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ユルの生活~はぐれ魔導士、気づけば国家の動乱を語る~  作者: hate2think


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①短気なバタ ②間違いを認めない

①短気なバタ

かつて、大陸の東方に位置する「品質の聖域クオリティ・ギルド」に、ツムラという名の生真面目な魔導鑑定士がいた。


彼の任務は、下界の人間から持ち込まれる「不具合のある魔道具」の原因を突き止め、その詳細を調査して神聖なる報告書にまとめること。しかし、高度な魔導分解や修理の実務に関しては、ギルドの地下工房に潜む一人の偏屈なドワーフ鍛冶職人、バタに頼らざるを得なかった。


バタは、修理一筋で何百年も生きてきた頑固者だ。プライドは天を突き、常に自分が職人街の「トップ」でなければ気が済まない。


支配者の錯覚

数ヶ月に一度、ツムラが神妙な面持ちで調査依頼の羊皮紙を携えて工房にやってくると、バタの歪んだ自尊心は最高潮に達する。


「おい、ツムラ。俺は今から瞑想の間(便所)に籠る。そこで大人しく待っていろ」


バタは自分のペースを乱されることを嫌い、ツムラを犬のように待たせることで快感を得ていた。


実はツムラも、以前は自らハンマーを握り、調査から修理、報告書の作成までをすべて一人でこなしていた。しかし、職人の意地で全行程を抱え込んだ結果、彼の魔力は枯渇寸前となり、ギルド内でも一、二を争うほどの「過重労働デスマーチ」に陥ってしまったのだ。


見かねた上層部から「鑑定士が直接手を下すべからず」という絶対遵守の呪令(お達し)が下されたため、今のツムラには呪詛を解く力がない。バタが瞑想の間で腹に溜まった泥をひねり出している間、工房の片隅でただじっと立ち尽くすしかなかった。


バタは、ツムラが「自分に頼るしかない立場」であることを敏感に察知していた。そのため、自分が上の階級になったと激しく錯覚し、ツムラに対して無理難題な魔材料の調達や、理不尽な要求を平気で吹っかけるようになっていた。


工房の咆哮

ある日、ツムラがバタの帰りを待つ間、工房にいたもう一人の若い見習い職人、ユルと別の魔道具の不具合について言葉を交わしていた。


そこへ、すっきりした顔のバタが戻ってきた。 戻ってきたバタの目に入ったのは、自分を差し置いて熱心に話し合うツムラとユルの姿。数分の間、二人の会話が続くと、自分が世界の中心にいないこと、そして元々気に食わなかったユルが生意気に喋っていることに、バタのはらは煮えくり返った。


「おい、ツムラァ!! 俺はなぁ、お前のくだらねえ調査依頼のせいで、聖なる修理作業を止めてやってんだよ!!」


バタの怒号が工房に響き渡る。ツムラはビクッと肩を震わせ、平身低頭に呪文を唱えるように繰り返した。


「すみません、すみません! すぐに説明いたします!」


ツムラは慌てて羊皮紙を広げ、バタの機嫌を損ねないよう、細心の注意を払いながら不具合の内容を説明し始めるのだった。


我は許されるが、他者は許されぬ

バタという男は、実に奇妙な精神の持ち主だった。「自分がやるのは聖なる権利だが、他人がやるのは大罪」という極端な二重基準ダブルスタンダードの中で生きていた。


かつて、この工房に一時的な応援として、隣国からカゴシという名の巨漢戦士が派遣されてきたことがあった。身長はオーガのごとく185センチ、体重は120キロを超える大男だ。バタはこの新参の巨漢のことも、最初から気に入らなかった。


バタ自身、魔力を練る最中に小腹が空くと、お気に入りの「妖精の甘味チョコレート」をポリポリと貪り食うのが癖だった。


しかしある時、カゴシが自身の巨体を維持するために、自前の干し肉を取り出して一口食べた瞬間、バタの目が血走った。自分のことは完全に棚に上げ、周囲に聞こえる大声で罵り始めたのだ。


「新入りの分際で、神聖なる作業中に兵糧を食うとは何事だ! 仕事に対する敬意が微塵も感じられん。たるんどるな!」


あまりに理不尽な言いがかりであったが、カゴシは黙って耐えるしかなかった。


バタの支配する暗い工房では、今日も彼一人のための不条理なルールが、不遜なハンマーの音と共に響き渡っている。




②間違いを認めない

地下工房には、今日も重苦しい空気が立ち込めていた。


事の発端は、かつてダマがギルドの「上級監督官マネージャー」という権力の座に就いていた頃に承認した、一枚の「魔道具製造の設計書スクロール」だった。


その設計書に変更が加えられていたことが原因で、下界の依頼主クライアントから「以前と内容が違う。信用できない」と、ギルドに激しい抗議の伝書が届いたのだ。


窓口としてその抗議を受け取ったのは、若き女性魔導士のラキ。彼女はすぐさま、元々の設計書を作成・承認した張本人であるダマの元へ確認に向かった。


譲れぬ攻防

ダマの過ちは明らかだった。しかし、保身の魔法に長けたダマが「これは私の間違いだ。ラキ、お前が仕込んだものではないから、私が依頼主に直接説明して不始末を詫びよう」などという、潔い言葉を口にするはずがなかった。


それを見たラキの目が、冷たく据わる。 ラキにとって、ダマはかつて上司という絶対的な権力を盾に、理不尽な命令(無理難題)を吹っ掛け、事あるごとに自分を叱責してきた因縁の相手だった。ラキの心には、積年の恨みと怒りが燃え盛っている。


(何としてでも、この男の口から『自分がやりました』と言わせてやる……!)


ラキは言葉を変え、角度を変え、執拗にダマを問い詰めた。外堀を埋め、逃げ道を塞ぎ、なんとか「言質」を引き出そうと、言葉の刃を突き立て続ける。


その光景を横目で見ていたユルは、深くため息をついた。


(ラキよ……ダマという男は己の盾を守ることに必死で、表立って失敗を認めるようなタマじゃない。そんな不毛な呪問答に時間を使うのは無駄だ。諦めて実務を進めた方がマシだぞ)


そう心の中で語りかけるが、ラキもまた絶対に引かない性質だった。 彼女はこういう時のために、事前に過去の羊皮紙を徹底的に調べ上げ、「どういう順番で問い詰めれば、相手が言い逃れできなくなるか」という『尋問の魔陣』を頭の中で完璧に組み立ててから挑むタイプなのだ。


二人の応酬は一時間を超え、ギルドの戦士たちが武器を置き、一時の休息(昼休憩)に入る時間になっても、火花を散らしながら続いていた。


減点方式の弊害

「どっちも時間の無駄だ。本当に、このギルドの『失敗した者だけを罰し、点数を引いていく評価制度』の弊害だな……」


ユルは胸の内で吐き捨てた。 誰もが自分の身を守るために嘘をつき、他人の足を引っ張ることに心血を注ぐ。こんな光景に出くわすたび、ユルは言葉にできない嫌悪感で胸が満たされるのだった。


そこへ、依頼主との交渉を担当する「外務交渉官(営業)」が、慌てた様子で工房に駆け込んできた。 ダマとラキが睨み合っている修羅場に割り込み、現在の依頼主の怒りの状況を説明し始める。


すると、それまでラキの前でしらを切り通していたダマが、急に天井を見上げ、独り言のようにこう呟いた。


「そうかぁ~、あのお方は気づいてしまわれたかぁ~。ご指摘はごもっとも。だって、我々が作業を楽にするために、内緒で魔法陣の術式を変えていたのだからね。バレちゃったかぁ~。ご指摘は当然だ」


息をするように紡がれる嘘

ユルは耳を疑った。


交渉官が来る前、ラキに「ここが変わっています」と突きつけられた時、ダマは「おや、そうでしたか~、ここが変わっていましたか。一体いつからでしょうねぇ?」と、今初めて知ったかのような白々しい態度を取っていたのだ。


それなのに、交渉官の前では一転して、「私は元々すべてを把握していました。分かった上で、あえて策略として変更していたのですよ」と言わんばかりのニュアンスを醸し出している。


(この男は……呼吸をするように嘘を紡ぐ生き物なのだな)


ダマという人間の底知れない浅ましさと不誠実さに、ユルはただただ、深い不信感と冷徹な嫌悪感を募らせるしかなかった。

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