三十三話 懐古する弓師
「木製もけっこうしなるんだな……」
『ほー?』
元の世界でいうところのおもちゃサイズの弓。
元は一本の木材から削られた弓は、弦を張ることで上下がぐいっと反っている。
祖父と共に作ってきた竹弓と異なる製法。
ウィンハックが作業している過程を見学したものの、実際に手に取り弦を引いてみるとまた違った印象を得た。
「ほら、あっちに的」
ウィンハックが作業場の裏手に案内してくれる。
弓道場とはちがって土を盛られたところに的があるわけでもなく、木の丸太や木で出来た丸い的、草で編んだ的などがいくつか並んでいる。
その背後は人気のない森となっており、さらにはエルフらが手ずから植えたのか生垣のように人より少し背の高い木々が規則正しく並べられ、天然の防護ネットのようになっていた。
万が一矢が的を外しても危なくないようにできている。
「えーっと」
まずは鑑定をして弓と矢の素材を視てみることに。
【弓:ハズパラの根製】【魔力伝導効率D】
【矢:ハズパラの枝製】【魔力伝導効率D】
おお、どちらもハズパラの木が原材料。
しかも、根の部分を弓に使うとは!
だが実際にハズパラの木の形状を見た俺は思い当たる。
その根はまるでマングローブのように根っこが地面から浮き出ていて、小動物の家になるような空洞ができている。
つまり土の中に張る根ほど固くはなく、空洞を作り出すため複雑な形をとる弾力性もあると。
そして幹の部分から削り出すよりも、元々細長い形状の根は加工もしやすいだろう。
「根か。なるほどなぁ」
『?』
「お、鑑定か」
「はい。根でも弓を作るというのが、面白くて」
「ものによって向き不向きはあるがな」
「練習用の弓がハズパラの木なのは、理由が?」
「エルフたちがよく祈る木々でもあるし、やはりエルフは森の精霊の力を借りることが多い。幼い頃から森の精霊たちとの親和性を高めるために、この木を使った弓で練習することが多いな」
「へぇ……」
横でふよふよと浮いているセローを見ると、よく分からないという顔をしていた。
「さっそく引いてみたらどうだ?」
「じゃ、じゃあ。この辺か……?」
大きさからしてそう飛距離の出ない弓だ。
いくつか立ち位置を示す木材が置いてある場所の中から、最も的に近い場所に立つ。
そこでふう、と緊張をほぐすように深呼吸して弓に矢をつがえた。
俺の作ってきた弓のように、体全体を使って引く弓ではない。
脳内が『別物』と判断しているのか、小さな弓を引く分には問題ないようだ。
「──っ」
ぐいっとずいぶん軽い弓を引いて、的に向ける。
通常であれば弓の握より少し上に、視点の遠近を利用して弓の奥にあるはずの的が見えるよう調整する。
ただ、今回はそういったこともなく感覚で狙いを定めた。
そして──放つ。
「おお……!」
『おー』
「いいね」
今回俺が狙った的は草で出来た的。
サクッとした音と共に矢が的に中った。
すごく、久しぶりの感覚だ。
「……っ」
『どーした?』
「ん? いや……、どこか懐かしいなって」
「なつかしい? ミラウッド曰く、コーヤは争いの無さそうなところから来たと聞いたが」
「俺にも……、分かりません」
この懐かしさはきっと、的に矢が中ったことを喜ぶのではなく、自分の力でなにかを成した。小さなことかもしれないが、その成功体験が呼び起こすものだと思う。




