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苦戦


 根源魔法で火を周囲に放ちその場から逃げたのだが、黒いモヤが邪魔をした。


 当初、クウスたち四人は同じ方向に走ったはずだった。

 しかし、一分もしないうちにソーマの姿が見えなくなる。

 ソーマひとりで敵に遭遇すると不味いので、探すが見つからない。黒いモヤに妙な効果があるのか、大声を出しても遠くまで響かないのだ。

 

 しょうがなく、クウスはエミリーを連れて、カリオッツは単独で。それぞれ、ソーマを探しながら魔道協会で落ち合うことにした。



 エミリーは知っている道なのに、方向が分からないと言う。クウスも魔道協会の方向は分かっているのに、なぜか違う道を選んでしまう。

 明らかにこの黒いモヤが悪い方向に作用している。


「ど、どうしましょう、クウスさん」


 エミリーは不安そうに瞳を揺らしている。

 クウスもどうすればいいのか分からなかった。


「ミャァウ」


 その時、クウスの肩にしがみついていたアグが鳴き声を上げた。


「アグ? どうした?」


 クウスが聞くと、アグは肩から飛び降りてクウスたちの前を歩き出す。まるで自分について来いと言うように。


「おまえ、もしかして方向が分かるのか?」


「ミャー。ミャウッ」


 アグはクウスに返事をすると、薄い魔力の風を放った。

 すると風がモヤを散らしていく。

 アグの半径二メートルを風が守っているのだ。

 風の中にいるクウスは、頭の中がスッキリした感覚を覚える。やはりモヤの影響を受けていたのだろう。


「おおっすげえ! アグ、えらいぞ!」


「ミャー」

 

 よくやったと褒めるクウスに撫でられ、アグは嬉しそうに鳴く。

 だが、クウスは撫でる手を止めると急に表情を険しくする。


「クウスさん?」


 急に表情が変化したクウスへ、エミリーは呼びかける。


「わりい、どうやら追いつかれたらしい」


 クウスがそう言うと、後ろから男たちが現れる。

 魔道士のパドリソン、そして十姉妹のメンバーが四名。優男と小男、それに顔の似た二人――おそらく兄弟だ。


「見つけたぞ、小娘! もう諦めろ。このモヤからは逃れられん」


 パドリソンが下卑た笑みを浮かべている。

 迷走していたとは言えクウスたちに追いつくのが早い。

 この連中は黒いモヤの影響を受けてないのかもしれなに。


 

 「アグ。すまねえが魔道協会までエミリーを連れてってくれ。オレはここを守るからよ」


 クウスはアグをもう一度だけ撫でて背を向ける。


「ク、クウスさん! 一人じゃ殺されちゃいますっ」


 エミリーがクウスを止めようとするが、クウスは笑う。


「へっ、いいから行けって。オレはそう簡単に死なねえよ。知ってるだろ?」


 初めて会った時も、魔物の群れを足止めした。言われてそれを思い出したのか、エミリーはぐっと我慢するように口を閉じた。


「……っ、行きましょう、アグさん!」

「ミャァウ!」


 そして、アグと共に走りだした。



「おい、逃がすな!」


 パドリソンは慌てて優男へ指示を出す。


「分かってますって。みんな、さっさと片すよー」


 優男はそう仲間に呼びかけながら、いきなりノールックでナイフを投擲してきた。


「ちっ!」


 飛んできたナイフを右手に持つ剣鉈で弾いたが、その直後に左手に違和感を感じる。


「なっ、なに!?」


 左手の手首にロープの輪っかが引っ掛けられていた。

 ロープの先には小男。優男と同時に攻撃を仕掛けられていたようだ。


「けけけ、おらよっと!」


 小男はロープを両手で引っ張りクウスを引きずっていく。

 意表を突かれたとはいえ、その小さな体格に似合わぬかなりの怪力だ。


「くっ」


 クウスは右手の剣鉈を振り、すぐにロープを切断し起き上がる。そこに。


「「おら、死ねい!」」


 左右から兄弟二人が攻撃を仕掛けてくる。

 左から迫る双剣使いは両手を大きく広げている。クウスが前後に動いても剣は届くだろう。

 ならばと双剣をかわすためクウスはあえて斧使いの来る右へ動く。

 双剣使いはクウスと斧使いが近づき追撃の足が止まる。

 次に目前に迫った斧使いの斧。威力の高さを警戒し、剣鉈で斜めに受け流しながら斧使いの横を通り過ぎ、窮地を脱した。


「ぬう! やるな、お前!」

「兄貴、こいつ強えぜ!」


 兄弟は自分達の挟撃をかわしたクウスの動きを見て、警戒レベルを上げた。

 クウスも兄弟が雑魚じゃないことはすぐに分かった。



「それじゃあ、兄弟に任せて追いましょう」


 優男はパドリソンに声を掛け、小男と三人で先に歩き出す。


「待ちやがれっ、ぐっ!」


 クウスは止めようとしたが、兄弟の斧と双剣に邪魔をされる。


「ここから先は行かせん!」


 斧使いが立ちはだかる。

 

「兄貴、こいつ焦ってるぜ!」


 双剣使いは横から機をうかがっている。斧が兄で、双剣が弟のようだ。

 

 エミリーたちが危ないと焦るクウスは魔力を放出する。

 もう一度、火の根源魔法で隙を作る。


「火――」


 クウスが火を起こす寸前、僅かな殺気を察知する。直後に風切り音が聞こえた。

 咄嗟に横へ跳ぶ。


 すると、さっきまでクウスの頭があった辺りを一本の矢が通過していく。


「くそ、もう一人いるのかよ!」


 すぐに矢の飛んできた方角を見るが、人影は見当たらない。既に殺気も感じない。

 だが、どこかからクウスの隙をうかがっているはずだ。


「ステリアの弓を躱すとはやるな!」

「兄貴、こいつ勘も鋭いぜ!」


 戦士の兄弟はクウスを褒めながら、再び攻撃を仕掛けてきた。

 この二人に加えて、遠距離から狙ってくる弓使い。隙が無え。


 早く魔道士を追いかけたいクウスは、魔人化をしたかったがその余裕も無い。

 兄弟の連携がクウスにわずかな暇すら与えないのだ。


 斧使いの斧を弾き、その勢いで横に来た双剣使いを蹴り飛ばす。

 そして、後ろに大きく飛び退った。

 着地しながら左手を胸に置き詠唱を始めようとしたその時、すぐ近くまで迫る矢が視界に入る。

 今度は風切り音が()()()()()()()


 着地のバランスをとるため右手は地面につけている。

 左手は胸に置かれていた。

 そして。

 矢はもう目の前だ。

 

(くそっ、防げねえ!)


 何もできず固まるクウス。

 

 矢がそのまま眉間へと吸い込まれる、その直前でチュインッと鋭い金属音が鳴った。

 

 矢が撃ち落とされたのだ。



「街に着けばこのモヤ騒ぎ……まさかと思い探してみれば戦闘中とは流石は主。規格外ですね」


 クウスの前には黒い服に身を包んだ男が背中を向けて立っていた。


「お、おまえ……」


 クウスはその男の手を見る。見覚えのあるチャクラムが握られていた。


「あなた様の従者として、馳せ参じました」


 振り向いた男は縦に三本線が入った()()をつけていた。


 

「はは。助かったぜ、メット」


 

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