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銀閃


「ひぃっ! セ、大魔鳥(セリパーグ)だ!」

「おう、何でこんなのが出て来やがる! くそっ!」


 バンダナ男達が喚いている。見た目だけで分かるが、やはり強い魔物らしい。クウスは剣鉈を握り、大魔鳥(セリパーグ)に斬りかかろうとするが。


「グエェ!」


 大魔鳥(セリパーグ)は上空に舞い上がる。


「ちっ! 降りて来やがれ!」


 クウスが叫ぶと、旋回した大魔鳥(セリパーグ)は再び降下する。

 ただし、クウスにではなく、その場から逃げようとしていた四人組へと。


「ぎ、ぎゃあああっ!!」


 一気に急降下した大魔鳥(セリパーグ)は四人組に突っ込み、通り過ぎざまにヒゲモジャの男を爪で捕まえ飛び上がった。


「ああっ、アジョムが!」

「や、やべえぞ、おう!」

「返しやがれぇ! アジョム!」


 残された三人組が叫ぶ。だが。


 大魔鳥(セリパーグ)は上空でその爪を開き、ヒゲモジャ男を放り投げた。


「ああああああああぁぁぁああぉぁあ…………っ………… 」


 ヒゲモジャ男は、何かが潰れたような音を立てて、落ちてきた。

 二十メートルは有ったであろう高さから落ちた彼は即死だった。


「あああっ‼︎ アジョムぅ!」

「……も、もうダメだ。終わりだ〜」

「くそがっ! おう! 鳥公、かかって来やがれぇ!」


 三人組はもう限界そうだ。一人は仲間の死体を見て泣き叫び、もう一人は頭を抱えて座り込んでいる。バンダナ男だけは泣きながら怒り狂っているが、ヤケクソにしか見えない。


「おい! お前ら、さっさと逃げろ!」


 ()()で戦いたいクウスは、三人組に声を掛ける。


「は、ははっ。今の見てなかったのか? 大魔鳥(セリパーグ)から逃げられるかよ」


 座り込んだ男が、半笑いで諦めを口にする。


「足止めは俺達がやろう。死にたくなければ全力で街まで走れ」


 カリオッツが何でもないことのように言う。

 言われた男は何言ってるんだこいつ、と唖然としていたが、バンダナ男ヒッポの判断は早かった。


「おう、お前ら立て! 逃げるぞ!」

「で、でもよ。あのガキどもだけじゃ」

「うるせえ! 自分たちから大魔鳥(セリパーグ)の足止めを買って出るやつなんか普通はいねえ! 生き残るチャンスだぞ? おう!」

「わ、わ分かったよ」


 他の二人も立ち上がり、三人組は逃げることを決めたようだ。

 

(カリオッツの喋り方って冷静ってか、余裕な感じ

がするから、信じられやすいのか?)


 そんなことを考えながら、クウスは持っていたマンダラの実を掲げるように持ち上げた。


「おらー! 鳥! 早く降りてこねえとこの実、食っちまうぞぉ!」


 大魔鳥(セリパーグ)を挑発。

 だが、効果はあったようだ。


 旋回していた大魔鳥(セリパーグ)はクウスへ急降下し、爪を向ける。


 横に跳んで何とか躱す。

 躱され再び飛び上がった大魔鳥(セリパーグ)はすぐに降りてくる。完全にクウスを狙い始めた。


「よし。今だ、行け! 走れ!」


 カリオッツの合図で、ヒッポたち三人組が街へ向けて走り出す。

 すると、縮こまっていた豚怪人(オーク)の群れもバラバラに逃げ出した。

 人間に便乗して逃げるとは、まさになりふり構わない魔物たちだった。



「うおっ! ……よっっと! ……あぶねっ!」


 大魔鳥(セリパーグ)の降下攻撃を躱すこと数分、さすがに三人組もかなり離れたに違いない。


 再び襲ってきた大魔鳥(セリパーグ)をすれ違い様に斬りつける。


「ケェェエー!」


 胴体を掠めた斬撃は、出血させた。初めてのダメージに驚いた大魔鳥(セリパーグ)は、上昇し空で旋回する。クウスを警戒しているのだろう。


「けっ、ようやく時間ができたぜ。カリオッツ、邪魔すんなよ? あの鳥は俺がぶっ飛ばすからな」


「ああ、任せる。マンダラの実を貸せ、持っててやる」


「おお、頼む」


 カリオッツにマンダラの実を投げ渡し、上空の大魔鳥(セリパーグ)を見上げる。


「さあ、覚悟しろよ、デカ鳥」


 クウスは胸に左の掌を当て、唱える。


「我クウス 一時の解放を差し許す 《解封(アンシール)》 《真抗門(しんこうもん)》」


 黒に僅かに混じっていた銀が、侵食するように広がっていく。

 半分ほどが銀色に輝き、黒との調和を取る。


「ほう、すごいな」


 クウスの髪と目の色が変化すると、カリオッツはその気配の変化に気付く。


 〈龍脚〉ほどではないが、クウスの闘気は膨れ上がる。豚怪人(オーク)など素手で容易に撲殺できてしまいそうなレベルだ。

 そして、魔力。

 マンダラの実が放つものとは比較にならない濃密な魔力が、クウスから湧き上がっている。


 クウスは久々の魔人化に気分が高揚していた。

 数日前、フチの酒場でガノと戦った時にも魔人化はしたが、あの時はまだ魔力は抑えていた。ガノを死なせるつもりは無かったからだ。

 だが、魔物が相手なら別である。



「来やがれ、デカ鳥!!」


 クウスの魔人化が終わると同時に、降下を始めていた大魔鳥(セリパーグ)

 そのクウスの魔力が変化したことに気付きはしたが、空を飛ぶ自らの優位を疑わず、爪を繰り出す。


「グエェェエエッ!」


「おおぉぉっ!」


 大魔鳥(セリパーグ)が数メートルの距離まで近づいてきた瞬間、クウスは根源魔法を発動。魔力を火に変化させる。


 突如、火が現れ大魔鳥(セリパーグ)は急制動を掛けたが、間に合わず火に飲まれる。


「ギュエエェェッ!」


 大魔鳥(セリパーグ)はもがき、再び空へ逃げようとした。


「逃がすかよっ!」


 クウスが火の中から現れ、大魔鳥(セリパーグ)の足を斬り裂く。

 羽を狙った斬撃だったが、飛ぼうとして羽を動かされたため、足を斬ってしまった。


「グエェッ、ゲェェエエッ!!」


 足に深傷を負った大魔鳥(セリパーグ)だが、火から脱出し、空に逃れることに成功した。


 この時、大魔鳥(セリパーグ)にはそのまま逃亡するという選択肢が有った。

 火を操り鋭い剣を振る人間は、獲物ではなく、強敵だったのだ。

 不確定要素のある敵。生存のためには避けるべき相手。

 

 だが、この大魔鳥(セリパーグ)は逃げなかった。

 ツァムル近郊の森で敵無しだったこの魔物に、プライドが有ったのかは分からない。

 選んだのは戦い。

 逃亡による生存よりも、闘争による生存、そして勝利を望んだ。



 旋回をやめた大魔鳥(セリパーグ)は落ちる。

 

 落ちるような急降下、からの嘴による突撃。

 

 自らの最高速度の攻撃でクウスに襲いかかった。


「グエェェエエッッッ!!」


「火よ 燃え盛りし火球となりて 我が敵を討て 《火弾(ヤー・ボウ)》」


 先ほど生み出した火を手に集め、さらに火属性魔法の詠唱を唱えたクウス。

 通常の火弾(ヤー・ボウ)よりも威力が高くなっている。


 放たれた火球は急降下する大魔鳥(セリパーグ)に着弾。


 炎に包まれた大魔鳥(セリパーグ)だったが、一瞬で火を突き破る。


 降下による凄まじい速度は、火を置き去りにした。


 大魔鳥(セリパーグ)は自らの勝ちを確信した。


 やはり、この森の王者は己であると。

 

 さあ、止めを刺そう。


 炎を越えて見えた人間は、腰の鞘に収まる剣を右手で掴んでいる。

 

 半身を大きく捻った構えをしていて、顔が見えない。


 剣を抜くのか、半身を回転させ始める人間。


 その顔がこちらを向く。


 自らの魔法を破られた人間の、絶望しているだろう顔を、大魔鳥(セリパーグ)は見た。

 


 人間は、笑っていた。


 猛獣のように歯を剥き出しにして。



「―― 〈銀閃(ぎんせん)〉!」


 銀色の帯。


 銀混じりの毛を持つ人間が振った剣は、一筋の閃光の様だった。


 最後に大魔鳥(セリパーグ)の目に写った銀の閃光は、頭部から胴体までを大きく斬り裂いた。


 


「ふぅーっ、疲れたあ!」


 魔人化を解除し、再び封印状態に戻ったクウス。

 身体は大量の汗をかき、黒髪は濡れ額に張り付き、顔にははっきりと疲労が浮かんでいた。


「見事な一撃だったな」


 後ろからカリオッツが声を掛けてきた。


「おう、とっておきの剣だぜ。消耗が激しいけどな」


 クウスが放った技は、銀閃。

 集落の鍛冶師から教わった、闘気を使った高速の斬撃だ。


 闘気を身体に纏う、特に剣を振る際に使う関節部に集中させて、速度に特化した一撃を放つのだ。

 

 闘気の消費は激しいが、その分、速度は凄まじい。

 クウスの場合、魔人化をして闘気を増やさないと使用は厳しい。


 この技を初めて成功させた時、高速で移動したクウスの、髪と目の銀色が輝き、銀色の閃光のように見えたため、鍛冶師が〈銀閃〉と名付けた。

 

 

「それにしても、魔法まで使えるとは思わなかったぞ」


「あ〜言ったことなかったか? まあ少しは使えるぜ」


 本当はかなり使えるが、あまり言わないでおこう。

 下手に話すと、ボロが出そうで不安なクウスだった。

 根源魔法で火を出しているが、カリオッツはそれに関して何も言ってこない。

 こいつは封印魔術を調べてるけど、魔法自体には詳しくないのかもしれないと、クウスは思った。



「さあ、日が暮れる前にこいつらを運ぶぞ」


「疲労が激しいんだが?」


「捨ててくか? 大魔鳥(セリパーグ)はいい稼ぎになると思うが」


「あ、このデカ鳥、証明部位だけ持ってけば良いんじゃねえか?」


「残念だが、大魔鳥(セリパーグ)はリーフレットに載ってないから、分からん。緑剛鬼(ヌビエ)の時の様に失敗したくなければ、丸ごと持ってくしかない」


「げえ、まじかよ……」


 クウスは倒れ伏した大魔鳥(セリパーグ)を見る。

 デカい。何百キロもありそうに見える。


 クウスは大きな大きな、ため息をついた。

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