生命ある者たち その3
「大丈夫か? ティーネ君」
目の前でぐでんぐてんになっているティーネを見て、彼女を連れ出したシュトラウスは困った表情を浮かべた。
「あう……ほうですね。いひひっ、どこまれも飛んでいへそうなきがしまふ」
シュトラウスはティーネをこのままにしておくことはできず、部屋まで送ることにした。
*
部屋まで来ると、シュトラウスは部屋にいたコハクに預ける。
「これ、どういうこと?」
コハクは部屋にいてほしいと言われたため、部屋で待っていることにしていたが、何がどうしてこうなったのか訳が分からなかった。
「誤ってワインを飲んでしまったらしい。緊張していたのかもしれないな……」
何とも言えない表情のまま、他の弟子たちが酔って帰ってきたときと同じようにコハクは処置をした。
「うん、そう…アタシが介護しとくけど。そっちはパーティーから出てもよかったの?」
「ティーネ君のことは周囲から頼まれているからね。それに、少し離れる分には問題ない」
シュトラウスはコハクを、というよりもその師匠を信頼しているからか簡単に話してくれた。
「新たに生まれる都市、その利害を巡って相手がどう出てくるのか、というね。だから、この船に乗ったことに意味がある」
「貴族同士の対立ってこと? よく分からないけど」
「趨勢はもう決まっている。ただ、何事も順調にいくとは限らない。だから、中立としてどちらにもついてきた貴族たちを味方にすることが今の段階だ。そういう意味では……ティーネ君のお陰で牽制できたと思うが」
シュトラウスはそう言うが、コハクからすればそれはティーネをお飾りのように使っているように感じた。それが本意でないとしても、ティーネは自分の力で何かを成し遂げようとしているはずだから。
「……友達として言わせてもらうけど。あまりティーネを利用しようとか考えないでよ」
結局のところ、彼らがどう考えているのかコハクにはよく分からなかったし、分かるつもりもなかった。ただ、あまり見ていて気持ちのいいものでもない。
「そうだな。私が欲しいのは対等な仲間だ。信頼があってやっと生まれる結束を必要としている。私は彼女を重んじるつもりだよ」
そう言って、シュトラウスは去っていった。
*
暫くして、ティーネの一報を聞きつけたブリューゲルが駆けつけてきた。
「──ティーネ!」
ベッドに横になっているティーネを見て、安堵の息を吐いた。
そして、それを見ていたコハクは突然のことに呆気にとられていた。
「へ、部屋に鍵は掛けてあったはずよね?」
「あのくらいなら解く方法はいくらでもある」
「それは、いろいろとどうなのよ……」
「一体何があった?」
コハクはシュトラウスから聞いたことを説明することにした。その間に、ティーネは肌寒いのか少し身じろぎをしてシーツを深く被っていた。
「……そうか、何事もなかったのならいいが」
そう言ってブリューゲルは去っていった。
*
またノックの音が聞こえた。
またか、と思ってコハクは外の様子を窺うが、どうもおかしい。コハクは扉から離れず、剣に手を置いた。




