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闇ギルド


 クウスがナコフの依頼を受けた日から遡ること数日。

 エステマ王国、王都のとある家。

 そこに三人の男がいた。


 彼らは二つのソファに分かれて座っている。

 一人でソファに座るのは、濃紫のローブをフードまで被った紫ずくめの男。フードの隙間から長い縮毛と淀んだ目が覗いている。


 反対のソファには、茶色の髪をした若い柔和な表情をした優男。ごく普通の布服、町人のような格好で、腰に装備された数本の小型ナイフが無ければ一般人にしか見えない。

 その隣に座るのは黒髪の青年。その目には光が無く、目を合わせれば飲み込まれそうな黒い瞳だ。来ている服も黒なため、まるで影がソファの上で人の形を取っているように見える。

 


「どうも、パドリソンさん。お待たせ致しました」

 

 優男が、紫ローブの男へ挨拶をする。とても爽やかな笑顔だが、どこか胡散臭い。


「挨拶などいい。それで、見つけられたのか?」


 紫ローブの男、パドリソンは膝に置いた指を動かし、苛立ったようにトントンと膝を叩く。


「ええ、見つけましたとも。エミリーという少女は現在、ウルカに居るようです」

「っ! ウルカにいたか。おのれ、ナコフめ」


 優男の報告に、パドリソンは驚く。ウルカは一か月前に自ら捜索した街だった。

 その時は、すでにウルカからマオリ男爵領へ逃げられた後だった。しかし再びウルカに戻って来ているとは思わなかった。


「私どもが調べたところ、エミリーと思われる少女はマオリ男爵領を北上していました。

 男爵領を出てからは辺境の村に一つ寄った以外どこの町にも立ち寄らず、大回りしてウルカに戻ってます。

 二日前にナコフと思われる魔道士と共にウルカに戻ったことが確認できてます」


 優男の組織は、ナコフとエミリーの一か月間、その行動のほぼ全てを追跡できていた。


「ふん、小細工をしおって。……まあいい。お前ら闇ギルドに頼んで正解だったな。

 では、私がウルカに到着するまでに、誘拐の手筈を整えておけ」


 パドリソンが“彼ら”に依頼したのは、エミリーの捜索、そして誘拐。

 誘拐に関しては失敗を許すわけにいかない。神経質なパドリソンは自分も現場に行くことを希望していた。


「本当に現場まで来るんですか? 任せて頂ければ私どもが……いえ、分かりました」


 優男は依頼人に現場を掻き回されるのを回避したかったが、パドリソンの据わった目を見て諦めた。


「ふん……それと、貴様らの前に私が雇っていた連中なんだが、始末してくれ。仕事を失敗した上に追加料金をせびる奴らだ、口も軽くて信用できん」


 元々、パドリソンは王都のチンピラを雇って、エミリーを拐おうとした。

 しかし、任せたチンピラたちはずさんな仕事をして、エミリーに逃げられてしまう。さらに、その際に連中は口を滑らせ、依頼人(パドリソン)のことをエミリーに話してしまった。

 それを聞いたナコフが警戒し、二人は王都から姿を消した。

 それが一か月前の出来事だ。パドリソンが現場に行くと言っているのも、この失敗があるからだ。



「……チンピラの始末は、別料金だな」


 黒髪黒目の男がパドリソンに言う。


「ちっ、いくらだ?」


 パドリソンは舌打ちするが、金額を聞く。

 自分のことをベラベラと喋る連中なのだ。生かしてはおけない。


「パドリソンさんが雇ったチンピラは全部で六人ですが、連中のアジトには全部で十三人います。完璧に口を塞ぐなら、全員処理する必要が有りますね。まあ、金貨3枚でいいですよ」


 優男はすでに調べていたのか、チンピラの人数、アジトの場所までスラスラ出てくる。


「いいだろう。確実に殺してくれ」


 パドリソンは懐から金貨を取り出し、テーブルの上に3枚並べた。


「任せろ」


 黒髪の男は、並べられた金貨をすぐに手に取り、自分の懐にしまった。

 それを見て、何か言いたげな顔をする優男だが、一つ咳払いをしてパドリソンに向き直る。


「では、チンピラの方は今日中に取り掛かります。パドリソンさんはウルカへ向かって下さい。五日後にこの宿で会いましょう」


 優男は懐から小さな紙を取り出し、パドリソンに渡す。紙には宿の場所が書いてあった。




 パドリソンと別れ、王都の雑踏を歩く優男と黒髪男。


「ギルさん、お金をすぐに懐へ入れるのやめて下さいよ。浅ましいやつらだと舐められます」


 優男は黒髪の男、ギルへ注意する。


「金はすぐにしまわなければ危ない。出しておけばすぐに狙われる。フリオも覚えておけ」


 ギルは金への執着が強い。言われた優男、フリオはもう聞き飽きていたのでため息をつく。そしてその執着は強すぎて、懐に一度入れた金は中々出してくれないことも知っているのだ。


「その金貨、ギルさんだけのものじゃないですからね? 一部は“ギルド”に入れなきゃだし、残りは“十始末(じゅうしまつ)”で山分けですよ」

「……そうか」


 一応、釘を刺したがギルの反応は薄い。

 フリオは頭が痛くなる。ただし、こんな男でもいざと言う時は頼れるリーダーだと知っているので、行動を共にしている。


「ちなみに、僕らにかなりの金を積んでまで拐いたい少女、一体何者なんですかね?」

「……さあな」

「気になりません? あの魔道士が身代金や少女の体目的で誘拐するなんて考えにくいですし、何か裏が――」

「そこまでにしておけ。俺たちは受けた依頼を遂行するだけだ。……まあ依頼完了後も依頼人はマークしておけ」

「ああ、なるほど。監視しておけばそのうち拐った理由も分かりそうですね。理由が分かったらどうします?」


 そう聞かれたギルは薄笑いを浮かべる。

 

「もし金になりそうなら、うちが掻っ攫う」

「あははは。そしたら、また取り戻す依頼が入りますね」


 悪党たちは和やかに談笑を続け、目的地へ向かうのだった。




 数十分後、ギルとフリオが着いたのは治安の悪い地域にある一軒の家。

 お屋敷と言っていい大きさで、建てられた当時は裕福な人間が住んでいた思わせる外観だ。

 今は古びている上に、スラム街に呑みこまれているが。


 ギルは家の扉をノックもせずに開ける。

 玄関には死体が一つと、一人の小男。


「おっ、リーダー。来たか」


 カエルのような顔をした小男は、軽い調子でギルに話しかける。


「もう、全部終わったのか?」

「俺は玄関を塞いでるだけだから分からねえよ。さっき始まったばっかだぜ」


 その時、奥の部屋で物音や怒鳴り声が聞こえた。小男の言う通り、まだ始まったばかりらしい。


 

 ギルとフリオが廊下を進むと、大きなリビングに三人の男がいる。彼らは壊れて座れなくなったソファの代わりに、死体に腰掛けていた。


「うわあ、凄惨」


 ぐちゃぐちゃになった部屋と住人を見て、フリオが呟く。


「リーダー、フリオ。一階はたった今、終わったぜー」


 座っていた獣人、犬人族の男がぶっきらぼうに言った。

 そして、上階から物音が聞こえてきた。



 ギルが階段の途中で息絶えた死体を跨ぎながら二階へ上がっていくと、廊下に二人の男がいた。


「おや、リーダー。来たのですか」


 ステッキを持ち、上下を高級そうな服で揃えた紳士がギルに話しかける。


「その奥にまだいるのか?」


 ギルが紳士に尋ねると、隣にいた老人が口を開く。


「残りは三人じゃ。部屋に閉じこもっとる」

「タバー爺、部屋に窓は?」

「窓は無い。どうも立て篭もるための堅牢な作りになっている部屋でのぉ、普通の攻撃じゃ開かんのよ」


 ギルが窓からの逃亡を気にしたが、それは心配ないらしい。

 ただ、部屋が特殊でドアも壁も、蹴破れないと言う。屋敷を建てた者が、資産か命かを守るために作った避難場所のようだ。


「……そうか。なら後は俺がやろう」


 ギルが二人の横を通り、ドアの前に立つ。


「おお、リーダーの魔法が見れるのですな」


 紳士が子供のように興奮する。


 面倒ではあるが懐に入れた金貨3枚のために、ギルは詠唱を始めた。




 一分後、屋敷の二階は半分が消し飛び、原型を残した壁も穴だらけになっていた。

 中で立てこもっていたチンピラたちは、言うまでもなく全員、死亡している。


「ほっほっ、さすが“黒翼(こくよく)”じゃ」

「我ら“十始末”のリーダーとして相応しい力ですな」


 後ろにいた老人タバーと紳士は、その凄まじい力を褒め称えている。


「あー!! 何ですかこれ?」


 階段を登って来たフリオが驚愕する。轟音と同時に屋敷が揺れたので様子を見にくれば、二階が半分無くなっているのだ。


「片付いたぞ、フリオ」


 ギルが報告するが、


「派手にやりすぎですよ! さっさと逃げますよ。みんなー! 撤収でーす!」


 フリオは焦り大声で仲間たちに呼びかける。

 治安が悪く揉め事の多い地域とは言え、さすがにここまですると、兵士が飛んでくる。


 ギルたち闇ギルドの面々は、急いで立ち去る。

 そして、その足でウルカへと向かうのだった。


 


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