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夢見る若人


 ジパードが気絶すると、帽子男たちが騒ぎ出した。


「う、うそだろ? ジパードさんが」

「マジかよ、最後の魔法はなんなんだ?」


 銀級冒険者が、二つ名まで付いている実力者が、負けた。

 しかも相手はまだ、十代半ばの少年だ。

 帽子男たちは信じられなかった。



「おい、おまえら」


 クウスが声をかけると帽子男たちの顔が引き攣る。


「な、何でしょう……?」


 ジパードがやられたら次は自分たちの番なのでは?と思い、帽子男たちは自然と低姿勢になった。

 

「その伸びてるやつはおまえらが運べよ? あと、尻尾を運ぶのも手伝ってくれるよな?」


 気絶したジパードと、長尾大蛙(カガードン)の尻尾を指さして、()()()をする。

 本当はこいつらもぶっ飛ばしたいが、ジパードが予想以上に強かったので疲れた。荷物持ちで許してやろう。


「は、はい。もちろん手伝います!」


 従順になった帽子男たち、“極武の集い”は尻尾を全て持ち、一人はジパードを抱えて先導を始める。


 クウスもついて行こうとすると、後ろから声が聞こえた。


「ミャァウ」

「えっ?」


 クウスが振り向くと、ジパードたちが狩った長尾大蛙(カガードン)の肉にかじりついているアグがいた。


「アグ!? なんでおまえがここに?」


 うそだろ、カリオッツにエサやりを頼んで預けて来たのに。まさか今日一日ずっと付いてきていたのか。

 クウスは冷や汗をかく。

 幻惑魔法で姿を隠せばついて来るのは可能だが、戦闘中にクウスが気配に気付いていたら……。


「おまえ、オレが間違って攻撃したらどうすんだよ? こらっ」


「ミャッ、ミャーー」


 クウスは小さな身体を顔の前まで持ち上げて叱る。するとアグは反省してるのか不満なのか、よく分からない声を出した。


「おい、その猫はなんだ? いや、なんですか?」


 帽子男が恐る恐るクウスに尋ねる。

 なんでこんな所に猫がいるのか不思議なのだろう。


「こいつは、オレの飼い猫だから気にすんな。よし、街に帰るぞ」


 クウスは男たちを仕切って急かす。アグは手に抱えて行く。

 


 日が落ちる頃、ようやくウルカに戻ってこれた。

 街に入ってすぐ、“極武の集い”は長尾大蛙(カガードン)の尻尾と魔石を全てクウスに渡してきた。それから気絶したままのジパードを担いで治療をしに連れて行ってしまった。

 なんでも、治療院や教会で金を払えば治療が受けられるらしい。もし光属性の魔法使いがいる所なら高額だが治癒魔法を受けることもできるという。

 クウスの場合は自分で治癒魔法が使えるので、怪我で治療院などに行くことはあまり無いだろうが。


 ギルドに依頼完了の報告をすると、報酬と買取代金はけっこう大きな額になった。


 

 依頼報酬:銀貨7枚 (尻尾五本は依頼主に渡す)

 長尾大蛙(カガードン)の魔石、十五個:銀貨15枚

 長尾大蛙(カガードン)の尻尾、十本:銀貨10枚

 長尾巨蛙(カガードン)(変異個体)の魔石:銀貨3枚

 長尾巨蛙(カガードン)(変異個体)の尻尾:銀貨3枚

 合計:銀貨31枚、31万リーセ



 なかなかの収入にほくほくで宿に帰ると、ソーマとカリオッツが食堂にいた。


「おい、カリオッツ。アグがオレに付いてきてたぞ」


 カリオッツに文句を言うと。


「すまんな。気付いたらいなかった」


 あっさり謝ってきた。確かにアグの幻惑魔法は発動したら見破るのは難しいかとクウスも思い、話題を変える。


「今日は変なやつらに絡まれてよ――」


 夕食を食べながらジパードたちとの一件を話し、カリオッツやソーマの話も聞いて、夜は更けていった。



 次の日、図書館へ向かうカリオッツと別れ、クウスとソーマは二人で魔道協会へ向かっていた。


 ソーマは魔道士認定試験を受けるために。

 クウスはナコフに二つ目の依頼を聞きに。


「あー緊張する。どうしよー」


 ソーマは朝食の時から落ち着きが無い。昨夜も寝付けなかったらしい。


「試験ってそんなに難しいのか?」


 クウスが聞くとソーマは首を横に振る。


「ううん、正直私なら合格できると思うんだけど

……でもやっぱ、魔道士は夢への第一歩だから」


 しっかり研鑽を積み準備をしてきたソーマは自信があるようだ。


「へえ。ソーマの夢って?」

「私の夢は魔()士になることよ。魔道を導く者。魔道士の中でも最高峰の実力が認められた者だけが授かる称号なの」


 同じマドウシでも違うらしい。


「それはどうやったらなれるんだ?」


「その条件は幾つもあるけど並大抵のことではなれないわ。協会で魔道士として認定されていることは最低条件ね」

「じゃあ、今日の試験は大事なんだな」

「そうよ。でも魔導士になるって夢を思い出したら、何だか気合が入ったわ。大事だけど、最初の通過点でしかないものね。……よし!」


 ソーマは目を瞑り、頬を軽く叩き気合を入れる。開いた目は力を取り戻していた。


「クウスの夢は、お祖父さんを超える冒険者だっけ?」


 少し気持ちに余裕が出たのか、今度はソーマが話を振ってくる。


「ああ。つまり、最高の冒険者だな」

「最高? 最強じゃないの?」


 ソーマが言葉の間違いかな、と指摘する。


「いや、最高でいいんだ。最強はじいちゃんだからな。最強のじいちゃんを超えたら、それって最高の冒険者だろ」


 クウスにとって最強とはノーマンのことだ。世界には化け物と呼ばれるような強者がいると言う。

 しかし、そいつらがどんなに強かろうと、クウスにとっての最強はノーマンなのだ。

 彼を超えた時、クウスは最高の冒険者になれると信じている。


「へえ、お祖父さんが大好きなのね」


 ソーマが優しく微笑む。クウスは顔が少し熱くなった。

 顔が熱くなった理由は、恥ずかしかったからか、ソーマの微笑みを見たからか。


「うるせえな、さっさと行くぞ」


 誤魔化して足早に協会へ向かうのだった。



 協会に着くと、ロビーには十人ほどの人間がいた。格好は全員、魔法使いっぽい。

 受付嬢にソーマが試験を受けに来たと告げると、ロビーで待つように言われる。


「ここにいるやつら、みんな試験受けに来たのか?」

「そうよ。一年に一回しか無い試験だから、この時期になると近隣の街から魔法使いや魔術士がやって来るの」


 ちなみに魔法使いか魔術士かは、協会に登録した時に決まるらしい。魔法が得意なら魔法使い、魔術が得意なら魔術士という具合に。



 そして、数分後には試験が始まると言うのでソーマとは別れ、クウスも受付へ。

 受付嬢へナコフに会いに来たと告げるとすぐに奥に通された。

 


 通路を進み通された一室にナコフはいた。書類やら置き物やらでゴチャゴチャした机で、何か仕事をしていたらしい。


「やあ、クウス君。ギルドから報告がさっき届いたよ。長尾大蛙(カガードン)の尻尾五本、一日で依頼達成とは大したものだ」


 ナコフは、クウスのことを腕利きだろうと予測していた。

 しかし、一日でランク3の魔物を五匹討伐できる程とは思っていなかった。彼にとって嬉しい誤算だ。


「へへ、まあな。それで二つ目の依頼は何なのか教えてくれよ」


 褒められて気をよくしたクウスが次の依頼を聞く。

 すると、ナコフは机の上に置いてある女性の像に触れた。


 ナコフが像に魔力を流すと、女性像の口元から薄い魔力の膜が広がっていく。

 膜は部屋いっぱいに広がると動きを止めた。


「なんだこれ?」

「他者に聞かれたくない話をする時に使う魔道具だよ。“風の防音像”と言う。この膜の中から外には音が漏れないんだ」


 風属性魔法に音を遮る膜を出す魔法があり、それを再現したものらしい。


「まあ、念のためだ。……二つ目の依頼は護衛だ。ある人物を守ってほしい」

「護衛か、誰を守ればいいんだ?」


 ナコフからの依頼なら、魔道協会の人間だろうか。


「君も知っている子だよ。エミリーだ」

「エミリーを?」


 なんと、護衛対象は以前ナコフが連れていた少女らしい。


「ああ。実はあの子を攫おうとしている悪党がいてね。あの子を守ってほしいんだ。期間は、できれば悪党が捕まるまでお願いしたい」


「悪い奴から守るのはいいぞ。でもその悪党はいつ捕まるんだ?」


 期間が未定だと少し困る。


「そいつは近いうちにウルカに来る可能性が高い。エミリーを攫うためにね。すでにウルカの衛兵には手配書を回してあるから、捕まるのは時間の問題だと思うんだが」


 はっきりと何時とは言えないが、捕まえるために手を回しているらしい。


「そうか、まあそんな長期間じゃなきゃ受けるぞ。エミリーも心配だしな。

 で、その悪党はどんな奴なんだ?」


 依頼を受けないでエミリーが拐われたらさすがに後悔する。にしても何のためにエミリーを拐うのだろう。


 

「そいつの名は、パドリソン。元宮廷魔法士の犯罪者さ」

 



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