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武具屋エルシーサー


 翌日、昼前にツァムルへ戻ってきた。


 門を潜り、まずは冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドは昼前で閑散としていて、受付もガラガラだった。


 クウス達はモミジ村の村長のサインが入った受注書を受付嬢に渡し、依頼を達成したこと、そしてタカスの死亡を報告した。


「……そうですか。大変でしたね。

 タカスさんの冒険者証は持ち帰ってますか? 回収させて頂きたいのですが」

「あるわ。これよ」

「はい、有り難うございます」


 ソーマからタカスのギルドカードを受け取った受付嬢は、カードを持って奥に消え、一分ほどで戻ってくると小さな箱を抱えていた。

 カウンターの上に置かれた箱のフタ部分には小さな魔法陣が描かれている。

 受付嬢が箱のフタを開くと、中にはギルドカードがすっぽり嵌りそうな溝があった。フタ側には小さな突起がいくつか付いている。


「それ、――あっ」


 謎の箱を何に使うのかクウスが聞く前に、受付嬢はタカスのカードを箱の溝にセットし、蓋を閉じてしまった。

 そして、魔法陣に手を乗せると魔法陣が一瞬光り、同時に箱の中でガシャンッと大きな音が鳴った。


「うおっ?」


 音に思わず声が出たクウスに、受付嬢が微笑む。


「こちらは、使われなくなった冒険者証が悪用されるのを防ぐため、失効処理をする魔道具です」


 そう言った受付嬢が箱を開くと、中に入っていたカードに小さな穴がいくつか空いていた。


「このカードは、これで使用不可となりました。ご遺族の方が希望した場合のみ、持ち帰ることもできますが?」


「いえ、彼の家族は遠くの町だし、遺品は別に有るから大丈夫よ」


「かしこまりました。ではギルドで回収いたします」


 受付嬢はカードをカウンターの下にしまった。



 報告が終わって、素材の買取をしてもらい依頼報酬と合わせて受け取る。


 依頼報酬:銀貨4枚。

 赤目狼(ヂリガン)の魔石、十九個:銀貨3枚、大銅貨8枚

 赤目狼(ヂリガン)の毛皮、十九枚:銀貨5枚、大銅貨7枚

 赤目狼(ヂリガン)(幼体)の魔石、二個:大銅貨2枚

 赤目狼(ヂリガン)(幼体)の毛皮、二枚:大銅貨3枚

 鬣赤目狼(メーン・ヂリガン)の魔石:銀貨1枚

 鬣赤目狼(メーン・ヂリガン)の毛皮:銀貨1枚

 合計:16万リーセ 銀貨16枚



 報酬の銀貨16枚は四等分して、タカスの分を合わせた8枚をソーマに渡した。


「いいの? タカスがいないから三等分でもいいわよ?」

「いや受け取っておけって。お前、何日か休んだ方がいいと思うし……宿代に使えよ」


 ソーマはタカスが死んでからずっと平静を装っている。しかし、精神的な疲れであろう憔悴した顔は、隠せていなかった。


「っ!……そう、ね。……うん、そうするわ。ありがとう」

 

 疲れた顔をしていることに自分では気づいていなかったのだろう。

 クウスの言葉にソーマは一瞬、声を詰まらせた後、クウスたちに礼を言って宿へ帰って行った。


 

「あいつ、大丈夫かな?」

「仲間が死ぬのは堪えるからな。休息と時間が必要だ。……俺たちも宿に行くぞ」


 カリオッツは宿の方へ歩き出す。

 

 今のカリオッツの話し振りから、彼も同じような経験が有るのかもしれないと、クウスは感じた。だが、それを聞き出そうとは思わず、カリオッツを追いかけるのだった。





 次の日から四日間、クウスとカリオッツは討伐依頼を繰り返した。

 依頼は屍肉蟻(ハイエナアリ)の駆除。

 体長一メートル以下の魔虫で、かつて存在したハイエナという動物のように獲物を横取りしたり、屍肉を漁る魔物だ。世界中に広く分布しているらしい。

 当然、ツァムルの近郊にも生息している。


 先日、その屍肉蟻(ハイエナアリ)の大規模な群れがツァムルそばの森で確認された。

 ランク1の魔物で弱いがとてもしつこい。さらに集団で行動する魔物なので、街道の安全を確保するためにギルドから討伐依頼が出された。

 クウスたちもこの討伐依頼を受けて、四日間、屍肉蟻(ハイエナアリ)を狩り続けている。


 その数、なんと。二人で百八十匹。

 だが、報酬と買取を合わせた代金はわずか銀貨5枚に大銅貨4枚だった。


 それというのも、この屍肉蟻(ハイエナアリ)、魔石以外の部位は価値が無い。

 しかも極小サイズの魔石なので、買取代金は銅貨1枚。

 ちなみに屍肉中心の食生活のせいか、解体するとかなり臭いというオマケ付きだ。

 ギルドからの討伐報酬は一匹につき銅貨2枚。

 臭い思いをして討伐しても、一匹あたり銅貨3枚にしかならない。


 そんな依頼を受ける奴いるのかと思うだろう。これが意外といるのだ。

 クウスの場合は札級で討伐依頼は選り好みできないのだが、銅級冒険者でもこの依頼を受ける者は多い。

 理由は簡単だ。鬱陶しい屍肉蟻(ハイエナアリ)の大群が森に居座ると、他の動物や魔物はやつらを避けて縄張りを変えてしまうからである。


 冒険者たちは森に入り魔物を狩って日銭を稼ぐ者が多い。そのため屍肉蟻(ハイエナアリ)の数を減らさないと、他の魔物が森から居なくなり収入源が無くなるのだ。

 そんな訳で、ここ数日の間、ツァムルの冒険者たちはこぞって屍肉蟻(ハイエナアリ)を狩りまくっている。そして、どいつもこいつも蟻の体液塗れになっていて臭い。

 夕方になると腐敗臭を放ちながら行列を作る冒険者たち。それをさばくギルドの受付嬢たちは目が死んでいた。当然、鼻も死んでいただろう。


 宿屋の者に嫌がられるので、クウスたちは川で水浴びをしてから街に戻っている。疲れて宿に戻りメシを食べると、すぐ眠気に襲われてぐっすり寝てしまう。

 一度、夜中にカリオッツがまたどこかへ出掛けていたみたいだ。酒でも飲みに行ったのだろうか。疲れてないのかとクウスは不思議に思う。

 


 依頼報酬を受け取りギルドから出たクウスたちは、いつもの宿へ向かう道ではなく、別の道を進んでいく。


 五分ほど歩いて一軒の店の前で止まる。

 看板には剣と盾のマーク、そして「中古武具 エルシーサー」と書かれている。


「おお、ここが武具屋か」

「ああ、中古だがな」

「中古でも良いものがあるのか?」

「冒険リーフレットのお勧め店だから、有るんじゃないか?」


 まあ中に入れば分かるだろうと、扉を開け店へ入る。


 武具屋なので当たり前だが、店の中は見渡す限り剣や槍、盾や鎧、武器と防具であふれていた。

 壁にかけられ、棚に置かれ、籠に突っ込まれ、雑然としている。


 奥のカウンターには店員だろう中年の男が座っており、クウスたちに気付くと声を掛ける。


「いらっしゃい。何か探しものか?」

「ああ。革鎧が壊れたんで、買い替えようと思って」


 クウスが、装着している胴当ての肩部分を指さす。

 肩の繋ぎ目は完全に千切れていた。胴当てが外れはしないが、着け心地は悪い。

 それ見た店員は、うんうんと頷く。


「お〜そりゃあダメだなぁ。肩のとこ修理しても、胴当て自体ボロボロ、だいぶガタがきてる。買い替えだな、予算は?」


「20――」

「クウス、10万リーセは残しておけ。他のことで必要になるかもしれん」


 クウスの財布には、大銀貨1枚の他に銀貨が10枚以上入っている。クウスは大半を使ってカッコいい胴当てを買うつもりだったが、即座にカリオッツから待ったが掛かった。


「え〜、じゃあ、銀貨10枚。10万リーセだ」


 クウスが渋々、予算を決めると店員の男は眉を少し顰める。


「銀貨10枚じゃちょっと少ねえなぁ。そっちの奥、赤棚コーナーならあるかもしれんが、まあ探してみな」


 店員は店内で特に乱雑に物が置かれている赤い棚のコーナーを指差した。

 赤棚に置いてあるのは、錆びた剣、歯形の付いた手甲、変色したカビ臭いマントなど状態の悪そうな物ばかりだ。

 かなり汚いというか、臭いもする。


 赤棚コーナーに行きたくないなと思ったクウスは、他の棚に飾ってある胴当てを見る。しかし大銀貨2枚以上する物ばかりだった。

 一つだけ黒の中に銀色の筋が入った胴当てが15万リーセだったが。


「あっ、その胴当てなら10万にしてやってもいいぞ?」

 

 黒い胴当てを見ていると、店員が少しニヤつきながら値下げできると言う。


「やめとけ、それは黒銀(こくぎん)……の紛い物だろう」


 カリオッツが店員を少し睨む。


「へへ、冗談だよ。まあ一応、表面は本物の黒銀だぜ? 薄すぎて強度は無いけどな」


 店員は黒い胴当てをコンコン叩きながら笑う。


「黒銀って何だよ?」


 クウスが聞くと、店員が少し真面目な顔をする。


「黒銀ってのはな、黒艶って鉱物と銀が混ざり合ってできた希少で高値の付く金属だ。鉄や鋼よりも遥かに硬く耐久性も高い。

 見る角度によって、真っ黒に見えたり輝く銀に見えたりする。しかも銀の混ざり方や純度によっても見た目が違う。

 そのせいで昔から偽物がとにかく多い。なんせ素人じゃどれが本物か見分けつかねえからな」


 店員は黒い胴当てを角度を変えてクウスに見せる。確かに、銀の筋が入っているのに角度によって黒っぽく見える。


「覚えときな。『黒銀と聞けば、まず疑え』。これは有名な格言さ。希少で有用な金属なのに今じゃ、本物か偽物か分からない時に使われる言葉になっちまった」


 真贋の怪しい物、うさんくさい人物。そういう事物に対して、まるで黒銀のような人、黒銀じみた品物と言うことがあるそうだ。


「ふーん」


 見た目はすごいカッコいいのになあ、と思いながら黒い胴当てを見る。しかし、表面以外は粗悪な造りでただの張りぼてらしいので棚に戻す。

 


 結局、予算を考えて、しょうがなく奥にある赤い棚のコーナーへと足を踏み入れた。


「うわー、きったねえな。これとかオレの壊れた胴当てよりひどいぞ」


 クウスが手に持っている胴当てにはお腹の辺りに大きな穴が空いていた。前の持ち主……のことは考えないようにして、棚を漁っていく。


「む、いい剣だ。……いや、刃が欠けてるな」


 カリオッツが手にした剣は鞘に収まっている状態では気品を感じたが鞘から抜いた剣身は、ところどころ欠けていた。思いっきり振ったら剣が折れそうで、命を預けるのは無理だろう。


 しばらく漁っていると、随分と汚れた胴当てをクウスは見つけた。


「ん〜? 汚ねえけど状態良さそうだなぁ。おーい、おっさん」


 見つけた胴当ては値札が無かったので、先ほどの中年店員を呼ぶ。


「あいよ。なんか良いのあったかい?」

「この胴当てなんだけど、これ幾ら?」


 汚れた胴当てをクウスから受け取った店員は、胴当ての感触を確かめるように触り、すぐにクウスに返す。


「これは、銀貨9枚だ。熊喰猫(シャザンテ)の皮から作られたレザーアーマーの胴当て部分だな。」


 熊喰猫(シャザンテ)は猫っぽい魔獣で、大きな体躯としなやかな動きで、中々強い。熊を喰い殺す森の捕食者だ。


熊喰猫(シャザンテ)か。防御力はイマイチだな。うーん、もうちょっと安くしてくれよ?」


 クウスは集落の森で熊喰猫シャザンテを狩ったことがあるので、皮の強度は大したことがないと知っている。

 鎧に加工しても強度はそこまで高くないだろう。

 

「強度はレザーアーマーとしては普通だが、柔軟性には優れた物だぜ? ……まあ、腐具コーナーだしいいか。銀貨7枚にしよう」


「お、買った! 7枚なら買うぞ。ありがと、おっさん」


「毎度あり。あっ、その壊れた方の胴当てはどうする? 使えそうな部分あるから銅貨5枚でなら買い取るぞ」


 完全に使えない胴当てでも、端材にして再利用するようだ。


「じゃあ買い取りで」

「分かった。ん? お前さんが付けてる指輪、魔道具かい?」

 

 クウスが壊れた胴当てを店員に渡した際、指に付けていた白い石の嵌まった指輪に店員が反応した。


「いや、ただの古い指輪だぜ?」


 この指輪は十五歳になった時、モリー婆から渡された指輪だ。何でもあの集落で育った人間だけに伝わる伝統の指輪だとか。

 白い石が嵌められ九つの植物の模様が側面に彫られたカッコいいデザインだ。

 荷物入れに入れっぱなしで忘れていたが、今日は久々に付けていた。


「ふーん。なんか複雑な紋様入ってるし、作りも悪くねえから結構な逸品かと思ったぜ」


 クウスの返答に興味を無くした店員は、壊れた胴当てをカウンターの上に置いた。

 

「何の効果も無い指輪だよ。ところでフグコーナーって何だ?」


 さっき店員が口にした言葉の意味を聞く。


「ああ、あの赤棚のコーナーのことさ。状態の悪い品、見た目の悪い品を置いてて臭いだろ? 店の創業者が昔、客から『武具じゃなくて腐具だ』って言われたらしくてな。それから腐具コーナーってあだ名がついたんだよ」

「っぶ、ぎゃはははっ! 腐具コーナーか。ピッタリなあだ名だわ」


 確かにあのコーナーだけ異様で、何となくジメッとしている。


 壊れた胴当てを引き取ってもらい、店員から銅貨5枚を貰う。

 クウスは銀貨7枚を払い、新しい――中古だが――胴当てを脇に抱えて店を出た。


 

 店を出て、宿に向かっていると前から知り合いが歩いてきたことに気付く。


「おい、ソーマっ」

「あっ、クウス。カリオッツも。よかった、探してたのよ」


 歩いて来たのはソーマだった。

 とんがり帽子を被っていなかったので近くに来るまで気付かなかった。

 モミジ村から帰ってから四日間、ギルドでも一度として見かけなかったのでクウスは少し心配していたのだ。

 四日ぶりに見るソーマは憔悴した感じこそ無くなったが、まだ元気には見えない。


「探してたって?」


 何やら自分たちを探していたらしい。この前の依頼は完了しているが、何か忘れていただろうか。


「ええ。あの、よかったらウルカまで一緒に行かない? あなた達もウルカに行くって言ってたでしょ?」


「ああ、別にいいけど」


「本当? ありがとう」


 クウスが承諾すると、安堵したのか笑顔を見せる。


「パーティーを組むということか?」


 カリオッツが確認をする。


「ええ。一人で旅するのは大変だから、あなた達と組めれば助かるわ。じゃあウルカに行くのはいいとして、クウスはもう銅級に上がったの?」


「まだだよ。あと一件こなせば上がれる。よな?」


 ちょっと不安になりカリオッツに確認する。


「今日の時点で依頼を九件達成している。明日で終わるだろう」


「そうなのね。じゃあ明日は私も一緒に依頼受けるわ。四日も引きこもってたから、体を動かさないと」


 やはり、ソーマは宿から出ていなかったらしい。


「よしっ、じゃあ明日は一の鐘が鳴ったらギルドに集合な」

「わかったわ、じゃあまた明日ね」


 ソーマが踵を返し歩き出したところで、クウスはもう一度、声を掛けた。

 


「おい、ソーマ。明日からはオレたちが仲間だからな!」


 クウスの言葉にソーマは振り向いた。

 その表情は少し驚いた様子で、しかし、すぐに笑顔を溢した。


「うん」


 短く返答をした唇はほころび、夕焼けに照らされた髪が靡いている。

 銀混じりの青年を映し込む青い瞳は、光が灯ったように見えた。

 ソーマの姿が何だかとても綺麗で、クウスは目が離せなくなった。



「明日からよろしくね」


 ソーマはまた向き直り雑踏の中に歩いて行った。



「クウス? 俺たちも宿に帰るぞ」


 ぼうっとしていたクウスは、カリオッツの声で意識を取り戻した。


「お、おう、帰ろう。腹減ったぜ」


 すぐに歩き出す。


 何だかやけに夕日が熱く感じるクウスだった。

 


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