三十四話 違うけど同じもの
木製の弓で、矢を数本射た所感。
竹製の弓は数枚張り合わせた構造だからか、細くて丈夫、かつしなやかといった印象だ。
対して木製はある程度の太さがありつつ、弾力性も持ち合わせる。
弓の大きさ的にも木製は近~中距離メインで、遠的には向かなそう。
じっと狙いを定めるというよりは、素早く射るのに適していそうな印象だ。
「うーん……奥が深い……」
『?』
「面白いか?」
「ああ、興味深い」
「記憶が無くても体が覚えている、のか? 人間たちの弓とはまた違うのかもしれないな」
ウィンハックと一緒に的に刺さった矢を回収する。
ふとウィンハックの方を見ると、なんだかじいさんと矢取りをしているかのようでくすぐったい。
それにしても、当たり前だが元の世界での矢取りとはまたずいぶん違うな。
試合や試験時をのぞき、弓道場で矢を回収するのは手の空いた者の仕事だった。
自分の行射を終えた者が、別の者らが引いた矢を回収する。
声掛けをして二回手を叩いたり、ブザーを鳴らしたり、矢取りの旗を掲げたり……。
弓道場によってルールは異なるが、そうして垜に入って矢を回収する。
垜に刺さる矢は土で汚れるため、矢の先端を丁寧に拭き、矢じりは右手で持ち、矢羽を神棚に向けながら持ち運ぶ。
矢を的から引き抜くのにも様々な作法がある。
学校弓道はもう少しラフな面もあるが、それでも多くの作法を守っている。
大人になってからの俺は、じいさんと弓道場に行っても見取り稽古が多かった。
精神修養を目的とする大人の射手たちの前で、早気を晒すのが怖かったからだ。
わざわざ人の少ない時間を調べてやっと射場に入る。
それでも矢をつがえては引けなかった。
でも、今日……引けた。
本当に小さな一歩だけど。自分の思っている『射』ではないけれど。
それでも、ほんの少し自分に自信をもたらした。
「おっと」
つい癖で、いつもの矢の持ち方に。
そして気付いた。
矢の持ち方や射場への入り方。
弓の引き方に何から何まで違うけれど、エルフはそもそも日常的に彼らの信仰対象である精霊への祈りを欠かさない。
同じだ。
彼らの『射』はたしかに生きるためでもあるけれど、それだけじゃなかった。
「……」
『どーした? 考えゴト多いな』
「なにか思い出せそうとか?」
「……いえ、なんでもありません」
もし、じいさんがここに居たとしたら。
彼はどうしただろう?
その技術の粋を惜しみなく異世界にもたらしたんだろうか。
◇◆◇
「グローブ?」
「はい。弓を引く時に、皆さん矢筒以外に道具を使われていないようなので」
ほんの少し気付きを得た俺は、まずはじいさんと自分を比べることを止めた。
そして、この世界の弓を観察した当初に気付いたもう一つの点をウィンハックに尋ねてみることに。
「あー、言いたいことはわかる。人間でも使う奴はいるだろう。ただ、軽くて丈夫。そして魔力伝導効率が優れた魔物の革となるとなぁ」
「ま、魔物なのか……」
この世界の武具素材は、魔物であることが多いようだ。
「手元は、矢と最も密接になる。たとえばだが、火を扱う魔物の素材で出来たグローブで、水の精霊魔法を使うとなると──」
「なるほど……相性もあるのか」
「そう。それなら多少魔力抵抗があっても素手の方がいい。精霊魔法を使わない種族はともかく、精霊様の魔法というのはそれだけ扱いが難しいということだ。おまけに僕たちは剣も扱うからね」
矢を引く時のグローブ……元の世界でいうところの、弽。
『手の内を明かす』『矢面に立つ』なんかもそうだが、『かけがえの無い』の“かけ”も、弓道由来の言葉とする一説もあるくらいだ。
それほど弓道におけるカケは大切なものとされてきた。




