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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
108/311

1-108 遠い大地 4

「禁錮30年なんて・・・そんな・・・」

 リナイアは絶句する。


「裁判は荒れたよ。『20ナンバーズ』は全員死刑を求めた。まぁ、自分達の分身が殺されたんだからね。気持ちは解らんでもない。無罪を主張したのは、自分、イレブン(11)様、トゥエル(12)様、サーフォー(34)の4名。『20ナンバーズ』以外に死刑を求めた者が2名。残りは禁錮1年から50年の間でバラけた。ジークハルト様なら心の葛藤といった感じだな」

 サーエイ(38)は一つ溜め息を吐く。

「結局、不可抗力とは言え『ナンバーズ』を見捨てた罪は消えないとされてね。30年という落とし所になってしまった」


 力無く語るサーエイ(38)にリナイアは訴えかける。

「見捨てたなんて!そんな!レイナ様は出発前におっしゃっていたんですよ!探索から帰ったらツーファイ(25)様と結婚する事になったって!」

 リナイアは、はにかみながら打ち明けるレイナの幸せそうな笑顔を思い出す。

 ツーファイ(25)とレイナの仲むつまじさは、『ナンバーズ』や『パートナー』の間では有名な話であった。リナイアは2人に憧れ、2人の姿に自分とサーエイ(38)の姿を重ね合わせていた。


「そんなレイナ様が、ツーファイ(25)様を見捨てるなんてあり得ません!レイナ様なら自分の命を賭してでもツーファイ(25)様を助けようとなさる筈です!」

 思わず叫ぶリナイアをサーエイ(38)は心配そうに見つめる。リナイアは自分の感情の高ぶりに気付き、目を閉じて呼吸を整え気持ちを落ち着かせる。

「失礼しました。ところで、どうしてこんな事になったのか、レイナ様から証言は取れたのですか?」

「あぁ、一応ね」

 サーエイ(38)は浮かない顔で口を開く。


「その日、ツーファイ(25)様とレイナさんは別行動を取っていたらしい。そして合流した時にはもうトラブった後で、何が原因なのか判らないそうだ。そして2人で逃げるうちにはぐれてしまい、探し出した時には、ツーファイ(25)様は倒れて何人もの原住民に剣を何度も突き立てられていたそうだ。ツーファイ(25)様は動かずもう絶命していたようだったそうだ」

「レイナ様はその様子を見て逃げ出した、と」

 リナイアの確認にサーエイ(38)は黙って頷き言葉を補う。

「2人で逃げ始めた時にツーファイ(25)様から言われたらしい。自分に何かあったらお前だけでも逃げろ、と」


 リナイアは俯いたまま青い花を凝視する。無言のリナイアにサーエイ(38)が声をかける。

「どう思う?」

 リナイアは視線を動かさないまま答える。

「私はレイナ様の事を信じています・・・が・・・何か気持ち悪いです」

「お前もか・・・」

 2人とも得体の知れない不安から隠れるように無言のまま動かない。が、暫くしてサーエイ(38)がリナイアを導くように立ち上がる。リナイアもサーエイ(38)に寄り添うように立ち上がり、2人で歩き始める。


「原住民とトラブルになった原因は結局解らないのですか?」

「あぁ、今はまだ。2人の活動記録を躍起になって分析している最中さ。活動方法に何か致命的な欠点があるんじゃないか、ってね」

「・・・・・・あ、あの・・・・・・」

 サーエイ(38)の説明を聞いたリナイアが歯切れの悪い言葉で何かを言いたげに振る舞う。

「ん、どうした?」

 サーエイ(38)の優しい微笑みに後押しされて、リナイアは不安を口にする。

「あの・・・私達の『ネオ=テラ』行きはどうなるのでしょうか?」


 ツーファイ(25)達が帰還後、サーエイ(38)達がすぐに出発する事になっていた。しかし、今回の事件の影響で出発準備が中断しているのである。

「リナイアはどうしたい?」

「私は・・・サーエイ(38)様の判断にお任せします。ただ言えることは、危険はもとより承知、と言うことです」

 サーエイ(38)の問い掛けにリナイアは、覚悟は出来ているという表情で答える。

 サーエイ(38)はリナイアを見守るように微笑み頷く。

「分析結果がどうであろうと計画は進めるよう申し出ている最中だ」


 リナイアは無言で頷く。サーエイ(38)もリナイアも言わすに飲み込んでいる言葉がある。それは、『自分に何かあったら一人で逃げて』と言う願いだ。しかし、『相手に何かがあっても共に』と反発されるのは目に見えている。だからお互い口にしないのだ。

 リナイアはその事を考えて、先程感じた気持ち悪さにいき当たる。

 レイナ様だってそう思っていたに違いない筈だ。では何故逃げたのか。こんな感傷は私が子供だからなのか。それとも、実際に目の当たりにするとそうなってしまうのか。自分と同じと思ったレイナ様が何を考えたのか理解出来ない、自分の考えとのギャップが気持ち悪いのだ。


 リナイアがそんな事を考えながら2人で歩いていると、サーエイ(38)が語りかけてくる。

「今回の事件。箝口令を出しているが、一般市民の間に漏れているらしい。『トカゲどもに報復を!』と声高に主張する連中が増えているそうだ。『こうなっても未だに手を下さない評議会など腰抜けの集団だ!』とね」

「即時侵攻を訴え続けている『急進派』の連中ですね。そいつらが今回の事件を利用していると」

 大崩壊から40年が経った。早く地表に降り立ちたい市民の気持ちも判らないではない。しかし、大崩壊で失った物が大きい。

 居住区や住民などの目に見える物だけではない。様々な技術も多くが失われたのである。その失われた技術を様々な方法でサルベージを続け、ようやく大崩壊前の状態にまで戻りつつあるのだ。侵攻の準備がようやく始まったばかりなのである。


「侵攻は一気に大陸全土に決めなければならない。兵士達の犠牲を少なくするためにもね。それにはまだ兵士の数も兵器の数も少なすぎる。マシーナも20機ばかりでは如何ともし難い。しかし、量産体制が技術的に確立した今、機械的物量は10年を待たずに十分な量になる」

「残るは人的物量・・・」

「そう、そのためにも優良な食糧の確保が優先事項となる。居住区に集中していたコピー食品プラントは大崩壊で全て失われた。プラントを再建しても現在のような貧弱なコピーベースしかない状況ではこれ以上の人口増加に対応する量の食糧を維持する事は難しい。だからこそ、我々の探索が中止になることはないのさ」

「歩留まりの良いコピーベースの確保ですね」

「うん、そういうこと。でも、それ以上に自分でも土を耕して育ててみたい、というのが大きいかな」

 サーエイ(38)はそう言うと無邪気に笑いリナイアも笑う。


 植物園を暫く行くと先生に引率された小さな子供達と出会う。授業の一環で見学に来ているのだろう。


「あっ!サーエイ(38)様とリナイア様だぁ!」

 1人の子供が2人に気付いて声を上げ、子供達が全員笑顔で手を振ってきた。サーエイ(38)とリナイアもそれに応えて笑顔で手を振る。

 2人が仲むつまじく歩く姿は居住区では有名であった。ツーファイ(25)とレイナがそうであったように・・・




 リナイアがトゥエル(12)のパートナーであるシャリーから呼び出しを受けたのは数日後の事だった。


 リナイアが、待ち合わせ場所のカフェに赴くと、既に屋外のテラス席でシャリーが待っていた。

「遅くなって申し訳ありません!」

「あら、遅れてないわ。早いくらいよ。私が早く来すぎただけだから気にしないで」

 慌てて駆け寄り頭を下げるリナイアに、シャリーは柔らかく微笑む。シャリーのブルネットの長く艶やかな髪も美しい容姿も落ち着いた性格も、リナイアの理想の姿であり憧れの的であった。その腕の中で眠る赤ん坊も・・・


 トゥエル(12)は男女4人ずつ8人のパートナーを持っていた。シャリーは4番目に雇い入れられたパートナーであり、そしてトゥエル(12)の妻となった。その腕に抱かれているのはトゥエル(12)との愛の結晶である。

 その愛らしい寝顔に思わず笑顔で見入るリナイアにシャリーが話しかける。

「急に呼び出したりしてごめんなさいね。どうしてもあなたにお願いしたい事があって・・・」

「は、はい!私でお役に立てる事であれば何でも!と、言うか、私のような若輩者でお役に立てるでしょうか?」

 憧れの人から頼みがあると言われカチコチに緊張するリナイアに、シャリーは微笑みかける。

「そんなに固くならないで。あなたなら大丈夫。いえ、あなたにしか出来ない事なの」

 そう言うと、シャリーの顔から笑みが消え、暗い表情がとって変わる。


「あのね・・・レイナに会って欲しいの」

 リナイアの表情が一気に締まる。

 シャリーが説明するには、シャリーもリナイアと同じような違和感を感じたのだと言う。そこでレイナに話を聞こうと昨日面会したのだが、何を言っても始終俯いたまま目も合わさず会話にならなかったのだ。

 そこで『ナンバーズ』との関係がレイナと同じような立場であり、私的にも仲が良かったリナイアなら何か聞き出せるかもと思ったのだ。


「お願い出来ないかしら。面会の手続きは私がやっておくから。ただ、事が事だけに無理強いは出来ないのだけど・・・」

「やります!こちらからもお願いしたいくらいのお話です!是非やらせて下さい!」

 リナイアは思わずテーブルに身を乗り出して答える。

「ありがとう。リナイア」

 そう言って微笑みが戻ったシャリーの表情はやっぱり素敵だなとリナイアは密かに思うのであった。




 翌日、リナイアはレイナが収監されている監獄エリアへと向かう。サーエイ(38)が「僕も一緒に行こう」と自身の予定をキャンセルして同行してくれたのは心強い限りだ。


 面会室の扉を開けようとドアノブに手をかけると、サーエイ(38)が待ったをかけるように手を重ねてきた。

「いいかい、リナイア。よくお聞き。レイナさんがどんな様子でも動揺しないように。いいね」

 サーエイ(38)の忠告は裁判で見た経験によるものだろう。リナイアはサーエイ(38)の目を見てしっかりと頷く。


 中に入るとレイナはまだ来ていなかった。中央のテーブルの椅子に腰掛けて待つこと数分。もう一つの扉から看守に連れられてレイナが入ってくる。

 レイナの様子にリナイアは目を見開き、思わず声を上げそうになるのを何とか飲み込んだ。


 目の前のレイナには、リナイアが良く知る明るくて笑顔が素敵なレイナの面影は微塵も残っていなかったのであった。

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