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大正浪漫 夫婦契約致しました 暗闇の中、呪われた夫と密やかにはぐくむ愛  作者: 佳乃こはる


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2/7

奇妙な嫁入り

 さて、準備期間はあっという間に過ぎ、結婚当日とあいなった。

 

「陽毬と申します。ふつつかものですが、よろしくお願い申し上げます」

「がーはっはっ。まさか業界の老舗、両口屋のお嬢さんがうちに嫁いで来てくれるとは。さあ、堅い挨拶は抜きにして、楽にしなさい」


 義父・一徹が豪快に笑った。

 この間まで女学生だった陽毬にとっては、その声の大きさだけでも息苦しい。

 

 ご子息の宿禰が療養中、ということで、この嫁入りには結納やお式といったものは一切無かった。

 白無垢に身を包んだ自分ひとりが、わずかな嫁入り道具とともに、権藤家へと運ばれただけだった。

 

 両口屋の懐事情を慮(おもんぱか)ってか、衣装も道具も不要だと言われていたが。

 

「それでは、あまりにも陽毬が可哀想」

 母は泣き、せめてもと、かつて自分が袖を通した白無垢を着せてくれた。

 

 だが今は、その純白さえひどく浮いて見えた。

 黒光りする革張りのソファに、金色に光る日の丸の扇子。

 白無垢の冴えた白は部屋のどこにも馴染まず、まるで、置き場を失った花嫁人形のようだった。


「ほら、立っていては疲れるだろう、こっちへいらっしゃい」

「いえ、私はこちらでかまいません」

 

 陽毬は義父の誘いを断り、入り口側に腰を下ろした。

 

「おお、なんとも健気な。宿禰はまことに果報者だ。なあ、ミツ子や」


 義父は、嬉し涙まで浮かべていたが、その眼の奥は少しも笑っていない。抜け目なく光る目に値踏みされているようで、陽毬は落ち着かなかった。


 その上、会話を聞いているはずの義母は、夫の声に相槌すら打たないでいた。 

 その美しい横顔は、能面のように動かなかった。

 

「さあ、祝い酒じゃ」

 そんな義母の様子にかまわず、義父はグラスに洋酒(ブランデー)を注ぎ始めた。

 

「あの、私がやりますわ」

「いやいや、いいとこのお嬢さんに酌などさせられんよ。陽毬さんはいける口かい?」

 

 その時初めて、義母の表情が動いた。

 ギロリと義父を睨み付け、そのままの視線を陽毬に向けてきた。

 

「あ、あの、すみません。その、あまりお酒は嗜まなくて。お気持ちだけいただきます」

「ふむ、そうか」

 義父は、一瞬つまらなそうな声を出したが、すぐに陽気な笑顔をつくった。

 

「本当は、もっと盛大に祝ってやりたいのだがな。息子のせいで、申し訳ないことをした。せめて権藤家(ここ)ではゆったりと過ごしてほしい」

 

 ここで、義母のミツ子が初めて口を挟んだ。

「ねえ、あなた」

「何だ」


「あなたばかりが楽しんでいないで、そろそろ花嫁を宿禰に紹介してあげては? きっと待ち侘びておりますわ」

「む……しかし、今日は陽毬さんも疲れているだろう。対面は明日以降でも構わんだろう」

 

「あなた!」

 ぴしゃりと、声が被せられる。

 

「ああもう、分かった分かった!」

 

 一徹は吐き捨てるように言うと、苦い顔で手を振った。

 

「ではミツ子や、陽毬さんを宿禰の元へ」

「はい、承知いたしました」

 

 形ばかりの一礼をし、ミツ子はすぐに腰を上げた。

 

「さ、参りましょう、陽毬さん」

「は、はい」


 ――お義父様は、来られないのかしら?


 陽毬が後ろを振り返るも、一徹はひとり、不貞腐れてブランデーを煽っていた。


 何故か、胸騒ぎがした。


 

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