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アジトでの出会い


「さて、聞かせてもらうぞ。お前らの仲間、そしてアジトはどこだ?」


 サイスロが野盗たちを血走った目で睨む。

 戦闘が終わり、現在は尋問中だ。


 野盗の生き残りは全員縄で縛ってある。襲ってきたのは全部で十九人。生きているのは八人だ。

 八人の中にはポズルを殺しかけた、傷男もいる。

 

 クウスは今回、人を殺したのは初めての経験だったが、意外と気持ちは落ち着いていた。亜人型の魔物を討伐した経験が有るからだろう。

 祖父ノーマンからも敵対した奴、特に犯罪者には情けを掛けるなと言われていた。カリオッツやソーマ、サイスロ達も躊躇せず戦っていたので割り切れているのだろう。


「な、仲間なんかいねぇよぉ。おらたち魔が刺しただけだあ。頼むから見逃してくれよお」


 訛りのある喋り方で生き残りの野盗が慈悲を乞う。


「魔が刺しただあ? 弓で狙ったり二手に分かれてきたり、めちゃくちゃ手慣れてたじゃねえか! さっさと言わねえと俺も魔が刺すぞ」


 サイスロの持つ槍はブルブルと震えている。後ちょっとで仲間を失うところだったのだ。

 怒りのあまり刺し殺すのを、ギリギリで踏み止まっているのだろう。


「ひ、ひいっ!」


 訛りの男は、サイスロの様子に恐怖を感じているが、喋らない。

 他の生き残りどもはチラチラと傷男に視線を送っている。


(そう言えばコイツだけやたら強かったんだよな。もしかしてリーダーなのか?)


 クウスは泥濘んだ地べたに座る傷男の前に立ち話しかける。


「おい、もう仲間はいねえのか?」


「……いねえよ。全部で十九人だ」


 意外と素直に答える傷男。いや、嘘の可能性もあるか。


「本当か?」

「嘘言ってもしょうがねえ。アジトは、俺らの足跡辿れば見つかるだろ。勝手にしろや」


 傷男は諦めてるのか、投げやりな態度だった。

 傷男の言う通り、野盗どもの足跡は森に向かってくっきり残っている。雨上がりに移動すれば当然だ。


「なぜ、痕跡の残りやすい雨上がりに襲撃してきた?」


 カリオッツが傷男に問う。


「……別に。最後の一稼ぎだったから、気にしなかっただけだ」

「やっぱ、チュウさん、やめとけばよかったんだよお。欲を掻くからあ」


 訛り男がチュウと呼ばれた傷男を責める。


「うるせえ、クソ農民がっ! ……あ〜あ、後はこの国から逃げるだけだったのによ」


 どうやら野盗たちは既に仕事をこなした後で、国外に脱出する予定だったらしい。

 最後に欲を掻いて、クウスたちを襲って失敗した。



「んで、どうする? アジトまで行くのか?」


 アジトの場所が分かっても、クウスたちは護衛中だ。馬車を離れていいのか分からず、アントンやソーマたちに聞いてみる。


「アジトまで行った方が良いと思いますよ。野盗の溜め込んだ金品は、基本的に発見者の物にできますから」


 アントンはアジトに行った方がいいと言う。


「あんたの護衛中だが、良いのか?」


 カリオッツが念のため確認をとる。


「ええ。二、三時間でしたら構いませんよ。それに……ポズルさんの、彼の奮闘が目に見える形で報酬になった方が良いでしょう」


 ポズルが重傷を負ったことに、アントンも心を痛めているようだ。襲ってきた連中が悪いとは言え、自分の護衛をしていて犠牲になったのだ。


「アントンさんが良いなら、アジト行ってみるか」


 サイスロが腰を上げる。


「私は残りますね、兄さんとサイスロで行ってきてください」


 アノリはポズルの側を離れる気は無いようだ。

 当のポズルはクウスの魔法と、アノリの魔法で峠は越したが、気絶したままだ。アノリの見立てでは寝ているだけで、そのうち目を覚ますとのこと。

 


「俺も残ろう。野盗の仲間が本当にいないかは分からん」


「私も残るわ。縛ってあるけど見張りも必要よ」


 カリオッツとソーマも残るようだ。


「じゃあ三人で行くか」


 クウス、サイスロ、クワイスの三人がアジトに行くことになった。



 野盗どもの足跡を辿ること、一時間。

 どんな物が有るのか分からないので、アントンから借りた小さな荷車をサイスロが引き、クウスとクワイスも袋を沢山持ってきた。


 先頭で足跡を辿るクワイスが立ち止まり、指を差した。

 指が指し示したのは、洞穴。

 入口の周囲には、獣避けのペパ草が生えている。

 おそらく野盗が植えたのだろう。


「一応、物音は何も聞こえないけど、隠れている可能性もあるから、気をつけてね」


 クワイスは耳が良いが、過信は禁物だ。世の中には気配を完全に消せる凄腕もいるのだとか。


 念のため、クワイスは周囲を見回って入口の安全を確保すると言う。中はクウスとサイスロで調べる。


 警戒しながら洞穴に入ると、入口のそばにランプを二つ見つけた。

 中は暗いのでランプに火を付け、サイスロと一つずつ手に持つ。


 洞穴を進んですぐ、三方向に分かれた分岐に当たる。


「ん〜、俺は左に行ってみる。お宝の匂いがするぜ、へっへっへ」


 サイスロは大して利かない鼻をスンスンとひくつかせ左を指さす。


「じゃあ、オレは右に行くか」


 クウスは右を選び、二人は別れた。


 奥に行くと更に二股の分岐があり、これも右に進む。しばらく行くと、沢山の物が乱雑に置かれている開けた空間に出た。

 この空間、洞窟内にできた部屋には、強奪した金品だろうか、木箱が数箱ありその上にも置物がいくつか、箱の横には大きな袋が積まれている。

 隅にあった籠を覗くと、小さな袋がいくつもあり、その中には銀貨や銅貨が入っていた。


「――ん?」


 次に大きな袋を調べようとしたクウスだが、何かの視線を感じた。

 一瞬アグがついて来たのかと思ったが、馬車の幌の上で寝ていたはずだ。


「あんた、盗賊の仲間?」


 いきなりの誰何に驚き、声の主を探すと……居た。

 木箱の上だ。

 と言っても木箱の上にある小さな置物、その中だ。


 鳥籠のような小さな置物の中には、これまた小さな人間がいた。籠の格子の間から顔を出している。

 十数センチぐらい、クウスが拳を広げればスッポリと覆えるほどに小さい。


「うわー小っちゃいなー。お前、あれか? 小人ってやつか?」

「小人だよ。見れば分かるでしょ。オイラの質問に答えてよ、あんたも盗賊? それともオイラを買いに来たヒト?」


 見た目通り小人らしい。そして、クウスが誰なのか気になっているようだ。


「オレは冒険者だ。さっき野盗を捕まえたんで、アジトを調べに来たんだよ。

 で、お前はこんなとこで何してんだ?」


「それも見れば分かるでしょ! 捕まってるの! って、え? あいつら捕まったの? ほんと?」


 クウスが訳を話すと、小人は野盗が捕まったと聞き、驚く。


「なんだ捕まってるのか。……よっと、これで開くのか? ……ふんっ!」


 クウスは鳥籠の出入り口を開けようとした。

 ところが開け方が分からず仕掛けをガチャガチャと揺らした挙句、力任せにこじ開けた。


「う、嘘……開いた」


 いきなり籠がこじ開けられて驚く小人。

 

「ほれ、出てこいよ」


 クウスが促すが、小人は信じられないという顔でクウスを凝視している。


「な、何で? オイラ小人だよ? ヒトは小人を捕まえたら売って大儲けするんでしょ? あ、何かの罠?」


 どうやら、ヒト種のクウスが助けてくれることが、小人には信じられないことのようだ。


「あほ、人を売っても面白くも何ともねえだろ。それに小人は良い奴らだってじいちゃんに聞いたことあるしな」


 昔、ノーマンから小人の話を聞いた覚えがある。小人には不思議な能力があり、物を長持ちさせることができるらしい。小人の里には何百年も前の骨董品が、新品のように現役で使用されているという。

 ノーマンは冒険者時代に知り合った小人たちに世話になったと、言っていた。


「あんたは……。いや、ありがとう。 よっ、と。うわーオイラ自由だー!」


 小人はクウスに礼を言うと、籠から飛び出る。そして両手を上にあげて歓喜の声を上げた。

 

「あんたも、あんたのじいちゃんもオイラの恩人だよ! 名前はなんて言うの? オイラはコッチャだよ」


「オレはクウスだ」


 ノーマンまで恩人になってしまった、と苦笑する。

 

「お礼はどうしよう? ……あっ! まずオイラの荷物探さなきゃ」


 小人はそう言うと、周りを見渡して置かれている荷物をひっくり返していく。

 驚いたことに、その動くスピードはかなり速く一瞬で数十センチを移動する。さらに身体能力も高いのか、ジャンプをすれば一メートル以上の高さの木箱を乗り降りし、何キロもありそうな大きな袋を押しのけたりする。


(闘気で身体強化でもしてるのか? でもそれじゃあ、なんで鳥籠から出られなかったんだ?)


 不思議に思うクウスを尻目に、小人は幾つかの物を見つけては刺繍の入った小さな袋に入れていく。

 クウスはよく見ていなかったが、中に入れた物の量は、明らかに袋の大きさを超えていた。


「いやあ、オイラの荷物は全部残ってたよ。大事なものもあったから、よかったー」


 袋を一杯にして、さっきまで無かった小人サイズの指輪や首飾りを身に付けている。

 安堵と喜びに満面の笑みを浮かべるコッチャ。そこに。

 


「ぉおーい、クウスー! どこだぁー?」


 遠くからサイスロの声が響いてきた。


 まだ距離は有りそうだが、声を聞いた途端にコッチャの顔が強張る。


「わわ、ど、どうしよ」


「別に大丈夫だろ、サイスロはそんな……」


 コッチャを安心させようとしたが、ついさっき鼻をひくつかせながらお宝を探していたサイスロを思い出し、言葉が止まってしまった。


「クウス、オイラもう行くね。やっぱ他のヒトは怖いや」

「お、おう、そうか。もう捕まるなよ?」

「うん。あっそうだ。お礼にこれ貰ってよ!」


 コッチャは袋から大きな――コッチャのサイズと比べて――腕輪を取り出し、クウスへ渡す。

 渡された腕輪は精巧な模様が彫られ、綺麗な石が幾つか嵌められている。腕輪の内側にまで細かい紋様が描かれている。


「え、いいのかよ? カッコいいなこれ!」


「うん。でも貴重な物だから、人にはあんまり見せびらかさない方がいいよ。でね、その腕輪は――」


「うおーい、クウスー! どこに居んだよお」


 再びサイスロの声が響く。今度はかなり近くから聞こえた。


「ひっ! じゃ、クウス、今度教えに行くから腕輪失くさないでね! ばいばい!」


 話の途中だったが、袋を担いだコッチャは大慌てで走り出した。

 コッチャが指輪を翳すと靄が発生し、コッチャを包み込む。すると、気配が希薄になり、そこに見えているのに存在感が消えていた。

 そのままコッチャは走り出し、丁度部屋に入ってきたサイスロとすれ違いながら部屋を出て行った。


「おい、クウス。返事しろよー。っておい! ここ当たりじゃね? あっすげえ、これお金じゃん」


 どうやらサイスロはコッチャとすれ違ったことに全く気づいていないようだ。

 部屋に置かれた金品に夢中になっている。

 さて、これからこの金品を運ばなければいけない。なかなかの重労働になりそうだ。





――――――――――――――――――――


 びっくりした。

 ヒト種がオイラを助けるなんて。


 他の人種、特にヒト種は、オイラたち小人を人間だと思ってない。

 見つかった小人は、捕まって売り飛ばされる。

 買われた小人は、ペットや奴隷として死ぬまで飼われる。


 そう教えられてきたし、実際に捕まった仲間たちを見てきたし、こないだは遂に自分も捕まった。


 

 でも、クウスは違うみたいだ。


 小人を見下すような視線も向けてこなかったし、腕輪をあげたら喜んでた。

 オイラを助けなきゃ、腕輪だけじゃなく全部手に入ってたのに。


 

 それに、普通じゃなかった。

 

 あの檻を、()()()なんて。

 

 捕まってからの数日間。あの小さな檻から何度も逃げ出そうとした。

 でも、あれは特殊な魔道具だった。衝撃を分散するようになっていて、いくら叩いても魔法を撃ってもびくともしなかった。


 なのに、クウスはこじ開けた。

 ただ力任せに開けたように見えたけど、オイラの目は誤魔化せない。

 クウスが力を入れ檻が衝撃を分散し始めると、彼はそれに合わせるように魔力を送り込んだ。

 今度は魔力を分散しようとした檻にさらに魔力を送り込んだ。

 そして遂に檻の処理能力を超えて破壊したんだ。


 あんなの、普通の人間にはできない。

 オイラの里にも魔法使いは沢山いるけど、クウスと同じことができるやつなんて多分いない。


 一体何者なんだろう。あの銀混じりのヒトは。

 最初にあの部屋の中に入ってきた時、ヒトの形をした恐ろしい存在に見えた。何かを秘めているような、得体のしれなさを感じた。

 だから彼に声を掛けるのはとても勇気がいることだった。


 でも……良いやつだ。

 話してみたら全然怖くなかったし、助けてくれた。


 あーあ、もっと仲良くなりたかったな。


 あ、そうだ。また会いに行こう。

 ヴィンヘルの腕輪のことも教えなきゃ。


 さあ、まずは仲間と合流しよう。


 またね、クウス。

 


 

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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