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学術都市ウルカ


 日が真上まで登った頃、クウスたちは町の出口にいた。


 

「世話になったな、また来てくれ」

 

 町長がクウスたちに別れの挨拶をする。


「いえいえ、仕事をしただけですから」


 ソーマが謙遜する。実際、特別なことをしたわけではない。きっちり報酬も貰っている。



「……お世話になりました」


 メットがクウスに頭を下げる。使用人として作法を学んでいるからか、そのお辞儀は綺麗だった。


「なんで敬語なんだよ……。で、お前これからどうするんだ?」


 クウスは立ち退きを拒否する必要の無くなったメットが、屋敷を出たらどうするのか気になった。


「屋敷の中を整理しましたら、町を出るつもりです。……旅でもしますかね」


 メットは、エメの言葉を思い出す。

『メット。私が死んだらあなたは自由になるの。旅に出てもいいし――』


「へえ、行き先が決まってねえならオレたちと冒険しないか? オレは冒険者だからな。多分、色んな所に行くぞ?」


「冒険者ですか……。しかし、昨日あれだけ無礼を働いた私をなぜ誘うのです?」


 いきなり冒険に誘ったクウスだが、メットは昨日自分に襲われたことを忘れたのかと、疑問を呈す。


「え? お前強いし、変装も面白いだろ? 仲間にいたら楽しそうじゃねえか」


 あっけらかんと答えたクウスに、メットは仮面の下で苦笑する。

 自身の使う〈創面〉を見た者は普通、その顔の作りが変貌していく様に悍ましさを感じる。今まで面白いと言ったのはエメくらいだった。


「ふっ、そうですか。私も一応、斥候の技術は多少学んでいますからお役に立てるかもしれませんね」

「お、いいね。じゃあしばらくはウルカで待ってるから追いかけて来いよ!」


 ウルカは図書館に用があるし大きな街なので、しばらく拠点にするのも良いと考えていた。


「……分かりました。屋敷のことが片付き次第、向かいましょう。それでは、お気をつけて」



 

 時間になり、クウスたちがミナワガを出て行く。

 それを見送りながら、メットは呟く。

 

「そう言えばエメ様はこうも言ってましたね」


『メット。私が死んだらあなたは自由になるの。旅に出てもいいし、新しい主人に仕えるのもいいわね。あなたの百面相があればきっと皆んなに好かれるわ――』


 クウスたちが街道を進み、やがて見えなくなった。

 メットは屋敷へと戻るため歩き出す。そして歩きながら、昨日のクウスとの戦いを思い出す。


 

 クウスは骨格すら変えるメットの変装、“創面”を見破った。敵意や害意を漏らしたわけでもないのに、初見で見破られたのは初めての経験だった。

 

 さらに不思議なことに、薬を使った様子もなく麻痺毒を無効化してみせた。

 

 そして、詠唱をせずに突風を起こした。

 

 極め付けには目と髪の色が変化し、闘気と魔力が膨れ上がった。

 

 密偵として様々な人間を観察した経験のあるメットからしても、クウスは規格外な人物だった。

 


「エメ様……()()()()()は、お仕えするのが大変そうな方ですよ」


 空へ向かって、そう話すのだった。




 

「おっ、飛駆牛(ナロクトパイ)じゃん! ラッキー」


 街道に現れた魔物に、サイスロが意気揚々と槍を向ける。


「ンモォオオッ!」


 引き締まった体躯を震わせ、サイスロへ駆け出したのは、牛そっくりな魔獣だ。

 飛駆牛(ナロクトパイ)

 ランク2の魔獣で、引き締まった痩躯の牛といった見た目をしている。身軽なため、森の中で遭遇すると木々を飛び跳ねて縦横無尽に駆け、空中から攻撃を仕掛けてくる厄介な魔物だ。

 だが、森ではなく木も岩も無い平地ならどうか?


「ンモォオオッッ!!」


 ()()()()にサイスロへ突っ込んだ飛駆牛(ナロクトパイ)は槍に貫かれた。


「ふっ、一撃。俺の突きが鋭すぎたか」


 サイスロがカッコつけているが、当然違う。

 飛駆牛(ナロクトパイ)は突撃するスピードこそ速かった。しかし平地では直線的な動きしかしてこないので、カウンターが決まりやすいのだ。

 しかも飛駆牛(ナロクトパイ)は身軽なので突撃の際に生じる衝撃も受け止められてしまう。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと解体しようよ」


 ポズルが呆れながら、サイスロを急かす。

 旅路を急ぐが、飛駆牛(ナロクトパイ)の肉は大銀貨1枚で売れるので、ちゃんと解体をして持っていきたいのだ。

 ポズルは今日から護衛に復帰した。

 傷が回復しても不調が続いていたが、槍も振れるようになったので頑張っている。クウスもその様子を見て、安心した。


 クウスも手伝って、魔石と角を取り、肉は切り分けてからシェピガの葉を巻いていく。シェピガの葉は、シェピガという常緑樹につく大きな葉っぱだ。食料など生モノに巻くと鮮度を保つ効能があるため、冒険者や狩人はシェピガの葉を数枚は携帯している。


「ミャー」

「あっ、こら! しっ、しっ」


 解体中にアグがつまみ食いしようと近づいてきたが、サイスロの鉄壁ガードに阻まれている。

 



 解体を終わらせた後は夜まで街道を進み、一日を終えた。

 そして、次の日。

 ついに目的地、ウルカが見えてきた。


「おおー、でかい街だ!」


 高い街壁に囲まれたウルカの街は、圧巻だった。中央に大きな建物が幾つも集まり、北には街壁よりも高い建物がある。あれが城というやつかもしれない。

 クウスにとって大都市だったツァムルよりも遥かに大きい。その規模は数倍は有りそうだ。


「あの北にある一番大きな建物はなんだ?」


「あれは、領主様のいる城ですね。ティーバ子爵という貴族様です」


 アントンが教えてくれた。

 あれが城か。モリー婆から聞いたことはあるが、見るのは初めてだ。貴族ってあんなところに暮らしてるのか。


「ティーバ子爵はとても優秀な方だそうです。最近のウルカは発展が目覚ましく、今では“学術都市”と呼ばれています」


「そうよ。十年以上前に図書館を建てて、色んな分野の学者たちを招いたのが始まりらしいわ。今では魔道協会も支部を置いて、魔道学の研究者がたくさん集まってるって聞くもの」


 その後もアントンとソーマが、学術都市の由来を教えてくれた。ソーマはウルカに来たのは初めてらしいが、魔道協会のある街なので調べたことがあるそうだ。

 

 ソーマは人に教えている時に、よく得意げな顔をする。魔道学に関することならさらに上機嫌になる。

 知恵や教養を見せびらかす者は高慢に見られがちだが、クウスはそういう時のソーマが嫌いじゃない。好きなものについて語れるのが嬉しいと、顔に書いてあるから。



 街に入り、まずは冒険者ギルドへ向かう。

 クウスたちが受けた護衛依頼はウルカまでだったので、ここで終わりだ。

 アントンはクウスたちの代わりに新たに護衛を募ってから、王都へ向かうらしい。


 ギルドで依頼完了の報告をし、報酬を受け取る。

 一日につき一人銀貨1枚で、四日間だから、一人銀貨4枚の収入だ。道中の宿や食事もアントン持ちだったので、護衛依頼も悪くないな。


 ギルドの前でアントンとサイスロたち俊英の槍と別れる。


「なあ、ほんとに飛駆牛(ナロクトパイ)の分け前いらないのか?」


 サイスロがクウスに尋ねる。飛駆牛(ナロクトパイ)の分の収入は俊英の槍に譲ったのだ。


「いらねえよ。飛駆牛(ナロクトパイ)はお前一人で倒してるし。それにアグにちょっとだけ肉食わせてもらったからな」


 実は昨夜の夜営時に、シェピガの葉で巻かれた肉を、アグがカリカリ引っ掻いて鳴きまくったのだ。

 ニャーニャー鳴く猫にサイスロは折れ、ついに肉を与え

た。

 飛駆牛(ナロクトパイ)の肉質は硬めだが、アグはご満悦だった。


「そっか。じゃあ俺らは王都に行くからよ、その内会いに来いよな!」

「おう、またな!」


 手を振って、サイスロたちと別れた。

 俊英の槍はなかなか良いやつらだった。サイスロたちはアントンの護衛で王都に行き、そのまま王都で活動するそうだ。

 いつか王都に行ったらまた会えるだろう。



 ギルドを出て宿屋を探していると、何かを見つけたソーマがクウスたちを呼ぶ。

 

「ねえ、そこの魔道協会に行きたいんだけど、いい?」


 ソーマが指を差した方向には三階建ての大きな建物があった。

 建物の入口には警備員が一人立っていて、あまり気安くは入りにくい雰囲気だ。

 入口の上には「魔道協会 ウルカ支部」と書かれている。

 二階と三階の間の壁面には、大きな紋様が描かれている。魔法陣と本のマークだ。あれが魔道協会を表すマークなのだろう。

 


「そういえば、ウルカで試験を受けると言っていたな。いつなんだ?」


 カリオッツがソーマの受ける試験の日を聞くと。


「ええ。魔道士の認定試験は五日後のはずよ。申し込まないといけないから、ちょっとだけ寄らせて」


 警備員にソーマが会員証のメダルを見せ、クウスとカリオッツも一緒に中へ入っていく。


 中に入ると受付があり、職員と思われる女性が一人だけいた。受付ロビーは冒険者ギルドに比べるとかなり小さい。受付の他は小さな掲示板とソファが置いてあるだけだ。


「こんにちは、今日はどうされましたか?」


 受付嬢はクウスたち三人を見回して、ソーマに向かって笑顔で話しかける。


「ええと、まず報告があって。……これを」


 ソーマは懐からメダルを取り出す。自分のメダルは首に掛けているので、あれは……タカスのものか。

 ソーマはメダルを渡し、受付嬢に事情を話していく。


 

「――というわけで彼は亡くなったわ。彼の荷物も有るから、遺族に届けてもらいたいのだけど」


「ご遺族のお住まいが分かれば大丈夫ですよ。では、荷物をお預かりします。他にご用件はございますか?」


 ソーマがタカスの杖などを出すと、受付嬢はそれらを箱に入れて預かった。


「あと、魔道士の認定試験を受けるわ。五日後よね?」


「承りました。あ、ですが認定試験は三日後ですよ?」


 

「へ?」


 受付嬢の言葉にソーマが固まる。

 


「み、三日後? 嘘でしょ、私の持ってる会報には五日後だって」


 ソーマは背嚢から薄い紙束を出し、受付嬢に見せる。それを見た受付嬢は、ああ、と納得した顔をする。


「この会報は半年前のものですね。三ヶ月前に日程が変更になったんです。まだ三日有りますが、どうなさいますか? 試験は来年も――」


「い、いえ。受けるわ。元々受かる自信が付いたから受けようと思ったんだし。じゃあまた三日後に来るわ。あ! あと新しい会報もちょうだい」


 日程の変更は予想外だが、試験を申し込んだソーマ。


 新しい会報を受け取り協会を出ると、クウスに振り向き、


「そういうわけで私、今日から追い込みの勉強するわ! 悪いんだけど、試験が終わるまで冒険者活動は休ませてね」


 両手を合わせ、クウスとカリオッツへあやまった。


「ああ、分かった。気にすんな」

「問題ない。俺たちも図書館に用がある」


(あ、そうだった)

 とクウスはウルカに来た目的を思い出した。


「私も本を借りたいわ」


 ソーマも勉強用に魔道学の本を読みたいらしい。


「じゃあ、図書館に行くか!」



(フチで手に入れた封印魔術の本、ようやく中身が分かるな)

 

 本を求めて、図書館へ向かうクウスたち。

 

 クウスはそこで意外な人物と再会するのだった。

 


 

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