第三十二試合 姉と弟
作品は完結させております。
安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。
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よろしくお願いします。それではどうぞ!
準決勝第二試合。
決勝進出を懸けた戦いが、間もなく始まろうとしていた。
闘技場へ続く長い通路。
その中を、一人の女性が歩いていた。
黄金の髪。
凛とした表情。
静かな足取り。
最硬の盾――イージス。
これまで幾度もの激戦を潜り抜け、それでもなお勝ち残ってきた彼女の前に、ついに最後の壁が立ちはだかろうとしていた。
「イージス」
声が掛かった。
イージスが振り返る。
そこにいたのは、かつて戦った者たちだった。
神槍ヴェール。
燭台切光忠。
そして、パラシュ。
ヴェールが笑う。
「ついに準決勝だな」
「ええ」
イージスも微笑む。
燭台切光忠が嬉しそうに口を開く。
「あと二つで優勝だよ!」
「フフッ」
イージスが小さく笑う。
「まだ気が早いわよ……」
パラシュが腕を組む。
そして、短く言った。
「勝てよ」
イージスはパラシュを見る。
「弟に負けるはず無いでしょ?」
「…………」
「…………」
「…………」
三人が固まった。
「へっ?」
ヴェールが目を丸くする。
燭台切光忠も首を傾げる。
「弟……?」
パラシュが聞き返す。
「誰が誰の?」
イージスは不思議そうに首を傾げる。
「ん?」
そして――。
当然のことのように答えた。
「ヘラクレスの事よ」
一拍。
「私の主、アテナはヘラクレスの姉よ。だから私としてもあの子は弟みたいなもの」
「…………」
パラシュの顔がみるみるうちに変わる。
そして――。
「プッ……ハッハッハッハッハ!!」
豪快な笑い声が通路に響き渡った。
「そうかそうか!!」
腹を抱えて笑う。
「弟か!!」
ヴェールも苦笑する。
「なるほど……ますます負けられないな」
燭台切光忠が笑う。
「まあ、お姉ちゃんの盾なら、どんな攻撃でも防ぎきれるでしょ」
「なら良いけどね」
イージスはそう言って笑った。
しかし――。
その瞳の奥には、ほんの僅かな緊張があった。
「……弟、か」
小さく呟く。
そして前を向く。
「負けるわけにはいかないわね」
一方――。
別の通路。
ヘラクレスもまた、闘技場へ向かって歩いていた。
その先に、一人の男が立っている。
青白い雷を纏う男。
ケラウノスだった。
ヘラクレスが足を止める。
「……またあんたか」
眉をひそめる。
「なんだよ」
ケラウノスは肩をすくめる。
「いや、ちょっと散歩してただけだ」
「嘘つけよ……」
ヘラクレスが呆れたように言う。
「こんな何も無い所に来るわけねえだろ」
「…………」
「全く……」
ヘラクレスが歩き出す。
その背中へ――。
「まあ、なんだ」
ケラウノスが声を掛ける。
ヘラクレスが振り返った。
「負けるなよ」
ヘラクレスは少しだけ目を細める。
「負けるつもりはねえよ」
「そうか」
「当たり前だろ」
拳を握る。
「俺は勝つ」
ケラウノスは僅かに笑った。
「……そうだな」
ヘラクレスはそのまま歩いていく。
ケラウノスは、黙ってその背中を見送った。
そして――。
左右の入場口が開いた。
闘技場を包んでいた歓声が、一気に膨れ上がる。
『さあああああ!!』
実況の声が会場全体へ響き渡る。
『皆様、お待たせいたしました!!』
巨大スクリーンへ二人の姿が映し出される。
『準決勝、第二試合!!』
観客席が大きく揺れる。
『決勝進出を懸けた、最後の戦いです!!』
片側の入場口から――。
イージスが姿を現した。
黄金の髪。
凛とした表情。
静かな足取り。
『ここまで数々の猛攻を防ぎ続けてきた、最硬の盾!!』
『女神アテナの神聖なる盾――!!』
『イージス!!』
大歓声。
そして反対側。
ヘラクレスが姿を現す。
鍛え上げられた巨体。
傷だらけの身体。
鋭い眼差し。
『対するは――!!』
実況の声がさらに熱を帯びる。
『十二の功業をその身に宿す、古代ギリシャ神話の英雄!!』
『ヘラクレス!!』
――おおおおおおおおおおっ!!
会場が揺れる。
二人が闘技場中央へ歩み寄る。
そして――。
向かい合った。
ヘラクレスがイージスを見る。
「お前……なんで見た目が姉貴なんだよ……」
イージスが微笑む。
「久しぶりね、ヘラクレス」
「やりにくいったらありゃしねえぜ……」
「嫌?」
「嫌だ」
「フフッ」
イージスが笑う。
「相変わらずね」
「……ったく」
ヘラクレスが拳を握る。
「でも――」
イージスを見据える。
「今日は負けねえぞ」
イージスも頷いた。
「ええ」
「俺が勝つ」
「そう」
イージスが盾を構える。
「なら、やってみなさい」
『両者――武器を顕現!!』
二人の前に宝珠が浮かび上がる。
イージスが手を伸ばす。
ヘラクレスも宝珠を握る。
眩い光が弾けた。
イージスの手に現れたのは――。
黄金の盾。
中央には、蛇の髪を持つ怪物――メドゥーサの顔。
対するヘラクレス。
両腕へ黄金の光が集まっていく。
ヘラクレスが拳を握った。
『最硬の盾――イージス!!』
『そして、十二の功業を宿す英雄――ヘラクレス!!』
実況が叫ぶ。
『果たして決勝へ進むのは――!!』
二人が構える。
『準決勝、第二試合――!!』
一瞬の静寂。
『試合――開始!!』
――ドォォォン!!
先に動いたのはヘラクレスだった。
「行くぜぇぇぇ!!」
地面を蹴る。
「第六の功業――!!」
ヘラクレスの手に光が集まる。
大きな弓。
そして一本の矢。
「ステュムパリデスの怪鳥!!」
弓を引き絞る。
「まずは――!」
「挨拶だ!!」
――ビュンッ!!
矢が放たれる。
一発。
二発。
三発。
次々と矢がイージスへ迫る。
イージスは盾を構える。
――ガガガガガッ!!
矢が盾へ突き刺さる。
しかし――。
一本も貫通しない。
「……」
イージスは盾を僅かに傾ける。
刺さった矢がまとめて弾き飛ばされた。
「なるほどな」
ヘラクレスが笑う。
「やっぱり硬ぇ」
イージスは微笑む。
「そうでしょう?」
「なら――」
ヘラクレスが弓を消す。
「第六の功業――ステュムパリデスの怪鳥、解除」
一瞬。
ヘラクレスの両手が空になる。
そして次の光が――。
肩へ集まる。
「第四の功業――!!」
棘の付いた巨大な肩当てが現れる。
「エリュマントスの猪!!」
ヘラクレスが身体を低くする。
「今度は近距離だ!!」
――ドォン!!
突進。
イージスが盾を構える。
「来なさい!」
――ドゴォォン!!
肩当てが盾へ激突する。
イージスの身体が後ろへ滑った。
だが――。
倒れない。
「ぐっ……!」
ヘラクレスが踏み込む。
「まだだ!!」
二撃目。
三撃目。
イージスは盾で受ける。
受ける。
受け流す。
そして――。
ヘラクレスが一歩下がった。
「第四の功業――エリュマントスの猪、解除」
光が消える。
「第七の功業――!!」
黄金の光が頭部へ集まる。
角を持つ兜。
「クレタの牡牛!!」
ヘラクレスが再び突進する。
「おおおおおっ!!」
巨大な角が迫る。
イージスは盾を構える。
――ガァン!!
角が盾へ激突。
「くっ……!」
だが、イージスは盾を滑らせる。
角の勢いを受け流す。
ヘラクレスの身体が横へ流れた。
「チッ!」
「力は凄いわ」
イージスが言う。
「でも、真正面から受ける必要はないのよ」
「なら――!」
ヘラクレスが兜を解除する。
「第七の功業――クレタの牡牛、解除!!」
その瞬間。
ヘラクレスの腰へ光が集まった。
「第九の功業――!!」
黄金の帯が現れる。
「ヒッポリュテの帯!!」
帯が蛇のように伸びる。
「捕まえた!!」
――シュルルルッ!!
イージスの腕へ絡みつく。
「――!」
さらに身体へ。
一周。
二周。
イージスの動きを封じようとする。
「これでどうだ!!」
ヘラクレスが帯を引く。
しかし――。
イージスは盾を身体へ寄せる。
「……残念ね」
帯が盾へ触れた。
その瞬間。
イージスが盾を回転させる。
帯が滑り、力が逃げる。
「なっ!?」
イージスが身体を捻る。
帯が外れた。
「防御だけじゃないのよ」
「……!」
ヘラクレスが帯を引き戻す。
「第九の功業――ヒッポリュテの帯、解除!!」
光が消える。
そして――。
「第八の功業――!!」
両手へ巨大な大バサミが現れる。
無数の棘が刃へ並んでいる。
「ディオメデスの人喰い馬!!」
ヘラクレスが大バサミを振り上げる。
「挟み潰す!!」
――ガァン!!
イージスが盾で受ける。
刃が盾を挟み込む。
しかし――。
「……!」
ヘラクレスが力を込める。
「ぐっ……!」
イージスの盾は微動だにしない。
「これも駄目か!!」
大バサミを離す。
「第八の功業――ディオメデスの人喰い馬、解除!!」
次の瞬間。
「第五の功業――!!」
ヘラクレスの両腕が光る。
「アウゲイアスの小屋掃除!!」
大量の水が出現した。
――ザァァァァァッ!!
濁流が闘技場を走る。
イージスの身体へ迫る。
「……!」
盾を構える。
水流が盾へ激突する。
――ザバァァァン!!
身体が押される。
しかし――。
イージスは盾を地面へ突き立てた。
その場に踏み止まる。
「な……!」
ヘラクレスが目を見開く。
「この程度の水圧じゃ――」
イージスが笑う。
「私を倒せないわ」
「くそっ!」
ヘラクレスが水流を止める。
「第五の功業――アウゲイアスの小屋掃除、解除!!」
水が消える。
ヘラクレスの身体が荒く上下する。
「はぁ……はぁ……」
イージスも息を整える。
そして――。
ヘラクレスが顔を上げた。
「まだだ!!」
「第十一の功業――!!」
黄金の光が手の中へ集まる。
「黄金のリンゴ!!」
一つの黄金のリンゴ。
ヘラクレスがそれを食べる。
身体の傷が淡い光に包まれる。
傷が癒えていく。
「……!」
イージスが目を細める。
「回復まで……」
「そうだ!!」
ヘラクレスがリンゴを食べ終える。
「まだ俺は戦える!!」
黄金のリンゴが消える。
「第十一の功業――黄金のリンゴ、解除!!」
ヘラクレスの背後へ巨大な影が現れた。
「第十二の功業――!!」
三つの頭。
巨大な牙。
「冥界の番犬!!」
――グルルルルル……!!
ケルベロスの幻影が咆哮する。
「行けぇぇぇ!!」
三つの頭が同時に襲い掛かる。
イージスは盾を構えた。
――ドォン!!
一つ目の牙。
――ガァン!!
二つ目。
――ズガァン!!
三つ目。
イージスは全て盾で受け止める。
「くっ……!」
だが――。
三つの頭が同時に盾へ食らいつく。
「今だ!!」
ヘラクレスが走る。
しかしイージスは盾を回転させた。
ケルベロスの牙を外へ流す。
「なっ!?」
ケルベロスが体勢を崩す。
イージスが一歩踏み込む。
盾の縁がケルベロスの頭部を弾いた。
――ガァン!!
幻影が大きく揺らぐ。
「第十二の功業――冥界の番犬、解除」
ヘラクレスがケルベロスを消す。
「……!」
そして――。
ヘラクレスが息を整えながらイージスを見る。
「防ぐ」
イージスは盾を構える。
「受ける」
「流す」
「弾く」
「防ぐ……!」
ヘラクレスの声が荒くなる。
「防御しか芸がねえのか!!」
イージスは静かに答える。
「そうね」
盾を構え直す。
「私の得意分野だから」
「だったら――!」
ヘラクレスが拳を握る。
「壊れるまで叩き続ける!!」
闘技場に再び歓声が巻き起こる。
ヘラクレスは功業を一つずつ切り替えていく。
発動。
攻撃。
解除。
次の功業。
また攻撃。
しかしイージスはその全てを受け続けた。
そして――試合は終盤へ差し掛かっていた。
ヘラクレスは肩で荒く息をしている。
「はぁ……はぁ……!」
イージスも身体中に傷を負っていた。
だが――。
盾だけは無傷だった。
「……どうなってやがる」
ヘラクレスが睨む。
「俺の攻撃が……全部……」
イージスは何も答えない。
ただ盾を握っている。
ヘラクレスが拳を握り締める。
「……なら」
イージスの動きを見据える。
「次で終わらせる」
その瞬間。
イージスは――。
盾を投げた。
「…………は?」
ヘラクレスが固まる。
黄金の盾が空高く舞い上がる。
クルクルと回転しながら遠ざかっていく。
「……何やってやがる」
イージスは何も答えない。
「盾を……捨てた?」
ヘラクレスが眉をひそめる。
「攻撃出来なきゃ勝てねえと、勝負を捨てたってのか?」
イージスは――。
素手で立っている。
ヘラクレスはしばらくその姿を見つめた。
そして。
「……そういうことか」
拳へ黄金の光を集める。
「なら――終わらせてやる!!」
「第一の功業――!!」
黄金の手甲が両腕を包み込む。
獅子の牙を思わせる巨大な拳。
「ネメアの獅子!!」
ヘラクレスが地面を蹴った。
「うおおおおおおおおっ!!」
イージスへ突進する。
イージスは避けない。
「姉貴ィィィ!!」
黄金の牙が迫る。
「これで終わりだ!!」
――ズガァァァン!!
ネメアの獅子の牙が――。
イージスの腹を貫いた。
「――っ!!」
血が飛ぶ。
ヘラクレスの目が見開かれる。
「入った……!」
拳を握る。
「入ったぞ!!」
イージスの身体が僅かに揺らぐ。
それでも――。
倒れない。
「勝った……!」
ヘラクレスが息を吐く。
「俺の勝ち――」
その瞬間。
イージスが笑った。
「私……」
ヘラクレスの目が動く。
「そんな程度の攻撃じゃ――」
イージスが静かに言った。
「壊れないわよ?」
「……な?」
ヘラクレスの表情が固まる。
その瞬間だった。
空高く舞い上がっていた黄金の盾が――。
ピタリと止まった。
そして。
軌道を変えた。
「……!?」
ヘラクレスが振り返る。
遅い。
盾は大きく旋回する。
死角へ。
そして――。
「私の盾はね」
イージスが微笑む。
「投げたからって、ただの盾になるわけじゃないのよ」
盾が加速する。
――ゴッ!!
鈍い音が闘技場へ響き渡った。
最硬の盾が――。
ヘラクレスの首へ直撃した。
「がっ!!」
ヘラクレスの身体が大きく揺らぐ。
「くっ……そ……が……」
目の焦点が合わなくなる。
そして――。
意識が刈り取られた。
「…………」
ヘラクレスの身体から力が抜ける。
同時に。
イージスの腹へ突き刺さっていたネメアの獅子の牙が――。
光となって消えた。
「……」
ヘラクレスの巨体が前へ倒れる。
イージスは一歩踏み出した。
そして――。
倒れてきた弟の身体を、両腕で受け止めた。
「……重いわね」
意識を失ったヘラクレスを支える。
そして、その顔を見つめる。
「もう……」
イージスは小さく笑った。
「本当に、昔から無茶ばっかりなんだから」
ヘラクレスから返事はない。
イージスはそのまま、弟の身体を支え続ける。
そして――。
「知らなかった?私の身体も最硬の身体よ。フフフッ」
闘技場が静まり返る。
実況さえ、すぐには言葉を発することができなかった。
やがて――。
『……勝負あり!!』
実況の声が響き渡る。
『準決勝、第二試合!!』
観客席から、少しずつ歓声が広がっていく。
『勝者――!!』
イージスはヘラクレスを支えながら、静かに顔を上げる。
『イージス!!』
――――おおおおおおおおおおおっ!!
会場中から大歓声が爆発した。
イージスはゆっくりとヘラクレスを地面へ寝かせる。
そして、遠くへ飛んでいった黄金の盾へ歩み寄る。
盾を拾い上げる。
傷一つない。
イージスは盾を見つめる。
そして――。
倒れているヘラクレスへ視線を戻す。
「……まったく」
小さく笑う。
「もう少し、お姉ちゃんを大事にしなさい」
返事はない。
だが――。
ヘラクレスの表情は、どこか穏やかだった。
こうして――。
準決勝、第二試合。
最硬の盾と、十二の功業を持つ英雄。
姉と弟。
互いの力を最後までぶつけ合った戦いは――。
最後まで砕けなかった姉が制した。
そして。
決勝へ進む二振りが――。
ついに決まった。
デュランダル。
イージス。
不折れの剣と――。
最硬の盾。
最後に頂点へ立つのは――。
まだ、誰にも分からない。
お疲れ様でした。
読んで下さり感謝致します。
話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。
更新時間:毎日12:00となっております。




