第二十四試合 蛇の執念と最後の一人
作品は完結させております。
安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。
たくさんのブックマーク、評価、コメント。
また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。
よろしくお願いします。それではどうぞ!
第二回戦。
ここまで勝ち残った者たちによる戦いは、すでに八試合目を迎えていた。
しかし――。
この試合には、これまでとは決定的に違うものがあった。
通常ならば、第一回戦を勝ち抜いた者同士が対戦する。
だが。
今回の対戦者の一人は違う。
『さあああああ!!』
実況の声が闘技場全体へ響き渡る。
『第二回戦もいよいよ最終試合!!』
観客席から大歓声が巻き起こった。
『第二回戦、第八試合!!』
歓声が少しずつ静まっていく。
『そして、この試合は――今大会唯一のシード枠!!』
観客席がざわめいた。
『第一回戦を戦うことなく、ここまで勝ち上がってきた特別枠!!』
『対するは――第一回戦、第十五試合を制した男!!』
片側の入場口が開く。
「……」
静かな足音と共に、男が姿を現した。
長い黒髪。
褐色の肌。
鋭い目つき。
第一回戦でシャルルを追い詰め、最後にはその身体を完全に拘束して勝利を掴んだ男。
『アポピス!!』
観客席から歓声が上がる。
アポピスは何も答えない。
ただ、肩へ掛けた長大な鎖を手に取る。
ジャラ……。
その視線は、すでに反対側の入場口へ向けられていた。
『そして!!』
実況の声が一段と大きくなる。
『対するは――!!』
反対側の入場口が開いた。
一歩。
大きな足が踏み出される。
続いて、巨大な身体が姿を現した。
鍛え上げられた肉体。
鋭い眼差し。
全身から放たれる圧倒的な存在感。
観客席から、ざわめきが広がっていく。
「……あれが」
「シード枠……」
「まさか……」
男はゆっくりと闘技場中央へ歩いてくる。
その名を――。
『ヘラクレス!!』
瞬間。
会場が大きく揺れた。
だが。
実況が続けて説明しようとした、その時だった。
「おい!」
観客席から声が飛んだ。
「そいつ、武器じゃないだろ!!」
「そうだ!」
「なんで人間が出てるんだ!?」
「大会のルール違反じゃないのか!?」
次々とヤジが飛ぶ。
ヘラクレスは足を止めた。
そして――。
ゆっくりと観客席を見上げる。
鋭い眼光。
ただそれだけだった。
「…………」
ざわめきが止まる。
誰も、続きの言葉を口にしない。
ヘラクレスは何事もなかったように中央へ歩き出した。
実況も一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに声を張り上げる。
『そ、それでは改めて説明しましょう!!』
『今回のシード枠――ヘラクレス!!』
『ただし!! 彼は通常の武器ではありません!!』
観客席が再びざわつく。
『古代ギリシャ神話に名を残す、半神の英雄!!』
『数々の偉業を成し遂げた、まさに英雄中の英雄です!!』
ヘラクレスは黙っている。
『そして!!』
実況が続ける。
『彼が今回、この大会へ持ち込んだものは――!!』
ヘラクレスの前に、宝珠が浮かび上がった。
『彼の十二の功業!!』
アポピスが目を細める。
「……十二の武器?」
ヘラクレスは答えない。
宝珠へ手を伸ばす。
光が弾ける。
だが――。
何も現れない。
宝珠は砕けることもなく、静かに消えていく。
観客席からどよめきが起こる。
「何も出てないぞ?」
「やっぱり武器じゃないんじゃないか?」
その瞬間。
ヘラクレスの両腕に――。
淡い光が宿った。
『――ッ!?』
実況が息を呑む。
『宝珠から武器が現れない!!』
『しかし、ヘラクレスの身体そのものに光が宿っている!!』
ヘラクレスが右腕をゆっくりと握る。
光が集束していく。
「第一の功業――」
右腕に黄金の光が走る。
「ネメアの獅子」
瞬間。
ヘラクレスの右手を覆うように、黄金の獅子の牙を思わせる巨大な手甲が現れた。
「おおおおおっ!!」
観客席から歓声が上がる。
『これが――十二の功業!!』
アポピスは鎖を握り直した。
「……面白い」
ヘラクレスが静かに言う。
「来い」
『両者、構えて――!!』
アポピスが腰を落とす。
鎖が地面を擦る。
ジャラ……。
ヘラクレスも構える。
『試合――開始!!』
――ザッ!!
先に動いたのはアポピスだった。
「――ッ!!」
腕を振る。
――ジャラァッ!!
鎖が一直線に飛び出した。
ヘラクレスへ向かう。
ヘラクレスは避けない。
右腕を振る。
――ガキィィン!!
獅子の牙を模した手甲が鎖を弾き飛ばした。
「……!」
鎖が大きく軌道を変える。
だが。
アポピスはすぐに手首を返した。
「戻れ」
ジャラッ!!
弾かれた鎖が空中で方向を変える。
ヘラクレスの背後へ回り込む。
「――ッ!」
ヘラクレスが振り返らない。
右腕だけを後ろへ振る。
――ガァン!!
再び鎖が弾き飛ばされた。
アポピスは目を細める。
「……なるほど」
鎖を引き戻す。
ジャラ……。
「なら、数を増やす」
鎖を振る。
右。
左。
上。
下。
複雑な軌道を描きながら、鎖がヘラクレスの周囲を駆け巡る。
一度弾かれても、すぐに方向を変える。
地面を這い。
空中へ跳ね。
背後へ回り込む。
まるで無数の蛇がヘラクレスへ襲い掛かっているようだった。
しかし――。
ヘラクレスはその全てを弾いていく。
「……!」
アポピスの表情が僅かに変わる。
「見えているのか」
ヘラクレスは答えない。
その代わり――。
「第一の功業――解除」
光が消える。
手甲が消滅する。
アポピスが眉をひそめた。
「……解除?」
ヘラクレスは静かに左腕を上げた。
「第二の功業――レルネーのヒュドラ」
光が走る。
ヘラクレスの腕に絡みつくように、無数の蛇の頭を思わせる枝分かれした鞭が現れた。
『おおおおおっ!!』
歓声が爆発する。
ヘラクレスが腕を振る。
――バシュッ!!
一本の鞭が飛ぶ。
アポピスが横へ跳ぶ。
「……!」
鞭が地面を叩く。
――ドゴォン!!
だが。
鞭は一本ではなかった。
二本。
三本。
四本。
無数に枝分かれし、アポピスを追う。
「くっ……!」
アポピスが走る。
鎖を振る。
「行け!!」
鎖が鞭へ絡みつく。
――ガシャン!!
そのまま引き裂く。
だが。
切断されたはずの鞭が、再び別方向へ伸びる。
「……厄介だな」
アポピスが鎖を引く。
次の瞬間。
鞭が地面を這う。
アポピスの足元へ迫る。
「――ッ!」
跳ぶ。
鞭が足元を通過する。
空中へ伸びた鞭が、さらに方向を変えた。
「逃げるだけか?」
ヘラクレスが一歩ずつ近づいてくる。
アポピスは笑った。
「まさか」
鎖を大きく振り回す。
「追うのは――」
鎖が空中を駆ける。
「俺の方だ」
鎖がヘラクレスの背後へ回り込む。
ヘラクレスが振り返る。
「――ッ!」
鞭を振る。
鎖と鞭が激突する。
――ガキィン!!
火花が散る。
その瞬間。
アポピスが腕を引いた。
「そこだ!」
鎖がヘラクレスの腕へ絡みつく。
一周。
二周。
三周。
「……!」
観客席から歓声が上がる。
「捕らえた!!」
「ヘラクレスの腕を拘束したぞ!!」
アポピスが鎖を引く。
「逃がさない」
ヘラクレスの身体が僅かに傾く。
だが――。
「……そうか」
ヘラクレスが笑う。
「ならば――」
全身へ力を込める。
「引き千切るまでだ」
――バギィィン!!
鎖が弾き飛ばされた。
「なっ……!」
アポピスが目を見開く。
その隙にヘラクレスが踏み込む。
「第二の功業――解除」
鞭が消滅する。
アポピスが鎖を構える。
「まだ何かあるってことか……」
ヘラクレスの足元に黄金の光が集まる。
「第三の功業――ケリュネイアの鹿」
光が一本の剣へ変わる。
黄金の鹿の角を思わせる刃。
「今度は剣か」
アポピスが鎖を構える。
ヘラクレスが踏み込む。
――ザンッ!!
アポピスが鎖で受ける。
――キィン!!
凄まじい衝撃。
アポピスの身体が後ろへ吹き飛ぶ。
「ぐっ!」
地面を滑る。
だが。
すぐに立ち上がる。
「……重いな」
鎖を握り直す。
ヘラクレスが迫る。
「まだだ!」
アポピスが鎖を振る。
――ジャラァッ!!
鎖が伸びる。
ヘラクレスが剣で弾く。
――ガキィン!!
だが。
鎖は弾かれた瞬間、別方向へ跳ねる。
ヘラクレスの足元。
背後。
頭上。
あらゆる方向から鎖が迫る。
「捕らえろ」
アポピスが腕を振る。
鎖がヘラクレスの身体へ絡みつこうとする。
しかし。
ヘラクレスは剣を振る。
――ザンッ!!
鎖が弾かれる。
「……!」
アポピスが歯を食いしばる。
「まだだ!」
再び鎖を振る。
今度は地面へ。
鎖が地面を這う。
ヘラクレスの左右を回り込み――。
背後へ。
そして。
一気に締め上げる。
「取った!」
鎖がヘラクレスの胴体へ絡みついた。
「……!」
観客席が沸き上がる。
「今度こそ捕らえた!!」
アポピスが鎖を引く。
「これで――」
だが。
ヘラクレスは動かない。
「……?」
アポピスが目を細める。
ヘラクレスはゆっくりと振り返った。
「お前の鎖は見事だ」
剣を構える。
「だが――」
鎖を掴む。
「捕らえた相手が悪かったな」
――ドォン!!
ヘラクレスが力任せに鎖を引く。
アポピスの身体が一気に引き寄せられた。
「――ッ!?」
ヘラクレスの拳が迫る。
「くっ!!」
アポピスが咄嗟に鎖を放す。
拳が目の前を通過する。
――ゴォン!!
地面が砕けた。
「危ない……!」
アポピスが距離を取る。
その瞬間。
ヘラクレスの身体に光が走った。
「第三の功業――解除」
そして。
「第十の功業――ゲリュオン」
光が身体へ吸い込まれる。
ヘラクレスの目が鋭くなる。
「……!」
アポピスを見据える。
その視線。
その聴覚。
その反応速度。
全てが研ぎ澄まされていく。
アポピスが鎖を構える。
「……」
ヘラクレスが動く。
「――ッ!!」
速い。
アポピスが鎖を振る。
だが。
ヘラクレスは僅かに身体をずらした。
鎖が空を切る。
「なっ……!」
そのままヘラクレスが距離を詰める。
「終わりだ」
拳が迫る。
アポピスは鎖を引く。
「――まだだ!」
鎖がヘラクレスの足へ伸びる。
ヘラクレスが跳ぶ。
そのまま拳を振り抜く。
「くっ!!」
アポピスが横へ飛ぶ。
拳が地面へ叩き込まれる。
――ドゴォォォン!!
土煙が舞い上がる。
アポピスはその隙に鎖を大きく振り回す。
「これで――!」
鎖がヘラクレスへ迫る。
一度。
二度。
三度。
あらゆる角度から襲い掛かる。
ヘラクレスはその全てをかわす。
「……!」
アポピスの目が見開かれる。
「読んでいる……?」
ヘラクレスが一歩踏み込む。
「お前の鎖は強い」
「……」
「だが――」
拳を握る。
「お前自身を捕らえれば終わりだ」
ヘラクレスが一気に距離を詰める。
「――ッ!」
アポピスが鎖を振る。
しかし。
ヘラクレスは鎖を掴んだ。
「なっ……!?」
そのまま引く。
アポピスの身体が前へ引き寄せられる。
「しまっ――!」
ヘラクレスの拳が腹部へ叩き込まれた。
――ドゴォォォン!!
「ぐあっ!!」
アポピスの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
鎖が手から離れる。
ジャラ……。
アポピスは必死に立ち上がろうとする。
「まだ……だ……」
震える手を伸ばす。
鎖が僅かに動く。
「まだ……俺には……!」
だが。
ヘラクレスはすでに目の前にいた。
「見事だった」
拳を握る。
「お前の鎖は、最後まで俺を捕らえようとした」
アポピスが顔を上げる。
「……だったら」
鎖を掴もうとする。
「最後まで……追ってみろ……!」
ヘラクレスが僅かに笑う。
「だが――」
拳が振り抜かれる。
――――ドォォォォン!!
アポピスの身体が吹き飛ぶ。
そのまま地面へ倒れた。
「…………」
動かない。
鎖が、そのすぐ横へ落ちる。
ジャラ……。
闘技場が静まり返った。
実況が息を呑む。
やがて。
『勝負あり!!』
声が響き渡る。
『第二回戦、第八試合!!』
観客席から固唾を呑む気配が伝わる。
『勝者――!!』
ヘラクレスがゆっくりと立ち上がる。
『ヘラクレス!!』
一瞬。
静寂。
そして――。
会場を揺るがすほどの大歓声が爆発した。
ヘラクレスは倒れたアポピスを見つめる。
「……よく戦った」
アポピスは薄く目を開ける。
「……参ったよ」
僅かに苦笑する。
「十二個も……反則だろ」
ヘラクレスは僅かに笑った。
「十二個全部は使っていない」
「それが……余計に怖いんだよ……」
そう言って、アポピスは再び目を閉じた。
ヘラクレスは踵を返す。
その背中へ、実況の声が響く。
『これで第二回戦、全ての試合が終了!!』
『そして!!』
『次なる舞台へ進む者が決まった!!』
歓声がさらに大きくなる。
第一回戦を勝ち抜いた者たち。
第二回戦を勝ち抜いた者たち。
そして――。
最後の一人。
半神の英雄。
十二の功業をその身に宿す男。
ヘラクレス。
この大会で初めて――。
「武器」ではない存在が、勝者としてその場に立っていた。
お疲れ様でした。
読んで下さり感謝致します。
話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。
更新時間:毎日12:00となっております。




