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第五試合 名を持つ魔槍と名も無き剣

作品は完結させております。

安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。


たくさんのブックマーク、評価、コメント。

また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。


よろしくお願いします。それではどうぞ!


第一回戦も、五試合目へと突入していた。


ここまでに勝ち上がったのは四振り。


アロンダイト。


ミョルニル。


方天戟。


天羽々斬。


いずれも名の知れた伝説の武器たちだ。


観客たちも、次に姿を現す武器がどんな伝説を背負っているのか、期待に胸を膨らませていた。


『さあ! 続いて第五試合です!』


実況の声が響く。


『ここで登場するのは、これまでとは少し趣の違う武器!』


会場の照明が落ちる。


暗闇の中、一筋の光が舞台の奥を照らした。


そこに立っていたのは――一人の女騎士。


長い金髪。


白を基調とした甲冑。


凛とした瞳。


女騎士は堂々とした足取りで舞台中央へ進む。


『ヨーロッパの騎士道物語に登場する女騎士――ブラダマンテ!』


会場から歓声が上がる。


ブラダマンテは観客席へ視線を向けると、軽く一礼した。


『そして彼女が振るった魔法の槍!』


スクリーンに一本の槍が映し出される。


『その名も――魔槍ブラダマンテ!!』


歓声がさらに大きくなる。


ブラダマンテは小さく笑った。


「主の名を冠する槍か……悪くない名前ね」


そして――。


『対する選手は!』


会場の照明が反対側へ移る。


だが、そこには誰もいなかった。


「……?」


観客席がざわめく。


実況も一瞬言葉を失った。


『えー……』


沈黙。


『……対する選手は――』


スクリーンに文字が表示される。


登録名:なし


会場が静まり返った。


『……名前がありません』


ざわ……。


ざわ……。


観客席から困惑の声が漏れる。


さらに文字が表示される。


持ち主:不明


『持ち主も不明!』


そして最後に。


実況が戸惑いながら読み上げる。


『武器の種類――剣!』


『……以上です』


「以上って……」


観客席の誰かが呟いた。


「何だよ、それ」


そのとき。


舞台の奥から、一人の青年が歩いてきた。


黒とも銀ともつかない髪。


特徴らしい特徴のない顔。


粗末な衣服。


そして――両手には何も持っていない。


青年は舞台中央へ歩いてくると、ブラダマンテの前で止まった。


ブラダマンテが青年を見る。


「あなたが私の対戦相手?」


青年は頷いた。


「……たぶん」


「たぶん?」


「俺にもよく分からない」


ブラダマンテは眉を寄せる。


「名前は?」


青年は少し考えた。


「……ない」


「持ち主は?」


「分からない」


「自分が何の剣なのかは?」


青年は答えなかった。


答えられなかった。


しばらくして、ぽつりと言う。


「……それも、分からない」


ブラダマンテは目を細めた。


「随分と奇妙な人ね」


「俺もそう思う」


「剣なのに?」


「……剣らしい」


「らしい?」


青年は自分の手を見つめる。


「自分が何なのかも、よく分からない」


その言葉に、ブラダマンテは少しだけ表情を和らげた。


だが、すぐに騎士の顔へ戻る。


「事情は知らないけれど――」


一歩下がる。


「試合は試合よ」


青年も頷いた。


「分かってる」


『両者、宝珠を!』


「これが……武器になるのか」


名無しが呟く。


ブラダマンテは微笑む。


「そうよ」


二人が宝珠を握る。


『戦闘武器、顕現!』


光が弾けた。


ブラダマンテの手の中で宝珠が変化する。


光が一本の長い柄を形作り、その先端へ鋭い穂先が生まれる。


やがて一本の槍が完成した。


魔槍ブラダマンテ。


美しく、そして不気味なほど鋭い。


ブラダマンテは槍を一度振る。


風が舞台を駆け抜けた。


「……久しぶりね」


まるで、自分の身体の一部を確かめるように。


対する名無しの宝珠も光を放つ。


しかし――。


その光は、なかなか形を定めなかった。


剣になる。


一度そう見えた。


だが、すぐに輪郭が崩れる。


「……?」


名無しが見つめる。


光が再び集まる。


そして、一本の剣になった。


特別な装飾はない。


宝石もない。


紋章もない。


無骨な形をした石剣。


名無しはそれを握った。


「……剣だ」


ブラダマンテが苦笑する。


「見れば分かるわ」


「そうか」


『それでは――!』


会場が静まり返る。


『第五試合――開始!!』


鐘が鳴った。


瞬間。


ブラダマンテが駆けた。


速い。


「――ッ!」


名無しは反応が遅れた。


魔槍が一直線に突き出される。


「くっ!」


名無しは身体を捻って避ける。


槍先が頬を掠めた。


「速い……」


「これくらいは避けてもらわないと困るわ!」


ブラダマンテが槍を引く。


再び突く。


名無しは剣で弾いた。


ガキィン!


「……!」


今度は名無しが踏み込む。


剣を振り下ろす。


ブラダマンテは槍の柄で受け止めた。


「力はあるのね」


「……そうみたいだ」


「自分のことなのに?」


「分からない」


ブラダマンテは一瞬だけ呆れた顔をした。


「本当に変な人」


槍を回転させる。


「でも――」


穂先が名無しへ向く。


「戦えるなら十分よ!」


突撃。


名無しは剣を構えた。


槍先を弾く。


しかし、ブラダマンテはそのまま槍を返した。


横薙ぎ。


名無しが跳ぶ。


さらに突き。


避ける。


また突き。


避ける。


「くっ……!」


名無しの頬に傷が増える。


ブラダマンテは攻撃の手を緩めない。


「どうしたの!」


「……!」


「あなたは剣でしょう!」


名無しは歯を食いしばった。


「……そう、らしい」


「なら――!」


ブラダマンテが踏み込む。


「剣らしく戦いなさい!」


強烈な突き。


名無しは剣を立てて受ける。


ガァン!


身体が後ろへ押し込まれる。


「ぐっ……!」


「まだよっ!」


さらに突く。


名無しが弾く。


だが、ブラダマンテは一歩も退かない。


「あなたには名前がない」


「……」


「持ち主も分からない」


「……」


「それでも、ここに立っているのでしょう?」


名無しの目が揺れる。


「だったら――」


槍が迫る。


「自分が何者なのか、戦いながら探せばいい!」


名無しは反射的に剣を振った。


ギィン!


魔槍が弾かれる。


ブラダマンテの目が見開かれた。


「……!」


名無し自身も驚いていた。


今の一撃。


自分で考えて振ったわけではない。


身体が勝手に動いた。


「今の……」


名無しは自分の剣を見る。


「俺は……」


何かが頭をよぎった。


暗闇。


赤い光。


燃え盛る炎。


そして――。


誰かの手。


「……誰だ?」


頭を押さえる。


「誰なんだ……?」


ブラダマンテが構えを解かない。


「大丈夫?」


「……分からない」


名無しは頭を振る。


「何か……今、見えた」


「記憶?」


「たぶん」


ブラダマンテは槍を握り直した。


「なら、終わらせるわ」


名無しが顔を上げる。


「……え?」


「戦いの最中に隙を見せるものじゃない!」


ブラダマンテが突っ込む。


名無しは咄嗟に剣を構えた。


槍が迫る。


その瞬間――。


名無しの身体が動いた。


剣を斜めに構える。


槍を受け流す。


そのまま一歩踏み込む。


「――ッ!」


ブラダマンテの目が見開かれる。


名無しの剣が、魔槍の柄を打ち上げた。


槍が宙へ舞う。


「なっ――!」


名無しは自分でも驚いていた。


だが、身体は止まらない。


剣を返す。


ブラダマンテが身を引く。


紙一重。


それでも――。


名無しの剣先が、彼女の胸元を捉えた。


「――っ!」


ブラダマンテが吹き飛ぶ。


床を転がる。


槍が遠くへ落ちた。


カラン――。


「……!」


ブラダマンテは立ち上がろうとする。


しかし、膝が震えた。


名無しは剣を構えたまま、呆然としていた。


「……今の、俺が?」


ブラダマンテは苦笑する。


「どうやら……あなたにも、ちゃんと戦い方があるみたいね」


『ブラダマンテ選手、立ち上がれない!』


実況の声が響く。


『戦闘続行不能と判断されます!』


会場がざわめく。


『第五試合――!』


一拍。


『勝者は――!』


実況が叫ぶ。


『名も無き剣!!』


会場が沸いた。


だが。


名無しは歓声を聞いていなかった。


自分の手にある剣を見つめている。


「……俺は」


何者なのか。


何という名前なのか。


誰に使われていたのか。


何のために作られたのか。


何一つ分からない。


それでも――。


胸の奥に、確かな何かが残っていた。


「……この剣」


名無しは剣を見つめる。


「俺は……これを知ってる」


ほんの一瞬。


刀身に映った自分の顔が、別人に見えた。


古びた戦場。


赤く染まった大地。


燃え上がる空。


そして――。


巨大な何かが、空から落ちてくる。


「……っ!」


映像が消える。


名無しは目を閉じた。


「今のは……何だ?」


答えはない。


彼にはまだ、名前がなかった。


ただ一つだけ。


この大会で初めて――。


名を持たない剣が、勝ち上がった。


そしてその瞬間から。


誰も知らない一振りの過去が、少しずつ動き始める。

お疲れ様でした。

読んで下さり感謝致します。


話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。

更新時間:毎日12:00となっております。

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