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32/33

第三十二試合 姉と弟

作品は完結させております。

安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。


たくさんのブックマーク、評価、コメント。

また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。


よろしくお願いします。それではどうぞ!


準決勝第二試合。


決勝進出を懸けた戦いが、間もなく始まろうとしていた。


闘技場へ続く長い通路。


その中を、一人の女性が歩いていた。


黄金の髪。


凛とした表情。


静かな足取り。


最硬の盾――イージス。


これまで幾度もの激戦を潜り抜け、それでもなお勝ち残ってきた彼女の前に、ついに最後の壁が立ちはだかろうとしていた。


「イージス」


声が掛かった。


イージスが振り返る。


そこにいたのは、かつて戦った者たちだった。


神槍ヴェール。


燭台切光忠。


そして、パラシュ。


ヴェールが笑う。


「ついに準決勝だな」


「ええ」


イージスも微笑む。


燭台切光忠が嬉しそうに口を開く。


「あと二つで優勝だよ!」


「フフッ」


イージスが小さく笑う。


「まだ気が早いわよ……」


パラシュが腕を組む。


そして、短く言った。


「勝てよ」


イージスはパラシュを見る。


「弟に負けるはず無いでしょ?」


「…………」


「…………」


「…………」


三人が固まった。


「へっ?」


ヴェールが目を丸くする。


燭台切光忠も首を傾げる。


「弟……?」


パラシュが聞き返す。


「誰が誰の?」


イージスは不思議そうに首を傾げる。


「ん?」


そして――。


当然のことのように答えた。


「ヘラクレスの事よ」


一拍。


「私の主、アテナはヘラクレスの姉よ。だから私としてもあの子は弟みたいなもの」


「…………」


パラシュの顔がみるみるうちに変わる。


そして――。


「プッ……ハッハッハッハッハ!!」


豪快な笑い声が通路に響き渡った。


「そうかそうか!!」


腹を抱えて笑う。


「弟か!!」


ヴェールも苦笑する。


「なるほど……ますます負けられないな」


燭台切光忠が笑う。


「まあ、お姉ちゃんの盾なら、どんな攻撃でも防ぎきれるでしょ」


「なら良いけどね」


イージスはそう言って笑った。


しかし――。


その瞳の奥には、ほんの僅かな緊張があった。


「……弟、か」


小さく呟く。


そして前を向く。


「負けるわけにはいかないわね」


一方――。


別の通路。


ヘラクレスもまた、闘技場へ向かって歩いていた。


その先に、一人の男が立っている。


青白い雷を纏う男。


ケラウノスだった。


ヘラクレスが足を止める。


「……またあんたか」


眉をひそめる。


「なんだよ」


ケラウノスは肩をすくめる。


「いや、ちょっと散歩してただけだ」


「嘘つけよ……」


ヘラクレスが呆れたように言う。


「こんな何も無い所に来るわけねえだろ」


「…………」


「全く……」


ヘラクレスが歩き出す。


その背中へ――。


「まあ、なんだ」


ケラウノスが声を掛ける。


ヘラクレスが振り返った。


「負けるなよ」


ヘラクレスは少しだけ目を細める。


「負けるつもりはねえよ」


「そうか」


「当たり前だろ」


拳を握る。


「俺は勝つ」


ケラウノスは僅かに笑った。


「……そうだな」


ヘラクレスはそのまま歩いていく。


ケラウノスは、黙ってその背中を見送った。


そして――。


左右の入場口が開いた。


闘技場を包んでいた歓声が、一気に膨れ上がる。


『さあああああ!!』


実況の声が会場全体へ響き渡る。


『皆様、お待たせいたしました!!』


巨大スクリーンへ二人の姿が映し出される。


『準決勝、第二試合!!』


観客席が大きく揺れる。


『決勝進出を懸けた、最後の戦いです!!』


片側の入場口から――。


イージスが姿を現した。


黄金の髪。


凛とした表情。


静かな足取り。


『ここまで数々の猛攻を防ぎ続けてきた、最硬の盾!!』


『女神アテナの神聖なる盾――!!』


『イージス!!』


大歓声。


そして反対側。


ヘラクレスが姿を現す。


鍛え上げられた巨体。


傷だらけの身体。


鋭い眼差し。


『対するは――!!』


実況の声がさらに熱を帯びる。


『十二の功業をその身に宿す、古代ギリシャ神話の英雄!!』


『ヘラクレス!!』


――おおおおおおおおおおっ!!


会場が揺れる。


二人が闘技場中央へ歩み寄る。


そして――。


向かい合った。


ヘラクレスがイージスを見る。


「お前……なんで見た目が姉貴なんだよ……」


イージスが微笑む。


「久しぶりね、ヘラクレス」


「やりにくいったらありゃしねえぜ……」


「嫌?」


「嫌だ」


「フフッ」


イージスが笑う。


「相変わらずね」


「……ったく」


ヘラクレスが拳を握る。


「でも――」


イージスを見据える。


「今日は負けねえぞ」


イージスも頷いた。


「ええ」


「俺が勝つ」


「そう」


イージスが盾を構える。


「なら、やってみなさい」


『両者――武器を顕現!!』


二人の前に宝珠が浮かび上がる。


イージスが手を伸ばす。


ヘラクレスも宝珠を握る。


眩い光が弾けた。


イージスの手に現れたのは――。


黄金の盾。


中央には、蛇の髪を持つ怪物――メドゥーサの顔。


対するヘラクレス。


両腕へ黄金の光が集まっていく。


ヘラクレスが拳を握った。


『最硬の盾――イージス!!』


『そして、十二の功業を宿す英雄――ヘラクレス!!』


実況が叫ぶ。


『果たして決勝へ進むのは――!!』


二人が構える。


『準決勝、第二試合――!!』


一瞬の静寂。


『試合――開始!!』


――ドォォォン!!


先に動いたのはヘラクレスだった。


「行くぜぇぇぇ!!」


地面を蹴る。


「第六の功業――!!」


ヘラクレスの手に光が集まる。


大きな弓。


そして一本の矢。


「ステュムパリデスの怪鳥!!」


弓を引き絞る。


「まずは――!」


「挨拶だ!!」


――ビュンッ!!


矢が放たれる。


一発。


二発。


三発。


次々と矢がイージスへ迫る。


イージスは盾を構える。


――ガガガガガッ!!


矢が盾へ突き刺さる。


しかし――。


一本も貫通しない。


「……」


イージスは盾を僅かに傾ける。


刺さった矢がまとめて弾き飛ばされた。


「なるほどな」


ヘラクレスが笑う。


「やっぱり硬ぇ」


イージスは微笑む。


「そうでしょう?」


「なら――」


ヘラクレスが弓を消す。


「第六の功業――ステュムパリデスの怪鳥、解除」


一瞬。


ヘラクレスの両手が空になる。


そして次の光が――。


肩へ集まる。


「第四の功業――!!」


棘の付いた巨大な肩当てが現れる。


「エリュマントスの猪!!」


ヘラクレスが身体を低くする。


「今度は近距離だ!!」


――ドォン!!


突進。


イージスが盾を構える。


「来なさい!」


――ドゴォォン!!


肩当てが盾へ激突する。


イージスの身体が後ろへ滑った。


だが――。


倒れない。


「ぐっ……!」


ヘラクレスが踏み込む。


「まだだ!!」


二撃目。


三撃目。


イージスは盾で受ける。


受ける。


受け流す。


そして――。


ヘラクレスが一歩下がった。


「第四の功業――エリュマントスの猪、解除」


光が消える。


「第七の功業――!!」


黄金の光が頭部へ集まる。


角を持つ兜。


「クレタの牡牛!!」


ヘラクレスが再び突進する。


「おおおおおっ!!」


巨大な角が迫る。


イージスは盾を構える。


――ガァン!!


角が盾へ激突。


「くっ……!」


だが、イージスは盾を滑らせる。


角の勢いを受け流す。


ヘラクレスの身体が横へ流れた。


「チッ!」


「力は凄いわ」


イージスが言う。


「でも、真正面から受ける必要はないのよ」


「なら――!」


ヘラクレスが兜を解除する。


「第七の功業――クレタの牡牛、解除!!」


その瞬間。


ヘラクレスの腰へ光が集まった。


「第九の功業――!!」


黄金の帯が現れる。


「ヒッポリュテの帯!!」


帯が蛇のように伸びる。


「捕まえた!!」


――シュルルルッ!!


イージスの腕へ絡みつく。


「――!」


さらに身体へ。


一周。


二周。


イージスの動きを封じようとする。


「これでどうだ!!」


ヘラクレスが帯を引く。


しかし――。


イージスは盾を身体へ寄せる。


「……残念ね」


帯が盾へ触れた。


その瞬間。


イージスが盾を回転させる。


帯が滑り、力が逃げる。


「なっ!?」


イージスが身体を捻る。


帯が外れた。


「防御だけじゃないのよ」


「……!」


ヘラクレスが帯を引き戻す。


「第九の功業――ヒッポリュテの帯、解除!!」


光が消える。


そして――。


「第八の功業――!!」


両手へ巨大な大バサミが現れる。


無数の棘が刃へ並んでいる。


「ディオメデスの人喰い馬!!」


ヘラクレスが大バサミを振り上げる。


「挟み潰す!!」


――ガァン!!


イージスが盾で受ける。


刃が盾を挟み込む。


しかし――。


「……!」


ヘラクレスが力を込める。


「ぐっ……!」


イージスの盾は微動だにしない。


「これも駄目か!!」


大バサミを離す。


「第八の功業――ディオメデスの人喰い馬、解除!!」


次の瞬間。


「第五の功業――!!」


ヘラクレスの両腕が光る。


「アウゲイアスの小屋掃除!!」


大量の水が出現した。


――ザァァァァァッ!!


濁流が闘技場を走る。


イージスの身体へ迫る。


「……!」


盾を構える。


水流が盾へ激突する。


――ザバァァァン!!


身体が押される。


しかし――。


イージスは盾を地面へ突き立てた。


その場に踏み止まる。


「な……!」


ヘラクレスが目を見開く。


「この程度の水圧じゃ――」


イージスが笑う。


「私を倒せないわ」


「くそっ!」


ヘラクレスが水流を止める。


「第五の功業――アウゲイアスの小屋掃除、解除!!」


水が消える。


ヘラクレスの身体が荒く上下する。


「はぁ……はぁ……」


イージスも息を整える。


そして――。


ヘラクレスが顔を上げた。


「まだだ!!」


「第十一の功業――!!」


黄金の光が手の中へ集まる。


「黄金のリンゴ!!」


一つの黄金のリンゴ。


ヘラクレスがそれを食べる。


身体の傷が淡い光に包まれる。


傷が癒えていく。


「……!」


イージスが目を細める。


「回復まで……」


「そうだ!!」


ヘラクレスがリンゴを食べ終える。


「まだ俺は戦える!!」


黄金のリンゴが消える。


「第十一の功業――黄金のリンゴ、解除!!」


ヘラクレスの背後へ巨大な影が現れた。


「第十二の功業――!!」


三つの頭。


巨大な牙。


「冥界の番犬!!」


――グルルルルル……!!


ケルベロスの幻影が咆哮する。


「行けぇぇぇ!!」


三つの頭が同時に襲い掛かる。


イージスは盾を構えた。


――ドォン!!


一つ目の牙。


――ガァン!!


二つ目。


――ズガァン!!


三つ目。


イージスは全て盾で受け止める。


「くっ……!」


だが――。


三つの頭が同時に盾へ食らいつく。


「今だ!!」


ヘラクレスが走る。


しかしイージスは盾を回転させた。


ケルベロスの牙を外へ流す。


「なっ!?」


ケルベロスが体勢を崩す。


イージスが一歩踏み込む。


盾の縁がケルベロスの頭部を弾いた。


――ガァン!!


幻影が大きく揺らぐ。


「第十二の功業――冥界の番犬、解除」


ヘラクレスがケルベロスを消す。


「……!」


そして――。


ヘラクレスが息を整えながらイージスを見る。


「防ぐ」


イージスは盾を構える。


「受ける」


「流す」


「弾く」


「防ぐ……!」


ヘラクレスの声が荒くなる。


「防御しか芸がねえのか!!」


イージスは静かに答える。


「そうね」


盾を構え直す。


「私の得意分野だから」


「だったら――!」


ヘラクレスが拳を握る。


「壊れるまで叩き続ける!!」


闘技場に再び歓声が巻き起こる。


ヘラクレスは功業を一つずつ切り替えていく。


発動。


攻撃。


解除。


次の功業。


また攻撃。


しかしイージスはその全てを受け続けた。


そして――試合は終盤へ差し掛かっていた。


ヘラクレスは肩で荒く息をしている。


「はぁ……はぁ……!」


イージスも身体中に傷を負っていた。


だが――。


盾だけは無傷だった。


「……どうなってやがる」


ヘラクレスが睨む。


「俺の攻撃が……全部……」


イージスは何も答えない。


ただ盾を握っている。


ヘラクレスが拳を握り締める。


「……なら」


イージスの動きを見据える。


「次で終わらせる」


その瞬間。


イージスは――。


盾を投げた。


「…………は?」


ヘラクレスが固まる。


黄金の盾が空高く舞い上がる。


クルクルと回転しながら遠ざかっていく。


「……何やってやがる」


イージスは何も答えない。


「盾を……捨てた?」


ヘラクレスが眉をひそめる。


「攻撃出来なきゃ勝てねえと、勝負を捨てたってのか?」


イージスは――。


素手で立っている。


ヘラクレスはしばらくその姿を見つめた。


そして。


「……そういうことか」


拳へ黄金の光を集める。


「なら――終わらせてやる!!」


「第一の功業――!!」


黄金の手甲が両腕を包み込む。


獅子の牙を思わせる巨大な拳。


「ネメアの獅子!!」


ヘラクレスが地面を蹴った。


「うおおおおおおおおっ!!」


イージスへ突進する。


イージスは避けない。


「姉貴ィィィ!!」


黄金の牙が迫る。


「これで終わりだ!!」


――ズガァァァン!!


ネメアの獅子の牙が――。


イージスの腹を貫いた。


「――っ!!」


血が飛ぶ。


ヘラクレスの目が見開かれる。


「入った……!」


拳を握る。


「入ったぞ!!」


イージスの身体が僅かに揺らぐ。


それでも――。


倒れない。


「勝った……!」


ヘラクレスが息を吐く。


「俺の勝ち――」


その瞬間。


イージスが笑った。


「私……」


ヘラクレスの目が動く。


「そんな程度の攻撃じゃ――」


イージスが静かに言った。


「壊れないわよ?」


「……な?」


ヘラクレスの表情が固まる。


その瞬間だった。


空高く舞い上がっていた黄金の盾が――。


ピタリと止まった。


そして。


軌道を変えた。


「……!?」


ヘラクレスが振り返る。


遅い。


盾は大きく旋回する。


死角へ。


そして――。


「私の盾はね」


イージスが微笑む。


「投げたからって、ただの盾になるわけじゃないのよ」


盾が加速する。


――ゴッ!!


鈍い音が闘技場へ響き渡った。


最硬の盾が――。


ヘラクレスの首へ直撃した。


「がっ!!」


ヘラクレスの身体が大きく揺らぐ。


「くっ……そ……が……」


目の焦点が合わなくなる。


そして――。


意識が刈り取られた。


「…………」


ヘラクレスの身体から力が抜ける。


同時に。


イージスの腹へ突き刺さっていたネメアの獅子の牙が――。


光となって消えた。


「……」


ヘラクレスの巨体が前へ倒れる。


イージスは一歩踏み出した。


そして――。


倒れてきた弟の身体を、両腕で受け止めた。


「……重いわね」


意識を失ったヘラクレスを支える。


そして、その顔を見つめる。


「もう……」


イージスは小さく笑った。


「本当に、昔から無茶ばっかりなんだから」


ヘラクレスから返事はない。


イージスはそのまま、弟の身体を支え続ける。


そして――。


「知らなかった?私の身体も最硬の身体よ。フフフッ」


闘技場が静まり返る。


実況さえ、すぐには言葉を発することができなかった。


やがて――。


『……勝負あり!!』


実況の声が響き渡る。


『準決勝、第二試合!!』


観客席から、少しずつ歓声が広がっていく。


『勝者――!!』


イージスはヘラクレスを支えながら、静かに顔を上げる。


『イージス!!』


――――おおおおおおおおおおおっ!!


会場中から大歓声が爆発した。


イージスはゆっくりとヘラクレスを地面へ寝かせる。


そして、遠くへ飛んでいった黄金の盾へ歩み寄る。


盾を拾い上げる。


傷一つない。


イージスは盾を見つめる。


そして――。


倒れているヘラクレスへ視線を戻す。


「……まったく」


小さく笑う。


「もう少し、お姉ちゃんを大事にしなさい」


返事はない。


だが――。


ヘラクレスの表情は、どこか穏やかだった。


こうして――。


準決勝、第二試合。


最硬の盾と、十二の功業を持つ英雄。


姉と弟。


互いの力を最後までぶつけ合った戦いは――。


最後まで砕けなかった姉が制した。


そして。


決勝へ進む二振りが――。


ついに決まった。


デュランダル。


イージス。


不折れの剣と――。


最硬の盾。


最後に頂点へ立つのは――。


まだ、誰にも分からない。

お疲れ様でした。

読んで下さり感謝致します。


話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。

更新時間:毎日12:00となっております。

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