第七試合 妖魔の棒と脅威の魔槍
作品は完結させております。
安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。
たくさんのブックマーク、評価、コメント。
また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。
よろしくお願いします。それではどうぞ!
闘技場を包んでいた歓声が、徐々に静まっていく。
『さあ、続いては第一回戦、第七試合です!』
実況の声が響き渡る。
『ここまで六試合、数々の伝説が激突してまいりました! そして次に登場する二振りもまた、世界に名を残す伝説の武器!』
左右の入場口から、二人の人影が姿を現す。
『中国の伝奇小説「西遊記」に登場する、あまりにも有名な伝説の武器!』
『かつて斉天大聖・孫悟空が振るったとされる、あの如意棒!』
実況がそう言うと、どこか少年のような快活さを残した青年がスクリーンへと写し出された。
『そしてもう一方は――ゲイ・ボルグ!!』
赤髪を後ろへ流した鋭い目つきの男だった。
会場が大きくどよめく。
『アイルランド神話に登場する英雄、クー・フーリンが操ったとされる伝説の魔槍!』
『その名を聞けば、神話を知る者ならば誰もが恐れるでしょう!』
二人が中央へ歩み寄る。
『それでは、両者――武器を顕現!』
二人が同時に宝珠へ手を伸ばす。
光が弾けた。
少年の手に現れたのは、一本の棒。
だが、それはただの棒ではない。
見る者によっては短く、また別の者から見れば長大にも見える。
長さすら自在に変える、伝説の武器。
観客席から一際大きな歓声が上がる。
対する男の手に現れたのは、一振りの槍。
鋭く伸びた穂先。
禍々しいほど静かな存在感を放っていた。
如意棒が肩に担ぐ。
「へえ……槍か」
ゲイ・ボルグは静かに槍を構えた。
「……そうだ」
「楽しめそうだな!」
『両者、構えて――』
如意棒が笑う。
『試合――開始!!』
その瞬間。
如意棒の姿が消えた。
「――ッ!」
ゲイ・ボルグが反応する。
しかし、その横を風が通り抜けた。
「遅い!」
背後から声。
振り向く。
同時に、棒が唸った。
――ゴォンッ!!
ゲイ・ボルグが槍で受け止める。
衝撃で身体が横へ吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
地面を滑る。
その間にも、如意棒はすでに距離を取っていた。
「ほら!」
棒が伸びる。
一瞬で数倍の長さとなった棒が、ゲイ・ボルグの胸元へ迫る。
「くっ!」
槍を立てる。
――ガァン!!
受け止めた瞬間、如意棒が棒を縮めた。
そして――
「そこ!」
一気に踏み込む。
今度は至近距離。
棒が横薙ぎに振り抜かれる。
ゲイ・ボルグは身を沈める。
その頭上を棒が通過した。
「惜しい!」
如意棒が笑う。
そのまま身体を回転させる。
「でも――」
棒が伸びる。
「こっちは当てる!」
――ドゴォン!!
直撃。
ゲイ・ボルグの身体が弾き飛ばされる。
『速い!!』
実況の声が響く。
『如意棒選手、圧倒的な速度でゲイ・ボルグ選手を翻弄しています!』
観客席から歓声が巻き起こる。
如意棒は余裕の表情だった。
「どうした?」
棒を肩へ戻す。
「その程度か?」
ゲイ・ボルグはゆっくりと立ち上がる。
身体には傷がある。
しかし、その目は変わらない。
「……まだだ」
「へえ」
如意棒が笑った。
「なら、もっと行くぞ!」
再び駆ける。
速い。
先ほどよりも速い。
ゲイ・ボルグが槍を突き出す。
如意棒は紙一重でかわす。
そのまま横を通り抜け――
――ガキンッ!
一瞬だけ、二つの武器が交差した。
ゲイ・ボルグの槍先が、如意棒の腕を僅かに裂いた。
しかし如意棒は止まらない。
「その程度!」
背後から振り抜く。
――ドォン!!
ゲイ・ボルグが再び吹き飛ぶ。
「……一発」
「ん?」
如意棒が振り返る。
ゲイ・ボルグが呟いた。
「これで二発」
「何を数えてる?」
「……別に」
ゲイ・ボルグは槍を構え直す。
「気にするな」
「変な奴だな」
如意棒は笑い、再び走った。
そこからは、一方的な戦いだった。
如意棒は距離を詰める。
一撃。
離れる。
再び接近。
二撃。
また離れる。
伸ばす。
縮める。
薙ぐ。
突く。
その動きには、一切の無駄がない。
対するゲイ・ボルグは、反撃の機会をほとんど得られない。
それでも。
攻撃が交差する瞬間。
数回に一度だけ。
槍先が如意棒の身体を捉える。
浅い傷。
僅かな出血。
だが、それだけ。
如意棒は気にも留めなかった。
「当たってないのと同じだ!」
さらに加速する。
「……五発」
ゲイ・ボルグが呟く。
「これで六発」
如意棒の動きが一瞬だけ止まった。
「……だから何なんだ?」
「何でもない」
ゲイ・ボルグは答えた。
そしてまた槍を構える。
「続けよう」
「望むところだ!」
如意棒が地面を蹴る。
姿が霞む。
一瞬でゲイ・ボルグの背後へ。
「終わりだ!」
棒が伸びる。
ゲイ・ボルグが振り向く。
槍を構える。
――ガキィン!!
また交差。
如意棒の肩に、槍先が僅かに食い込んだ。
「……七」
如意棒は構わず攻撃を続ける。
「八」
さらに一撃。
「九」
「さっきからなんだ!こんなかすり傷みたいな攻撃を数えやがって!」
ゲイ・ボルグへ向け、苛立ちを隠せない如意棒が叫んだ。
「これで終わりだ!」
そう言って如意棒が大きく踏み込んだ。
これまでで最も速い。
最も鋭い一撃。
一直線にゲイ・ボルグへ迫る。
ゲイ・ボルグは――
動かなかった。
いや。
動いた。
如意棒へ向けてではない。
ゆっくりと、背を向けた。
「……?」
如意棒の眉が動く。
「何のつもりだ?」
答えはない。
ただ、ゲイ・ボルグが静かに呟いた。
「さっきので――」
如意棒の目が見開かれる。
「十発目だ」
「……何?」
その瞬間。
如意棒の身体が止まった。
「……ッ!?」
胸元。
肩。
腹部。
脚。
身体の内側から、何かが蠢く。
「ぐ……っ」
一筋の血が、口元から流れた。
そして――
「がああああああっ!!」
身体の内側から無数の刃が突き出した。
赤い血が噴き出す。
如意棒の身体が大きく仰け反る。
「な……に……を……」
無数の刃が、体内で展開する。
ゲイ・ボルグ。
その恐るべき力は、刺した瞬間に終わるものではない。
刺した傷口から侵入した刃が、時間を置いて対象の内部で展開する。
如意棒は、これまでの攻防ですでに十度、その刃を受けていた。
その全てが――
今、同時に牙を剥いた。
如意棒の手から、棒が落ちる。
カラン――。
身体が崩れた。
ドサッ。
闘技場から、歓声が消えた。
誰もが目の前の光景を理解できずにいる。
実況も言葉を失っていた。
やがて。
震える声が闘技場へ響く。
『……な、何ということでしょう……』
『あれほど圧倒していた如意棒選手が……』
ゲイ・ボルグが振り返る。
「速かった」
静かな声。
「本当に速かった」
倒れた如意棒を見る。
「だが……追いつく必要はなかった」
槍を肩へ担ぐ。
「一度でも刺せればいい」
そして――
「十度、刺せればいい……」
実況が叫ぶ。
『勝負あり!!』
一拍。
『第一回戦、第七試合――!!』
会場中が息を呑む。
『勝者――ゲイ・ボルグ!!』
歓声が爆発した。
その歓声の中。
ゲイ・ボルグはただ静かに、己の槍を見つめていた。
お疲れ様でした。
読んで下さり感謝致します。
話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。
更新時間:毎日12:00となっております。




