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夜公の檻灯


 クウスの根源魔法により生み出された炎は辺りを照らし、敵を焼くため暴れ回る。


「うおおおっ!?」

「なんだ、こりゃあ!」


 先頭で突っ込んでいた、よく似た顔をした二人の男が炎に一瞬包まれた。

 しかし、即座に地面を転がり火を消すと距離を取る。

 その反応速度は男たちの練度の高さを窺わせた。



「ほほ、やりおる。……魔道具かのお?」


 痩せぎすの老人タバーは、笑いながら炎を見つめ考える。

 しかし魔道具にしては発動が早すぎる、では魔法か。そう思考を進めたところで、大声に遮られる。


「おい、貴様ら! さっき闇ギルドがどうこうと言っていたな⁉︎ さっきの冒険者たちと関係があるのか?」


 ノルドたちベッショ騎士爵の手下が、十始末の面々に向かって剣を抜いていた。


 当然さっきのクウスとの会話もある程度、聞こえている。

 少女を狙う悪党。しかも闇ギルドの人間。

 ノルドたちは正義漢ではないが、貴族に仕える兵士だ。さすがに悪党が目の前にいて知らぬ振りはできない。


「この妙なモヤも貴様らの仕業だろう」

「我らベッショ騎士爵家の精兵の前で愚かな」


 兵士たちは油断せずに、距離を詰めていく。


「やれ」


 ギルの合図で十始末と兵士の戦いが始まった。


 ギルの前にはノルドが立つ。


「貴様の相手はこの“不倒”のノルドがしてやろう。 ぬぅうううっ!」


 ノルドが闘気を発する。

 はっきりと視認できるほどの大量の闘気がノルドの全身を覆った。


「ガハハハッ、これぞ我が〈闘気の鎧〉だ! 今の俺にはどんな攻撃も通じんぞ」


 ノルドが剣を構える。纏った闘気も相まってその威圧感は凄まじい。


「それが闘気の鎧? ふん、試してやる」


 しかしギルは平然と前に踏み込む。ノルドは真っ直ぐ間合いへ入ってきたギルへ剣を振り下ろした。


「ぬっ?」


 しかし剣は簡単に躱され、懐に入ったギルの左手がノルドの顔面を襲う。


 軽い音がした。ノルドは一瞬目を瞑ったが、顔にダメージは一切なかった。


「ふん! 言っただろう、俺に攻撃は通じっ、ぶほぁあっ!」


 牽制のジャブが効かなかったノルドが勝ち誇ったと同時に、本命の蹴りが腹部に叩き込まれた。

 ノルドの体は反動で浮き上がり数メートル転がる。

 “不倒”のノルドは見事にぶっ倒れていた。

 


「全力で蹴れば、通るか。やはり、闘気の鎧じゃないな」


 ギルは今の攻撃でノルドの体を覆う闘気がただの身体強化だと確信する。


 闘気をまとうことで体を頑強にする技を、〈身体強化〉と言う。

 その身体強化を極めた者が辿り着くと言われる奥義が、〈闘気の鎧〉だ。

 ごく一部の、“化け物”と呼ばれるような強者たちが使うレベルの技である。

 もし本当に〈闘気の鎧〉なら今の蹴りでも防げるはずだ。

 

 おそらく、ノルドのは大量の闘気で身体強化を行っているだけだ。はっきり視認できるだけの闘気量は大したものだが。


「ぬぐぅ、おのれぇっ!!」


 起き上がったノルドは顔を真っ赤にして激昂。剣を拾いもせずに殴りかかる。

 その闘気を纏った拳は、凶怪人(キャドラー)すら殴り殺せる凶器だ。


 だが、当たらなければ意味は無い。

 ギルは襲いくる拳打を近距離で躱し続ける。

 スピードが違いすぎた。


「今度はこちらの番だ」


 ギルが貫手を放つ。

 闘気が集中させた指先は、またしてもノルドの自称闘気の鎧を貫いた。

 さらに貫手が連続で放たれていく。


「ぎゃっ、ぐぅ、げっ、がぁっ!」


 ノルドは避けることもできず呻き声を漏らしていく。

 致命傷には程遠いダメージだ。

 しかし喰らうたびに出血が増え、それと共にノルドの目には恐怖が色濃く表れていく。


「……つまらんな」


 興味を無くしたギルは、勝負を決めるため一歩近寄る。


「ぐ、ううっ!」


 ノルドは傷を抑えながら一歩下がる。

 すでに格付けは終わっていた。

 

 さらに、ギルが一歩前に出た時。


「ひ、ひいぃぃっ!」


 ノルドは走って逃げ出して行った。


「お、おい!? ノルド、どこに行く!」


 タカス父、ベッショ騎士爵が怒鳴るもののノルドが止まることはなかった。


「あの、不忠者め〜。お、お前ら、なんとかせんか!」


 ベッショが手下の兵士たちを叱咤する。

 しかし、周りを見れば他の兵士たちもボロボロになっており、すでに勝敗は見えていた。

 


 だがそこで苛ついた声が響く。


「おい、そんな雑魚ども放っておけ! 逃げた小娘を追わんか!」


 紫のローブを着た魔道士、パドリソンが十始末を怒鳴ったのだ。

 パドリソンに指示する権限は無いが、十始末は彼の依頼でここにいる。


「標的を優先する。……さっさと消えろ」


 ギルが追い払うように手を振ると、兵士たちは一目散に逃げ出した。


「こ、こら! わしを置いていくな!」


 その後をベッショも慌てて追いかけて行った。

 


「リーダー、逃しちまっていいのか?」


 犬人族の男がギルに確認する。

 一応、自分たちが闇ギルドであることも知られているのだ。口封じしておくべきである。


「構わん。……おい、依頼人」


 ギルはパドリソンへぞんざいに話しかける。

 パドリソンは一瞬眉を顰めたが、今はエミリーを優先し受け流す。


「何だ?」

「その魔道具、“夜公(やこう)檻灯(かんとう)”は何時間()つ?」


 パドリソンが手に提げたランプを指差す。

 小さな檻のような手提げランプには、小さな光が点いていて、そこから薄っすらとモヤが辺りに広がっている。

 この魔道具こそが、周辺に漂う黒いモヤの発生源だった。


 夜公の檻灯。

 かつて純血種の凶悪な吸血鬼が持っていたとされる伝説の魔道具だ。

 街を混乱に陥れる魔道兵器としても名高い。

 発動すると辺り一帯を闇のモヤが覆い、夜なら更に暗く、たとえ昼の晴天でも夜の様に暗くなる。

 その効果範囲は驚くべきことに都市が一つすっぽりと収まるほど。

 モヤの効果は多岐に渡る。まず、魔法耐性の弱い人間は混乱状態に陥る。方向感覚も失い、モヤによる視界不良で遠くの距離は見えなくなる。さらに、光属性魔法が使用できなくなる。


 この“夜公の檻灯”は本来、王都で保管されていた物だ。しかしそれを宮廷魔法士だったパドリソンが盗みだしたのだ。

 


「こいつは、魔石を食うからな。あと六時間前後だ」


 パドリソンは檻灯の飾り部分に嵌め込まれた魔石を眺めながら話す。


「六時間あれば標的を捕らえ、その後に目撃者を全員殺すには充分だろう。まずは標的を探すぞ」


 ギルは、ノルドたちは後で始末すればいいと言う。

 他の十始末メンバーはそれを聞いて、納得する。

 

「たしかその魔道具の影響を受けないのは俺と、タバー爺、フリオ、ステリア、依頼人の五人だったな?」

「そうだ」


 ギルがパドリソンに確認する。

 夜公の檻灯は発動時に魔力を込めた使用者を登録し、効果の対象外にできる。ただし登録できるのは最大で五名まで。

 なので、十始末のメンバーの過半数は魔道具の影響を受けていた。

 

「タバー爺、二人連れて邪魔になる衛兵たちを引きつけろ。俺はエスと二人で動く。残りは依頼人と動け」


「「「了解」」」

 

 それを考慮した組分けの指示を受けた十始末は、三手に分かれ動き出すのだった。

 



 その頃、クウスはエミリーと街を走っていたのだが。


「くそ、どこだここ?」


 道に迷っていた。


 

お読みいただき有難うございます。

あと3、4話ほどで毎日更新から不定期での更新となりそうです。


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