表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユルの生活~はぐれ魔導士、気づけば国家の動乱を語る~  作者: hate2think


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/9

王宮魔導具工房の怠惰なる魔導師

言い訳を並べ立てるのは、あまりに容易い。自らの不出来を棚に上げ、前線で血を流す者を陰で嗤うのも、実に容易いことだ。しかし、真に呪文を紡ぎ、陣を敷き、現実に奇跡を起こすのは、言葉で言うほど容易なことではない。

「この術式は構築不可能です!」「魔力の消費効率が悪すぎる!」

王宮魔導具工房には、いつもそんな大声を張り上げ、身に降りかかる火の粉を払うかのように職務を拒み続ける魔導師がいた。名はバタ(59歳)。彼は大した魔導具も作らぬくせに、自分の功績だけは竜の如く大きく語る。自分が手を染めたくない任務が回ってくると、途端に「できない、不可能だ」と喚き散らして拒絶するのだ。彼がひとたび口を開けば、工房内は耳を瞑りたくなるほどの喧騒に包まれるため、同僚の若き術士ユルは、いつも聴覚を遮断する魔導具(耳栓)を装着して作業に没頭していた。

ふと、ユルは思考を巡らせる。 「……では、自分自身は完璧に術式をこなせているだろうか? 他者を悪く言えるほど、私はこの工房に貢献できているのだろうか?」 そう考えると、自分もまだまだ未熟に思え、ユルはただ黙々と手を動かすしかなかった。ある意味で、バタの自己評価は天空を突くほどに高く、逆にユルの自己評価は奈落の底のように低いと言えた。

バタはかつて、「コーディネーション」と呼ばれる、王宮が各地に配備した大型魔導具の現地据え付けや、破損した結界の現地修復を担う「斥候サービス魔導師」を手配する要職に就いていた。しかし、そのあまりの傲慢さと怠惰さゆえに現場から厄介払いされ、ユルがいるこの後方支援部隊へと左遷されてきたのだ。もっとも、ユル自身もかつて別の部署から「厄介払い」されてここに辿り着いた身であるため、他人のことを強く咎める資格はない、とも自嘲していたが。


バタがこの部隊に配属された当初、そこには前任の優秀な魔導師がいた。前任者がバタへと引き継いだ任務は、多岐にわたるものだった。魔導具の修復、それに伴う膨大な魔力成績書の作成、呪詛品の受け入れ手続き、修復品の発送魔陣の手配、さらにはそのすべてのスケジューリング。加えて、魔導具の定期的な「点検・校正(聖水による清めと呪力調整)」、およびその証明書発行と、全工程の管理であった。

しかし、バタ一人の手にかかると、驚くべきことにすべての魔導任務に致命的な遅延が発生した。このままでは王国の防衛ラインが立ち行かなくなる。危機感を募らせた上層部は、バタが引き継いだはずの任務をユルを含む数人の術士たちに細分化して割り振った。結果として、現在バタに残された仕事は、単純な「修復」と「点検」のみとなったのである。それすらも、彼は様々な理屈(魔力が枯渇した、天界の配置が悪い等)を付けては断り続けていた。

バタは常日頃から、「魔力が尽きた、早くこの工房を退職して隠居したい」と周囲に漏らしている。これだけ任務を減らされて何が疲れるのか、ユルには到底理解できなかったが、それは置いておく。この王国には、「本人が希望する場合、六十五の歳を迎えるまでは、国や組織は何らかの形でその者が働ける『場』を保障せねばならない」という厳格な法(王令)が存在していた。おそらくバタは、この法を盾にして、魔力を絞り出すふりをしながら定年まで工房にしがみつくつもりなのだろう、とユルは確信していた。

今日も今日とて、バタには特にやるべき任務がない。 彼は羊皮紙の魔導端末の上に、いかにも難解そうな古代の術式展開図をそれっぽく広げ、魔導マウスを握った手を、意味もなく時折動かしている。たまにキーボードで怪しげな呪文の羅列を打ち込んだかと思えば、次の瞬間にはそれを全て消去しているのだ(バタから新たな魔導研究が発表されたことなど一度もないため、一体何を打ち込んで消しているのか、工房の誰も理解できなかった)。

それに飽きると、彼は工房内をふらふらと徘徊し始める。足が疲れると、今度は資料棚の奥に寄りかかり、ハーブティーの入ったカップを片手に、同じ部屋で額に汗して働く若き術士たちの様子を、うすら笑いを浮かべながら観察しているのだ。

——そして、この工房のメンバーの中で、おそらく最も多くの王宮配給金(給与)を受け取っているのは、他ならぬ彼なのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ