暴食の咎(とが)と、ユルの大改革
かつて、とある王国のギルドに所属する魔導戦士ユルは、過酷な任務の反動からか、奇妙な食の衝動に憑りつかれていた。
彼は週末になると、小麦の粉をうず高く練り上げた聖なる甘味「パン・ケーキの塊(1kg)」を二日で平らげ、時には東方の禁忌の麺料理「二郎調」の自作に没頭。大釜に濃厚な脂のスープを滾らせ、極太の魔導麺を一度に3玉も胃袋に叩き込んでいた。さらにそれだけにとどまらず、南方の熱砂の国に伝わる、無数の魔香辛料で米と肉を炊き込んだ幻惑の宮廷料理「米肉積層飯」を大鍋一杯に錬成し、一気呵成に平らげる日々を送っていたのだ。
若い頃は持ち前の魔力(代謝)で相殺できていたが、齢を重ねるにつれ、その暴飲暴食の魔力の波を肉体が受け止めきれなくなっていった。
そんなある日、国より義務付けられた聖職者による年に一度の神聖魔術「腹部探知」の儀式が行われた。
結果は最悪の『E判定(要・最高位魔導士による精密検査)』。
【神聖魔術が告げたユルの肉体の呪い(カルテ)】
1. 脾臓の不調:魔力の通り道(脾管)が異常に拡張している。
2. 左腎臓の異変:闇の結晶化、または魔石(結石)の兆候あり。
3. 膵臓の危機: 瘴気を孕んだ「嚢胞性の腫瘤」の形成。
4. 胆嚢の異変: 胆汁の器が限界を超えて腫れ上がっている。
5. 肝臓の汚染: 脂の呪いに侵された「脂肪肝」の状態。
酒の呪水はここ2年、一滴も口にしていない。つまり、すべてはあの悪魔的食生活(パンケーキ、二郎、そしてビリヤニ)がもたらした因果応報であった。
「知恵の書(AI)」との契約と、鋼のルーティン
危機感を覚えたユルは、禁忌の古代遺物「知恵の魔導書(AI)」を起動し、その託センを仰ぎながら、自らの食生活を「断固たる聖域」へと創り変えた。
平日の彼の「糧」は、完全にパターン化された。
黎明(朝):覚醒の黒苦水1杯。大地の乾きを癒す聖麦30gを熱湯でふやかしたもの。白い聖乳(無糖ヨーグルト)200gに、奇跡の油を小さじ1杯。
正午(昼):「無(断食)」。ただし、任務中に生命力が枯渇しかけた場合(10時半、15時、17時半の結界の刻限)に限り、携帯した聖麦30gを湯で戻して胃に収める。
黄昏(夜): 白い大豆の塊(豆腐)600g、青魚の鉄櫃(サバ缶)1缶、未知の生命力を宿す生卵2個、糸引く粘性大豆(納豆)2パック。これでも魔力が満ちぬ時は、東方の白い太麺2玉、または異国の細麦麺250gを貪る。
これに加え、秘境の薬草や鉱物を精製した五種の魔薬(マルチビタミン、ビタミンB、C、鉄分、青汁の各種タブレット)を月曜から金曜まで欠かさず服用した。
週末(休息日): 平日の聖なる食材たちを使い、量は一切気にせず大皿で楽しむことが許された。
そして何より、彼は移動手段を劇的に変えた。住処からギルド(職場)までの往復2~3里(約10~12km)の険しい道のりを、あえて馬車も使わず、ただひたすらに「ゆっくりと歩く」という荒行を己に課したのである。
狂気の「求道者」か、至高の「賢者」か
この異様な規律と、果てしない徒歩移動の話を聞いたギルドの同僚たちは、驚愕し、彼を「鉄の戒律を生きる修道士」と呼んで恐れおののいた。
しかし、ユル本人は微塵も苦痛を感じていなかった。
むしろ、「今日のメニューは何にするか」などという俗世の雑念に脳の領域を割く必要がないことに至上の喜びを感じていた。
さらに、ただ歩くだけの退屈な時間、ユルの耳には精霊の囁き(Audible / AudioBook)が響いていた。
往路の昇る朝日の下では、己を奮い立たせる「自己啓発の書」を。帰路の星空の下では、遥か彼方の英雄譚や「小説の物語」を耳から脳へと流し込み、時間を極めて有意義に消費していたのである。
実は、前々回の探知儀式でも結果は芳しくなかった。その際、ユルは移動手段を「魔導馬車(車)」から「二輪の鉄の馬(自転車)」へと変え、前回の儀式に臨んだ。すると肉体の浄化は見事に成功し、教会の最高位司祭(医者)から「一体どんな聖なる儀式を行えば、これほど肉体が蘇るのか!?」と驚嘆混じりに問い詰められた実績があった。
今回は、鉄の馬すら捨て、己の足のみで大地を踏みしめる「迷宮歩行(徒歩通勤)」へと進化している。
「次回の探知の儀式では、我が肉体はどれほどの神聖な輝きを放つだろうか」
ユルは今、静かな歓喜と共に、次なる試練の刻を待ち望んでいる。




