セリパーグ討伐後
「ぬぐ、ぐ、ぉぉお、重い。お、重す、ぅぎぃぃ!」
ツァムルの街門を越え歩くクウス達。
その歩みは遅い。
昨日も重かったが、今日は比にならない重さだ。
カリオッツも中々キツそうに顔を顰めて歩いてるが、彼が運んでいるのはマンダラの実など採集した素材を入れた袋と、人間だ。
人間は、大魔鳥に殺されたヒゲモジャ男だ。死体をそのままにするか迷ったが、仲間のバンダナ男たちが泣き叫んでいたのを思い出し、運ぶことにしたのだ。
クウスにとってはムカつく連中だが、さすがに少し哀れだったから。
木の枝を組み合わせロープで縛った即席のソリを作り、その上に遺体を乗せている。
余談だが、落ちているギルドカードや、死亡した冒険者のギルドカードを見つけた場合、ギルドに届けるよう推奨されている。
本人が生きていれば謝礼が貰え、死んでいてもギルドから評価されるらしい。
そんなわけで、クウスが担いでいるのは当然、大魔鳥だ。
巨体を丸々一羽、担いでいるが、半分引きずっているような状態だ。もう一つソリを作れれば良かったが、そうすると日が暮れるまでに街へ戻れそうになかった。
血抜きはしたがやはり重く、相当キツい。
クウスは途中で魔人化するか迷ったほどだ。長時間の解封は力の制御が難しくなるので断念したが。
集落にいた頃は、愛犬のロクが重い獲物を運んでくれていた。率先して獲物を運ぶロクに、助けられていたのだと、クウスは今になって気付き感謝する。
愛犬を懐かしみ、肩にかかる重量から現実逃避していると、ようやく冒険者ギルドが見えてきた。
「何だありゃ。大物だな」
「すげえ」
「お、おい。あいつら担いでるの大魔鳥じゃねえか?」
ギルドの近くにいた冒険者たちが騒ぎ出す。
クウス達が素材受付の前に着いた時、ギルドの入口から数人の男たちが出てきた。
「あっ! お前ら! 生きてたのか、おう!」
先頭にいたバンダナ男、ヒッポがクウスを見て驚く。
「ん? ヒッポ。彼らが、さっき言ってた二人組なのか?」
ヒッポの後ろにいたベテランっぽい連中から、筋骨隆々のハゲ頭が出てくる。ハゲ男は歴戦の猛者と言った風貌で、顔には傷跡がいくつも残っている。
「お、おう。こいつらだ」
「ふむ、背負ってるのは大魔鳥じゃないか。討伐できたのか? 君らを助けに向かうとこだったんだが」
ハゲ男は一瞬驚いた後、安心したように表情を緩ませた。
どうやら、このベテランっぽい連中は、クウス達を救援しに出るところだったようだ。
ヒッポがギルドに報告したのだろう。
「ああ、大魔鳥は何とか討伐した。それと、遺体を運んできた。埋葬してやれ」
カリオッツが運んでいたソリと遺体を指差す。
「ア、アジョム!」
「おう! お前、アジョムを運んでくれたのか! ……すまねえ、すまねえ!」
ヒッポと二人の仲間が、遺体のそばに駆け寄り布を掛ける。ヒッポは、クウスとカリオッツに頭を下げた。
気づけば周りには冒険者や住民がたくさん集まっていた。遺体に布を掛けたのは、野次馬に配慮したのかもしれない。
「遺体の回収もしたのか。大したもんだ。……だが、何で丸ごと持ってきたんだ?」
ハゲ男が丸々一羽担いでいたクウスに疑問を呈す。
「え? どこが金になるか分かんねえから、運んできた、んだ、けど」
ハゲ男の言い方に、嫌な予感がするクウス。
「ん〜、大魔鳥は魔石、嘴、爪、羽はそこそこの値で買取されるんだが。……肉はあまり美味しくなくてなぁ。一羽丸ごとでも銀貨1枚にならん。だから、普通は肉を捨ててくもんだ」
つまり、重さの大半を占めていたのは肉だから、労力に見合わないことをしていたらしい。
がっくりと肩を落としたクウス。
「あ、いや、まあ丸ごと運んだお陰で、取りこぼしは無いんだから良かったと思うぞ? 凄い怪力だな、わはは」
クウスのガッカリした表情を見たハゲ男は、慌てて慰めの言葉を掛けながら、クウスの肩を叩く。
このハゲ頭も中々の怪力だ、肩痛いんだけど。
クウス達がそんな会話をしているのを、取り囲む野次馬たち。
その中に、クウスとカリオッツのことをジッと見つめる、とんがり帽子をかぶる人物がいた。
買取の結果はこんな感じになった。
クペン草、二束:銅貨2枚
オモ茸、一本:銅貨1枚
マンダラの実:銀貨7枚
豚怪人の魔石、六個:銀貨1枚と大銅貨2枚
大魔鳥の魔石:銀貨3枚
大魔鳥の嘴:銀貨2枚
大魔鳥の爪:銀貨3枚
大魔鳥の羽:銀貨5枚
大魔鳥の肉:大銅貨4枚
合計:21万6300リーセ 大銀貨2枚、銀貨1枚、大銅貨6枚、銅貨3枚
コムラ草は八本で一束分に足らず、買取に出していない。
豚怪人は身体の脂も金になるが、死体を運ぶ必要があり、買取額も大銅貨1枚と激安な為、置いてきた。
分け前は等分で、一人10万8000リーセ。余りの銅貨3枚は、昼にロイホ棒を貰っていたので、カリオッツにあげた。
大魔鳥を討伐してから二日が経った。
二日間の間に受けた依頼は、豚怪人の討伐依頼。最近、森の浅いところに現れるので間引きが必要とギルドが判断した。討伐報酬は一匹につき大銅貨1枚、素材の買取は別だ。
結果は初日は六匹、二日目は二匹だった。
他の冒険者たちも一斉に豚怪人狩りをしているので、二日目で早くも豚怪人が姿を消してしまった。
明日からは豚怪人の討伐依頼は取り下げられそうだ。
街としてはその方が安心で良いことだが、札級で受けられる討伐依頼が少ないクウスとしては少し困る。
夕方に買取を済ませてから、掲示板の依頼書を眺め、明日はどうするかを考える。
稼ぐのは難しいけど薬草採集が無難かと思案していた時、声を掛けられた。
「ねえ、あなたたち。よかったら一緒に討伐依頼、受けない?」
振り向くと、鍔の広いとんがり帽子を被った少女が、青い瞳でクウスを見つめていた。手には杖を持っている。
「……討伐はいいけど、何でオレたちに?」
少し気の強そうな目をした少女に、クウスは疑問をぶつける。
見た目で言えば、クウスは身長は平均的でガタイもムキムキな訳ではない。強そうな見た目をした冒険者が幾らでもいるのに、若く経験の浅そうなクウスになぜ、声を掛けるのか。
「何でって、実力が有るからよ。あなたたち大魔鳥を討伐したんでしょ? この前、ギルドに運んでたのを見たわ」
どうやらクウスたちが大魔鳥を討伐したことを知っているみたいだ。
「それにその時に、絡んできた冒険者の遺体を運んで帰ってきたとも聞いたわ。だから性格も悪くなさそうだと思ってね」
「あれはただの気まぐれだぞ?」
本当にただの気まぐれだ。それだけで判断されても微妙なのだが。
「それで、何の討伐依頼だ? 内容を聞かせろ」
カリオッツが依頼の詳細を聞く。内容によっては受ける気があるようだ。
「ええ。依頼は、ツァムルから一日の距離にある村に出没する赤目狼の討伐よ」
赤目狼は狼型の魔獣で、眼球が虹彩も白目も全て真っ赤に染まっているのが特徴だ。
その赤目狼が数匹、村の近くに現れるらしい。
「私の他にもう一人連れがいるんだけど、二人じゃちょっと心配だから助っ人が欲しかったの。あ、二人とも銅級よ。
あなたたちは前衛でしょ? 私たちは後衛だからバランスも良いわ。
依頼報酬は銀貨4枚。報酬と手に入った素材は、四人で四等分でどうかしら?」
この少女は見た目通り、魔法使いのようだ。
「どうする? 俺は良いと思うが」
「ああ、どうせ討伐依頼は他に見つかんねえしな。よし、オレ達も一緒に受けるぞ」
「本当? よかった。あ、自己紹介がまだだったわ。私の名前はソーマよ」
「おう、よろしくな」
クウスは適当に返事をしたが、ソーマは怪訝な顔だ。
「……ちょっと。あなたたちも名乗りなさいよ」
「ん? ああ、そっか。オレはクウスだ。こっちはカリオッツ」
「クウスとカリオッツね。いい? 相手が名乗ったら、名乗り返すのが礼儀よ。これから一緒に依頼を受けるんだしね」
「ああ、分かったよ」
(なんだか、口うるさそうなやつだなぁ。モリー婆みてえだ)
故郷のばあちゃんを幻視してしまうクウス。
「出発は明日の九時で、北門に集合よ。それじゃあ、また明日ね」
受付で依頼の受注処理をした後、ソーマと別れた。ソーマの仲間とは、明日の朝に顔合わせだ。
村まで一日、討伐がすぐ終わっても、帰りでさらに一日掛かる。二日は野営が必要になるので、その分の食料や水を買い込んでから、宿へ帰った。
知らない冒険者と一緒に行動するのは、初めてだ。しかも、ソーマは魔法使いらしいので、どんな魔法を使うのか気になる。モリー婆が言うには、クウスに教えた魔法はほんの一部で、外の世界には知らない魔法や特殊な魔法がたくさんあるらしいのだ。
クウスは明日からの依頼を楽しみにしながら、眠りについた。
「ふん、貴様ら平民か」
朝一番に出会ったのは、クウス達を見下す嫌な視線だった。
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