再会と父親
前話、ギルとフリオの会話を増やしました。
大筋は変わっていません。
「や、やったー! 合格よ!」
とんがり帽子の少女がピョンピョン飛び跳ねて喜びを爆発させる。
ナコフとの話が終わった翌日、クウスたちはソーマの試験結果を見に魔道協会に来ていた。
受付ロビーの掲示板に貼られていた試験の合格者名を見てソーマが歓声を上げたのだ。
「やったな!」
「大したものだ」
「ミャー」
クウス、カリオッツ、アグはそれぞれソーマを祝福する。
「ありがと。ちょ、ちょっとはしゃぎ過ぎたわ」
我に返ったソーマは顔を赤くしながらとんがり帽子を深く被る。周囲の目が生暖かい。
受付に行くとすでに用意されていた新しい会員メダルを、ソーマは受け取り首にかける。
メダルの裏面には以前は斜めの線が一本だけだったのが、さらに一本の線が加えられている。二本の線は、正三角形の下辺が無い図形になっていた。Λ
数分後、ロビーで待っていると奥からナコフが現れた。
「やあ、すまない。待たせたね。そちらの二人は仲間かい?」
今日はナコフに顔合わせするために来たのだ。
昨晩、ナコフの依頼を受けた話をするとソーマとカリオッツも手伝うと言ってくれた。
ソーマは試験が終わったので冒険者活動を再開する。
カリオッツは封印魔術本の翻訳が途中だが、行き詰まっている。なんでも本に使われている古代言語が前半と後半で種類が違ったのだ。古代言語と一括りにされているが、時代や地域によって言語が異なるとソーマは言っていた。
それで違う古代言語の辞書が必要になったが、それも制限書庫にしか無いらしい。
というわけで翻訳を中断し、カリオッツもエミリーの護衛に加わったのだ。
「そうか、依頼を一緒に受けてくれるなら心強い。では、ギルドへ行こうか」
クウスの仲間で実力はあると伝えたところ、ナコフは二人にも護衛報酬を払うと約束してくれた。
追加手続きで、カリオッツとソーマに受注させることになった。
護衛依頼の報酬は、一日銀貨1枚。エミリーのいる家に住み込みになるので、宿代・食費は掛からない。
期間は暫定で十日間。期間中にエミリーを狙う魔道士が捕縛されなかった場合、さらに十日の延長となる。
冒険者ギルドへ行き、カリオッツとソーマも依頼受注をしてもらった。
その足で、エミリーの元へ向かう。
エミリーがいるのは、ナコフが借りた一軒家らしい。
家は魔道協会からほど近い場所にあった。できるだけエミリーを一人にしないよう近い家を借りたらしい。
ナコフが鍵を開けて家に入る。すると中からはいい匂いが漂ってきた。料理をしていたのだろう。
「エミリー、ただいま。こっちに来てくれ」
ナコフが奥に声を掛けると、パタパタと歩いてくる音が聞こえ、やがて姿を見せた。
「おかえりなさい、ナコフ様。お客様ですか? すぐお茶を……ク、クウスさん!?」
廊下に現れた少女はナコフを出迎え、その後ろにいた男を見て驚いた。
灰色の目は大きく見開かれ、クウスを映していた。
「よお、エミリー。久しぶり」
「……クウスさん、無事だったんですね。……よかった」
クウスが挨拶すると、エミリーは泣き出してしまった。荒野で魔物の足止めをしてくれたクウスの無事を、ずっと祈っていたのだ。
「エミリー、まずは彼らに中へ入ってもらおう。さあ」
「は、はい」
ナコフがエミリーを奥に行かせ、クウス達を中へ招く。
部屋に入ると、中は大きなテーブルと六脚の椅子が有った。奥には調理場と、湯気を出す鍋が見える。
数分後、落ち着いたエミリーを席に着かせ、クウスたちもそれぞれ着席する。
そして、ナコフからエミリーの護衛としてクウスたちを雇ったことが告げられた。
「ま、そういうわけで今日からよろしくな、エミリー」
「は、はい! よろしくお願いします。クウスさん、それにカリオッツさんと、ソーマさんも」
自己紹介した後、エミリーがクウスたちへ順番に頭を下げる。
「こっちこそ、よろしくね。私たちがしっかり守るから安心して」
ソーマがエミリーに優しく声を掛ける。
エミリーはまだ十三歳で少し幼さが残るが礼儀正しい。ソーマは、そんなエミリーのことを気に入ったようだ。
「では、今日からエミリーのことを頼む。私は協会の仕事が溜まっていて、しばらく忙しくなりそうでね。食材など家にあるものは好きにしてくれていい」
ナコフはそう言って、魔道協会へ戻って行った。
エミリーをできるだけ一人にしないように仕事を抑えていたそうだ。
その日はエミリーが作っていた料理をみんなで食べ、就寝した。二階にあるエミリーの部屋でソーマも一緒に寝て、隣の部屋をカリオッツが使う。
一階も警戒が必要ということで、クウスは一階のソファでアグと一緒に寝た。
翌日の昼、エミリーが食材を買いに出掛けたいと言うので、クウスたちもついて行くことに。
人の往来が多くなると市場が見えてきた。すると、果物を扱う店があり、クウスはそこで干し果実を見つけた。
集落から持ってきた干したグイミの実は、ウルカに到着する前に無くなっている。ここで買っておかねばとクウスは目を輝かせる。
吟味した結果、大陸南部から輸入されたリンザーと言う白い果実を薄くスライスして干した物を小袋一つ分、購入した。
代金は大銅貨1枚だが、エミリーが預かった食費から出してくれたのでタダで済んでしまった。
甘味を手に入れてご機嫌になったクウス。次はエミリーの買い物をするため市場通りを歩いていると、前から数人の男たちが歩いてくる。
先頭の男以外は、鎧を着て帯剣している。兵士のような格好だ。
そして先頭のでっぷり太った中年男が、なぜかソーマを睨んでいる。
機嫌良く歩いていたのに面倒ごとかな、とため息をつく。
「見つけたぞ! カシィ家の娘ぇ!」
太ったおっさんが、ソーマを怒鳴り始めた。
「ベ、ベッショ騎士爵。お久しぶりです」
いきなり怒鳴って来た相手にソーマは挨拶をした。知り合いのようだが、動揺している様に見える。
「貴様、よくも息子を! 手紙ひとつで許されるとでも思ったか」
太ったおっさんは激昂している。一体なんなんだ。
「ソーマ、このおっさん知り合いか?」
「しーっ、だめよ。この人は貴族なの。……タカスの父親よ」
クウスが聞くと、ソーマに口を抑えられた。
そして、なんとタカスの親だと言う。
「え? タカスの?」
クウスが思わず呟くと、太ったおっさんがクウスを睨んだ。
「なんだ、貴様。私の息子を知っているのか? そうか。冒険者の格好をしていると言うことは、お前らが息子の足を引っ張ったんだな?」
太ったおっさん、タカス父は意味のわからないことを言い出す。
「あの、ベッショ騎士爵。今日はいったいどのようなご用件でしょうか? 私たちは今、依頼を受けていて仕事中なのですが」
ソーマが丁寧に、目的を問う。
「タカスの件に決まっているだろう! 息子を死なせたんだ。貴様らは謝罪すべきだろうが」
どうやら、息子の死を知り、関わったソーマやクウスたちを問い詰めに来たようだ。
「謝罪って言われてもなぁ」
クウスからすれば、タカスは自業自得だ。死んだこと自体は哀れに思うが、一緒に依頼を受けた仲間を、ソーマを見捨てて逃げた先で襲われたのだ。
しかし、それを親であるこの、タカス父に言うのも憚られる。
うーん、どうしようか。
怒る父親を前に困るクウスたちだった。
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