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第二十九試合 父と子

作品は完結させております。

安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。


たくさんのブックマーク、評価、コメント。

また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。


よろしくお願いします。それではどうぞ!


準々決勝も、いよいよ最後の一戦を迎えていた。


そして――最後に闘技場へ姿を現す二人は、これまでの戦いとは少し違った因縁を持っていた。


『さあああああ!!』


実況の声が闘技場全体へ響き渡る。


『準々決勝、第四試合!!』


観客席から大歓声が巻き起こる。


『これが準々決勝最後の一戦です!!』


片側の入場口が開く。


青白い雷を纏いながら、一人の男が姿を現した。


白銀の髪。


鋭い眼差し。


『第一回戦、ヴァジュラを雷撃で撃破!!』


『第二回戦では、予測不能の打出の小槌を破り、ここまで勝ち上がってきた――!!』


男が闘技場中央へ歩み出る。


『雷霆――ケラウノス!!』


大歓声。


ケラウノスは観客席へ目を向けることもなく、反対側の入場口を見つめていた。


そして反対側の扉が開く。


ゆっくりと、大きな身体が姿を現した。


鍛え上げられた肉体。


鋭い眼光。


『そして対するは――!!』


実況の声がさらに大きくなる。


『シード枠として参戦、二回戦でアポピスを退け準々決勝まで勝ち上がった男!!』


ヘラクレスが歩く。


『十二の功業をその身に宿す、古代ギリシャ神話の英雄!!』


『ヘラクレス!!』


会場が大きく揺れた。


ヘラクレスは歓声など気にも留めず、真っ直ぐケラウノスへ向かって歩いていく。


二人が闘技場中央で向かい合った。


しばしの沈黙。


ケラウノスがヘラクレスの身体を上から下まで眺める。


そして――


「……デカくなったな」


ヘラクレスの眉が動いた。


「……あ?」


ケラウノスは僅かに笑う。


「昔はもっと小さかっただろう」


「何を言ってやがる」


ヘラクレスの声が低くなる。


「ただの親父の武器の癖に――」


拳を握る。


「親気取りかよ!」


ケラウノスは黙ってヘラクレスを見る。


「アンタは――」


ヘラクレスが声を荒らげる。


「親父じゃねえだろ!!」


ケラウノスは少しだけ目を細めた。


そして――


「……やれやれ」


まるで、駄々をこねる子供を見るような目でヘラクレスを見る。


「相変わらずだな」


「……チッ」


ヘラクレスが舌打ちする。


『お、おおっと!?』


実況が二人の様子に戸惑う。


『どうやら両者、何やら因縁があるようです!!』


二人の前に、それぞれ宝珠が浮かび上がる。


『それでは――』


ケラウノスが宝珠を握る。


ヘラクレスも宝珠を握り締める。


『武器――顕現!!』


眩い光が弾けた。


ケラウノスの手には――


青白い雷を纏った短剣。


対するヘラクレスは両腕が光に包まれていく。


ヘラクレスが拳を握る。


「来いよ」


ケラウノスが短剣を構えた。


『それでは――』


実況のその一声に一瞬で会場が静まり返る。


『試合――開始!!』


鐘が鳴った。


その瞬間ヘラクレスが動いた。


「第六の功業――」


両腕を広げる。


「ステュムパリデスの怪鳥!!」


光が弾けた。


ヘラクレスの手に、大きな弓が現れる。


その弓へ矢を番える。


「まずは――」


弦を引き絞る。


「挨拶だ!!」


――ビュンッ!!


矢が放たれた。


一発。


二発。


三発。


次々と矢がケラウノスへ飛んでいく。


「……!」


ケラウノスが短剣を掲げる。


「そんなもの――」


短剣へ青白い雷が集中する。


「雷で落とす!!」


――バチィィィィン!!


雷撃が放たれた。


空中で矢が次々と弾け飛ぶ。


一本。


二本。


三本。


すべての矢が雷によって撃ち落とされた。


「へっ」


ヘラクレスが笑う。


「やっぱり簡単にはいかねえか」


弓が光となって消える。


「第六の功業――ステュムパリデスの怪鳥、解除」


次の瞬間。


ヘラクレスの肩へ光が集まる。


「第四の功業――」


肩が輝く。


「エリュマントスの猪!!」


棘の付いた巨大な肩当てが両肩へ現れた。


ヘラクレスが身体を低くする。


「――行くぜ!!」


地面を蹴った。


――ドォン!!


凄まじい速度で突進する。


「……!」


ケラウノスは迎え撃とうと短剣を構える。


だが――


ヘラクレスの突進は止まらない。


「潰れろぉぉぉ!!」


棘が迫る。


その瞬間。


ケラウノスの身体が宙へ浮いた。


「甘い」


ヘラクレスの肩当てが、ケラウノスの足元を掠める。


そのまま地面へ激突。


――ドゴォォン!!


闘技場の床が砕ける。


「チッ!」


ヘラクレスが顔を上げる。


空中にいるケラウノスを見つける。


「なら――」


肩当てが消える。


「第四の功業――エリュマントスの猪、解除」


間髪入れず、別の光がヘラクレスの腰から現れた。


「第九の功業――」


黄金の帯が現れる。


「ヒッポリュテの帯!!」


帯が意思を持つ蛇のように伸びる。


「なっ――!」


ケラウノスが空中で身を捻る。


だが――


遅い。


帯がケラウノスの身体へ絡みついた。


「捕まえた!!」


「くっ……!」


ヘラクレスが帯を強く引く。


「落ちろぉ!!」


――ドォォォン!!


ケラウノスの身体が地面へ叩きつけられた。


「ぐっ……!」


衝撃で地面に亀裂が走る。


ケラウノスは顔を歪めながらも、ゆっくりと立ち上がった。


「……やるじゃないか」


「まだ終わってねえぞ!」


ヘラクレスが帯を解除する。


「第九の功業――ヒッポリュテの帯、解除」


続けて――


光が頭部へ集まっていく。


「第七の功業――」


黄金の兜。


そこから巨大な二本の角が伸びる。


「クレタの牡牛!!」


ヘラクレスが再び身体を低くした。


「今度こそ――」


ケラウノスへ向かって突進する。


「逃がさねえ!!」


――ドォン!!


迫る巨体。


ケラウノスは短剣を構える。


「……!」


だが、真正面から受けることはしなかった。


身体を僅かに横へずらす。


しかし――


「ぐっ!!」


角が身体を掠めた。


衣服が裂ける。


皮膚から血が流れる。


ケラウノスが後ろへ飛び退いた。


ヘラクレスが笑う。


「へっ!」


兜の角を撫でる。


「親父の武器も、大した事ねえな!」


ケラウノスは傷口を見る。


そして――


ゆっくりと立ち上がった。


「……そうか」


短剣を握り直す。


「ならば――」


短剣の周囲へ、青白い雷が集まり始めた。


「まだまだだ」


「……!」


ヘラクレスが目を細める。


ケラウノスの周囲へ雷が渦巻く。


空気が震える。


――バチ……バチバチ……。


「来るか」


ヘラクレスが兜を解除する。


「第七の功業――クレタの牡牛、解除」


次の瞬間。


ヘラクレスの背後に、巨大な影が浮かび上がった。


「第十二の功業――」


闇が広がる。


「冥界の番犬!!」


――グルルルルル……。


三つの頭。


巨大な牙。


冥界より這い出したかのような黒い獣――


ケルベロスの幻影が姿を現した。


「……!」


ケラウノスが目を見開く。


「行けぇ!!」


ケルベロスが地面を蹴った。


――ドォン!!


三つの首が同時にケラウノスへ襲い掛かる。


「ぐっ!!」


ケラウノスが雷を纏った短剣を振るう。


しかし――


ケルベロスの一つの頭が、その腕へ噛みついた。


「ぐあっ!!」


二つ目の頭が肩へ。


三つ目が脇腹へ。


鋭い牙が身体へ食い込む。


「ぐっ……あああああっ!!」


ケラウノスの顔が苦痛に歪む。


その瞬間だった。


「――ならば!!」


ケラウノスの身体から、凄まじい雷が迸った。


「これで――どうだ!!」


――――バチィィィィィィン!!


雷霆が闘技場を駆け抜ける。


一直線に――


ヘラクレスへ。


「――ッ!!」


――ドォォォォン!!


雷が直撃した。


ヘラクレスの身体が大きく吹き飛ぶ。


「ぐあっ!!」


地面を転がる。


同時に――


ケラウノスへ食らいついていたケルベロスの幻影が消滅した。


「はぁ……はぁ……」


ケラウノスが膝をつく。


身体には無数の傷。


それでも立ち上がる。


「……まだだ」


倒れたヘラクレスを見る。


「終わらせる」


短剣を掲げる。


「これで――」


空から雷が集まる。


「終わりだ!!」


――バチィィィッ!!


巨大な雷がヘラクレスへ向かって放たれた。


だが――


「……!」


雷が迫る。


その瞬間。


ヘラクレスが地面へ手をついた。


「第十二の功業――冥界の番犬、解除」


そして――


「第十一の功業――」


ヘラクレスの手に黄金の光が集まる。


「黄金のリンゴ!!」


手の中に、一つの黄金のリンゴが現れた。


ヘラクレスはそれへかぶりつく。


「んぐっ……!」


その瞬間。


身体中の傷が淡い光に包まれた。


裂けた皮膚が塞がっていく。


流れていた血が止まる。


身体を蝕んでいたダメージが、まるで嘘だったかのように消えていく。


そのまま立ち上がった。


「……ふぅ」


迫る雷を――


横へ跳んでかわす。


――ズドォォォン!!


雷が地面へ落ちた。


ケラウノスが目を見開く。


「……おいおい」


ヘラクレスがリンゴをかじる。


「そりゃちょっと――」


ケラウノスが苦笑する。


「ズルいんじゃないか?」


「うるせぇ!」


ヘラクレスがリンゴを食べ終える。


「これも俺の力だ!!」


ケラウノスは短剣を見る。


そして――


雷を短剣の刀身へ集中させた。


青白い光が刃を包み込む。


「なら――」


身体を低くする。


「一気に決める!!」


――ドォン!!


ケラウノスが突っ込んだ。


雷を纏った短剣が、一直線にヘラクレスへ迫る。


ヘラクレスは正面から迎え撃つ。


「来い!!」


そして――


「第五の功業――」


両手を広げる。


「アウゲイアスの小屋掃除!!」


その瞬間。


ヘラクレスの前方に、大量の水が出現した。


「なっ!?」


轟音。


濁流が一気に押し寄せる。


「うおおおおおっ!?」


ケラウノスの身体が水流に飲み込まれた。


「流されろぉぉぉ!!」


――ザバァァァァン!!


ケラウノスの身体が大きく吹き飛ばされる。


だが――


「……馬鹿め」


水の中から声が響いた。


「……!」


ヘラクレスが目を見開く。


ケラウノスの身体から雷が迸る。


「雷は――」


短剣を水面へ突き立てる。


「水を伝うんだよ!!」


――バチィィィィィン!!


雷撃が水を駆け抜けた。


「うおおおおおおっ!?」


ヘラクレスの身体が激しく痙攣する。


「ぐあああああっ!!」


全身を雷が走り抜ける。


水が蒸気へ変わる。


ケラウノスは水の中から立ち上がる。


「馬鹿め」


「うるせぇ!!」


ヘラクレスが叫ぶ。


水を振り払うように立ち上がる。


「第五の功業――アウゲイアスの小屋掃除、解除!!」


光が消える。


ヘラクレスの両腕へ黄金の光が集まった。


「第一の功業――」


黄金の手甲が両腕を包み込む。


「ネメアの獅子!!」


獅子の牙を思わせる巨大な手甲。


ヘラクレスが拳を握る。


「今度は――」


ケラウノスへ向かって走る。


「俺から行くぜ!!」


「……!」


ケラウノスも迎え撃つ。


短剣へ雷を集中させる。


「来い!!」


二人の距離が一気に縮まる。


ケラウノスが短剣を振り上げる。


「これで――」


雷が空へ伸びる。


「終わりだ!!」


だが――


「遅ぇ!!」


ヘラクレスの拳が先に届いた。


――ガァン!!


黄金の獅子の牙が、ケラウノスの短剣を正面から弾き飛ばした。


「――なっ!?」


短剣が宙を舞う。


ケラウノスの目が見開かれる。


「しまっ――」


ヘラクレスが拳を握り直す。


「終わりだ!!」


だが――


ヘラクレスはそこで攻撃を止めた。


「第一の功業――ネメアの獅子、解除」


黄金の手甲が消える。


ケラウノスが息を整える。


「……?」


ヘラクレスの両手に、別の光が集まった。


「第八の功業――」


巨大な影が両腕へ現れる。


「ディオメデスの人喰い馬!!」


光が弾ける。


ヘラクレスの両手に現れたのは――


巨大な大バサミ。


その刃には、無数の鋭い棘が並んでいる。


「……!」


ケラウノスが後ずさる。


「それは……」


ヘラクレスがニヤリと笑う。


「捕まえたぜ」


大バサミが開く。


ケラウノスの身体へ迫る。


「――ッ!!」


両側から刃が迫る。


ケラウノスの身体を挟み込もうとした――


その直前。


「……降参だ!!」


ケラウノスが叫んだ。


大バサミが止まる。


静寂。


ヘラクレスが目を丸くする。


「……あ?」


ケラウノスが両手を上げる。


「俺の負けだ」


実況が一瞬、言葉を失った。


『……!』


そして――


『勝負あり!!』


会場中へ声が響き渡る。


『準々決勝、第四試合――!!』


観客席から大歓声が巻き起こる。


『勝者――ヘラクレス!!』


歓声が闘技場を揺らす。


ヘラクレスは大バサミを見下ろす。


そして――


「チッ!」


少しだけ残念そうに舌打ちした。


「あと少しで真っ二つにしてやったのに」


「……」


ケラウノスの額から――


一筋の冷や汗が流れる。


「お前……」


大バサミを見る。


無数の棘。


そして、その巨大な刃。


「本気で言ってるのか!?」


ヘラクレスはニヤリと笑った。


「へっ!」


大バサミを消す。


「さぁな!」


ケラウノスは呆れたように笑う。


「……やれやれ」


ヘラクレスが踵を返す。


その背中を見ながら、ケラウノスは小さく呟いた。


「本当に……デカくなったな」


ヘラクレスは振り返らない。


ただ――


僅かに口元を緩めた。


こうして――


準々決勝、最後の一戦は終わった。


雷霆を操るケラウノス。


十二の功業を宿す英雄ヘラクレス。


父と子。


それは決して、素直な親子の再会ではなかった。


だが――


最後に闘技場へ残ったのは。


父の力を超えようとする――


一人の英雄だった。

お疲れ様でした。

読んで下さり感謝致します。


話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。

更新時間:毎日12:00となっております。

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