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作戦会議


 ティーバ子爵はウルカを学術都市と呼ばれるほどまで発展させ、年々評価が高まっている。

 

 そしてそのティーバ子爵が寄親に選んだのは、隣の領のシカゾ伯爵だった。


 これに怒ったのがシャイアモン伯爵だ。

 

 シャイアモン伯爵領も子爵領と領地が接していた。それにも関わらず、自分のライバルであるシカゾ伯爵に擦り寄ったことに激怒。

 領地経営が上手くいっているティーバ子爵のことを元々嫌っていたので尚更、怒りは大きかった。ティーバ子爵からすれば、自分を嫌うシャイアモン伯爵を寄親に選ぶわけがないのだが。


 それ以来、子爵領では野盗が増えた。

 その野盗たちを捕まえると、ほとんどがシャイアモン伯爵領の出身だった。

 伯爵領では税が重く食い詰めた者たちがたくさんいるらしい。食い詰めた者が野盗に落ちることは珍しくない。しかし、なぜか野盗はシャイアモン伯爵領から子爵領に移動して悪事を働く。


 これはおかしいと、野盗を統率していた者たちを入念に取り調べてみれば、その者たちは雇われた傭兵であることが判明。証拠は無いが、人を介してある貴族から依頼があったのだと言う。

 農村で食い詰めた連中をそそのかし、子爵領で金品を強奪。その半分は野盗の元に定期的に来る者が回収して行ったそうだ。おそらく、シャイアモン伯爵の懐に入っているのだろう。


 だから、今回の納税品の護送も襲撃の可能性が有ると予想はしていたらしい。

 その為、いつも以上に騎士の数を増やし、冒険者まで雇ったのだ。

 

「そういうわけで、襲撃してきた連中を追えるのは領地の境界までだ。シャイアモン伯爵領に入れば我々は妨害される。いや、入ること自体許されないかもしれん」


 隊長騎士は話しながら目を閉じ、怒りを鎮めようとしている。無理もないが、シャイアモン伯爵の話をすると冷静でいられないようだ。



「以前、私たちが捕まえた野盗も伯爵領から来たのかもね」


 ソーマがぽつりと呟いた。


「野盗? ……ってサイスロたちと護衛した時のか?」


 そういえば、以前にモクバからウルカまでの護衛依頼を受けた時に野盗を捕まえていた。

 野盗のリーダーっぽいやつに、俊英の槍のポズルがやられて大怪我を負った。


「あの時の野盗も、リーダーの男だけは戦い慣れしていたな」


 カリオッツも覚えているようだ。


(そういえば、コッチャは元気かな?)


 クウスはあの時野盗のアジトで出会った小人のことを思い出していた。腕輪も雑嚢に入れっぱなしだ。会いに来ると言っていたし、ウルカに帰ったら身につけるようにしよう。

 そして、そのためにも。


「……今度は負けられねえな」


 襲撃してきた連中に追いつけば、再びアンジェロと戦うことになるだろう。

 ならば考えなければいけない。

 あの圧倒的な強さを持つ傭兵に勝つ策を。

 クウスは静かに闘志を燃やし、馬車に揺られて行く。




「で、エドは何でいるんだ?」


 夜中まで馬車を走らせ、馬の疲労が限界になったので野営をしている。

 クウスは焚き火を囲んでいる冒険者たちのところへ顔を出していた。後ろにはメットもいる。


「そりゃあ、雇われたからじゃい」

 

 二メートル五十の巨体を焚き火に当てて縮こまっているのは、銀級冒険者エド・ロブソンだ。

 

「野盗に扮した傭兵の討伐と捕縛です。拘束される日数分の銀貨と、荷物を取り返せば大銀貨5枚ですからねー」


 エドの隣でニコニコしているのは、フズレイという糸目の男。

 エド・ロブソン率いるパーティー、“自由の盾”の一人だ。

 以前に揉めた短気な小男と、大盾を持った鼠人族の男もいる。イジミとゴーテンという名前らしい。


 エドたち自由の盾以外にも、四人組の銅級パーティーがいる。


 クウスが足止めで退却ができた護送隊は、クィシオニタに行き、衛兵に連絡を取った。

 クィシオニタの領軍から騎士の分隊が一つ加勢してくれることになった。その数は十人だけだが、馬車も貸してくれた。


 隊長騎士は、もっと戦力が欲しかったので冒険者ギルドに行き、その場で募集をした。

 たまたま居合わせたエドたち二つのパーティーが受注したというわけだ。



「クウス、お前が負けるとは思わなかったぃ。そんな強い連中だったのかぃ?」


 エドに聞かれ、クウスはアンジェロのムカつく顔を思いだす。

 悔しそうなクウスを見て、カリオッツが代わりに説明をした。



「“蒼角”のアンジェロ……」

「ば、化け物じゃねえか。勝てっこねえぞ?」


 エドたちとは別の冒険者パーティーが騒めきだす。

 やはり、伝説の傭兵団トライデントの逸話を知っているらしい。

 エドたちも難しい顔をしている。

 


「全員、集まってくれ。作戦を話したい」


 隊長騎士が騎士や冒険者を呼び、集合させる。

 全員が集まると、それぞれの顔を見回してからため息をついて口を開く。


「全員、もう聞いているようだな。襲撃してきた連中、仮に野盗と呼ぶが、野盗の中に化け物が一人いる。

 まともにやり合えば勝つのは難しいだろう。だが、我らの目的は積荷の奪還だ。必ずしも野盗全員を倒す必要は無い」


 隊長騎士の話に、騎士たちの何人かは相槌を打って頷いている。確かに勝たなくてもいいのかもしれない、が。


「しかし積荷を奪うにも、奪った後に逃げるにも、結局戦わなければいけないのでは?」


 騎士の一人ラートンが手を上げて疑問をぶつける。


「我々が今日、野盗を相手に退却した時と同じだ。足止めをする。……“蒼角”のアンジェロだけをな」


「“蒼角”だけを?」


「うむ。まず野盗に追いついたら奇襲を仕掛ける。さらに少数精鋭のチームで“蒼角”を分断する。その間に残りの者が生き残りの野盗どもを襲撃し、積荷を奪い返す。

 奪還後もチームには“蒼角”の足止めをしてもらう。

 ここでどれだけ足止めできるかによって作戦の成否は決まるだろう」


「奪還するのは馬車数台と聞きましたが、そんな簡単にいきますか?」

「そ、それって足止めをする奴らは死ぬんじゃ?」


 騎士や冒険者から質問や不満が相次ぐ。

 しかし、隊長騎士はそれを遮り話を続ける。


「積荷は、本来であれば全てを取り返したい。しかし、“蒼角”などという化け物がいると判明した以上、不可能だとも思っている。

 ならば我らが奪還する物はただ一つ。積荷の中にある黄色い帯のついた箱だ」


 奪い返すのはたった一つでいいと言う。

 

(もしかして、それって夜公の檻灯のことか?)


 クウスは前に見たランプ型の魔道具を思い浮かべる。クウスたちは元々、あれの運搬で護衛として雇われたのだ。


「その箱には何が入っているのですか?」


 エドの仲間、フズレイが手を挙げ質問する。


「それは言えない。しかし、とても重要な物で失うわけにはいかないのだ」


 さすがに隊長騎士も中身までは言えないらしい。


「そうですか。しかし、積荷一つの奪還であれば、可能性が高まりますね」


 フズレイは中身を教えてもらえなかったが、それに対する反応はあっさりしていた。それよりも、依頼の難易度が下がったことに薄く笑っている。


「それはいいですが、誰が足止めを?」


 クィシオニタから援軍で来てくれた騎士が、その場の全員が気にしていることを聞く。

 隊長騎士はその重い口を開こうとした。しかし、


「オレだ。……オレがやる」


 クウスが名乗りを上げる。


「なっ、何言ってるのよクウス」


 ソーマが信じられないと言った顔つきで見てくる。数時間前に足止めをして負けたばかりだから、当然かもしれない。


「……いいのか? 拾った命を捨てることになるぞ?」


 隊長騎士は自分が足止めに回るつもりだったが、足止めできる自信は無かった。

 しかし、クウスが立候補した。先の退却ができたのはクウスのお陰だと分かっていた。

 もしも彼が再び足止めをしてくれるなら、作戦の成功確率は上がる。

 そう考えた隊長騎士が、意思を確認するとクウスは、


「命を捨てるつもりなんか無え。今度こそぶっ飛ばしてやるからな」


 その場にいた者たちは、全員があ然とする。

 相手は、伝説の傭兵団トライデントの一角。化け物級戦力と謳われる傭兵だ。

 それを相手にクウスは足止めではなく、勝つと言ったのだ。



「お、おいおい。お前いくらなんでも――」


 小男イジミが冗談かと思い、クウスに突っ込もうとする。しかし後ろにいた巨漢が口を開いてしまう。


「わははは! 面白いやつじゃい、お前は。……なら、わいも立候補するぞぃ!」


 エドも足止めをすると言い出した。


「ちょ、ちょっと待って! エドの兄貴、やばいですよ!」

「兄貴、考えなおしてください!」


 フズレイとイジミが大慌てでエドを止める。鼠人族のゴーテンも喋ってはいないが口をパクパクさせている。


「大丈夫じゃい! わい一人じゃキツいが、クウスと二人なら分からんのおぃ」


 メットは意見を変える気は無さそうだ。


「俺もやろう。クウスの戦い方に合わせるのは難しいからな」


 カリオッツも声を上げる。封印魔術を調べているカリオッツからすれば、封印が掛けられたクウスは貴重な存在だ。再び死地に置いていくのも気が引けた。


「なら私も――」

「ダメだ!」


 続いて立候補しようとしたソーマの言葉を、クウスは強い口調でさえぎった。


「なんでよ!?」


 ソーマはなんで自分だけ止められるのかと、憤慨する。クウスは一瞬だけ言いづらそうにしたが、すぐにソーマを真っ直ぐ見て答えた。


「おまえじゃ、死んじまう」

「……っ!」


 ソーマは優秀な魔道士だ。水・風の二属性の魔法に加え、魔術も使える。しかし、完全な後衛ではアンジェロに歯が立たないだろう。

 相手はシミターとナイフを使う前衛。しかも風魔法による補助で異常なスピードで距離を詰めてくる。

 クウスたちがフォローすれば良いのかもしれないが、相手は格上でそんな余裕は無い。ソーマは狙われた時点で殺されてしまうはずだ。


 ソーマは悔しそうに歯噛みする。実力が足らないと言われたようなものだから当然、思うところはある。


「……っ、でも! それであんたたちが死んじゃったら、私――」

「さっきも言ったろ? 死ぬつもりなんか無えんだ。オレも、カリオッツも、エドも、みんな無事に帰ってくる」


 そう言うと、ソーマは迷うように目線をさまよわせ、やがてクウスを目だけで見上げる。


「……約束できる?」

「約束?」

「そう、絶対死なないって」


 正直、死ぬ気は無くても絶対とは言えないなと、内心思う。しかし、ここで約束しないとソーマはついて来るだろう。

 

「……わかった、約束する。絶対死なねえよ」


 これで負けられなくなったなと、クウスはより決意を深めた。


 

 

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