表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/52

一緒に見る景色


 メットは臨戦態勢だ。

 そして、それはクウスとカリオッツも同様だ。

 ソーマはまだ迷っている。

 町長は後退りしている。


「ま、待ってよ! その子との約束だって言うのは分かったけど、その為に人に危害を加えるなんて――」

「殺しはしないから問題は無い。君らには、しばらく屋敷の一室で、軟禁生活を強いることになるが」


 ソーマが説得しようとするが、メットには届かない。


「ちっ。町長、あんたは逃げろ。この男は俺たちが相手をする」

「わ、わかった!」


 カリオッツが逃亡を促すと、町長は扉に飛びついて開けようとしたが、扉は取手が動かず開かなかった。


「え、え? なんで」


「念のため廊下から細工をさせてもらった。その扉は開かない」


「どけ、町長。これならどうだ?」


 カリオッツが剣を抜き、扉に近づく。剣を見て慌てて扉から離れる町長。


「シッ!」


 メットがチャクラムを投擲。


 腕を狙われたカリオッツだが剣で上手く弾く。

 しかし、弾いた時には扉の前にメットが移動していた。


「……速いな」


 メットの動きは、カリオッツにも予想外のスピードだった。


「怪我をする前に諦めろ。私は予め準備を入念にしている」


 そう言うと、メットは懐から、もう一つのチャクラムを取り出す。


 扉に細工をし、武器も揃えている。

 おそらく、町長がクウスたち冒険者を連れてきた時点で、戦闘を予測していたのだろう。



「カリオッツ、ソーマ。町長を守って隣の部屋に行ってろ。こいつは俺がやる」


 クウスは剣鉈を抜き構える。


「一人じゃ危険よ、この男は」


 ソーマが顔を顰めて難色を示す。三人がかりで対処するのが一番安全だと考えているのかもしれない。


「いや、オレだけの方がいい。こいつは動き早いし、()()()()()からよ」


 クウスが魔人化を示唆する。ソーマは一瞬だけハッとしてそのことに気付いたが、それでも心配そうな顔をする。


「ソーマ、あいつに任せるぞ」


 カリオッツは鈍重な魔物と違うメットの動きだと、連携を乱され後手に回る可能性を考え、クウスに任せる。

 ソーマと町長を隣の部屋へ後退りしながら連れて行く。


「勝手に動かれては困る」


 メットは今度は小さな針を三本、カリオッツたちへ投げる。


「おおっとぉ!」


 だが、クウスが剣鉈を軌道上に滑らせて針を撃ち落とした。


「オレが相手だって言ってんだろ」


 簡単に針を落としてみせたその剣技に、メットは警戒レベルを上げる。

 しかしその内心とは裏腹に、手をダランと下げ、棒立ちになるメット。

 なんだ?とクウスが訝しむと、その手に持つチャクラムが僅かに動き、照明の光をクウスの目に反射させた。


「うっ」


 クウスが顔を背けたのと同時にメットが踏み込んだ。

 凄まじいスピード。

 

 身を低くしたままチャクラムで斬りつけてくる。

 足を狙う軌道だ。


 剣鉈がチャクラムと交差した。

 

 防御は間に合ったが、完全に懐に入られてしまった。

 剣よりもチャクラムの間合いだ。


「ハアッ!」


 チャクラムによる連続攻撃。


「うおっ! ちっ! くっ!」


 クウスは薄皮一枚を切られ、僅かに血が出る。

 だが、さらにメットの攻撃は続く。


 クウスが苦し紛れに振った剣鉈はチャクラムで逆に弾かれる。

 剣鉈を持つ右腕がカチ上げられ、身体が開いてしまった。

 そこへチャクラムによる袈裟斬りが襲いかかる。

 

 左手で防ごうとするクウス。しかしそれを予知していたかのように、チャクラムの軌道が変化する。

 

 軌道は、低い。またしても足狙いだった。


「ぐっ! だぁああっ!」


 クウスは両足を折り畳む形で咄嗟に飛び上がる。

 そしてチャクラムを躱すと、折り畳んだ両足を今度は思い切り伸ばし蹴りを放った。

 まさかの反応で攻撃をかわされたメットはカウンターのような形で蹴りを喰らう。

 

 両足を揃えた蹴りは仮面で覆われた頭部にヒットし、メットは吹き飛びベッドの上へ倒れ込んだ。


 

 メットは大の字に倒れたまま、すぐに顔だけを起こす。


「……大したものだ。まさか、私のスピードについてくるとは。だが……勝負は決まった」

 

「げっ! てめ、いつの間に……!」


 クウスは自分の足に刺さった針を見て驚く。


 おそらく蹴りを放った直後。

 吹き飛ばされながら針を放っていたのだろう。


「くそっ、油断した」


 歯軋りし、急いで針を抜いたクウス。

 逆にメットはゆっくりと上体を起こし、ベッドから立ち上がる。


「君はよくやった。その若さで恐るべき実力だ。だが、その針には麻痺毒が塗布されている。もうすぐ動けなくなるだろう」


 クウスはそれを聞き、右手で傷口を押さえる。

 そして、悔しそうな表情を隠すように顔を俯け、左手で胸を掻きむしった。

 

 数秒経っても立ち上がらないクウスを見て、メットは体に入っていた力を少し抜く。


「諦めたか。悔しいかもしれんが、賢明だ。命を奪うつもりは無いのだ――」


 メットはクウスから微かな声を聞き取った。

 そして、魔力の高まりを感じた。


「む、いったい何を――」


「――解放を差し許す、《解封(アンシール)》 《真抗門》」


 艶のある黒を銀が侵食していく。

 目の輝きは銀とそれに照らされる黒が混ざり合い混沌へと変化した。


 メットはその髪と目の変化以上に驚愕する。

 

 その、恐ろしいほどに充実した闘気に。

 

 そして、爆発的に膨れ上がった魔力に。



「な……何者だ」


 メットはそれしか言えなかった。

 次の言葉を紡ぐ前に、魔人は既に迫っていたから。


「おおおおっ!」


 先刻とは段違いの速度で剣鉈が振られる。


「ぐぅっ!?」


 下からの切り上げをチャクラムでガードしたが、凄まじい膂力にメットの体は浮き上がる。

 力で押し飛ばされ、二メートル後ろの壁際まで下がらされた。


「くっ、何故動ける!? 麻痺が効いてないのか?」

「わはは、どうしてだろうな? あんな針でオレを止められるかよっ」


 クウスは余裕ぶっているが、さっきまで身体は痺れていた。

 傷口を押さえて俯いた時、小声で《魔注治療(キビダンプル)》を使い麻痺を治したのだ。


 メットが慎重に様子見せず追撃をしていたら、かなりマズかった。



「さて、勝負をつけようぜ」


 クウスは魔力を床に流し、根源魔法を発動させる。

 

 起こすのは、突風。


 いきなり下から風が吹き上がる。

 メットは驚くが、風はさらに部屋の中でめちゃくちゃに吹き荒れる。


「魔法か? 凄まじいっ……!」


 するといきなり、ベッドの上にあった毛布がめくり上がり、メットに覆い被さった。


 クウスが風を操作して毛布を飛ばしたのだ。

 そして、メットの人型が浮かんだ毛布に追撃する。

 クウスは闘気を纏った右の拳を撃ち込んだ。


「ぐはっ!?」


 顔面を捉えた。くぐもった声はダメージを教えてくれた。

 しかし。


「うわっ!?」


 咄嗟にクウスは首を傾けて躱したが、頬に掠った。

 毛布から突き抜けてきたのはメットの左手だ。

 そして、クウスの頬に傷をつけたのは、刃。

 左手の袖口から飛び出した剣だった。


「あっぶねえ、なあっ!」


 クウスは凶器が仕込まれた左手を掴み上げ、毛布ごと投げ飛ばした。


「ガハッ!」


 床に叩きつけられ、血を吐くメット。

 もう起き上がれまい。


「やったわ、クウスの勝ちねっ」


 後ろを振り向くと、隣の部屋からソーマが見守っていた。

 勝敗が着いたと聞き、町長も恐る恐る顔を覗かせる。


「ひえ、部屋がめちゃくちゃだ」


 町長の言う通り、部屋の中はぐちゃぐちゃだ。

 ベッドは足が折れ、毛布や絨毯はシワクチャで床に転がり、棚や机は中に入っていた物も散乱している。

 チャクラムはメットから離れたところに転がっている。


 クウスは針を警戒しながら床に倒れたメットに近づく。


「オレの勝ちだな」


「うぅ……まだだ。負ける訳には、いかない」


 意識も朦朧としているだろうに、メットは負けを認めない。

 しかし、体は言うことを聞かず、起き上がることができないようだ。


「ぐぅう、まだ、この屋敷は渡さんっ……!」


 クウスはメットから諦念を一切、感じ取れなかった。仮面を被っているが、こいつの今の表情が想像できてしまう。

 こいつは死んでも引かない。

 そう理解したクウスは。


「……はあ、ったく。しょうがねえな。オレからも町長に話してやるよ。花が咲くまで待てばいいんだろ?」


「な、何?」


 クウスの言葉の意図がメットには分からない。


「おい、町長! こいつは死んでも引かねえぞ。…花が咲くまで少し待ってやれよ」


 隣の部屋から心配そうにメットを見つめていた町長に進言する。

 言われた町長は、困り顔だ。


「し、しかしだな。エメの父親と金主との間に交わされた契約なんだ。私がどうこうできるものでは」

「でも町の中での揉め事だろ? 町長(あんた)が待てって言えば向こうも待たねえかな」


 町長とは町のまとめ役だ。

 故郷の集落ではモリー婆がまとめ役だった。喧嘩や揉め事が起きたらモリー婆が仲裁して、それに皆が従っていた。頑固な祖父ノーマンでさえ、異を唱えなかったのだ。

 だからクウスの感覚では、町長が言えば何とかなるんじゃないか、と思うわけだ。


「ん〜む、そうだな。効果があるか分からんが、エメの話を聞いちゃぁな。……金主側に言うだけは言ってみよう。それでいいな、メット?」


 町長は迷いを振りきって微力を尽くすと決めた。

 町長もエメの遺言とも言える約束を、できるなら守らせてあげたい。同じ町の人間なのだから。


「町長……有難う、ございます……」


 町長が協力してくれる。僅かに希望を残せたことで力が抜けたのか、メットは礼を言うとすぐに意識を手放した。

 とっくに限界だったのだろう。



 隣の部屋から来たソーマが気絶したメットを見下ろす。

 メットは口や鼻から出血してるのか、仮面のすきまから血がダラダラと流れている。

 

「結構ひどい怪我の功名ね。アノリの所に連れて行って、治療してもらいましょ」

「ここに呼んじゃダメなのか?」


 治療はした方がいいが、わざわざ宿までメットを運ぶのは大変だ。


「あんたたちが暴れたから、休めるとこなんて無いわよ」


 そう言われて周りを見渡せば、たしかにひどい状態だ。


「他の部屋を探せばベッドはあるかも知れんが、この男は密偵だ。どんな仕掛けを施してるか分からん」


 カリオッツもソーマの意見に賛成らしい。


「ちぇ、分かったよ」



 その夜、アノリの魔法で回復したメットだが、意識が戻ったのは翌朝だった。


 意識が戻り、朝食を摂っていたクウスたちに昨日の謝罪をしたメット。

 そんな彼の元に急報が飛び込む。

 

「メ、メット! 大変だ、屋敷が!」


 宿に駆け込んで来たのは町長だった。

 大慌てで走ってきたのか、全身に汗を掻いて息も切れている。


「っ!!」


 町長の只事ではない様子に、屋敷に何かが起きたと察し、メットは宿を飛び出した。

 

 クウスたちも慌てて後を追う。

 だがメットの方が足が早いようで、距離がどんどん開いていく。


(何があったんだ? もしかして、金主ってのが何かしたのか?)


 金主側がメットの居ない隙に屋敷に踏み込んだのではないかと、嫌な予想が浮かぶ。

 

 

 そして、クウスたちが走ること数分。

 

 メットが立ちすくんでいた。


 道の真ん中に、呆然と。

 


「はあっ、はあっ。……ははっ、昨日のオレたちの説得は意味無かったな」


 そんな言葉が思わず口をついて出た。


「ああ、町長の協力もな」


 カリオッツが同意する。


「はっ、はあっ、はあ。……でも良いじゃない。こんなに綺麗なんだもの」


 ソーマはそれでも悪くないと言う。



「よお、メット。すごいなぁこれ」


 クウスは、声を掛けた。

 肩を震わせて立ち尽くすメットに。

 彼もクウスに応える。


「……ああ、そうだろう? 本当に素晴らしい景色なんだ」


 メットの視線の先には、()()()()()()()()があった。

 花の絨毯は丘の上にある屋敷を囲み、朝日が夜露を輝かせ、煌めいている。


「……エメ様。お待たせしました。今年も、たくさん咲きましたよ。

 花に囲まれた私たちの屋敷は、綺麗です。

 ……エメ様の言われた通りですね。

 見てるだけで……とても楽しくて、嬉しくて……優しい景色です。

 約束は守りましたよ。守れないと、エメ様がいつまでも天国に行けませんからね。

 ……でも、私も最後に我が儘を言わせて頂きますね? 

 まだ、天国に行かないで下さい。もう少しだけ一緒にこの景色を見て、その目に焼き付けて下さい。

 だってそうでしょ?

 そうすれば、エメ様が天国で花を見るたびに私のことを思い出してくれるでしょう……?」


 メットの仮面の下からは、溢れた涙がいつまでも流れ続けた。


 クウスは何も言わず、メットの後ろで佇んでいた。というよりも、もらい泣きしていた。

 

 その時、風が吹く。

 空耳だろうか、少女の泣き笑いが聞こえた気がした。



 

読んで頂き、ありがとうございます。


ブックマークや評価★またな感想がありましたら、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ