ユルとタマンの鉄馬(魔導車)放浪 ~伝説の聖馬を諦めた男が、旅の相棒オミに相談するまで〜
かつて、ユルには壮大な夢があった。
それは、最新鋭の魔導具を惜しみなく注ぎ込んだ特級魔導馬車「イゾラ」——金貨1000枚(新車価格1000万円相当)もする、動く宮殿のような乗り物を手に入れ、愛する旅の相棒タマンと共に、世界中を気ままに旅すること。
しかし、無情にもユルの財布にそんな大金は入っていなかった。
「……よし、目標をグッと下げよう。まずは一番小さな『軽魔導馬車(最軽量クラスの馬車)』から始めて、徐々に成り上がっていけばいいさ」
そう割り切ったユルは、冒険者ギルドの魔導通信で中古の出物を探してみた。すると驚いたことに、「引き渡し価格:銀貨38枚(38万円相当)」という、破格の安さで売られている馬車が見つかったのだ!
「これなら、ちょっと依頼をこなせばすぐに買えるぞ!」
大喜びで詳細な羊皮紙の図面をめくったユルだったが、すぐに首を傾げた。それは、街の商人が荷物を運ぶためによく使っている、ただの箱型の「汎用ワンボックス馬車」だったのだ。
説明書きには『車内野営(車中泊)に最適!』と仰々しく書かれている。
「え? じゃあ、こっちの銀貨39枚のやつは……? いや、これもただの箱型馬車じゃないか。どこが『旅の拠点を備えた魔導キャンピングカー』なんだ?」
納得がいかないユルが、両方の馬車の共通情報に目を凝らすと、そこには小さく【ベース車両(改造用の素体)】の文字が。
「まさか今、世間では『ただの安い箱型馬車』を買い、自分たちの手でゼロから魔法や木工細工を施してカスタマイズするのが流行っているのか……?」
疑問に思ったユルは、すぐに手持ちの古代遺物「叡智の魔導書(AI)」を開いて尋ねてみた。
Q:
「軽魔導馬車って、ただの汎用箱型馬車を買って、自分たちでゼロから改造するのが流行ってたりするのかい?」
A(叡智の魔導書):
「結論から申し上げましょう。汎用的な軽箱型馬車(軽バン)を購入し、ゼロから己の手で木工や魔導工作(DIY)を施して『移動式隠れ家』を作り上げるのは、現在、冒険者たちの間で凄まじい大流行となっています。
一昔前までは『腕利きの馬車職人から完成品を買う』のが常識でした。しかし現在は、吟遊詩人の魔導映像(SNS・動画サイト)の普及や、ソロ野営ブームの定着により、一般の旅人が『自分だけの秘密基地』を自作する文化が一大ジャンルとして確立しているのです。
理由1:圧倒的な費用対効果
『スズキのエブリイ村製』や『ダイハツのハイゼット街製』といった普及型の鉄馬を数万〜数十万の銅貨・銀貨で手に入れ、そこに数枚の銀貨で木材や魔導部品を投資すれば、総額金貨10枚(100万円)以下でオリジナルの旅馬車が完成します。
理由2:『秘密基地』を育てる娯楽性
『自分の部屋をそのまま引っ張って旅をする』というクラフト感が、モノ作り好きな冒険者の心を掴んでいます。
理由3:自作用パーツ・魔導キットの充実
専門店に行かずとも、通信販売で手軽に組み立てキットが手に入ります」
魔導書は親切にも、その後に具体的な「木工加工の手順」まで光の文字で示してくれた。
「うーーん……」と、ユルは唸り、頭を抱えた(-ω-;)
世間の旅人たちがそんな職人 を気取っているとは知らなかった。手軽に、たくさん走ってボロくなった安い鉄馬を買おうと思っていたのだが。
正直に言って、ユルは手先が器用ではない。それどころか、つい前日まで宿の床に寝袋を敷いて寝ていたし、今だって休みの日はギルドの固いフローリングに薄着一枚で直に転がって寝て平気な男だ。体が痛くなることもない。
だから、職人がこだわるような「豪華な内装」には1ミリも興味がなかった。最低限、雨風がしのげて横になれればそれで良かったのだ。
さらに、街の衛兵による「馬車検問(車検)」の厳しい規制を調べて、いちいち適合するように魔導改造を施すのも極めて面倒だった。
だが、選択肢がそれ(自作)しかないのなら、最低限の寝床だけを固定して検問を通せばいいか……。
そう思いながら、王国の「馬車安全基準(車検ルール)」を調べると、目まぐるしいほどの規制が出てきた。重量の制限、乗車人数分の座席(固定椅子)の確保などなど。
「待てよ? 衛兵のルールをクリアしつつ、ただ『馬車の中で寝る』という条件を果たすだけなら、荷物用の箱型馬車じゃなくて、貴族や一般家庭が使う『ステーションワゴン(乗用魔導車)』をベースにして、後ろの席をパタンと倒して寝る方が、はるかに簡単に思えるぞ。……その分、車両自体の税金や維持費(魔力触媒代)は上がっちまうけどな」
ユルは再び、叡智の魔導書にその旨をぶつけてみた。
A(叡智の魔導書):
「『車内で眠る』という単一の目的だけで見れば、乗用魔導車をベースにする方が、初心者にとって圧倒的に簡単で、魔導検問のハードルも低い。それは大正解、至言でございます。
それでもなお、なぜ多くの冒険者があえて規制や制限の多い『軽箱型馬車(軽バン)』を選び、ゼロから苦労して改造しているのか。その理由を比較すると、あなたの目的が『寝るだけで十分』なのか『車内を生活空間(部屋)にしたいのか』という決定的な違いが見えてきます。
箱型馬車を改造する者たちの真の目的は、雨の日に車内で魔導幻灯機(映画)を楽しんだり、DIYという行為そのものを娯楽として愛したり、『移動する秘密基地』を作ることにあるのです」
「たしかに、至極もっともな回答だ……」
ユルは呟いた。雨の日に馬車の中でゆっくり過ごしたいし、秘密基地への憧れもある。だが、いかんせん「自分でトンテンカンテン物を作る(DIY)のは死ぬほど面倒くさい」のだ。
旅の相棒であるタマン(※言葉の通じない獣)に「どう思う?」と相談するわけにもいかない。
そこでユルは、この旅のもう一人の同行者であり、かれこれ30年もの長い付き合いになる頼れる相棒「オミ」に、この悩ましい馬車選びの件を相談してみることにしたのだった。




