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狩り勝負


「てめえ、舐めやがって〜。喧嘩売ってんだな? あ?」


 怒りを露わにした男がすごむ。

 クウスは数人の冒険者に囲まれていた。

 どうしてこうなったのか、順を追って話していこう。



 ギルドから聞いた狩り場は、ウルカの南にある森の中だ。

 森の中をしばらく進むと、湿地帯になっており、至るところに水辺が現れる。

 さらに進むと大きな湖が現れた。湖面から巨大な木々が生え、上空では枝が絡みあっている。枝の通路を小さなリスが移動しているのが見えた。

 この湖周辺が狩り場だ。


 さっそく長尾大蛙(カガードン)を探していく。

 湖には巨木の根が水面から顔を出し、小島のようになっている。そんな足場がたくさんあるので、縦横無尽に伸びる巨木の枝と合わせて伝えば、移動は容易だった。


 そして、湖面を移動すること数分で湖面の根に鎮座している長尾大蛙(カガードン)を見つけた。


 体高は一.五メートルほどだが、尻尾がとても長い。今の尻尾はとぐろを巻いているが、伸ばせば二メートル、下手したら三メートル前後有りそうだ。

 

 長尾大蛙(カガードン)は、上に伸びていた枝をリスが通ると尻尾をムチのように上空へ伸ばした。

 風切り音が聞こえると、あっという間にリスは尻尾に捕らえられていた。

 そして、捕らえた獲物を一呑みにして、

 

「ゲゴッ」


 と、一度鳴いた。


(あの尻尾の動き、早いな。……でもそれだけだな)


 クウスは長尾大蛙(カガードン)のいる根に素早く飛び移り、剣鉈を抜いた。


 長尾大蛙(カガードン)はクウスに気づくが動かない。

 クウスが前に出ると、尻尾がピクッと収縮する。

 さらに一歩踏み出すと、風切り音とともに尻尾がクウスの頭部を襲う。

 屈んで躱すが、尻尾は即座に軌道を変えて追撃してきた。今度は胴を狙われたので躱さずに剣鉈で対応する。


「ゲゴオッ!」


 剣鉈と交錯した尻尾は切断され、湖に落ちていった。

 尻尾を失った長尾大蛙(カガードン)は口を開けると舌を伸ばして攻撃してきた。

 だが、それも剣鉈で切り落とす。


 攻撃手段を失った長尾大蛙(カガードン)は、逃げようとしたのか枝に尻尾を伸ばすが、切断されたので届かない。


「終わりだ」


 クウスの一閃は、簡単に長尾大蛙(カガードン)を真っ二つにした。


 楽勝だったなと思いながら、途中で切断された尻尾を見る。


「あ……もしかして、尻尾切れてたらマズいのか? ていうか切った部分はどこいった?」


 目的の素材を切ってしまったことに気づき焦る。


 浅い所だったので、落ちた尻尾はすぐに見つかった。二つに切れてしまった尻尾と魔石を、一応回収して次の獲物を探す。


「尻尾を斬れば簡単に倒せるけど、斬らないで倒さなきゃマズそうだなあ」


 思ったより面倒な相手かもしれない。そんなことを考えながら移動していると、二匹目を発見した。さっきよりも少し小さな個体だ。


 ところが、二匹目の長尾大蛙(カガードン)はクウスに気づくや否や、飛び跳ねて逃げ出した。


「こら、逃げんな!」


 いきなり逃げるとは思わず出遅れたが、クウスも追いかける。


 長尾大蛙(カガードン)は明らかに届かない足場に向かって跳ぶと、尻尾を上空の枝に伸ばし捕まる。さらに振り子の要領で飛び出して足場へ着地してみせた。


「おお、凄え! って待て、こら」


 さらに距離を離されるが、クウスは闘気を足に集中させ足場を飛び移っていく。



 徐々に距離を縮め、再び長尾大蛙(カガードン)に追いつきかけたその時。

 木の陰から突如出てきた槍が長尾大蛙(カガードン)を貫いた。


「ゲゴッ……!」


 横から貫かれた長尾大蛙(カガードン)は急所をやられたのか、すぐに沈黙した。

 槍で貫いた男が陰から出てくる。頭に黒い帽子を被ったその男は、走って汗だくのクウスを見ると、


「へっへっへ、残念だったな」


 それだけ言うとニヤけながら解体を始めた。よく見れば離れた所にも数人、仲間らしきやつらがいた。


「おい、それはオレが追っかけてたやつだぞ」


 せっかく追いつきそうだったのに、横取りされてしまった。さすがにムカつく。


「あん? 早いもの勝ちに決まってんだろぉ? 大体ここらは俺らの縄張りだ。さっさと向こうに行けや」


 帽子男がここは自分たちの場所だとのたまう。

 ギルドで狩り場の情報を集めたが、縄張りなんて聞いてない。おそらくこいつらが勝手に言っているんだろう。


 ムカつくが、依頼中だ。クウスがその場を離れようとすると、声が上がる。


「おっ、いたぞ!」

「そっち行くぞ」


 クウスと帽子男の方へ、追われた長尾大蛙(カガードン)が飛び跳ねてくる。


 帽子男が再び槍を構えたところで、後ろからクウスが剣鉈を投擲する。

 闘気を込めて全力で放たれた剣鉈が、長尾大蛙(カガードン)の頭部を切断し足場に突き刺さる。


「なっ! てめえ何しやがる」


 後ろから自分の真横を通過していった剣が獲物を仕留めたことで、帽子男が憤る。


「早いもの勝ちなんだろ? あれはオレのもんだ」


 仕留めた長尾大蛙(カガードン)へ近寄り、尻尾を切り取る。

 さらに魔石を取り出そうとしていると、帽子男の仲間たちがクウスを囲む。


「おい、ガキ。その死体置いていけや」

「俺らは“極武(きょくぶ)(つど)い”だぞ?」

「ジパードさんの名前は知ってんだろ? 今のうちに謝っとけよ」


 全然知らない名前だったので、クウスは解体を続け魔石を取り出した。


「シカトすんな、おら!」

「てめえ、舐めやがって〜。喧嘩売ってんだな? あ?」


 連中はクウスの態度にキレ始めた。帽子男に至っては目が血走っている。


(四人か、雑魚じゃなさそうだし面倒だな)


 クウスは解体をしながらも帽子男たちを観察していた。長尾大蛙(カガードン)を狩れるぐらいだから、弱くはないだろう。もし襲ってきたら返り討ちにするが、尻尾集めがまだ途中だ。



「おう、遅れて悪いな。ん? どうした、誰だそいつ?」


 どうするか考えていると、男たちの後ろから重武装の人物が現れた。

 胴当てと手甲足甲は金属製。右手には槍を持ち、左手の手甲には盾がくっついてる。さらに、背中にも武器が有るのか、肩や腰から何かの柄が覗いている。

 重武装の男は足場を飛び移ってこちらに来るが、その重そうな見た目の割に身軽だ。


「あ、ジパードさん!」

「このガキ、俺たちの獲物を横取りしたんすよ」


 帽子男たちが、クウスを非難する。


「横取り? おいお前、横取りは良くねえ。揉め事の原因になるぜ?」


 ジパードと呼ばれた男は、眉を顰めてクウスに説教をする。


「違え。そいつが、先に横取りしたんだよ」


 クウスも黙ってはいない。帽子男を指差して反論する。


「何?……ほんとか?」


 ジパードは帽子男へ視線を向ける。


「いや、そいつの言いがかりっすよ。俺らここで長尾大蛙(カガードン)を狩ってたら、後からそのガキがイチャモンつけてきやがって」


 帽子男は認めないようだ。


「そいつはオレが追いかけてた長尾大蛙(カガードン)を横から槍で殺した。早いもの勝ちだって言ってな」


 クウスは近くに転がる横っ腹に穴のあいた長尾大蛙(カガードン)の死骸を指さす。

 

「だからオレもこいつらより先に長尾大蛙(カガードン)を仕留めた。そしたら、こいつらがキレだしたんだよ」


「て、てめえ! 適当なこと言いやがって――」


 帽子男がクウスに激昂すると、ジパードが手を上げて遮る。


「まあ、要するに双方言い分があって、水掛け論なわけだな。……じゃあ、勝負で決めようか」

「勝負?」


 結局、喧嘩するのかとクウスは思った。


「ああ、狩り勝負さ。俺たちの代表者一名と、君で、長尾大蛙(カガードン)の狩った数を競うんだ。数が多い方の勝ちで、勝者は狩った獲物を総取りでいいだろう」


 とてもシンプルな勝負だ。敗者の分も獲物が手に入るのは大きいな。


「俺たちは冒険者だ。強い者こそが、正義だ。敗けた者は勝者へ謝罪をすること。どうだい? 敗ければ得るものは無いけど、やるかい?」


 ジパードは少し挑発的な目でクウスを見てきた。

 クウスの答えは決まっている。


「もちろん、やるに決まってる」


 クウスの答えを聞き、ジパードがルールを決める。

 勝負は一対一で、それぞれに一人の同行者をつける。同行者は想定外の魔物が現れた時などに援護する要員だ。

 制限時間は森の隙間から見える山に太陽が掛かるまで。おおよそ二時間くらい。

 そして、競うのは一番分かりやすい尻尾の数だ。


「こちらの代表は俺に決まった。“極武の集い”リーダーのジパードだ、よろしく」


 帽子男が出てくるかと思ったが、ジパードがやるらしい。やはり仲間の言い分を信じているのかもしれない。


「オレはクウスだ、よろしくな」


 軽く握手をする。


「君につける同行者はこの黒い帽子の男だ。君の実力を見てみたいと言うのでね」


「よお、よろしくな」


 よりによって帽子男が同行するらしい。今は真面目そうな表情をしているが、背後にも気をつけた方が良さそうだ。


「じゃあ、勝負を始めようか」

「待て。その前に確認させろ」


 ジパードが始めようとしたが、クウスは待ったをかける。


「なんだぁ? 怖気付いたか?」


 帽子男が揶揄う。


「今持ってる尻尾を全部出せよ。後から混ぜられたら分かんねえ」


 そう。今日のクウスは冴えていた。

 帽子男たちはクウスが来るまでにも長尾大蛙(カガードン)を狩っているかもしれない。それをジパードが狩った分に混ぜられたら不利になる。勝負が始まる前に確認しておくのだ。


「……なるほどね。おい、お前ら。全員荷物開けろ」


 ジパードが仲間たちに促し、尻尾を出させる。

 全部で三本の尻尾が出てきた。

 クウスも雑嚢を開けて一本の尻尾を見せた。

 互いに本数を確認したので、これは勝負から除外される。

 


「それじゃあ、もういいな? ではスタートだ!」


 ジパードの合図とともにクウスは移動を始める。

 帽子男も後ろをついて来る。


 十分後、長尾大蛙(カガードン)を見つける。

 こちらに気付いていないので、慎重に近づく。

 しかし、距離が数メートルまで近づいた時。


「ごほっ、ごほっ!」

「なっ!」


 帽子男が大きく咳をした。

 

 当然、長尾大蛙(カガードン)はこちらに気付いてしまい、臨戦態勢だ。


「ゲゴッ!」


 尻尾を縮めると足場へ斜めに叩きつけて跳ねた。

 勢いをつけた体当たりだ。


「ちっ!」


 クウスは横に跳んで躱した。

 しかし、長尾大蛙(カガードン)は空中で再び尻尾を根に叩きつけ追尾してきた。


「う、うぉおおっ!」


 剣鉈で体当たりを受け止めると、クウスは体勢を崩しコケてしまった。


「ゲゴオッ!」


 尻尾がムチのように伸ばされる。しかし。

 

 クウスの左手が捉える。


 高速で迫った尻尾の先端を掴んだのだ。


「ぅうらぁぁ!」


 さらに両手で尻尾を完全に掴みあげ、振り回す。


 そして、帽子男へぶん投げた。


「げっ⁉︎ ぐぉっ!」


 飛んできた長尾大蛙(カガードン)に帽子男は押しつぶされる。

 カエルみたいな声だった。


 長尾大蛙(カガードン)は気絶していたので、トドメを刺して解体する。


「てっ、てめえ! 何しやがんだ」


 帽子男が怒るが、こっちのセリフだ。帽子男はあんなタイミングでわざとらしく咳をした。

 最初からクウスを妨害するつもりで同行を申し出たのだろう。


「おい。もし次も邪魔したら、またお前の方に投げ飛ばすからな」


 クウスが睨んで凄むと、帽子男は舌打ちして黙った。

 これで懲りたらいいんだが。




 

「あいつ、単純そうなやつに見えたけど、思ったより慎重だったな」


 ジパードは仕留めた長尾大蛙(カガードン)の尻尾をナイフで切りながら、同行者の仲間に話しかける。


「そうっすね。俺らが先に持ってた尻尾に気付くと思わなかったすよ」

「お陰で、少しは真面目にやらなきゃいかんなぁ」


 ジパードたちは最初から、クウスとまともに勝負をする気は無かった。先に採取済みの尻尾を加えて、大差で勝つつもりだったのだ。ジパードがクウスに紳士的な態度を取っていたのも、おふざけだった。

 しかし、クウスに指摘されてしまったので、真面目に長尾大蛙(カガードン)を探している。ただし。


「でも、あのガキは今頃、邪魔されてるはずっす。余裕ですよ」


「ああ、こっちは俺とお前の二人かがり。向こうは妨害付きで一人だ。……でもあのガキ、結構やりそうだったんだよな」


 帽子男に邪魔されているクウスと違い、ジパード側は同行者も協力して二人で狩れる。集合場所で待つ二人の仲間も長尾大蛙(カガードン)が現れれば狩るはず。

 圧倒的に有利だ。

 しかし、ジパードはクウスを見てから少し嫌な予感がしている。


「マジっすか? まあ一人で森に来てますしねえ。も、もし負けたらどうするんで?」


 同行者が万が一の時を聞くと。


「もし負けたら? ……褒美に稽古をつけてやるさ。()()()()()、直々にな」


 そう言って、ジパードは笑う。

 

 クウスの前で見せていた爽やかな笑顔ではない。

 

 まるで残虐な魔獣が獲物を嬲る時のように、顔を歪めて(わら)っていた。

 


 


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