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最終試合 決着と紡がれる思い

作品はこれで完結です。

ラストまでお読み頂きまことにありがとうございました。


たくさんのブックマーク、評価、コメント。

また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。


よろしくお願いします。それでは最終話どうぞ!

闘技場の照明が、一つ、また一つと落ちていく。


歓声はまだ消えていない。


むしろ――。


これから訪れる静寂を、観客たち自身が惜しんでいるかのようだった。


三十振りの武器。


一人の英雄。


数えきれないほどの伝説が、この場所でぶつかり合った。


エクスカリバーが敗れ。


如意棒が敗れ。


方天戟が敗れ。


ヘラクレスさえも、姉の盾の前に膝をついた。


そして――。


残ったのは、たった二つ。


会場が完全な暗闇に包まれる。


観客の誰もが、声を潜めた。


その静寂を破るように――。


一筋のスポットライトが、実況席を照らし出した。


『――皆様』


いつもの快活さとは違う、どこか静かな声。


実況者はマイクを握り、しばらく言葉を探すように黙っていた。


『長い戦いでした』


会場が、僅かにどよめく。


『三十振りの武器と、一人の英雄が、この舞台で己の全てを懸けて戦い続けました』


スクリーンに、これまでの映像が静かに流れ始める。


エクスカリバーが弾き飛ばされた瞬間。


グングニルが膝をついた瞬間。


蜻蛉切が、方天戟の一撃に敗れた瞬間。


名も無き剣が、初めて己の記憶に触れた瞬間。


ゲイ・ボルグの十撃を、デュランダルが立ち上がって耐え抜いた瞬間。


そして――。


イージスの盾が、幾つもの猛攻を受けながらも砕けなかった瞬間。


一枚一枚の記憶が、静かに闘技場を巡っていく。


観客席から、拍手が起こった。


誰かが泣いていた。


誰かが、ただじっと画面を見つめていた。


映像が止まる。


実況者が、ゆっくりと口を開いた。


『――さあ』


その声に、僅かな熱が戻る。


『いよいよ、最後の一戦です』


スポットライトが、一段と強く実況者を照らした。


『Last War――Weapons’ Tournament』


『その頂点を決める、最終試合』


会場の空気が、張り詰めていく。


『まずは、こちらから紹介しましょう』


暗闇の奥。


一筋の光が舞台の奥を照らした。


『第一回戦――ミスティルテインの猛攻を、その身一つで耐え抜き』


『第二回戦――ゲイ・ボルグの十撃必殺を受けながらも、決して倒れることなく立ち続け』


『準々決勝――無名だった剣、メテオスラッシュの剣を最後の一撃で打ち破り』


『準決勝――日本神話の神剣、天羽々斬と刃を交え、最後の一振りまで折れることなく戦い抜いた』


実況者の声が、闘技場全体へ響き渡る。


『英雄ローランが振るいし、不折れの聖剣――』


『デュランダル!!』


光の中に、一人の男が立っていた。


長い黒髪。


静かな威厳。


その身体には、これまでの戦いで刻まれた傷が、幾つも残っている。


それでも――。


その目には、一切の迷いがなかった。


デュランダルは、ゆっくりと歩き出す。


観客席から、地鳴りのような歓声が上がった。


「デュランダル!!」


「不折れの剣!!」


「頑張れ――!!」


デュランダルは、その声を受け止めながら、静かに闘技場中央へ向かっていく。


『そして、対するは――』


反対側。


もう一筋の光が、舞台を照らす。


『第一回戦――神槍ヴェールの猛攻を、その盾一枚で完全に防ぎきり』


『第二回戦――空間そのものを切り裂く斬撃を耐え抜き、最後は自らの盾を武器として勝利を掴み』


『準々決勝――全てを砕こうとする戦斧の猛攻に耐え、最後まで砕かれることのなかった』


『準決勝――弟である英雄ヘラクレスと激突し、姉として、最後にその力を証明した』


実況者の声が、僅かに震えた。


『女神アテナの神聖なる盾――』


『イージス!!』


光の中に、一人の女性が立っていた。


黄金の髪。


凛とした佇まい。


その盾には、幾つもの戦いを乗り越えてきた証である、無数の傷と亀裂が刻まれている。


それでも――。


その盾は、未だに砕けていない。


イージスは、静かに一礼をした。


会場から、割れんばかりの拍手が沸き起こる。


「イージス!!」


「最硬の盾!!」


「絶対に負けるな――!!」


イージスは微笑みながら、ゆっくりと闘技場中央へ歩いていく。


そして――。


二人が、向かい合った。


しばしの沈黙。


デュランダルが、先に口を開いた。


「……ここまで来たな」


「ええ」


イージスが頷く。


「あなたも」


「不折れの剣と、最硬の盾か」


デュランダルが、僅かに笑った。


「因縁めいてるな」


「そうね」


イージスも笑う。


「折れない剣と、砕けない盾」


「昔から、そういう話があっただろう」


「矛盾、というやつね」


「俺の剣は、これまで何度も刃を交えてきた」


「ええ」


「だが、まだ一度も――折れたことがない」


「私の盾も同じよ」


「どれだけ傷ついても……まだ、砕けたことはないわ」


二人は、互いを見つめ合った。


「なら――今日、決着をつけよう」


「どちらかが、初めて折れるか。それとも――」


「どちらかが、初めて砕けるか」


「ええ」


「あるいは――」


デュランダルが、静かに続ける。


「どちらも、折れないままかもしれない」


イージスは、その言葉に微笑んだ。


「それも、悪くないわね」


『それでは――』


実況者の声が響く。


『両者、武器を顕現!!』


二人の前に、それぞれ宝珠が浮かび上がった。


デュランダルが、宝珠へ手を伸ばす。


イージスも、同時に手を伸ばした。


眩い光が弾ける。


デュランダルの手に――。


重厚な聖剣が現れた。


これまでの戦いで刻まれた傷。


それでも、その刀身は静かな輝きを失っていない。


対するイージスの手にも――。


黄金の盾が顕現する。


中央に浮かぶ、メドゥーサの顔。


無数の亀裂と傷を纏いながら、その盾は今なお、確かな存在感を放っていた。


『不折れの聖剣――デュランダル!!』


『そして――最硬の盾、イージス!!』


実況者の声が、一段と高くなる。


『これが、この大会――最後の戦いです!!』


二人が、互いに構える。


『両者――構えて――』


会場が、完全な静寂に包まれた。


誰も、声を発しない。


ただ――。


二人の視線だけが、真っ直ぐにぶつかり合っていた。


『試合――開始!!』


鐘が鳴った。


その瞬間。


デュランダルが、地面を蹴った。


「――ッ!!」


一気に距離を詰める。


イージスは、動かない。


ただ静かに、盾を構えていた。


「行くぞ!!」


デュランダルの剣が、大きく振り下ろされる。


――ズガァァン!!


イージスが、盾で受け止めた。


凄まじい衝撃。


闘技場の地面に、亀裂が走る。


「……重いわね」


イージスが呟く。


「お前の盾も、硬い」


デュランダルが、剣を引く。


そのまま、二撃目。


――ガキィン!!


三撃目。


――ズガァン!!


デュランダルの剣が、何度もイージスの盾へ叩き込まれる。


イージスは、その全てを受け止めていた。


一歩も、退かない。


「……なるほど」


デュランダルが、剣を握り直す。


「これが、最硬の盾か」


「ええ」


イージスが、盾を構え直す。


「あなたの剣も、聞いていた通りね」


デュランダルが、笑った。


「なら――」


さらに踏み込む。


「これでどうだ!!」


四撃目。


五撃目。


六撃目。


連続した斬撃が、次々とイージスへ叩き込まれる。


そのたびに、盾の表面に――。


小さな亀裂が、少しずつ増えていく。


「……」


イージスの腕に、力が入る。


「まだよ」


盾を握る手が、震えていた。


それでも、退かない。


「なら――」


イージスが、一歩踏み出した。


「今度は、私から行くわ」


盾を、前へ突き出す。


「――ッ!!」


デュランダルが、剣で受ける。


――ドォン!!


身体が、大きく後退した。


「くっ……!」


「重いのは、お互い様よ」


イージスが、さらに踏み込む。


盾の縁が、デュランダルの肩を掠めた。


血が飛ぶ。


「……」


デュランダルは、その傷を一瞥した。


そして――。


「なるほど」


笑みを浮かべる。


「盾だけの武器じゃない、ということか」


「ええ」


イージスが、盾を構え直す。


「守るだけが、私の全てじゃないわ」


「なら――」


デュランダルが、剣を構える。


「俺も、受けるだけでは終わらない」


二人が、再び激突する。


――ガキィン!!


――ズガァン!!


――ギィィン!!


剣と盾が、幾度も交差する。


デュランダルの斬撃が、イージスの盾を削る。


イージスの盾が、デュランダルの剣を弾く。


そのたびに――。


観客席から、割れんばかりの歓声が上がった。


「凄い……!」


「どっちも一歩も引かねえ!!」


「これが決勝か……!!」


実況者の声も、興奮を隠せずにいた。


『凄まじい攻防です!!』


『不折れの剣と、最硬の盾!!』


『まさに――矛盾の対決!!』


デュランダルが、剣を振り上げる。


「はあああっ!!」


イージスが、盾で受け止めた。


――ズガァァン!!


衝撃で、地面が大きく揺れる。


デュランダルの剣の刀身に――。


小さな亀裂が、初めて走った。


「……ッ!」


デュランダルが、目を見開く。


自分の剣を見た。


「これは……」


イージスも、自らの盾を見つめる。


そこにも――。


さらに深い亀裂が、幾つも刻まれていた。


「……お互い、限界が近いようね」


「ああ」


デュランダルが、剣を握り直す。


「だが――」


一歩、踏み出す。


「まだ終われない」


イージスも、盾を構え直した。


「ええ」


微笑む。


「私も、まだ」


二人の間に、静かな緊張が走る。


そして――。


どちらからともなく、同時に足を踏み出した。


「うおおおおおおおおっ!!」


「――ッ!!」


デュランダルが、剣を大きく振りかぶる。


イージスも、盾を正面へ構えた。


これまでの戦いの、全てを込めるように。


ローランと共に駆け抜けた、幾多の戦場の記憶を込めるように。


デュランダルの剣に、光が集まる。


女神アテナと共にあった、幾多の守護の記憶を込めるように。


イージスの盾に、黄金の輝きが宿る。


「これで――」


デュランダルが、剣を振り下ろす。


「これで――」


イージスが、盾を突き出す。


「終わりだ!!」


「決めるわ!!」


二つの武器が――。


正面から、激突した。


――――――――ズドォォォォォォォォォォン!!


凄まじい衝撃が、闘技場全体を揺るがした。


閃光が、会場を白く染める。


観客たちは、思わず目を覆った。


轟音が、しばらく鳴り止まなかった。


そして――。


光が、静かに収まっていく。


砂煙の中。


二つの人影が、ゆっくりと浮かび上がってきた。


デュランダルは、剣を握ったまま立っていた。


イージスも、盾を構えたまま立っていた。


だが――。


デュランダルの手にある剣は――。


真っ二つに、折れていた。


そして――。


イージスの手にある盾も――。


大きく、砕けていた。


静寂。


誰も、声を発しない。


実況者でさえ、言葉を失っていた。


デュランダルが、折れた剣を見つめる。


「……折れたか」


その声には、不思議と悔しさはなかった。


イージスも、砕けた盾を見つめていた。


「……砕けたわね」


同じように、その声は穏やかだった。


二人は、しばらく互いの武器を見つめ合っていた。


そして――。


デュランダルが、静かに笑った。


「……そうか」


折れた剣を、地面へそっと置く。


「これが、俺の――」


「限界」


イージスも、砕けた盾を地面へ置いた。


「私も、同じよ」


二人は、互いを見つめる。


「どちらも、勝てなかった、ということね」


イージスが、静かに言った。


デュランダルが、頷く。


「不折れも、最硬も――」


空を見上げる。


「絶対、ではなかったということだ」


しばしの沈黙。


やがて――。


実況者が、震える声を絞り出した。


『……り、両者――』


一拍。


『武器、破損――!!』


会場が、大きくどよめいた。


『これは……これは、どう判定すれば――』


実況者が、言葉に詰まる。


観客席からも、戸惑いの声が上がった。


「どっちが勝ったんだ……?」


「両方とも、壊れたぞ……」


「これじゃ、決着が……」


そのとき。


デュランダルが、静かに口を開いた。


「……なあ」


イージスが、その声に顔を上げる。


「勝敗なんて、もう――」


デュランダルが、笑った。


「どうでもよくないか」


イージスは、少しだけ驚いた顔をした。


そして――。


小さく、笑い返す。


「……そうね」


二人は、互いに歩み寄った。


「俺たちは、それぞれの誇りを持って戦った」


デュランダルが、言う。


「守るための盾として。折れないための剣として」


「ええ」


イージスが、頷く。


「そして、どちらも――」


自分の砕けた盾を見る。


「最後まで、その誇りを曲げなかった」


デュランダルも、折れた剣を見た。


「それで、十分じゃないか」


イージスは、しばらくその言葉を噛みしめていた。


そして――。


「ええ」


静かに、微笑んだ。


「十分よ」


実況者は、その光景をしばらく見つめていた。


そして――。


大きく息を吸い込むと、声を張り上げた。


『皆様――!!』


会場が、一斉に静まり返る。


『この大会、最後の戦いは――』


一拍。


『両者、決着つかず――』


『しかし――!!』


実況者の声に、力が戻る。


『これほどまでに、美しい終わり方があるでしょうか!!』


観客席から、静かなどよめきが広がっていく。


『不折れの剣は、折れました』


『最硬の盾は、砕けました』


『けれど――』


実況者の声が、震える。


『二人の意志は――』


『最後まで、折れることも、砕けることもなかった!!』


その言葉に――。


会場が、静かに沸き立った。


最初は、小さな拍手だった。


それが、少しずつ大きくなっていく。


やがて――。


闘技場全体が、これまでで最も温かい拍手に包まれた。


デュランダルとイージスは、その拍手を受けながら、互いに顔を見合わせた。


「……悪くない終わり方だな」


デュランダルが、笑う。


「ええ」


イージスも、笑い返した。


「悪くないわ」


二人は、並んで闘技場に立っていた。


折れた剣と、砕けた盾。


それでも――。


その表情には、一切の悔いがなかった。


こうして――。


世界最強の武器を決める大会――『Last War』Weapons’ Tournamentは、幕を閉じた。


勝者のいない、決勝戦。


けれど――。


誰もが、その戦いを「最高の決着」として、記憶に刻んだ。


――――


数年後。


とある小さな町の、広場。


穏やかな陽射しが降り注ぐ中、二人の子供が、木の棒を手に走り回っていた。


「まけないぞー!!」


黒髪の男の子が、木の棒を振り回す。


「そっちこそ!!」


金髪の女の子が、小さな木の板を盾のように構え、それを受け止めた。


――カァン!!


軽やかな音が、広場に響く。


「えいっ!」


男の子が、勢いよく棒を振る。


女の子は、木の板でそれをひらりと受け流した。


「まだまだ!」


「くっそー!!」


男の子が、悔しそうに叫ぶ。


そのやり取りを――。


少し離れたベンチから、二人の大人が見つめていた。


一人は、長い黒髪の男。


もう一人は、黄金の髪をした女性。


「……相変わらず、負けず嫌いね」


女性が、笑いながら呟いた。


「誰に似たんだかな」


男が、苦笑しながら答える。


「あなたに決まってるじゃない」


「いや、お前の方だろう」


二人は、顔を見合わせて笑った。


広場では、子供たちの声が響き続けている。


「おれの剣は、絶対に折れないんだからな!!」


男の子が、木の棒を掲げて叫ぶ。


「わたしの盾も、絶対に砕けないもん!!」


女の子も、木の板を掲げて言い返す。


二人の親は、その言葉を聞いて――。


思わず、顔を見合わせた。


「……似たようなこと、言ってたわね」


女性が、懐かしそうに目を細める。


「ああ」


男が、頷いた。


「あの日も、そうだった」


かつて、闘技場で交わした言葉。


折れない剣と、砕けない盾。


その誇りを懸けた、最後の一戦。


あの日、二人はそれぞれの武器を失った。


けれど――。


その意志は、今もまだ――。


こうして、子供たちの中に、確かに息づいている。


「ねえ」


女性が、隣に座る男へ、そっと寄りかかる。


「あの試合、後悔してる?」


男は、少し考えてから――。


穏やかに笑った。


「まさか」


広場で笑い合う子供たちを見つめる。


「あの日、俺の剣は折れた」


「私の盾も、砕けたわ」


「けれど――」


男が、女性の手を、そっと握る。


「その先に、これがある」


女性も、その手を握り返した。


「ええ」


二人は、しばらく無言のまま、子供たちの笑い声に耳を傾けていた。


風が、穏やかに吹き抜けていく。


木の棒がぶつかる、軽やかな音。


子供たちの、屈託のない笑い声。


そして――。


それを見守る、二人の穏やかな笑顔。


不折れの剣は、折れた。


最硬の盾は、砕けた。


けれど――。


その意志だけは、決して折れることも、砕けることもなく。


こうして、静かに――。


次の世代へと、紡がれていった。

お疲れ様でした。

最後までお読み下さり感謝致します。


次回作も執筆中です!

他作品もございますので宜しければ評価、ブックマークコメントなどお願い致します。


ありがとうございました!

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