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二つの依頼


 入口の前には兵士が二人と、職員が一人。

 職員用の小さな出入り口にも兵士。

 一階と二階の図書室の前にもそれぞれ兵士と職員が。


 厳重。

 図書館に入った最初の印象は、その一言に尽きた。

 

 図書館には大量の書物がある。

 本は一冊で銀貨数枚はする物だ。中には金貨を積まなければ手に入らない貴重な本も存在する。

 だから盗難を防ぐため、兵士たちが至るところに配置されているのだ。

 

 入口に兵士と一緒にいる職員は、出入りする人間が本を隠し持っていないかチェックしているらしい。

 さっき、クウスたちが図書館に入る時も、荷物を確認されたのだ。



 現在、クウスは一人で図書館の二階をうろついている。

 

 図書館に入ってすぐ、ソーマは試験に役立ちそうな教本を集中して読み始めた。

 カリオッツは古代言語の辞典で、封印魔術本の翻訳を始めた。

 クウスも手伝おうとしたが、辞典が一冊しか無かった。しょうがないので、図書の中から封印に関する本を探しているというわけだ。


 それにしても見当たらない。もしかしたら置いてないのかもと思い、二階にいた男の司書に尋ねる。


「封印魔術に関する本ですか? 有るには有るんですが、制限書庫にあるんですよね」


「有るのか。制限書庫ってのは?」


「制限書庫は、閲覧に許可のいる書物が仕舞われている場所です」


 司書の男が言うには、制限書庫に入れるのは図書館の職員以外だと、領主の許可証、冒険者ギルドや魔道協会など各組織の許可証を持った人間だけらしい。


「なんでそんな許可がいるんだ?」


 そんな許可を当然持っていないクウスは、理由を聞く。


「書庫にある書物は、貴重で価値の有るものばかりだからですよ。お探しの封印魔術に関する本も、一冊しか無い貴重なものなんです」

 

 書庫にあるという封印魔術の本は、中級以上の魔術が載っているので誰にでも見せられる本では無いらしい。

 その上、需要が少ないため複写もされていないそうだ。


 


 三十分後、そう聞いてますます読みたくなってしまったクウスは、冒険者ギルドに来た。


「図書館の書庫に入る許可ってやつが欲しいんだけど――」


 書庫に入れるような変わった依頼が無いか、もしくは許可を貰えないか聞きに来たのだ。


「申し訳ございません。現在そう言った依頼は有りません。許可も依頼遂行のため必要な場合に発行するものなので」


 ダメだった。だが、クウスはめげずに次の場所へ向かう。

 冒険者ギルドがダメなら、魔道協会だ。



 

 協会に登録していないクウスは入口の警備員に止められてしまった。

 入口でゴネているクウスに気付いた受付嬢が出てきてくれたが、やはり許可は出せないと言う。


「はあ、やっぱダメかぁ」


 クウスが肩を落とし図書館に戻ろうとすると、後ろから声が掛けられる。


「そこの君! ちょっといいか?」


「ん? なんだ?」


 振り向くと、そこには髭を生やした中年の男が、信じられないと言いたげな驚きの表情を浮かべ立っている。


「……や、やはり! 君、生きていたのか。よかった!」


 なんか喜んでいるが、クウスは意味が分からない。しかし、髭の男の顔を見ているとどこかで会ったような……。


「む、もしかして覚えていないか? 私だ、ナコフだ。以前、私とエミリーを助けてくれただろう?」


 髭の男はなぜか少し小声で喋ったが、

 ナコフ。そしてエミリー。

 二つの名前を聞いて、クウスは思い出す。


 旅に出て最初に出会った人間たちだ。忘れるはずも無い。いや、思い出すのに時間が掛かったけど。


「おお、おっさんか! 久しぶりだな。一ヶ月ぶりくらいか?」


「うむ、思い出してくれたか。生きていてよかった。まさかこんな所で再会するとは」


 どうやらナコフは甲殻這獣(ザーモント)の群れを相手にしたクウスが死んでしまったかもと、気に病んでいたらしい。

 あんな奴らに負けるかと言いたかったが、魔人化のことは言えないし、適当に誤魔化すことに。


「オレはそう簡単に死なねえよ。そういやエミリーは元気か?」


 さっさと話題を変える。ナコフがいるなら、あの少し内気な少女もこの街にいるのだろう。


「あ、ああ。彼女は元気だ。それで、クウス君。なぜ魔道協会に君が? 確か冒険者になるんじゃなかったか?」


 ナコフは冒険者になると言っていたクウスが、魔道協会の前にいたので不思議がる。

 まあいいかと、クウスはナコフに訳を話した。


「――でさ、許可が貰えないかと思って」


「……なるほど。なぜ封印魔術の本に興味が有るのかは知らないが……条件次第では、許可を取ってあげてもいいぞ」


 話を聞いたナコフは難しい顔をして何か考えていたが、クウスに計るような目を向けて言葉を発した。


「え? ほんとかよ! ……条件ってなんだ?」


 一瞬喜んだが、条件を聞いてからだと思い直す。


「条件は、二つの依頼を受けて達成すること。一つはある魔物素材を手に入れること。まあ討伐依頼と同じだ」


 ナコフの条件は二つの依頼達成。どんな魔物かは知らないが討伐ならクウスの得意な分野だ。


「ふーん、もう一つは?」


「一つ目の依頼を達成したら内容を教えよう。……そうだな、もう一つの依頼は数日掛かりになるとだけ言っておこう」


 二つ目の依頼は数日掛かりか。遠出が必要なのかもしれないが、数日ならいいかと決断する。


「よし、受けるぞ! まずは何を討伐すればいいんだ?」


「そうか、助かるよ。ならギルドに行こう。正式な依頼にして明日にでも討伐してほしい」


 その後、冒険者ギルドへ再び向かい魔道協会からの討伐依頼がナコフによって出され、クウスが受けた。

 その時に聞いたが、ナコフは魔道協会に()()する魔道士だった。

 ソーマのように登録だけしているのではなく、魔道協会という組織の中で働いているらしい。

 それも多少は顔が利くらしく、図書館の許可も取るのは問題無いそうだ。


 そして、ナコフと別れて図書館に戻るとちょうど閉館時間だった。


「クウス、どこに行ってたんだ?」

 

 図書館前で合流したカリオッツとソーマから聞かれ、今日あったこと、依頼を受けたことを話した。


「魔道協会からの依頼か。それで何の魔物素材だ?」


長尾大蛙(カガードン)の新鮮な尻尾を五本だ」


 長尾大蛙(カガードン)はランク3の蛙型魔物だ。戦ったことは無いが、以前倒した凶怪人(キャドラー)と同程度のランクならたぶん問題無いだろう。


「ランク3の魔物を五匹か。俺も行くか?」


 カリオッツは助けがいるか聞いてきた。


「オレだけでいいよ。お前には翻訳を頼んだ」


 翻訳は今日一日では終わらなかった。それどころか、カリオッツの予想では十日以上掛かるらしい。それなら翻訳に専念してもらいたい。



 図書館を出てから宿を探して夕食をとった。

 宿は一泊朝食付きが大銅貨6枚の所にした。ベッド以外は小さな机と椅子があるだけの部屋だ。ウルカは大きな街なので、宿や食事も少し高めらしい。

 夕食は日替わりメニューで、今日はシチューだった。鶏肉のような肉が入っていて、なかなか美味かった。




 そして、翌朝。

 クウスは一人で冒険者ギルドへ来ていた。

 

 昨日の夕食時にソーマから、狩り場をギルドで聞いた方が良いと言われたのだ。

 長尾大蛙(カガードン)は決まった場所に生息していることが多いらしい。


 ギルドの側まで行くと、建物の裏から歓声が聞こえてきた。

 気になって裏に回るとそこにはギルドの訓練場があり、男たちが数人いた。


「いやあ、すげえわ」

「俺も使ってみてえけど魔力が無えしな」

「フクマみてえに器用じゃねえと」

 

 男たちは一人の男を囲んで盛り上がっている。

 

「なあ、何やってんだ?」


 クウスは気になったので、男たちに話しかける。


「ん? ああ、魔法を見せてもらってたんだよ。今どき珍しい無属性魔法だぜ?」


 クウスに聞かれたヒゲを生やした男は、中心にいた剣士を指差す。


「フクマは剣士に見えるけど、魔法も使えるんだ。いわゆる魔法戦士ってやつだな」


 ヒゲ男から名前が上がり、中心にいた男は自分のことかとこちらに顔を向けた。


「なんだよ、その坊主は?」


 フクマと呼ばれた男は三十歳前後の見た目で、軽装だった。


「俺らが騒いでたから気になったみたいだぜ?」

 

「俺の魔衝球(ヴォンタナム)はそんなに大したもんじゃねえんだけどなぁ」


 ヒゲ男の言葉に、フクマな苦笑いして謙遜する。


「なあ、オレ見てないんだけど、それどんな魔法なんだ?」


 フクマが口にした魔法名は、聞いたことの無いものだった。

 知らない魔法ならぜひ見てみたい。


「ふふふ、気になるか坊主。しょうがねえな〜、もう一度見せてやる」


 目をキラキラさせたクウスに、心がくすぐられたのか、見せてくれるという。

 フクマは土を固めた人型の的へ歩いていく。


「練魔し掌球に幕をかけ」

 

 フクマは詠唱しながら、右手を振りかぶるように構える。


「触れれば弾けん 破裂の波動」

 

 そして半透明の球体が、右手首から上を包み込む。


「《魔衝球(ヴォンタナム)》」


 発動句と同時に右手を的の頭部に叩きつけた。


 すると、手を包む球体が的に触れた瞬間、大きく

 破裂した。


 破裂音とともに、的の頭部が抉れ飛んだ。


 土を雑に固めただけの的だが、十分な威力を感じさせる。


「おお〜! すげえ、魔法なのに接近戦で使うのか。カッコいいな」


「ははは。そうだろう、そうだろう。なかなか見どころのあるやつだ」


 クウスに賞賛され上機嫌になるフクマ。

 しかし、ふと真面目な顔つきに変わる。


「無属性魔法は使い手が少ねえ。他の属性より魔力消費が激しいからな。だが、俺は無属性にしか適性が無かった。お陰で魔法使いとしては落ちこぼれ扱いだったよ」


 フクマは以前は魔法使いだったみたいだ。

 

「だから俺は無属性魔法と接近戦を組み合わせたスタイルで強くなろうとしてるのさ。ただの意地だが、挑戦すると決めたんだ。……俺はやるぜ!」


「いいぞーフクマー!」

「ヒューヒュー」


 フクマが目標を宣言すると、周りの冒険者たちが囃し立てる。ノリがよくて面白いやつらだ。


「なあ、オレに今の魔法を教えてくれ!」


 あの魔法を使ってみたい。そう思った時にはフクマに頼んでいた。

 クウスは魔衝球(ヴォンタナム)を一目で気に入ってしまったのだ。


 近距離の魔法は、後衛の魔法使いにはあまり好まれないだろう。

 しかし、クウスのような魔法戦士なら活かせる。フクマの目指す戦闘スタイルは、まさにクウスのことである。


「教えてくれって……坊主、魔法ってのはな適性が――」

「無属性なら使えるって! だから教えてくれよ」


 クウスは話しながら少し魔力を練ってみせ、魔力量が問題ないこと、そして適性が有ることをアピールする。


「ほう、適性があるのか。……なら良いか。まあやり方は教えてやるが、練習は大変だ。挫けるなよ?」

「おう!」


 フクマは適性があるなら教えてやるかと軽い気持ちで請け負ってくれた。良いやつだ。

 クウスは好意を無駄にしないよう、真面目に教わろうと気合いを入れた。


 それから一時間、訓練場でフクマにまとわりつき魔衝球(ヴォンタナム)を教わるのだった。





「はあ。やっと帰ったか、あの坊主」


 フクマが疲れた顔で呟いた。


「へっ、随分懐かれてたじゃねえか。弟子でも取るのかと思ったぜ」


 ヒゲ男がからかう。


「おいおい、よせよ。そんな柄じゃねえさ。それに……」

 


 フクマは苦笑しながら()()()()に目をやる。


「それに……たった一時間で師匠を超えていくやつを、弟子にできるかよ」


 人型の的は、頭部、両腕、胴体までバラバラになっている。いったい何発の魔法を喰らったのか。


 

 その日、訓練場にいた冒険者たちは、天才が成長していく瞬間を目撃したのだった。

 



 

お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマーク・評価★または感想など頂けましたら、嬉しいです。



本日、短編作品「隣に住むおばさんは魔王だった 〜勇者のジョブを授かった少年、大好きなおばさんとは戦えないと咽び泣く〜」を投稿いたしました。


よければそちらもお読みいただけると嬉しいです。


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