第二準備 〜魔法〜
誤字訂正×1…誠に申し訳ありません。
悪い気分ではなかったので、きっちりかっちり見つめ返しながら歩を進める。
この歩くお見合い現場で、俺との恋を結ぶものは誰一人としていなかった。少しだけショックである。
進んでいくうちに、前方にそびえる巨大な城は歩くに連れて大きくなっていった。一歩に比例して、外壁も巨大化しているように感じる。
目の錯覚とは言えない気がするほどだ。この国の中心部へ近づくほどに、それはどんどん肥大化していく。
町の雰囲気は穏やかで、左右の露店は活気溢れている。
言葉とお金さえあればよかったのだが、と残念だった。
どうせならば見物でもして行こうかと、雑貨屋のような店に入る。外装は周りと何ら変わらず、古臭い。
レンガでできているが、老舗のように、色が剥げている。
しかし、内装は想像通りとはいかず、裏切られた。
飛び回る紙飛行機。
眼前を優雅に歩く犬の形をした風船。
びっくり箱から飛び出したピエロがこちらを見て嘲笑う。その首にはここの店名が書いているようだった。
外見ではこじんまりとしていたものの、中身はとても大きい。客も入り乱れておりお祭り騒ぎだ。
そして、箒にまたがる人が店内を飛び回っていた。
右の方では花火が炸裂している。
目の前である少女が何かを突き出してきた。不思議と手を伸ばして受け取る。それは青色の箱で。
ーー爆発した。
そこから花びらが舞い散り、飛行機が飛んで行った。
少女はケタケタ笑いながらどこかへ走り去っていく。
「こ、これ…魔法だよな?」
俺は空っぽの箱と店内を眺めて呟いた。様々な色で彩られた壁は、今なお子供達によって塗り替えられている。しかしそこに暗い色は見当たらない。華やかで楽しくて、心踊る世界だ。
二十歳を過ぎたというのに、俺の心は疼いている。
どうして魔法は存在するのか、なぜそのようなコトが起こり得るのか、どういう原理で、自然法則は、物理法則は…。
多種の疑問が頭の中をよぎっていく。その全てを掴んでは、答えを見つけられずにポケットに突っ込んだ。
しばらく店内を捜索する。
玩具の兵隊さんに敬礼し、彼らの上を跨ぐ。
リングの上で闘う折り紙。一つは筋肉マッチョ、もう一つは細マッチョ。どこかのCMみたいだ。
二人は殴りあいながら、口らしきところから紙ふぶきを吐き出す。手のこんだものだ。
風船のプードルが、鼻で俺を突ついた。それをさすって、床を跳ねるカエルたちをプードルに近づける。
カエルはその鼻に乗っかって、どこかへ行ってしまった。
楽しい。
楽しい楽しい。
なんだここ。
跳ね上がる鼓動。漲る躍動。目は輝き、好奇心は歓喜の叫び声をあげた。
ふと、気づくと鉄くずが散らばるゾーンにいた。
そこだけは閑散としており、元気な子供達はいない。ぽっかりと切り離された別次元のようだった。
そこで俺は手を叩いた。ある物を作ろうと思ったのだ。
散らばった鉄くずを触ると、それは自分の思うような形へと変化していった。それを組み合わせ、最初にライオンをつくった。
銀色のライオンは一声遠吠えし、どこかへ走っていった。姿は見えないが、もう一つ、咆哮が聞こえた。そしてすぐに喧騒の中へ消える。
今度は拳銃を作ってみようと思った。
パーツごとに想定し、部品を組み立てていく。それはものの三十分程度で組み上がった。
そこに小径弾をこめて、ポケットに入れる。護身用としては充分だろう。
俺は店を出た。次の店へ入ろうと思ったのだ。
歩きながら魔法について考える。
このポンコツな脳みそには、様々な方式や仕組み、現象の理由、原理、弱点が入っている。
それは概念として定着し、
例えば木からリンゴが落ちるのは当たり前だというように、【自分の頭が当たり前だ】と、この世界で成り立つに決まっていると、無意識下で理解しているのだ。
しかし、魔法はそれに適応していない。
つまりは、魔法が存在するということは、
この世界には俺がいた世界と同じ法則がないということだ。
重力も、慣性も、存在していないのだ。
だから紙飛行機は空気中を滑らかに飛行していた。
だから店に入ると外観よりも店内の方が大きい。
しかし、それならばなぜ自分は地面を歩いているのだろう。
そういう概念があるからだろうか。
少し混乱してきた。
だから最後に一つ、仮定を作っておこう。
魔法は単なる想像力で補える、ということだ。今ポケットに入っている拳銃然り。
街路を進んでいくと、好奇心でうやむやになっていた空腹が蘇った。そろそろ倒れそうだ。
そんな中、歩くお見合い現場を適度にこなしていると、ばっちり目をあったまま、動じない視線が。
初めてのことで、不思議だとその子を見つめる。
顔はひょっとこのお面で隠されていた。しかしそこから生える髪の毛や、スカートから出る二本の足が、女の子ということを教えている。
お面に開いた二つの穴から彼女は視線を逸らさない。
近づくと、びくりと震えて逃げられた。何かカチンときたものがある。すぐに後を追いかけた。
なんだあのガキ。なぜ逃げる。
足の早さは雲泥の差、彼女は細い路地裏を選んで走り、そして行き止まりへ追い込まれた。
「おい、なんで逃げる」
俺は日本語で問いかけ、近寄る。
慌てたように右へ左へとわたわた動いていたが、俺に気づいたらしく止まった。
そして意味不明な言葉を発し始める。この国の言語だ。
「Talk in English」
言うと叫び声をやめ、彼女はおぼつかない声で英語を紡いでいった。
『――私、捕まっちゃう』
『お前、なんで英語話せるんだ?』
『教えてもらったの。八、すごい奴。……おまえ――だけど、ヒトケタでしょ?』
ヒトケタとは一桁のことだろうか。
なぜそこだけ日本語なのだ。『お前』の後はこの国の言語を使ったため分からない。だが罵られたような気がした。
『そいつに合わせろ』
『……No』
そういうと、彼女は上に手を向けた。
何かを早口で呟く。何をしだすのかと眺めていると、彼女の手から電気が迸った。
そして手をこちらに向けたと同時に電撃が襲いかかってくる。
ヤバイ、と思ったときにはもう終わってるというのが理だ。
逃げる暇などなかった。




