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閑話 元奴隷闘士

カリオッツ視点の話です。



 俺の名前はカリオッツ。

 生まれは知らない。


 幼い頃の朧げな記憶では、母親はある傭兵の奴隷だった。

 生まれつき両足に呪いが掛かっていた俺に、〈龍脚〉という言葉を教えたのはその傭兵だ。

 理由は分からないが、どうやら〈龍脚〉は死んだ父親からの遺伝で受け継がれた呪いらしい。


 何かに使えるかもと傭兵は俺のことを手元に置いていた。だが、物心がついても呪いに苦しむばかりだった俺に呆れたのだろう。

 俺はついに見限られた。

 

 俺が奴隷として売り払われた先は、イーデンという国にある奴隷商会だった。


 そこには自分と変わらない子どもから大人までたくさんの人間がいた。人種も年齢もバラバラだ。

 そこで十歳まで育てられた。と言っても毎日労働があり、なぜか訓練も受けさせられた。

 訓練が日課に含まれていた理由は、十歳になって知る。

 

 ある日、奴隷商会から俺を含めた二十人ほどが連れ出された。

 着いたのは、とてつもなく巨大な石造りの建造物。

 その大きさにも圧倒されたが、それ以上に建物の中から聞こえてくる異様な大歓声にひどく嫌な予感がした。


 そこは闘技場だった。

 奴隷同士を戦わせ、観客が血に熱狂する、イカれた空間だ。

 俺は両手の拳に(びょう)の付いたグローブを付けられ、闘技場の中央にある円形の舞台に上がらされた。

 逆側の出口から現れたのは、俺とあまり変わらない年頃の少年。彼も同じグローブを付けていて、震えながら構えていた。

 


 俺は勝った。〈龍脚〉というハンデを抱えていたが、訓練を真面目に受けていたからか、相手の攻撃をうまく捌くことができた。

 しかし、相手は鼻や口から血を流し、顔を腫らして倒れ全く動かない。係員に運ばれていく彼が、生きているのかすら分からなかった。

 

 減っている。

 奴隷商会への帰り道、奴隷の人数が行きよりも少なくなっていることに気付いてしまった。

 その日の夜は眠れなかった。

 


 それから、何度も闘技場で戦わされた。

 最初は奴隷拳闘士の部門で、途中からは奴隷()()()の部門でも出場させられるようになる。

 より死の危険が身近になった。


 いつ試合に呼ばれるか分からず、常に緊張を孕みながら、日々の労働や訓練をこなす日々が続く。

 奴隷以外の一般部門では年に数度、大会が開催される。その時期だけは奴隷部門の試合が無いと分かっているので、緊張の糸を緩めることができた。



 そして十五歳になった頃、奴隷剣闘士の大会が開催された。

 優勝者はなんと、奴隷からの解放が約束される。


 普段は嫌々戦わされる奴隷たちも、この大会だけは死に物狂いで、まさに死力を尽くす。

 興行側に踊らされているのは奴隷たちも分かっている。だが奴隷身分からの脱却という絶対的な魅力には抗えないのだ。

 それは当然、俺もだった。


 

 俺は優勝した。

 バトルロイヤルの予選では雑魚が多かったが、そこそこ有名になっていた俺を潰すため結託され厄介だった。

 本戦の相手は海千山千の猛者たちばかり。

 苦境に次ぐ苦境ばかりの大会だったが、それでも優勝できたのは〈龍脚〉のおかげだ。

 幼い頃はその痛みに苦しむだけだったが、痛みに耐えて動き続け、やがてその闘気を操れるようになった。

 〈龍脚〉の力は凄まじく、格上の対戦相手たちに対する切り札となったのだ。



 優勝した俺は、奴隷から解放された。

 解放されたのだが、すぐに困った。戦う以外に能の無かった俺には、街で放り出されても金も無いし稼ぎ方も知らないからだ。

 すると剣闘の興行者から誘われ、一般部門で闘技場に出場することになった。

 一般部門は腕に覚えのある者ばかりで、一戦ごとに怪我を負う。しかし月に一、二回出場すれば剣闘士用の宿で暮らせるので悪くはない。



 そうして闘技場での生活が二年ほど続いた頃、イーデン王国のある組織からスカウトされる。

 俺のいた奴隷商会の主人から、実力があり尚且つ元奴隷なので従順だと聞いたらしい。

 国のため人のためになると言われ、闘技場にも飽きていた俺はその組織に入ることにした。生まれは不明だがガキの頃から暮らすイーデンは母国だから、という意識もあった。

 

 仕事は色々だったが、犯罪者を捕まえたり、情報を集めたりということが多かった。しかし、その内容は必ずしも善とは言えないものがあり、疑問を持つようになる。

 なにせ捕まえる犯罪者は国王と距離を置く貴族たちに関わる人間で、集める情報はその貴族たちの動向だ。

 逆に国王派と呼ばれる、国王に近い貴族たちについては組織はノータッチだった。

 そのうち国内の貴族は二つに割れるのでは、という噂も聞こえていた。

 

 その頃から本を読むようになった。人に言われるまま行動するだけでなく、知識を得て自分で行動を決めたいと思ったから。

 


 一年後、組織を抜けた。少しもめたが一応は円満に退職できたと思っている。


 円満だと思うが、イーデンに留まるのは何となくまずい気がしたので、冒険者になって旅に出た。

 冒険者を選んだのは、調べた限りで一番自由に旅をできそうな職業だったからだ。

 

 旅に出て何をするか、それは龍脚の呪いだ。

 遺伝的な呪いについて調べたところ、呪いの原因である術者や事物を何とかしなければいけないらしい。

 だが、龍脚は術者や事物が存在するのか、まず分からない。

 龍に関するものだとは思うが、龍に呪いを受けたという話は伝説やお伽話でしか残っていなかった。


 それならば龍脚に対してできるのは、呪いの封印だけだ。

 龍脚を封印する方法、または凄腕の封印術師を探す。これが旅の目的である。


 

 イーデンの南西にあるエステマ王国に入り、小さな町で宿をとった。

 この町で俺は不思議な男に出会う。


 最初の第一印象は、野生の獣。

 銀混じりの髪と目をした男で、俺に対して警戒と好奇心に満ちた目を向けてきた。

 腕に覚えのある者へ警戒するのは分かるが、なぜ好奇心を向けてくるのか。しかも雑貨店の店主や店の売り物にもキョロキョロ目移りして落ち着きがない。

 

 魔道書を譲る条件で、町の荒くれ者にお灸をすえることになったのだが、この不思議な男も魔道書を欲していた。

 酒場で乱闘となり、そこで俺は男の力の一端を知る。

 髪と目の半分ほどが銀色に染まり、強大な闘気と魔力を帯びた男は敵を一蹴した。

 

 まるで別人のようになった男を見て興味がわく。

 封印魔術の魔道書、力の解放、見た目の変化。

 このクウスと名乗った男は、俺と同じ呪いか何かを身体に宿していると予想できたからだ。


 魔道書が古代言語で記され読めないと分かった時、所有権は半々にしてウルカまで行くことを提案した。

 魔道書の内容と同じくらい気になるクウスと行動を共にするために。


 クウスは提案を受け入れて、俺と一緒に旅をすることになった。

 一日もすれば、初めて会った時クウスがなぜ好奇心に満ちた目で自分を見てきたのか分かった。

 こいつは田舎の集落から出てきて、常識的なことを知らない。そのため見るもの聞くもの全てが珍しいのだ。

 なんてことはない、奴隷から解放された時の自分と同じだったわけだ。

 違うのは、俺が外の世界に戸惑い闘技場に篭ったのに対し、こいつは外の世界に興味津々で積極的に行動しているところか。



 ツァムルという大きな街に着くと、クウスの冒険者登録を済ませる。その時に緑剛鬼(ヌビエ)の討伐を巡って少し揉めたがすぐに解決した。

 しかし、緑剛鬼(ヌビエ)の皮に価値が有るとは知らなかった。冒険者としての経験が浅く、魔物についてはまだまだ知識不足だ。

 試しに勧められた冒険リーフレットを購入する。思っていたより役立つ情報が載っていて、買って正解だった。

 どこの町でも基本的に冒険リーフレットは売っていて、その土地や町の情報を手っ取り早く入手できるようだ。知識不足が分かっているのだから、これからは積極的に購入しようと思う。


 その日は、夜の店に行った。

 奴隷を解放されてから夜の遊びを覚えたが、金が掛かる。特にタチの悪い店を避けるため、衛生面など見た目から不安を感じる店には入らない分、なおさらだ。

 次の日、クウスに夜中どこへ出掛けたのか聞かれたが、お前にはまだ早い、とだけ言っておいた。

 こいつはまだ純粋そうだから、何となく俺からは教えたくない。



 赤目狼(ヂリガン)の群れを討伐した帰り、野営をした際にクウスの“力”についてある程度知ることができた。

 

 やはりクウスには封印が掛かっているらしい。そして、自分の意思で一時的に封印を解放でき、解放すると見た目が変わり強化されるようだ。〈魔人化〉と呼んでいた。

 ソーマは《擬進化の封印》という魔術と似て非なるクウスの力に驚いていた。

 

 以前も言っていたが、クウスは俺とは逆に封印を解く方法を探しているらしい。素の状態で強くなり、封印された力を使いこなすのだと。

 

 ……確かに俺の〈龍脚〉も幼い頃と違い、闘技場で闘っているうちに、少しずつ戦闘で使えるようになってきた。

 

 “位階(いかい)”が関係しているのだろうか?

 生物は何かしらの経験を積むことで位階が上がるという。位階が上がるとは、生物としての格が上がるということだ。俺も今までに、身体能力や闘気量が急に向上したように感じたことが何度かある。


 経験といっても様々で、人間で言えば職業や生活環境によって積める経験は異なる。

 以前読んだ本には、戦闘の経験、特に命に関わるような戦いをすると位階が上がりやすいと書かれていた。

 

 位階が上がり、生物として格が上がり、身体能力も上がる。

 その結果、俺とクウスは“その身に余る力”を扱えるようになってきている?

 ……あり得る話だ。


 俺自身とクウスという、二つの例が身近にあるのだ。しばらくは観察を続けてみようと思う。

 

 クウス(こいつ)に付き合って行動すれば、退屈もしなさそうだしな。


 



 十九歳となる少し前の、クウスとの出会い。

 この頃の俺はどこか楽観的だった。

 こいつとの旅が行く先々で事件を起こすことを知らなかったのだ。


 

 後に、俺とクウスの名はイーデンの王国史に残されることになる。

 

 

 

 

 

 

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