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20/33

第二十試合 十撃必殺と不折れ

作品は完結させております。

安心してラストまでお楽しみ頂ければ幸いです。


たくさんのブックマーク、評価、コメント。

また誤字・脱字報告も全て受け付けしております。


よろしくお願いします。それではどうぞ!


第二回戦。


その四試合目。


闘技場には、これまで以上の緊張が漂っていた。


『さあ! 続いて第二回戦、第四試合です!!』


実況の声が会場へ響き渡る。


『第一回戦で、圧倒的な速度を誇る如意棒を打ち破った恐るべき魔槍!』


巨大スクリーンに、一人の男が映し出される。


赤い髪。


鋭い眼差し。


静かな立ち姿。


『アイルランド神話に伝わる英雄、クー・フーリンが操ったとされる伝説の魔槍――!』


『ゲイ・ボルグ!!』


会場が大きく沸く。


『その恐るべき力は、単純な破壊力ではありません!』


『一度刺さった槍の刃が、相手の身体内部へ侵入し――!』


『そして、十度の刺突を受けたその瞬間!!』


実況の声が一段と熱を帯びる。


『無数の刃が、内部で一斉に展開する!!』


観客席からどよめきが起こる。


『まさに――十撃必殺!!』


歓声が巻き起こった。


そして――。


『対するは!!』


スクリーンの映像が切り替わる。


そこに映し出されたのは、一人の騎士。


長い黒髪。


静かな眼差し。


その身体には、第一回戦で刻まれた無数の傷跡が残っている。


『第一回戦、ミスティルテインの猛攻を受けながらも、最後まで立ち続けた伝説の聖剣!!』


『フランク王国の英雄、ローランが振るったとされる不壊の剣――!』


『デュランダル!!』


観客席が大きく沸いた。


『何度斬られても立ち上がる!!』


『その剣だけではない!』


実況が叫ぶ。


『戦う意志そのものが、決して折れない!!』


『まさに――不折れ!!』


二つの歓声が闘技場を揺らした。


――――


左右の入場口から、二人が姿を現す。


ゲイ・ボルグ。


デュランダル。


まだ二人とも武器を手にしていない。


闘技場中央へ歩み寄る。


そして、向かい合った。


デュランダルが口を開く。


「……お前の槍」


「ああ」


「第一回戦で見ていた」


ゲイ・ボルグが僅かに目を細める。


「そうか」


「十度刺せば、相手の身体の中で刃が展開する」


「その通りだ」


「恐ろしい武器だな」


「だからこそ、ここまで来た」


ゲイ・ボルグは淡々と答える。


デュランダルが自分の身体を見下ろした。


「俺は何度も斬られた」


そして、顔を上げる。


「だが、まだ立っている」


「……」


「お前の十撃と、俺の不折れ」


デュランダルが剣を持っていない手を握る。


「どちらが上か、確かめよう」


ゲイ・ボルグは僅かに笑った。


「いいだろう」


『それでは両者――武器を顕現!!』


二人が宝珠へ手を伸ばす。


光が弾けた。


ゲイ・ボルグの手に現れたのは、禍々しい魔槍。


鋭い穂先。


静かな殺気。


それだけで、見る者の本能に恐怖を与える。


ゲイ・ボルグは槍を一度だけ振った。


風が裂ける。


対するデュランダル。


光が収束する。


その手に現れたのは、重厚な長剣。


不壊の聖剣。


デュランダルは静かに構えた。


『両者、構えて――』


槍と剣が向かい合う。


『第二回戦、第四試合――』


会場が静まり返る。


『開始!!』


鐘が鳴った。


瞬間。


ゲイ・ボルグが踏み込んだ。


速い。


槍が一直線に突き出される。


デュランダルは剣を立てた。


――ガキィン!!


槍先が弾かれる。


しかしゲイ・ボルグは止まらない。


槍を引く。


再び突く。


デュランダルが身体を捻る。


穂先が肩を掠めた。


血が一筋流れる。


「一」


ゲイ・ボルグが呟いた。


デュランダルが目を細める。


「数えるのか」


「ああ」


二撃目。


デュランダルが剣で受ける。


――ガァン!!


三撃目。


弾く。


四撃目。


避ける。


五撃目。


――ズシュッ!


槍先が脇腹を掠める。


「五」


ゲイ・ボルグが距離を取る。


デュランダルは傷口を一瞥した。


「……まだ半分か」


「そうだ」


ゲイ・ボルグが槍を構える。


「あと五つだ」


デュランダルは剣を握り直した。


「なら――あと五つ耐えればいい」


ゲイ・ボルグの目が僅かに細くなる。


「耐える?」


「そうだ」


「俺の槍を?」


「ああ」


ゲイ・ボルグが笑った。


「面白い男だ」


再び踏み込む。


六撃目。


――ズシュッ!


肩を貫く。


「ぐっ!」


七撃目。


腹部。


八撃目。


太腿。


デュランダルの身体に、次々と傷が増えていく。


「六」


「七」


「八」


ゲイ・ボルグの声だけが静かに響く。


デュランダルは血を流しながらも、倒れない。


「……あと二つだ」


「そうだ」


九撃目。


――ドシュッ!


胸元を掠める。


デュランダルの身体が揺れる。


それでも。


倒れない。


「九」


ゲイ・ボルグが槍を構える。


「あと一つだ」


観客席がざわめく。


『ついに九撃!!』


実況の声が響く。


『あと一撃で、ゲイ・ボルグ選手の必殺が完成します!!』


ゲイ・ボルグが踏み込む。


十撃目。


これまでとは比べものにならない速度。


槍がデュランダルの胸元へ突き込まれる。


――ズシュッ!!


確かに刺さった。


デュランダルの身体が大きく揺れる。


ゲイ・ボルグが槍を引き抜く。


「十」


静寂。


次の瞬間――。


デュランダルの身体が震えた。


「……ぐっ」


胸元。


肩。


腹部。


脚。


身体の内側で、何かが蠢く。


「……っ!」


デュランダルが膝をついた。


ゲイ・ボルグは静かに見下ろす。


「終わりだ」


しかし――。


デュランダルの手が床についた。


「……まだだ」


「……何?」


デュランダルが顔を上げる。


口元から血が流れている。


「まだ……終わっていない」


身体の内部で、無数の刃が展開する。


激痛。


全身を貫くような衝撃。


それでも。


デュランダルは立ち上がった。


「な……」


ゲイ・ボルグの目が見開かれる。


デュランダルは震える脚で立っている。


「十撃……」


息を吐く。


「確かに……受けたぞ」


「あり得ない」


「そうか?」


「俺の刃が……」


ゲイ・ボルグが槍を握り直す。


「内部で展開したはずだ」


「ああ」


「なら、なぜ立てる!」


デュランダルは剣を握る。


「俺は――」


ゆっくりと構える。


「折れないからだ」


ゲイ・ボルグの目が鋭くなる。


「なら――もう一度だ」


踏み込む。


――ズシュッ!!


十一撃目。


デュランダルの肩を貫く。


身体が揺れる。


それでも。


「……十一」


ゲイ・ボルグが呟く。


デュランダルは倒れない。


「……まだだ」


「なぜだ……!」


十二撃目。


腹部。


――ズシュッ!!


デュランダルの身体が大きく仰け反る。


血が床へ落ちる。


それでも――。


「……十二」


ゲイ・ボルグの呼吸が乱れ始める。


「まだ立つのか……!」


デュランダルは答えない。


ただ剣を握っている。


「十三だ」


ゲイ・ボルグが吠える。


――ズシュッ!!


十三撃目。


太腿を貫く。


デュランダルの膝が落ちる。


「……っ!」


片膝をつく。


ゲイ・ボルグは勝利を確信した。


「終わりだ!」


しかし。


デュランダルの手が床を押した。


ゆっくりと。


本当にゆっくりと。


立ち上がる。


「……まだだ」


「……!」


観客席が静まり返る。


誰も声を出せない。


デュランダルは血まみれだった。


身体には無数の傷。


呼吸も荒い。


それでも。


剣だけは、決して手放さない。


ゲイ・ボルグが呟く。


「……化け物か」


「違う」


デュランダルが答える。


「俺は剣だ」


一歩。


「剣だから――」


さらに一歩。


「折れない」


ゲイ・ボルグの表情が変わった。


「なら――!」


槍を構える。


「お前が倒れるまで、俺は刺し続ける!!」


十四撃目。


十五撃目。


十六撃目。


槍が何度もデュランダルを貫く。


――ズシュッ!


――ズシュッ!


――ズシュッ!


そのたびに血が飛ぶ。


そのたびに身体が揺れる。


そのたびに――。


デュランダルは立ち上がる。


「……まだだ」


「なぜだ!!」


ゲイ・ボルグが叫ぶ。


「なぜ倒れない!!」


デュランダルは答えない。


ただ、前を見る。


ゲイ・ボルグを見る。


そして――。


一歩。


また一歩。


歩き出した。


「来い」


「……!」


「まだ終わっていない」


ゲイ・ボルグの手が震える。


これまで。


十度刺せば勝負は決まっていた。


それがゲイ・ボルグにとっての絶対だった。


十撃。


それだけで十分だった。


だが。


目の前にいる男は違う。


十撃受けても立った。


十一撃。


十二撃。


十三撃。


十四撃。


十五撃。


それでも。


まだ立っている。


「……俺の槍が」


ゲイ・ボルグが呟く。


「効いていないのか……?」


「効いている」


デュランダルが答えた。


「痛い」


「なら!」


「苦しい」


「なら、なぜ!」


デュランダルが剣を握り直す。


「それでも――」


血に濡れた顔で、笑った。


「俺は立てる」


ゲイ・ボルグの目が見開かれる。


「……ッ!」


デュランダルが走る。


「うおおおおおおおおおっ!!」


ゲイ・ボルグが迎え撃つ。


「来い!!」


槍と剣が激突する。


――ガァァァァン!!


ゲイ・ボルグが押し込む。


デュランダルが耐える。


「倒れろ!!」


「断る!!」


剣が槍を弾く。


「――ッ!」


ゲイ・ボルグの身体が開いた。


デュランダルが踏み込む。


「これで――」


剣を振り上げる。


「終わりだ!!」


――ドォォォォン!!


凄まじい一撃。


ゲイ・ボルグの身体が吹き飛んだ。


「ぐあああああっ!!」


地面を何度も転がる。


槍が手から離れる。


カラン――。


ゲイ・ボルグは立ち上がろうとする。


しかし――。


腕に力が入らない。


「……くっ」


片膝をつく。


顔を上げる。


そこには――。


傷だらけのデュランダルが立っていた。


身体中から血を流している。


満身創痍。


今にも倒れそうな姿。


それでも。


剣を握っている。


「……まだ」


ゲイ・ボルグが立とうとする。


だが。


身体が動かなかった。


「……無理か」


静かに笑う。


「俺の負けだ」


『――!!』


実況が息を呑む。


『ゲイ・ボルグ選手――戦闘続行不能!!』


一拍。


『第二回戦、第四試合――!!』


会場が静まり返る。


『勝者――デュランダル!!』


次の瞬間。


大歓声が爆発した。


デュランダルは、その歓声を聞いていた。


だが、すぐには動かなかった。


剣を杖にして、ただ立っている。


そして――。


「……十撃必殺」


小さく呟いた。


「恐ろしい槍だった」


ゲイ・ボルグが地面に倒れたまま笑う。


「だったら……なぜ立ってる」


デュランダルは答えた。


「俺にも分からない」


一瞬の沈黙。


そして。


「ただ――」


デュランダルは剣を握り直した。


「折れなかった」


その言葉とともに。


デュランダルは静かに空を見上げた。


こうして――。


十撃で必殺とされた魔槍は、十撃を超えてもなお立ち続ける男を倒すことができなかった。


十一撃。


十二撃。


十三撃。


それでも。


デュランダルは立ち続けた。


そして最後に立っていたのは――。


不折れの聖剣。


デュランダルだった。

お疲れ様でした。

読んで下さり感謝致します。


話数は少ないので更新は一日一話の更新となります。

更新時間:毎日12:00となっております。

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