奇妙な嫁入り
さて、準備期間はあっという間に過ぎ、結婚当日とあいなった。
「陽毬と申します。ふつつかものですが、よろしくお願い申し上げます」
「がーはっはっ。まさか業界の老舗、両口屋のお嬢さんがうちに嫁いで来てくれるとは。さあ、堅い挨拶は抜きにして、楽にしなさい」
義父・一徹が豪快に笑った。
この間まで女学生だった陽毬にとっては、その声の大きさだけでも息苦しい。
ご子息の宿禰が療養中、ということで、この嫁入りには結納やお式といったものは一切無かった。
白無垢に身を包んだ自分ひとりが、わずかな嫁入り道具とともに、権藤家へと運ばれただけだった。
両口屋の懐事情を慮ってか、衣装も道具も不要だと言われていたが。
「それでは、あまりにも陽毬が可哀想」
母は泣き、せめてもと、かつて自分が袖を通した白無垢を着せてくれた。
だが今は、その純白さえひどく浮いて見えた。
黒光りする革張りのソファに、金色に光る日の丸の扇子。
白無垢の冴えた白は部屋のどこにも馴染まず、まるで、置き場を失った花嫁人形のようだった。
「ほら、立っていては疲れるだろう、こっちへいらっしゃい」
「いえ、私はこちらでかまいません」
陽毬は義父の誘いを断り、入り口側に腰を下ろした。
「おお、なんとも健気な。宿禰はまことに果報者だ。なあ、ミツ子や」
義父は、嬉し涙まで浮かべていたが、その眼の奥は少しも笑っていない。抜け目なく光る目に値踏みされているようで、陽毬は落ち着かなかった。
その上、会話を聞いているはずの義母は、夫の声に相槌すら打たないでいた。
その美しい横顔は、能面のように動かなかった。
「さあ、祝い酒じゃ」
そんな義母の様子にかまわず、義父はグラスに洋酒を注ぎ始めた。
「あの、私がやりますわ」
「いやいや、いいとこのお嬢さんに酌などさせられんよ。陽毬さんはいける口かい?」
その時初めて、義母の表情が動いた。
ギロリと義父を睨み付け、そのままの視線を陽毬に向けてきた。
「あ、あの、すみません。その、あまりお酒は嗜まなくて。お気持ちだけいただきます」
「ふむ、そうか」
義父は、一瞬つまらなそうな声を出したが、すぐに陽気な笑顔をつくった。
「本当は、もっと盛大に祝ってやりたいのだがな。息子のせいで、申し訳ないことをした。せめて権藤家ではゆったりと過ごしてほしい」
ここで、義母のミツ子が初めて口を挟んだ。
「ねえ、あなた」
「何だ」
「あなたばかりが楽しんでいないで、そろそろ花嫁を宿禰に紹介してあげては? きっと待ち侘びておりますわ」
「む……しかし、今日は陽毬さんも疲れているだろう。対面は明日以降でも構わんだろう」
「あなた!」
ぴしゃりと、声が被せられる。
「ああもう、分かった分かった!」
一徹は吐き捨てるように言うと、苦い顔で手を振った。
「ではミツ子や、陽毬さんを宿禰の元へ」
「はい、承知いたしました」
形ばかりの一礼をし、ミツ子はすぐに腰を上げた。
「さ、参りましょう、陽毬さん」
「は、はい」
――お義父様は、来られないのかしら?
陽毬が後ろを振り返るも、一徹はひとり、不貞腐れてブランデーを煽っていた。
何故か、胸騒ぎがした。




