仕切る事が出来たマーサはずっと上機嫌であることは言うまでもない。





 サモンの弟子となったメイシアは、基本的にサモンにくっついてアチコチ回る事になる。外科手術では必ず助手を務め、その技術の習熟に精を出し、サモンが発する言葉は全て記憶に留めていく。その成長振りにはサモンもミリーも驚くばかりであった。

 しかも、それ以外にも、モルーグ王国から続々と送り込まれてくる留学生の管理とシーザー王子の世話もこなす。さらに、スニーキー隊の女房達と共に三度の食事の支度も手伝うのだ。

 まさに「いつ休憩しているの?」と言いたくなるような状況であるが、メイシアとしては、無理にお世話になっているのだから、やれる事は何でもしなきゃ、という思いからの頑張りである。


 しかし、ここにきてメイシアの頑張りを試す事態が起きる。ミリーから更なる学習を指示されたのだ。

 アルベルトから戦術・戦略を、ケニーから財務・経済を学べというのである。これは、先にマイケルの弟子となっていたフランクと共に、との事だった。

「あまり私達には関係ないかと・・・」

 と、疑問を口にしてみるが、

「ん?必要だからやるのよ」

 と、ミリーににこやかに返されてはどうしようもない。


 あまりにも忙しすぎるメイシアだったが、メイシアは自分がこの状況を楽しんでいることに気が付いていた。

 モルーグ王国にいた頃は、生きているのか死んでいるのか判らない境遇の中で、ただ無為に時を無駄遣いしてきた。

 しかし、ここでは違う。まさに「生きてる!」という実感に溢れている。忙しくなればなる程、一分一秒が輝いて見えるのだ。

 この話を夫のフランクにするが、

「俺はもう少しノンビリしたい」

との、にべもない返事には苦笑するしかなかった。




 そして、メイシアは自分が「生きてる!」と感じる別の要因にも気付いていた。それは『会話』だ。モルーグ王国にいた時と比べて格段に人との会話の量が多いのだ。

 自分が早くこの城に早く馴染むようにと気を使われているのかと最初は恐縮していたのだが、どうもそればかりではないらしい事に気付く。周りの人々の間でもいつもアチコチで楽しげな会話の花が開いているのだ。

 メイシアはアルベルトの言葉を思い出した。「城の人間は皆『家族』なんだ」と言っていた。そう、目の前で繰り広げられているのは、仲のいい家族の日常の会話なのだ。そして自分が転がり込んだのはそんな素敵な日常なのだ。


 どうやらシーザー王子も、モルーグ王国では味わった事がない状況になにかと戸惑っているようであった。そんなシーザー王子にメイシアはアドバイスを与える。

「シーザー様。お友達を沢山お作りなさいませ」

「友達?」

「そうです。お友達です。皆さんはなにかとシーザー様に声をかけて下さるでしょう?これからはシーザー様からも声をお掛けなさいませ。そうすればお友達なんて直ぐにできます」

 これは、メイシアが自分自身にも言い聞かせている言葉だった。だからこそ、自分からも積極的に関わろうとして忙しさが増しているのである。


 そんな中、メイシアは自分の事を一番気遣ってくれている存在に気付く。それはミリーだった。なにかと細やかに声を掛けてくれて、いろいろな事を教えてくれたり困ったことがないか尋ねてくれる。

 メイシアの仕事量もチェックしてくれているようで仕事を入れすぎてしまった時はうまく軽減してくれたりするのだ。

「ミリーは、メイシーの事がとても気に入っているのさ」

 そう笑いながら言うアルベルトの言葉は、メイシアの明日への活力になるのであった。




 そんなメイシアでも、一つ気になることがあった。自分の師匠が第一世代(ファースト)だと言うことは、自分も第二世代(セカンド)になれる可能性があるのではないか、ということだ。

 メイシアはミリーに恐る恐る聞いてみる。

「あの、ミリーさん。サモン様に第二世代(セカンド)の称号を戴くには、一体いくらお支払いすればよろしいのでしょうか?」

 ミリーは笑いながらも困ったような顔で答える。

「モルーグではそれが当たり前なのかもしれないけど、称号と言うのは本来、お金で買うものじゃないわ。師匠が称号に値すると判断した時に与えられるものよ。もっとも継承者(サクセサー)だけは第三者の承認が必要だけどね」

 ミリーの答に、メイシアは恥ずかしい事を聞いてしまったと顔を真っ赤にして後悔する。


「モルーグにいたんだから、そう思ったのは仕方がないわよ。でも考えて見て。ここならお金なんかなくったって、実力さえあれば称号が手に入るのよ。後はあなたの頑張り次第!」

 ミリーの励ましにメイシアははにかむ。

(実力かぁ・・・私なんかまだまだとてもとてもだわね)

 フィスリニア王国での自分の今の状況に満足しているメイシアには高望みはない。

(これ以上、何かを望むなんて贅沢よね)


 そう思って笑うメイシアは、自分の立場が斜め上に大きく変わる未来が待っていることを知る由もないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ